2023年10月11日

イギリスのインド太平洋傾斜と対中関係における問題点

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イギリスはインド太平洋地域での法の支配擁護を目指す「自由で開かれたインド太平洋」作戦執行の多国間有志連合において、特に中国の海洋進出に鑑みれば重要なパ-トナーである。2021年3月にジョンソン政権が“Global Britain in a competitive age”と題した安全保障、開発、外交の統合見直しを発刊して以来、イギリスはインド太平洋への戦略的傾斜を進めている。この戦略に則って、イギリスは日本およびインドとの戦略的パートナーシップを深めている。特に日本とは今年に入ってRAA(日英部隊間協力円滑化協定)に調印し、相互の軍事施設へのアクセスと両国軍の訓練での協力が円滑化されることになった。また両国はイタリアとともにGCAP(グローバル航空戦闘プログラム)の研究開発を行なっている。インドとは、イギリスはロシア支援のFGFAに代わる国産次世代戦闘機への技術支援を提供している。さらにアメリカとオーストラリアとはAUKUSにも調印した。それらの合意に鑑みて、イギリスは日本、インド、オーストラリアといったインド太平洋地域の主要国とともに、そして最も重要なことにアメリカとの「特別関係」を通じ、中国に対抗するFOIPに深く関与するものと想定されている。しかし内政上の制約、中でも労働党金融ロビーによって、イギリスの対中抑止への確固とした貢献が低下することも考えられる。またスナク政権は対露姿勢とは違って、対中姿勢は必ずしもとまっているわけではない。

 

まず労働党について述べたい。ジョン・ヒーリー影の国防相は現在のウクライナでの戦争勃発に伴うロシアの脅威増大に鑑みて、ジョンソン政権が手を付けたインド太平洋傾斜という保守党の国家安全保障戦略に疑問を呈した。ヒーリー氏はイギリスは自国の限られた予算を本土と欧州大西洋地域に集中すべきとの趣旨で、「イギリス軍にとって優先すべきは最大の脅威に晒されている場所であり、経済的な機会のある場所ではない」と発言している(Labour defence chief questions using UK's 'scarce resources' in Indo-Pacific”; Forces Net; 8 February, 2023)。労働党の主張の要点はイギリスはヨーロッパ、大西洋、北極圏の防衛での要求水準を満たすために軍備を再強化すべきだが、現在はウクライナ支援のために兵器が枯渇しつつあるというものである“Labour calls for UK rearmament and end to military cuts”; UK Defence Journal; February 7, 2023)。しかし労働党は中国の脅威が工作員、サイバー操作などを通じてイギリス本土迫っているにもかかわらず、それを過小評価するのだろうか?キア・スターマー現党首は自らをブレア路線継承者だとしているが、現在の党の国防政策案は1968年にアデン以東からの英軍撤退を決定したハロルド・ウィルソン政権さながらで、トニー・ブレア政権のように世界を股にかけて見かけの国力以上にイギリスの実力を発揮しようとしているようには思われない。

 

労働党が反植民地主義ウォークのイデオロギーに囚われていないなら、世界全体でのイギリスの戦略的要求でどのようにバランスをとるのだろうか?RUSI(王立防衛安全保障研究所)のヴィール・ナウエンス氏は労働党に、インド太平洋への傾斜を否定するよりも自分達の優先順位に応じて柔軟に対応するよう提言している。地理的な距離はインド太平洋から手を引く理由にはならない。ともかく保守党の国防計画では日本やオーストラリアに恒久的な軍事的プレゼンスが主張されてはいない。労働党はフランスと日本のインド太平洋戦略は東アフリカから南太平洋まで視野に入れていることを忘れてはならない。さらにナウエンス氏はイギリスは必ずしもインド太平洋の最遠隔地に軍事的プレゼンスを維持する必要はなく、インド洋でも中東、東アフリカ、シンガポールにある既存の英軍施設を有効利用すべきだとも述べている。それはイギリス軍が極東有事に即応し、中国や北朝鮮がこの地域で航行の自由、領土の一体性、核不拡散といった国際的なルールと規範を破る事態に対処するうえで役立つだろう。ヒーリー影の国防相は限られた財源を強調しているが、デービッド・ラミー影の外相は傾斜を否定せず、「3C」を提案している。すなわちイギリスは中国と地政学的に挑戦(challenge)と競合(compete)の関係になるが、気候変動のような問題では必要に応じて協力(cooperate)してゆくということである(“How Labour Can Reform, Rather Than Do Away With, the UK’s Indo-Pacific Tilt”; RUSI Commentary; 14 February 2023)。いずれにせよヒーリー氏の見方は海洋通商国家というイギリスの歴史的な立場を否定するものである。

 

外交の一貫性のためにも、特に日本とオーストラリアといったインド太平洋地域でのイギリスのパートナーは労働党の影の内閣との対話を通じ、グローバルな安全保障とこの地域での共通の利益のためにFOIPの重要性を再確認する必要がある。非常に重要なことにイギリスの総選挙は2025年1月28日以前に行なわれる予定だが、それは2024年11月5日に行なわれるアメリカ大統領選挙とも近い日程である。イプソス社が8月11日から14日にかけて行なった世論調査では、イギリスの有権者の56%が来る選挙ではスターマー氏がスナク氏に勝つと見ている。スターマー氏は12項目中9つで優位にあり、特に「普通の国民をよくわかってる」、「イギリスが直面する課題を理解している」、「指導者として経験豊富」といった点ではスターマー氏に分がある一方で、スナク氏は「危機管理に長けている」という項目で優位に立っている(“Majority of Britons think it is likely Keir Starmer will become Prime Minister”; Ipsos Political Pulse; 24 August, 2023)。

 

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FOIPには元来多国間の性質があるので、クォッド加盟国とその他の域内およびグローバルなステークホルダー諸国は、イギリスで労働党が政権を取った場合には過激な反植民地主義志向に陥らぬよう訴える必要がある。ともかくスターマー氏は労働党の国家安全保障戦略を全世界に向けて明確にする必要がある。自らの当選の折にはドイツとの二国間安全保障および防衛条約を早急に結ぶ所存だとも語っている(“UK Labour would seek security and defense treaty with Germany”; Politico; May 16, 2023)。しかしヒーリー氏が唱える欧州大西洋中心の国防とラミー氏が唱えるインド太平洋知己での中国に対する3C政策を、スターマー氏がどのように合わせてゆくのか定かではない。

 

問題は左翼だけではない。キャメロン政権下で英中黄金時代の立役者だったジョージ・オズボーン元財務相は、政界引退後にフィンテックのロビイストとなり中国やロシアからのマネーのロンドン金融市場への受け入れを図っている。デービッド・キャメロン氏はブレグジット投票の結果を受けて正解を引退したが、オズボーン氏は一議員として下院に留まった。しかし現職議員でありながら『イブニング・スタンダード』紙編集長に就任したために、議員辞職に追い込まれた。財務相在任時よりオズボーン氏はロンドンをフィンテックの国際的な拠点にしようと考えていた(“Osborne wants London to be 'global centre for fintech”; Financial Times; November 11, 2015)が、その政策では中国との関係を優先するあまりに人権や英米関係が軽視されていないかと大いに懸念されていた。またキャメロン氏も2015年のシンガポール歴訪では、中国への刺激を避けるために東南アジアでのイギリスの長年の同盟諸国の安全保障への関与強化を拒んだ(“In for a Yuan, in for a Pound: Is the United Kingdom Making a Bad Bet on China?”; Council on Foreign Relations Blog; October 20, 2015)。オズボーン氏にはロシアとの間にも不可解な関係があり、2008年にはこの国のオリガルヒから献金を受けている(“George Osborne admits 'mistake' over Russian oligarch”; Guardian; 27 October, 2008)。ブレグジットはイギリスと国際社会にとって災難ではあったが、キャメロン政権が続いていればオズボーン氏が親中露的なフィンテック政策を推し進めて国家安全保障が犠牲になっていたかも知れない。

 

オズボーン氏が指導的な地位を占める金融ロビーを代表するかのように、HSBCホールディングス社のシェラード・カウパーコールズ広報部長は、イギリス政府はアメリカに追随して中国との経済関係を縮小するほど「弱腰」だと批判した(“HSBC Executive Slams ‘Weak’ UK for Backing US Against China”; Bloomberg News; August 7, 2023)。こうした発言はあまりに「市場志向」である。確かにロンドンはソ連のユーロダラーやOPEC諸国のオイルダラーといった、アメリカの規制枠外の通貨で取引できるオフショア金融市場ではあった。しかしロシアのウクライナ侵攻によって冷戦時代の合理的な抑止という考え方は崩壊し、現在では金融市場は政治的リスクを抱える外国からのマネーを以前より厳しく拒絶する必要に迫られている。にもかかわらず、イギリスが開かれた経済を維持しながら中国、ロシア、その他リビジョニスト諸国のマネーロンダリングを阻止することは極めて難しい(“Why Britain’s Tories are addicted to Russian money”; Politico; March 7, 2022)。中国とのサプライチェーンとロシアからのエネルギ資源依存に関して、ドイツとフランスがしばしば批判に晒されているが、イギリスが両件にどう対処するかも注視すべきである。

 

スナク政権は対中関係で黄金時代を模索しようとはしないだろうが、現首相は財界志向である。オックスフォード大学をPPE専攻の学士で卒業したスナク氏は、スタンフォード大学ではMBAを取得し、そこでインドIT業界の大物ナラヤナ・ムルティ氏を父に持つアクシャタ・ムルティ夫人と出会った。スナク氏自身も政界入り以前にはヘッジファンド業界でキャリアを築いていた。そうしたビジネス本能に鑑みれば同氏が中国との経済的利益を優先する誘惑に駆られ、英中黄金時代の終焉を公言したとはいえ、インド太平洋とイギリス本土でのこの国の脅威に中途半端な態度になることもないとは言えない(Rishi Sunak: Golden era of UK-China relations is over”; BBC News; 29 November, 2022)。 だからこそ下院外交委員会の議員諸氏が、今年8月末のジェームズ・クレバリー外相の訪中の際に非常に大きな懸念を表明したのである。同委員会委員長で保守党のアリシア・カーンズ下院議員を中心に、英本土での中国のスパイ活動、新疆ウイグルとチベットの人権、FOIPの安全保障でのイギリスの役割といった事項では中国にもっと強い立場を取るべきだったと外相への抗議の声が挙がった“James Cleverly urged to be ‘crystal clear’ with China on ‘the rule of law and human rights’”; Politico; August 30, 2023)。そうした批判はスナク政権与党内だけでなく、閣内からも挙がっている。トム・トゥーゲンハット安全保障担当閣外相は対中タカ派で名をはせ、2021年には中国への入国を禁止されている (“Cleverly asks Bryant to withdraw ‘Chinese stooge’ claim amid row over Beijing”; Independent; 13 June, 2023)。陸軍出身のトゥーゲンハット氏は英国内にあった中国の海外警察署を非常に警戒し、イギリス政府の承諾を得ていないという理由でそうした派出書を全廃させた“Chinese 'police stations' in UK are 'unacceptable', says security minister”; 6 June 2023)。

 

対中融和派は党派を超えて存在が確認されている。左派の側には反植民地主義ウォークがいる。右派の側には金融ロビイストと彼らの賛同者達がいる。古臭い「左右病」では、外交および内政政策の相互関係を分析するうえで無意味である。インド太平洋でのイギリスのパートナーは与野党を問わず緊密に接触し、この地域の安全保障環境、そして広島でのG7宣言日英アコードといった国際合意を再確認する必要がある。またイギリス自身の安全保障指針である2021年の統合安全保障見直し2023年の戦略見直し、本年8月にカーンズ氏主導で発行された下院外交委員会報告書を再検証する必要がある。最も重要なことに、アジアでのイギリスの軍事的プレゼンスは対米特別関係にも有益で、それがグローバル・ブリテンの成功をより確実にするだろう。上院において元外相のデービッド・オーウェン卿は、アメリカ国民がウクライナで現在進行中の戦争よりも中国の軍事的冒険主義を懸念するようになっているので、イギリスが彼らと太平洋で共通の戦略目的を示せれば有利であろうと主張した(“British carrier in Pacific bolsters US-UK alliance”; UK Defence Journal; September 30, 2023)。オーウェン卿は労働党キャラハン政権の閣内相ではあったが、インド太平洋傾斜に関してはヒーリー現影の国防相とは完全に違う観点からものを言っている。ラミー影の外相は3Cを掲げているが、その内容は依然として明確ではない。いずれにせよイデオロギー上のレッテルや党派ではなく、インド太平洋傾斜と中国の脅威への理解が重要になる。イギリスの内政に要注意である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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2023年7月17日

アフリカの民主主義とロシア勢力浸透に対する西側の対抗手段

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ウクライナ危機に関する国連総会の投票で、国際社会はアフリカの親露派で専制的な国々が思いも寄らぬ影響力を有することに驚愕している。しかしアフリカ連合(AU)は本年2月にアディスアベバで開催された第36回AU首脳会議にて、ブルキナファソ、マリ、ギニア、スーダンといったサヘル地域の親露派軍事独裁体制諸国に対して加盟停止を再確認し、「憲法に基づかない政権交代を一切容認しない」姿勢を示した。この首脳会議直前にはECOWAS(Economic Community of West African States:西アフリカ諸国経済共同体)も、ブルキナファソ、マリ、ギニアの加盟停止延長を告知している(“African Union reaffirms suspension of Burkina Faso, Mali, Guinea and Sudan”; Africa News; 20 February, 2023)。AUとECOWASによる一連の行動は、アフリカの民主主義には良い兆候である。よって来る多極化世界なるもので、我々は民主主義の凋落と西側の衰退を受容するような「悲観的リアリズム」に陥るべきではない。ロシアと中国が掲げるリビジョニストの世界秩序では我々の歴史は抑圧と混乱という退化と劣化への途を辿るであろう。我々が敗北主義に陥れば、国際社会には致命的なものとなろう。再確認すべきは、民主主義、自由、人権といった価値観は欧米に限られたものではなく、アフリカにとっても全く別世界のものではないということである。

まず始めにアフリカの民主主義の概要を理解しなければならない。フリーダム・ハウスによるとアフリカの自由指標は全世界的な動向と同様、ここ数年は低下している。それはこの地域でのロシアと中国の勢力浸透と共鳴している。しかしサヘル地域を中心とした軍部独裁の再びの台頭により地域全体が不安定化しているにもかかわらず、「アフリカ諸国は改善と回復力の兆候を示してきた」と同団体アフリカ・プログラムのティセケ・カサンバラ部長は語る。非常に重要なことにAUが1981年に採択した人及び人民の権利に関するアフリカ憲章』は人権擁護において非常に進歩的ということになっているが、加盟国の多くは憲章の実施には消極的である。そうした中で南アフリカでは政府が立憲政治を弱体化させているとあっては、2021年と2023年の両年とも同国を民主主義サミットに招待したジョー・バイデン米大統領も形無しである。しかし司法、市民社会、メディアが一体となって、何とか与党ANCによるポピュリスト専制政治的な試みに対して民主主義を維持し続けている (“How African Democracies Can Rise and Thrive Amid Instability, Militarization, and Interference”; Freedom House Perspectives; September 1, 2022)。アパルトヘイト体制崩壊後の長期にわたる一党支配に鑑みれば、本年8月のBRICSヨハネスブルグ首脳会談でのラマポーザ政権によるロシアのウラジーミル・プーチン大統領への招待はもっと注目されるべきで、それはこの国が国際刑事裁判所の加盟国として法の支配が徹底しているかどうかの評価につながる。

興味深いことに、世界史の逆行とも言うべきロシア勢力の浸透がアフリカでは見られる。忘れてはならぬことは、ベルリンの壁崩壊直後に東欧諸国は旧ソ連共和国も含めてEUとNATOへの加盟に飛びついた。それはこれら諸国による主権国家としての選択である。合理的に見ればロシアに魅力あるものは何もなく、国家統治も経済も科学技術も遅れ、そのうえに時代錯誤な新ユーラシア主義まで掲げる始末である。しかし不思議なことにアフリカ諸国は必ずしもそう思ってはいない。昨年3月に開催されたロシアのウクライナ侵攻に関する国連総会では、アフリカ諸国の半数近くが侵略行為を非難する決議案を支持しなかった。南部アフリカの政治指導者層には冷戦期の植民地主義とアパルトヘイトへの抗争でソ連との共闘にノスタルジーを抱く者もいるが、それは政府レベルでのことである。一般に信じられている事柄とは違い、現在のアフリカ諸国民は必ずしも反植民地主義には固執していない。またヨーロッパとアジアでの大国による地政学とイデオロギーの抗争にも関心はない。彼らはロシアだろうが中国だろうが欧米だろうが、自らが感知できる自己利益に基づいてパートナーを選ぶ。アフリカ諸国民がロシアおよび現在進行中のウクライナ侵攻に抱く意識について、英『エコノミスト』誌とプレミス社はナイジェリア、南アフリカ、ケニア、ウガンダ、コートジボワール、マリの6ヶ国で世論調査を行ない、これらの国々の国民が自国政府の外交方針に必ずしも同意していないことが判明している。南アフリカ、ウガンダ、マリは国連総会においてロシアのウクライナ侵攻への非難決議の投票で棄権しているが、残りの国々は賛成票を投じている。親露政権に統治される国の中で、南アフリカは南部アフリカの民主国家でありながら与党が反アパルトヘイトの郷愁に浸っている国の代表例であり、その一方でマリはサヘルの軍事独裁国家で反欧米政権がテロ対策でワグネルに依存している。

表1で表示されているように、ロシアのウクライナ侵攻への支持率が最も低いのは民主的な南アフリカであり、最も高いのはワグネルに支援されているマリである。また表2に見られるようにマリ国民は現在のロシアとウクライナの間の戦争に関して欧米を非難する傾向が最も強いが、南アフリカ国民はNATOとアメリカを非難する傾向が最も弱い(“Why Russia wins some sympathy in Africa and the Middle East”; Economist; March 12, 2022)。

 

表1

 

表2

 

 

 

2020年の軍事クーデター後のマリはフランスのテロ対策部隊の撤退に加え、AUおよびECOWASの加盟停止によって国際社会から孤立してきた。ワグネルはこの機に乗じて入り込んできた。貧困にあえぎ教育水準の低い国民はロシアと軍事政権が広めるプロパガンダに容易に情報操作されてしまう。

南アフリカではそうした事態に至らず、議会野党、司法、メディアによる権力の抑制と均衡によってANCのリビジョニスト的な内外政策に歯止めがかかっている。特に反アパルトヘイトで白人リベラル派の進歩党の流れをくむ民主同盟(DA:Democratic Alliance )は、シリル・ラマポーザ大統領によって本年8月に開催されるBRICSヨハネスブルグ首脳会議へのロシアのウラジーミル・プーチン大統領の招待に対し猛烈な反対運動を展開している。DAはハウテン高等裁判所に訴訟を持ち込み、国際刑事裁判所の規則を執行してプーチン氏がBRICS首脳会議出席のために南アフリカに到着すれば逮捕させようとしている(“DA launches court application to compel the arrest of Putin in South Africa”; DA News; 30 May, 2023)。またジョン・ステーンフイセンDA党首はCNNとのインタビューでANC政権がロシアに兵器類を送ったとの警告を発したと、南アフリカのデジタル・メディアで自社サイトに「ウクライナとの連帯(Stand with Ukraine)」バナーを掲げるブリーフリー・ニュースは伝えている(“John Steenhuisen Says President Cyril Ramaphosa Is a “Political Swindler” Who Fooled the Country”; Briefly.co.za; June 1, 2023)。さらにラマポーザ氏によるロシアとウクライナの仲介は納税者の金の無駄で、ただの外交ショーだとまで批判している。さらに重要なことに、DAはANCがプーチン政権下のロシアのような専制国家と緊密な関係にあると批判している(“How much did South Africans pay for Ramaphosa’s failed diplomatic PR stunt?”; DA News; 17 June, 2023)。最近の水利用での人種別割り当て原案に見られるように、その政策では水資源消費量の60%を占める農場経営者にかかる多大な負担も考慮しないANCは階級闘争と被害者意識に囚われているように思われる(“Parched Earth: ANC introduces Race Quotas for water use”; DA News; 1 June, 2023)。右であれ左であれ、そうした被害者意識のポピュリストはプーチン氏のような独裁者と容易に友好関係に陥りやすい。

そしてアフリカにおけるロシアのプレゼンスをロシアの観点からも見てみたい。アフリカ戦略問題研究センターのジョセフ・シーグル氏は、アメリカの下院公聴会でアフリカでのロシアの活動について証言した。そしてロシアのアフリカ戦略は三本柱から成っていると述べている。第一の柱はスエズとジブチを通じて南地中海から紅海に至るシーレーンへの影響力の獲得である。第二の柱はアフリカ大陸からの欧米の影響力排除である。中央アフリカとマリでのワグネルの活動は最も注目されるものの一つである。第三の柱がルールに基づく世界秩序の再編で、主権、領土保全、各国の独立の軽視といった行為はロシアのウクライナ侵攻にも見られる。クレムリンによるアフリカ関与は独裁者と情報操作を受けた一般市民を喜ばせるだけで、上記の柱から成る戦略によってこの地域は政治経済的にも不安定化するだけである(“Russia’s Strategic Objectives and Influences in Africa”; Africa Center for Strategic Studies; July 14, 2022)。いずれにせよロシアは現地の開発、エンパワーメント、国民生活などほとんど歯牙にもかけず、シロヴィキ達が感知できる国益のためにアフリカを利用したいだけである。それはAU、ECOWAS、『人及び人民の権利に関するアフリカ憲章』の理念とは相容れないものである。最も基本的なことはカーネギー国際平和財団のポール・ストロンスキ氏はリチャード・ミルズ米国連次席大使の演説を引用し、サヘルでのワグネルの存在は劣悪な統治、制度の崩壊、長期にわたる避難生活、武装勢力の拡散といった不安定化要因そのものの解決なくして人的苦難(human sufferings)を悪化させていると述べている(“Russia’s Growing Footprint in Africa’s Sahel Region”; Carnegie Endowment for International Peace; February 28, 2023)。

ロシアはアフリカへの魅力攻勢ではあまりに日和見主義で、ウクライナ侵攻以降は旧ソ連諸国で構成されるCIS、ユーラシア経済連合、CSTOで自国の影響力が低下しても、クレムリンはなおも今世紀の地政学での多極化競合で外交力を見せつけようとしている。これぞセルゲイ・ラブロフ外相が今年の始めに南アフリカ、エスワティニ、マリ、モーリタニア、スーダンなどアフリカ7ヶ国を訪問した背景である。しかしフリーランスのロシアのアフリカ政策専門家、ワディム・ザイツェフ氏は、アフリカ諸国の殆どは「慎重な中立政策」をとって欧米との関係を損なう気はなく、自国のウクライナ侵攻にある植民地主義的な性質を無視するロシアとは、文言のうえで新植民地主義への非難で同調しているように見せかけているだけであると評している(“What’s Behind Russia’s Charm Offensive in Africa?”; Carnegie Politika; 17 February, 2023)。ロシア勢力の浸透に批判的なのは欧米の専門家だけではない。アフリカの専門家もロシアのプレゼンスに警鐘を鳴らしている。南アフリカのシンクタンク、安全保障問題研究所(ISS Institute for Security Studies )のピーター・ファブリシウス氏は、ロシアとアフリカの関係進化は軍事面を通じてであって、貿易や投資の増額ではないと語る。ロシアがアフリカに浸透する時には対象国の不安定化を悪用している。マリとブルキナファソではワグネルがフランス軍撤退後の真空を埋めた。それはAUという軍事独裁への抑止力を弱める。そうした中でカメルーンでは、ロシアは英語地域の分離派をそそのかしている。彼らは体制転覆によってこの国を中央アフリカ共和国からの天然資源の輸出経路にしようとしているのだろう。そうした天然資源の輸出は武器や薬物の違法取引、マネーロンダリング、暗号通貨へのハッキングなどといった組織犯罪とともに、ロシアがウクライナその他で戦争を行なう資金源の一つとなっている(“Africa shouldn’t ignore Russia’s destabilising influence”; ISS Today; 24 February, 2023)。ファブリシウス氏は南アフリカの白人で、世界経済フォーラムにはアフリカの立場からアフリカの開発について政策提言を行なったこともある。

プリゴジンの乱以降のワグネルの活動とロシアのアフリカへの影響力については予測がつかない。コロンビア大学のキンバリー・マーテン氏は、ロシアの国防エスタブリッシュメントにとってエフゲニー・プリゴジン氏を他の誰かにすげ替えるなど相対的に容易だと評している。他方でポーランド国際問題研究所のイェンジェイ・ツェレップ氏は、全てはアフリカの顧客がロシアを自分達の目的達成のうえで充分に強く頼りになると感知できるかどうかによると主張する(“What next for Wagner’s African empire?”; Economist; June 27, 2023)。いずれにせよアメリカと同盟国がロシアをアフリカから追い出すには何をすべきだろうか?昨年8月にバイデン政権は『サブサハラ・アフリカに向かうアメリカの戦略(US Strategy toward Sub-Saharan Africa)』 を刊行し、アメリカとアフリカ諸国の間の新たな機会とパートナーシップを提示した。米国平和研究所のジョセフ・サニー氏は以下のように論評している。この新たな戦略によって食糧安全保障、農業、サプライチェーン、気候変動といった地域の問題解決に向けた援助の増額が推奨されているだけでなく、アフリカの人達に耳を傾ける必要性が強調されている。よってアメリカ大使館には高い資質の大使の麾下にある充分な人員が必要である。さらにサニー氏は、アメリカはアフリカ諸国が自らの問題を自力で解決できるように仕向けるべきだと主張する(“The New U.S. Africa Strategy Is a Moment We Must Seize”; USIP; August 11, 2022)。ワグネルの存在に関してサニー氏は、道徳的な非難には効果がないと言う。アフリカの顧客が暴虐なワグネルと契約せざるを得ない絶望的な理由は、国際的な反乱鎮圧作戦でテロを根絶できなかったからである。しかしサニー氏は、超党派の政策形成者達はこれまでのアメリカの政策はあまりに近視眼的で軍事的側面にばかり目が向けられ、対象国の統治や経済には充分な考慮が払われなかったことを理解していると言う(“In Africa, Here’s How to Respond to Russia’s Brutal Wagner Group”; USIP; April 6, 2023)。

ワグネルを通じたロシア勢力の浸透はあるものの、アフリカは我々と自由そして民主主義の価値観を共有している。G7広島で日本の岸田文雄首相はワグネルに支援されるモザンビークのフィリペ・ニュシ大統領よりも、むしろAUのアザリ・アスーマニ議長と南アフリカのジョン・ステーンフイセンDA党首を招待してこのことを確認した方が良かったかも知れない。この地域とのパートナーシップの深化のためには、西側同盟は外交プレゼンスを高める必要がある。この目的のために、アメリカは大使のジャクソニアン・システムによる政治的任用を再考するべきである。上院での承認の遅れは頻発し、任用された大使が必ずしも充分な資質を備えているわけでもない。そうした例の一つを挙げるなら、ハンドバッグのデザイナーのラナ・マークス氏をトランプ政権が選挙運動への論功行賞として駐南アフリカ大使に指名した一件がある。忘れてはならぬことは、選挙運動で多大な貢献をする人物が必ずしも外交政策に通じているわけではないということである。中には視野の狭い「票の亡者」もいる。そうした人物の一例を私の経験から語ってみたい。かつて私は自民党国会議員の事務所を内側から見る機会があった。ある日、その事務所の幹部秘書が昼食中にテレビのニュースを観ていた時、彼は永田町政治と国内選挙に関する報道を鋭意に注視していた。しかし国際問題に関する報道を流し始めるや否や、彼は軽蔑の意を込めてテレビから流れる情報に耳を傾けなくなった。それには大いに驚かされた私には、彼が非常に奇妙な生き物のように見えた。彼は京都大学卒業ではあったが、振舞いの方は無学な田舎者丸出しだった。よって誰が合衆国大統領であっても、そのように無責任な「票の亡者」を大使に任命することは控えるべきである。ともかく我々の確固たる関与こそ、アフリカでロシアとの競合を制するうえで重要である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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2023年5月26日

中国の主権概念は中露枢軸の分断をもたらし得る

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中国は現行の国際ルールと規範を遠慮仮借なく批判しているが、それは今日のルールに基づく世界秩序が欧米の価値観に基づいていると見做しているからである。そうした観点から、中国の政策形成者達は国家主権と国際法について特異な概念を主張し、それによって近隣諸国とは領土紛争、国際社会とは哲学論争を頻繁に抱えることになっている。こうした事態に鑑みると中国とロシアは欧米主導のリベラル世界秩序への抵抗という立場は共通だが、盧沙野駐フランス大使による旧ソ連共和国の主権への疑義を呈する失言もあって、両国の間では将来の紛争が起きる可能性も否定できない(“China’s ambassador to France questions 'sovereign status' of former Soviet nations”; France 24; 23 April, 2023)。となると中露枢軸は揺るがぬものでもなく、主権の概念も両者分断を加速する要因の一つとなる。

 

件の駐仏大使の発言があまりにも物議を醸したために、中国外務省の毛寧報道官は即座にこれを否定して国際社会の批判を宥め、中国は旧ソ連諸国の主権を尊重すると強調した (“China affirms ex-Soviet nations’ sovereignty after ambassador comments”; PBS News; April 24, 2023)。しかしパリ在住の日本人ジャーナリスト、安部雅延氏は西側の専門家の間で、旧ソ連諸国の主権に関する盧大使の発言は中国の外交政策形成者の間での共通の理解だと見做されていると主張する(『中国の本音?駐仏大使、ウクライナ主権に疑義の謎』;東洋経済; 2023年4月27日)。盧氏はクリミアでのウクライナの領有権の正当性を否定したかったのだろうが、しかし理論的にそれではロシアの主権も認めないことになる。それは潜在的に外満州、すなわちロシア極東地域での中露衝突を引き起こすだろう。中国にとってここは満州人清朝の歴史的領域ながら、1858年のアイグン条約と1860年の北京条約でロシアに強奪された土地である。1960年代末に中ソ国境紛争が勃発すると両国の関係は悪化した。

 

そうした歴史的文脈からすれば中国の習近平主席が最近、ロシア極東地域でのロシア語の地名は例えばウラジオストクを海参崴というような中国語に替えるよう口走ったことで、この地での両国間の領土紛争を引き起こすことも有り得る。それは中国がロシアに根深い領土的怨念を抱いていることを暗示し、外満州が歴史を通じて漢民族の領土でなかったことなど関係はないと言わんばかりである。反欧米枢軸が組まれてはいるが、中国はロシアの経済や人口などでの衰退を促し、この国を自国に従属させてシベリアの天然資源へのアクセスを強めようとしている(“Goodbye Vladivostok, Hello Hǎishēnwǎi!”; CEPA; July 12, 2022)。習氏の発言からは、ロシアが現在ウクライナで見せつけているような領土拡大志向が中国にも秘められていることが伺える。

領土紛争の潜在的な可能性は、さらなる問題にも発展しかねない。現在、ロシアは中国とインドに大安売りで石油と天然ガスを輸出し、ウクライナ侵攻に科された欧米の制裁が自国経済に及ぼす影響を緩和しようとしている。バルト海の港湾から輸出されるロシア産の原油は、中国向けでは1バレル当たり11ドル、インド向けでは14から17ドルも割り引かれている(“India and China snap up Russian oil in April above 'price cap'”; Reuters; April 19, 2023)。しかしそのようなバーゲン・セールではフェアトレードの観点からは、長期的には自己破滅的で持続性がない。特に中国はタイガの環境を犠牲にして極東シベリアで他の天然資源も収奪するであろう。実際に中国の林業界はウクライナでの戦争よりはるか以前から、当地での違法伐採で悪名高い(“Corruption Stains Timber Trade”; Washington Post; April 1, 2007)。ロシアが現在の戦争によって交渉力を失うに従って、中国の自国中心的な天然資源への渇望が現地の生態系と住民の生活を破壊しかねない。国際政治の専門家は国家対国家の力のやり取りに注目するあまり、グローバル・コモンズが関わる紛争には充分には目が届かない。また欧米の環境活動家達はシベリアの森林保護で、1980年代にアマゾンの森林保護でやったような積極的行動に出るべきである。ロシア極東地域での天然資源と領有主権の問題は相互に絡み合っている。これもまた中露枢軸の分断となる要因である。

 

両国ともル-ルに基づく世界秩序には従わないので、互いの合意には敬意を払わぬ振舞いである。中国とロシアは反欧米でリビジョニストの視点を共有してはいるが、ロシアは自国の極東地域での中国の拡張主義を怖れて貿易および投資での二国間合意を完全に遵守しようとしない(“The Beijing-Moscow axis: The foundations of an asymmetric alliance”; OSW Report; November 15, 2021)。他方で中国の主張では、現行の国際法では自分達の核心的利益を守るには不充分であり、よってたとえ国際的なルールと相容れない法であっても国内立法によりそうした利益を守る必要があるということである。中国による国際法への抵抗姿勢の最も重要な例の一つが、国連海洋法条約の侵害である。神戸大学の坂元茂樹名誉教授は、国際法についてそのように恣意的な解釈を行なえば国際海洋秩序に多大な被害を及ぼすと批判している。注目すべき点は中国が国内立法を国際的なルールと規範に優先させる条件を明確にしていないことである(『中国海洋戦略の解剖:国内立法と国連海洋法条約の自己中心的解釈による海洋秩序の侵害』;日本国際フォーラム;2023年2月13日)。中国がそこまで強引に我が道を行くなら、ロシアをも含めた全世界の他国との摩擦は避けられないだろう。中ソ対立がソ連共産党のニキタ・フルシチョフ第一書記によるスターリン批判に始まったことを忘れてはならない。反米姿勢だけでは両国の連帯を維持できない。

 

中露枢軸は我々の同盟と民主主義の分断を仕掛け続け、冷戦後には両国の工作は以前にもまして活発になっている。特にロシアがブレグジットとトランプ氏当選に向けて行なった選挙介入は、西側民主主義の土台を揺るがした。そして今、中国が台湾総統選挙に介入しようと、国民党の馬英九候補を本土に呼び寄せた(“Ma Ying-jeou’s historic trip: Can former Taiwan president help ease cross-strait tensions?”; Japan Times; April 7, 2023)。よって我々は中露枢軸のあらゆる弱点を見つけ出し、両国の工作活動に報復すべきである。両国の連帯は崩せる。G7諸国は広島サミットにおいてグローバル・サウスを中国とロシアから引き離そうとの努力を見せたが、中露両大国の間に楔を打ち込むことの方がより重要である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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2023年4月17日

バイデン大統領キーウ訪問後のアメリカのウクライナ政策

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ジョセフ・バイデン米大統領は2月20日に遂にキーウ訪問を敢行し、アメリカが確固としてロシアの侵略からウクライナを支援することを示した。続くワルシャワ訪問でバイデン氏はウクライナでロシアの勝利は決してなく、旧帝国復活の夢は頓挫する運命にあると重ねて強調した(“Biden in Warsaw: ‘Ukraine will never be a victory for Russia’”; Hill; February 21, 2023)。バイデン政権は既にアントニー・ブリンケン国務長官とロイド・オースティン国防長官をキーウに派遣し、バイデン大統領自身もワシントンでウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領と会談してはいるが、ロシアを刺激して核攻撃に訴えられぬように慎重な姿勢であった。またMAGAリパブリカンとウォーク左翼は陰謀論の影響を受けた反戦世論を盛り上げ、アメリカのウクライナ関与への障害となっていた。

そうした左右の過激派孤立主義ポピュリストによる外交政策上の制約はあるが、世界におけるアメリカの役割を理解しているアメリカの専門家達が、バイデン氏の訪問後に現戦争の動向をどのように見ているかを知る必要がある。非常に注目すべきはウクライナ支援に懐疑的な論者にはヘンリー・キッシンジャー元国務長官とシカゴ大学のジョン・ミアシャイマー教授に頻繁に言及して事情に通じたリアリストを装い、アメリカはこの戦争には消極的で、ワシントンのエスタブリッシュメントの内のごく少数の好戦的な論者によって引き起こされた戦争に同盟国が巻き込まれてはならないという自分達のプロパガンダを広めようとしている。しかしこの二人の名声がどれほど轟こうとも、キッシンジャー氏もミアシャイマー氏も、アメリカ国民全体を代表するわけではない。リアリスト気取りの者達、MAGAリパブリカン、ウォーク左翼もアメリカ世論の代表ではない。私は個々の非関与論者のバックグラウンドまでは知らないが、彼らの中にはアメリカ国内の特定のイデオロギー・グループと連動しているかのように振舞う者もいる。ともかくアメリカの国民と政策形成者の大多数がウクライナ支援に反対だと信ずることは間違いである。私はアメリカの外交政策の論客たちの見解に言及し、そうした情報工作を党派バイアスなしで否定してゆきたい。

バイデン氏訪問の外交的意味合いに関して、ジョンズ・ホプキンス大学高等国際関係学院のエリオット・コーエン教授は、バイデン氏のウクライナ訪問は中国がロシアに兵器を供与すると噂され、ロシアも「特別軍事作戦」一周年記念にドンバスでの占領地の奪還を目指して大規模な攻勢に出るとされた時期であったと指摘する(“Biden Just Destroyed Putin’s Last Hope”; Atlantic Daily; February 21, 2023)。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はウクライナ支援をめぐる欧米側の援助疲れと政治的分断を当てにしていたが、『アトランティック』誌のアン・アップルボーム氏はバイデン大統領のウクライナ訪問によってそうした儚い希望は粉砕されたと述べている(“Biden Went to Kyiv Because There’s No Going Back”; Atlantic Daily; February 21. 2023)。これは日本の岸田文雄首相がG7加盟国首脳では最後に当地を訪問する先駆けとなり、その折には習近平国家主席とのモスクワ首脳会談で中露連帯を見せつけようというプーチン氏の外交的思惑に歯止めをかけることになった(“Japanese and Chinese leaders visit opposing capitals in Ukraine war”; BBC News; March 22, 2023)。

また「トランプーチン」に対するアメリカ内政上の意味合いも理解する必要がある。『デイリー・ビースト』誌のデービッド・ロスコフ氏の論評のように2018年の米露ヘルシンキ首脳会談の際には、全世界の国民はドナルド・トランプ大統領(当時)がアメリカや同盟国の安全保障関係機関よりもプーチン政権のロシアを信用し、ウクライナを放棄したがっていることを改めて思い知らされた(“Biden’s Trip to Kyiv is the Ultimate Humiliation for Putin—and Trump”; Daily Beast; February 20, 2023)。なぜか?それは彼が「アメリカが作り上げた世界」を嫌い、国務省、国防総省、情報機関にいるとする「ネオコンでグローバリストのエスタブリッシュメント」に敵対的な見方をしているからである。さらにトランプ氏は彼らを核大国による第三次世界大戦を企てる戦争屋だと非難している。あの不動産屋はロシアがルールに基づく世界秩序と領土保全を侵害していることなど、全く理解していない。共和党のアダム・キンジンガー前下院議員はトランプ氏がアメリカの国家安全保障関係の省庁に悪意に満ちた攻撃をする一方で、プーチン氏には有り得ないほどの賞賛をしていることに重大な懸念を表している。実のところキンジンガー氏は先の中間選挙には出馬しなかったのだが、それは彼の党で右翼過激派が幅を利かすようになったからである。バイデン氏と党派を超えた中道派の仲間が、そうした衆愚的孤立主義者にどのように反撃してゆくか注意深く観測する必要がある。


そうした孤立主義者とリアリストの仮面を被った者達は、なぜプーチン政権のロシアとの中途半端な妥協は、ウクライナの不屈の抵抗による侵略者締め出しよりも危険であるのかを理解する必要がある。ジョン・マケイン候補、ミット・ロムニー候補、ヒラリー・クリントン候補らの大統領選挙運動で外交政策顧問を務めたロバート・ケーガン氏はプーチン政権による侵攻が差し迫っていた時、ウクライナ攻撃は東欧から中欧に及んだロシアの歴史的勢力圏の再構築という彼の野望の序の口に過ぎず、バルト三国やポーランドは存在せずワルシャワ条約機構諸国を事実上ソ連の支配下に置いた時代を復活させようとしていると述べている(“What we can expect after Putin’s conquest of Ukraine”; Washington Post; February 21, 2022)。よってロシアとウクライナの領土問題も解決せずに即時停戦となれば、地域の不安定化につながるばかりで決して平和に向けて前向きにはならないことが理解できる。むしろそれによって中国が台湾やその他東アジア諸国を威圧するようになりかねない。こうした観点からオバマ政権期のマイケル・マクフォール元駐露大使は、中途半端な平和が幻想であるという理由はプーチン氏がウクライナ征服にはあらゆる手段を尽くすという決意を固め、戦意不充分で国内も分断している欧米の狡知と科学技術をロシアの耐久性が上回ると信じているからである。私にはブレグジットとトランプ氏当選での選挙介入の成功によって、プーチン氏は過剰につけあがってしまったように思える。よってマクフォール氏は様子を見てウクライナへの軍事支援を増やすというやり方は通用せず、ロシアへの制裁も最大限の強制力を伴わねばならないと主張している(“How to Get a Breakthrough in Ukraine”; Foreign Affairs; January 30, 2023)。

外交交渉による平和合意がほぼ不可能な以上は、アメリカがプーチン氏の凝り固まった野望をどのようにすべきかを軍事的観点から模索しなければならない。ロシア軍の力と能力に関してデービッド・ペトレイアス退役米陸軍大将は、侵攻前に彼らが行なっていた演習は目前に控えたウクライナでの作戦とは無関係で、自軍内の陸海空軍の組織を横断する協調作戦を実施するには訓練が不充分だったと述べている(“What We’ve Learned from the War in Ukraine”; Foreign Policy; January 10, 2023)。それは数十年にわたるプーチン大統領のネーション・ビルディングの失敗を示唆し、西側同盟はそのようなウドの大木ロシアをウクライナが破るためにどのような支援を行なうかを考えてゆくべきである。現在、ウクライナは東部と南部の奪還という第二段階にある。非介入主義者達はこの国への追加軍事援助に懐疑的ではあるが、ペトレイアス氏はCNNとのインタビューにて当戦争で領土を奪還するためのウクライナ軍の士気と能力を高く評価している。それはウクライナ兵は戦争目的をよく理解しているのに対し、ダゲスタン、ブリヤティア、クラスノダールから来た民族宗派マイノリティからの兵員募集率が際立って高くなっているロシア兵ではそれを理解しているかどうか極めて疑わしいからである。またアメリカ主導の西側同盟からの支援によって、ウクライナが兵員募集、装備装着、組織形成、追加兵力の適用で大いに成果を挙げているとも語っている。

ペトレイアス氏の発言から、我々は以下の点を推察できる。世論調査でのプーチン氏の違法な侵略行為への高い支持率も当てにはならないのは、ほとんどのルスキーは毎日の自分達の生活さえ何とか支障がなければ彼ら民族宗派マイノリティの苦境など気にもならないからである。ルスキーには祖国のために自分達が犠牲になる覚悟などない。さらに欧米の支援と並行して軍の組織再構築が行なわれ、ウクライナの統治も戦後に完全される可能性がある。結論としてペトレイアス氏はバイデン氏の断固とした態度を支持しているものの、大統領は戦車や戦闘機といった次期段階の兵器をもっと早く送るべきだったとも論評している (“Gen. David Petraeus: How the war in Ukraine will end”; CNN; February 14, 2023)。ドイツと他のNATO諸国がウクライナに戦車を送る決意を固めるよう促したのはイギリスである。またスナク政権は大西洋諸国でも他に先駆けてウクライナ軍パイロットにNATO標準の戦闘機向けの訓練を行なった。一方でアメリカはバイデン大統領のキーウ訪問以前は軍事援助を増強すべきかどうか逡巡した。ペトレイアス大将が増派戦略でイラクのテロリストを破ったことを忘れてはならない。軍事戦略家としての同大将の見識はコンバット・プルーブン(combat proven:実戦証明済み)であるが、ミアシャイマー氏の場合はそうではない。

MAGAリパブリカンお気に入りのFOXニュースからも、ジャック・キーン退役陸軍大将が孤立主義に反論している。キーン大将はこのテレビ局の右翼ポピュリストで有名なアンカーマン、タッカー・カールソン氏とは正反対の立場である。キーン氏は2007年のイラク増派では戦争研究所のフレデリック・ケーガン氏と共に、ペトレイアス氏の計画作成に助力した。ウクライナで現在進行中の戦争に関しては、ペトレイアス氏とはほぼ意見が一致している。さらにキーン氏は国内社会経済再建最優先という孤立主義的な強迫観念にも反論している。財政保守派はウクライナへの援助が必要でも巨額だと言って容認しないが、キーン大将はロシアがこの戦争で勝利すれば中国やイランを勢いづかせると言い聞かせている。またアメリカはロシアとウクライナの国境よりも自国とメキシコの国境の方を重視すべきだと信じてやまない、排外的な右翼にも反論している。それは両問題が互いに無関係であり、ウクライナを見捨てれば国内での国境問題が解決するわけではないからである(“What would a win in Ukraine look like? Retired Gen. Jack Keane explains.”; Washington Post; March 6, 2023)。ペトレイアス氏と同様にキーン氏もまたコンバット・プルーブンな軍事戦略家である。

アメリカとNATO同盟諸国はさらに軍事援助を供与するので、ウクライナの反撃段階では考えておくべき課題もいくつかある。最も重大なものは、戦況がロシアにとって不利だとプーチン氏に思われると、ウクライナへの核攻撃に打って出るかということである。プラウシェアズ・ファンドのジョセフ・シリンシオーネ理事長はバイデン政権が効果的な対策をとってきたと指摘する。現政権はロシアに核兵器の使用が致命的な結末をもたらたし、そして西側同盟は経済、外交、サイバー、通常軍事措置などあらゆる手段をとってゆくことを直接伝えた。また中国とインドも、長年にわたるロシアとの友好関係があろうが核攻撃は容認しないだろう(“Why Hasn’t Putin Used Nuclear Weapons?”; Daily Beast; February 9, 2023)。そのように微妙な中露関係に関してマクフォール元大使は、プーチン氏によるベラルーシへの核兵器配備はこの戦争での核兵器使用を否定した中露モスクワ首脳会談の共同声明とは矛盾しているとの疑問を呈している。プーチン氏は国際的な公約を頻繁に破ってきたであろう。よってマクフォール氏はアメリカが両国の関係に楔を打ち込むようにすべきだと説く(“Are Putin and Xi as Close as Everyone Assumes?”; McFaul’s World; March 28, 2023)。他方で中国はロシアがウクライナに係りきりになっている状況を利用して、習近平主席はロシアに自国極東地域の地名をロシア名から中国名に変更するように要求している。例えばウラジオストクは海參崴(Haishenwai)にといった具合である(“Russia will never recover from this devastating collapse”; Daily Telegraph; 1 April, 2023 および “China Challenges Russia by Restoring Chinese Names of Cities on Their Border”; Kyiv Post; February 26, 2023)。

他にはクリミアの戦略的価値も重要である。ベン・ホッジス元アメリカ欧州・アフリカ陸軍最高司令官(中将)は、このことを繰り返し語っている。考えてみれば、この戦争が始まったのは2022年2月ではなく2014年の3月であった。ホッジス氏はクリミアが占領され続ける限りは、たとえドンバス全域が解放されてもオデーサやマリウポリからのウクライナの食糧輸出はロシアに妨害される惧れがあるだろうと言っている。またその地からのミサイル大量発射は、ウクライナにとって重大な脅威であり続けるであろう(“Russia’s Nuclear Weapons More Effective as Propaganda, Retired US Lieutenant General Says”; VOA News; February 1, 2023)。ホッジス氏もアメリカにとって最も直近の戦争であるイラクとアフガニスタンでの戦闘経験者で、まさにコンバット・プルーブンな見識の持ち主である。非常に興味深いことにホッジス氏はツイッターでケンブリッジ大学のロリー・フィニン教授の論文に言及しているが、そこではクリミアの他にもロシアが占領している東部と南部についてウクライナの主権の歴史的正当性が明確に語られている。


フィニン氏によると、クリミアはロマノフ朝ロシアとソ連に支配された歴史を通して、エスニック・クレンジングや暴力などに苦しめられてきた。だからこそ2014年の侵略以前には住民の大多数はウクライナへの残留を望んだのである。フィニン氏はクリミア・タタール汗国からの歴史を振り返っているが、エカテリーナ2世による征服以前の同国の領域はクリミアから近隣の黒海およびアゾフ海の沿岸のステップ地帯に広がっていた。19世紀にはアレクサンドル2世が本土から移民を送り込み、この地をロシア化した。スターリンの圧政を経て1954年に、ニキタ・フルシチョフ首相(当時)が貧困にあえぐクリミアのロシアからウクライナへの移管を決定した(“Why Crimea Is the Key to Peace in Ukraine”; Politico; January 13, 2023)。そうした背景からすれば、ウクライナがロシアからクリミアを奪還する歴史的および文化的な意義は非常に大きい。

以上の議論を見てきてもMAGAリパブリカンへの警戒は怠るべきではなく、彼らがどれほど偏向して国際問題への意識が低かろうとも無視はできない。『民主主義を共に守ろう』のウィリアム・クリストル氏は現在の共和党があまりにもトランプ化し、ますますアメリカ・ファーストの傾向を強めていると繰り返し述べている。典型的なものでは『ナショナル・リビュー・オンライン』誌が最近の記事で、「ロシアとウクライナの間で現在行われている戦争はただの領土紛争なのでアメリカの国益とは無関係だ」というフロリダ州のロン・デサンティス知事の冷血で似非リアリズムな発言を擁護した一件を批判している(“What Ron DeSantis Got Right in His Ukraine Statement”; National Review Online; March 18, 2023)。

 

 


嘆かわしいことにデサンティス氏はトランプ氏からの絶え間ない罵詈雑言に反撃する気さえない。そのフロリダ州知事は、MAGAリパブリカンの間では旗手にまで祭り上げられた元大統領と対立するリスクを恐れているように思われる(“Why Does DeSantis Keep Letting Trump Take Shots at Him?”; Bulwark; March 29,2023)(“Trump widens lead over DeSantis in 2024 GOP presidential nomination showdown: poll”; FOX News; March 22, 2023)。自身が当選するよりも、デサンティス氏は2016年選挙でのクリス・クリスティー氏のようにトランプ氏への支援を通じて党内での立場を固めようとしているのかも知れない。さらにMAGAリパブリカンは最近のニューヨーク郡マンハッタン地区検察官によるトランプ氏起訴に憤慨するあまり、今件手続きでの適正法手続きについて「リベラルなエスタブリッシュメント」への恐怖感を煽り立てて否定しようと躍起になっている(The unhinged GOP defense of Trump is the real ‘test’ for our democracy; Washington Post; March 31, 2023)。そうした陰謀論はリンドバーグ的な孤立主義に向かいやすいので、2024年大統領選挙にも鑑みてMAGAリパブリカンがどれだけウクライナ支援のための外交努力の足を引っ張るか注意を怠ってはならない。

西側のウクライナ支援に懐疑的な者には、実際には米国内の極右や極左と連動している似非リアリストも含めてミアシャイマー氏を多大に崇め奉る傾向があるようだ。しかしアメリカは自由の国なので、意見は多様である。アメリカのウクライナ政策を理解するうえで重要なことは党派を超えて多様な意見に触れながらも、それは高度にプロフェッショナルなものに集中すべきである。私がとり上げた論客の選択には党派的偏向性が一切ない。ロバート・ケーガン氏は両党の大統領候補たちの外交政策顧問であった。マイケル・マクフォール氏はオバマ政権の駐露大使で、現在はスタンフォード大学にある保守派のフーバー研究所で上級フェローである。また「コンバット・プルーブン」な意見と分析にも注目すべきである。本稿はそうした経歴の退役将官数名に言及したが、その中でもデービッド・ペトレイアス氏は戦場で多に並ぶ者がいないほどの功績を挙げた。そして学者としても高い評価を受け、プリンストン大学より軍事戦略の研究で博士号を取得している。ペトレイアス氏は本年10月にはイギリスの歴史学者アンドリュー・ロバーツ氏との共著、"Conflict: The Evolution of Warfare from 1945 to Ukraine"を出版する予定である。何よりも元大将はバイデン政権に対して是々非々である。

ジョン・ミアシャイマー氏はビッグ・ネームではあろうが、アメリカの外交政策を注意深く観測するためにも、彼の名声を頼りに「憧れるのは止めましょう」と言いたい。我々は彼の意見や分析がどれほどアメリカの政策形成者達や国民を代表するものなのかを考え直すべきである。最も重要なことは、アメリカのウクライナ戦略を見通すうえでもっと多くの専門家もメディア関係者も「コンバット・プルーブン」な視点を重視すべきではないかと言いたい。これは戦争で、ロシアとウクライナあるいはロシアと欧米の間で停戦に向けた外交交渉が直ちに行なわれる見通しはないのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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2023年3月16日

犯罪人ウラジーミル・プーチンとゼレンスキー大統領の違いをしっかり認識せよ!

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この度のロシアによるウクライナ侵攻に関して、日本国内にはプーチン、ゼレンスキー両者の争いに関して片方を贔屓せずに、日本の国益を慎重に判断せよとの意見が散見する。中には今回の侵攻に関して陰謀論めいた見解を述べ、ウクライナ側に対する疑念を抱かせるような誘導言論も見られる。これら一見冷静沈着なリアリストに聞こえる主張では、重要な点が見落とされている。それはプーチン政権がウクライナの戦場で数多くの犯罪を重ねているだけでなく、今回の戦争以前から欧米諸国への選挙介入など他国の民主主義への破壊行為を繰り返してきたことである。いわばプーチン氏は世界有数の犯罪人であるが、ゼレンスキー氏はこれらの悪事に全く関わっていないことを忘れてはならない。

 

まずロシアのプーチン政権がどれほどの悪質なのかを議論するために、基本的な事項を再確認しておこう。この度の戦争では、ロシア軍の侵攻が「力による一歩的な領土変更、他国の主権侵害」の禁止という国際秩序の基本原則を踏み躙るものである。国家間の関係もさることながら、ロシアが動員した正規軍および非正規戦闘部隊はウクライナ国民の個人に対しても殺人犯、レイプ犯、窃盗犯、強盗犯、誘拐犯、放火犯、公共物損壊犯、捕虜虐待などなどを繰り返している。またこの度の戦争以前にロシアが欧米諸国に対して執拗に行なった選挙介入は極右ポピュリズムの高揚による民主主義の分断を企図したもので、これはG7カービスベイの共同宣言で非難された。事もあろうにプーチン政権は西側民主主義の弱体化という目的達成のためには、白人キリスト教ナショナリストという欧米社会での反社会的集団とさえ手を組んだことを忘れてはならない。これは日本にとって対岸の火事ではない。来年には台湾で大統領選挙があるが、この国と共通の民族的、文化的背景を持つ中国はロシアよりさらに巧妙な手口で介入する恐れがある。

 

またプーチン政権は国内でも反対派の政治家や言論人などを数多く暗殺ないし投獄してきた。他方でウクライナのゼレンスキー政権は欧米からの要望で国内統治の改善途上ながら、上記のような酷い悪事にはほぼ関わっていない。それにも増して、プーチン政権にとってウクライナ侵攻は「ロシア帝国復活」という野望実現への序の口である。よって現状で直ちに停戦し、ドンバスやクリミアの所属をめぐって双方が妥協しても意味はない。そして忘れてはならないことは、プーチン氏のような犯罪人は一度でも犯罪行為によって自分が欲しいものを奪い取ると、その後はさらに犯罪行為を重ねる怖れがあるということである。

 

ウクライナとロシアの戦争で不偏不党を装うためにヴォロディミル・ゼレンスキー大統領への懐疑論を声高に叫べば、実質的にウラジーミル・プーチン擁護になりがちである。こうした主張をする者の全てがそうだとはいわないが、彼らの中にはMAGAリパブリカンのような極右が掲げる陰謀論の片棒担ぎをしようとするイデオロギー的背景を持つ者も少なからずいる。日本では幸福の科学の関係者にトランプ極右ポピュリズムに便乗し、民主主義の混乱に乗じて自分達の政治的影響力を拡大しようとする者もいる。また統一教会絡みの日本人にもウクライナを冷笑し、トランプ極右ポピュリズムに便乗を企む者もいる。彼らや欧米の極右に共通する思考は多国間協調と国際的なルールと規範に基づくリベラル世界秩序は「大きな政府」だという勝手な嫌悪感で、それが結果的には犯罪人ウラジーミル・プーチンへの肩入れとなっている。また財政的観点から対ウクライナ支援拡大への懸念も理解できないわけではないが、そうした考え方に極右のイデオロギー的問題児が便乗する事態の方が国際社会全体に甚大な害悪をもたらす。

 

またロシアによるウクライナ侵攻に関するグローバル・サウスの態度については地政学から語られがちだが、ここでもイデオロギー的な問題は無視できない。周知のようにインドのモディ政権は「田舎臭い」ヒンドゥー・ナショナリズムを掲げている。ナレンドラ・モディ首相はグジャラート州首相時代に2002年グジャラート暴動では、ヒンドゥー教徒にイスラム教徒への暴力的をけしかけている。それはプーチン氏並みの力治政治であり、またドナルド・トランプ前米大統領やブラジルのジャイール・ボルソナロ前大統領並みの暴力触発でもある。実際にヒューマンライツ・ウォッチでアジア部長のエレイン・ピアソン氏は昨年9月に、モディ政権のインドが「世界最大の民主主義国」としてクォッドに加わることに疑問を呈している(”Do we give India a free pass on human rights?; Human Rights Watch; September 9, 2022)。モディ氏はグジャラート州首相時代には、2002年の暴動に乗じたレイプや殺人などで終身刑判決を受けた犯罪者を一月ほどで釈放した。連邦首相としては自政権に批判的な言論人の逮捕を繰り返している。また2019年には市民権改正法によって、自国からのイスラム教徒の排除を目論んでいる。さらに学校教科書からムガール朝時代の記述を大幅に削減するという、歴史の書き換えまで行なっている(”School Social Science Textbook Revisions in India Kick Up Controversy”; Diplomat; July 27, 2022)。このような統治を行なう政権だから、ロシア軍がウクライナで行なっている非人道的行為に寛容にもなると見做せる。南アフリカのラマポーザ政権も、これまたブラック・アフリカの極左並みに「田舎臭い」時代遅れの反欧米植民地主義に影響された世界観に基づいてロシアの犯罪行為に甘い態度を示している。

 

当然ながら、現時点では対露忖度に走る上記の国々を無用に刺激しないことが得策ではある。度重なる国連安保理決議でも、ロシアのウクライナ侵攻への非難決議に反対票を投じるのは国際社会から孤立した国ばかりである。グローバル・サウスの主要国は棄権に留まっている。去る3月3日にニューデリーで行われたクォッド外相会議 では、インドへの配慮からロシアを名指しせず「核使用拒絶」の共同宣言となったことは致し方ない。グローバル・サウスとの国家間関係では相手を敵方に追いやらぬ注意が必要ではあるが、一方でより長期的にはそうした国々の中でも我々と「話が通じる」集団との関係構築も、政府間関係の調整と並行して行なうことを考えておくべきである。

 

まずインドについて言えば、この国の地政学的立場がイデオロギーによって大きく変わることはないかも知れない。しかしモディ政権下のヒンドゥー・ナショナリズムに批判的なグローバリストや都市部知識人階層ならば、グローバル・スタンダードに基づいた犯罪人ウラジーミル・プーチンに対する非難をより理解できるだろう。またゴアのキリスト教徒やタタ財閥を輩出したパールシー(ササン朝ペルシア滅亡時、イスラム教徒の征服より故国を逃れたゾロアスター教徒の子孫)のように、植民地時代から西欧文明と親和性が高かった宗教的マイノリティもいる。地方政治家出身のポピュリストであるモディ現首相と違い、シーク教徒でナショナリスト傾向は弱く、しかもケンブリッジ大学の最優等学士号とオックスフォード大学の博士号も取得しているマンモハン・シン前首相のような人物であれば、もっとグローバル・スタンダードに沿った思考もできるであろう。

 

南アフリカでも白人リベラル派を基盤とする民主同盟であれば、ブラック・アフリカの極左のような被害者意識のイデオロギーとは無縁である。こちらは都市部のアングロサクソン系で高学歴層という支持基盤である。同じ白人でもアパルトヘイト時代の与党であった旧国民党の支持基盤は農村保守派のアフリカーナを中核とした土着志向の強い人達で、まるでアメリカのMAGAリパブリカンさながらであった。ともかく、グローバル・サウスについては時の政権ばかりを相手にしても埒が明かない。

 

非常に興味深いことに、ロシア軍の犯罪行為を容認するイデオロギーとそうした政治家のパーソナリティにも相関関係が見られるようだ。親プーチンで力治政治の極右ポピュリスト達は、権威主義傾向が強い。プーチン氏の筋肉誇示はよく知られているが、モディ氏も自らの胸囲が127cmだと自慢している(”PM Narendra Modi’s chest now said to measure 50 inches”; Times of India;  January 21, 2016)。一時はトランプ政権の国務長官候補にも挙がった親露極右のダナ・ローラバッカー元下院議員は プーチン氏との腕相撲を自慢している(”Rohrabacher-Putin in an arms race”;  Politico;  September 13, 2013)。これに対しカナダのジャスティン・トルードー首相も非常に身体頑健ではあるが、民主的な政治家は彼らのように押しつけがましい力自慢をしないものだ。誇るべき肉体のないドナルド・トランプ前米大統領やイタリアのシルヴィオ・ベルルスコーニ元首相は下品でミソジニストな言動で「男らしさ、強さ」をアピールしている。さて、そうした威圧的言動が少なくなったフランス国民連合のマリーヌ・ルペン氏は中道化のイメージを押し出しているが、トルコのレジェップ・エルドアン大統領のように穏健な姿勢の裏で再び右傾化する可能性も否定できないので依然として要注意である。

 

この度のロシア軍によるウクライナ侵攻について、自らをリアリストだと印象付けようとする者達は国際政治における道徳と倫理を軽視しがちであり、しかもそうした冷血な視点こそ最も公正で冷静沈着だと思い込んでいる。そのような「ハーベイロードの前提」では、国際安全保障においては致命的に危険である。1991年の湾岸戦争において、国際社会はほぼ一致してクウェートに侵攻して破壊と凌辱を繰り返したサダム・フセインの犯罪に懲罰を加えた。そのことを思い出せば「犯罪人ウラジーミル・プーチンとヴォロディミル・ゼレンスキー大統領のどちらにも肩入れせず」という立場では、実質的にロシアの新帝国主義者ばかりか全世界の極右、極左、それにカルト宗教絡みといった、イデオロギー的にきわめて問題のある人達の味方をしていると言っても過言ではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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2023年2月28日

昨年末の日中対話「日中50年の関係から読み解く次の50年」に参加して

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昨年1222日に開催された日本国際フォーラムの日中対話「日中50年の関係から読み解く次の50年」の公開ウェビナーでは中国に関して意外な事柄を知るとともに、発表内容を通じて様々な疑問も浮かんできた。そうした事柄について述べてみたい。

 

まず質疑応答にて日中関係の深化にはやはり中国の人権問題での必要ではないかと私は質問したが、これには中国側のパネリストより世界には様々な価値観があるので中国にも独自の完治感があるとの返答だった。まるでイスラエルの右翼系歴史学者ヨラム・ハゾニー氏のナショナリスト民主主義、あるいはロシアのウラジスラフ・スルコフ元大統領補佐官の主権民主主義を思い起こさせる返答には、どうやら一般的な抽象論では双方の見解の相違を容易に埋められないように思われた。

 

人権に関してはむしろ日中間でのより具体的な問題を質問すべきだっただろう。それは日中交流を学界や実業界など民間で進めようにも、まず日本人およびその他外国人が中国で身の安全が確保できるかということである。実際に中国との政治的関係が悪化した国の国民は、しばしば罪状不明で身柄を拘束されてしまう。尖閣領土紛争での日本企業の駐在員や、フアウェイ・スパイ事件でのカナダ人人権活動家らの逮捕がそれに当たる。このような環境で、日中の安全な人的交流促進が望めるとは思えない。やはり人身の安全 となると、これはアメリカの価値観だとか中国の価値観だとかいった問題を超越した重要な問題と思われる。

 

彼らのように中国当局から突然身柄を拘束された者の多くは日本政府やアメリカ政府、あるいはその他の国の政府のために働いているわけではない。ただ民間の立場で企業活動や国際交流に従事している者ばかりである。そして本来なら日本国内で日中親善の世論形成に関わり、靖国右翼をはじめとするチャイナ・ホーク達に対抗できたかも知れない人々である。あろうことか中国当局は彼らに必要もなく辛い目に遭わせ、わざわざ反中感情を醸成しているのだ。この件に関してはアメリカの影響はほとんど関係なく、純粋に日中二国間の問題である。「人権」という抽象概念でなく、こうした具体的な問題で私が質問をしていれば中国側パネリストの反応も違っていたかも知れない。

 

このウェビナーで私が驚いたことは、中国側からの安倍政権礼賛である。故安倍晋三首相と言えば国際社会に対して対中防衛の必要性を強く訴え、日本国内のチャイナ・ホークから絶大な人気を誇る存在である。だが中国側の議論を聴くと安倍外交には別の一面があったことを思い知らされる。確かに安倍氏には祖父の岸信介首相の影響を受けて「日本を取り戻す」と叫ぶナショナリストの側面と、西側民主主義諸国との戦略的パートナーシップを重視する国際協調派の二面性があった。そして安倍氏の「戦前懐古志向」は対中強硬一点張りではなく、アジアとの友好関係重視でもあった。そう考えると中国側の安倍氏礼賛も納得できる。

 

その一方で中国の識者達が日本の政治や外交を論ずる際に、どうも無意識に属人的な観点に立っていないかという疑問が浮かび上がってきた。先のウェビナーでは安倍政権下での日中関係進展に対し、菅および岸田政権下では両国の関係で緊張が高まったというコメントが中国側より相次いだ。しかしこれは時の首相個人の性向ではなく、国際環境の変化によるものではないか?そもそも菅義偉前首相も岸田文雄現首相も安倍レガシーの継承者である。さらに言えば岸田氏は安倍氏よりリベラルな世界観の持ち主で、「日本を取り戻す」などという「戦前懐古志向」、さらに言えば戦後レジーム・チェンジに対して若干の「プーチン的怨念」を匂わせるような発言はほとんどしていない。本来なら岸田政権の方が安倍政権よりも日中関係を発展させられる可能性がある。それが実際には両国の関係は悪化している。そうなると習近平政権下の中国外交が国際環境にどのような影響を与えているか、再検討する必要があると思われる。

 

何よりも日本は人治国家ではない。歴史的に見ても、日本では天皇に代わって国家統治に当たった関白や将軍さえ「君臨すれども統治せず」となってしまった。これは中華皇帝が絶大な権力を揮った国とは全く違うのだ。然るに中国人が一般的に日本の政治および外交を属人的に考える傾向があるのではないかと思われる言動は、今回のウェビナーに限らず見られる。その典型的な例は田中角栄および福田赳夫両首相(当時)による日中国交正常化および日中平和友好条約締結に対し、多くの中国人がしばしば示す感謝の意である。こうした例は他の国々ではほとんど見られない。アメリカ人がサンフランシスコ平和条約によって吉田茂首相(当時)に大々的な謝意を示すことはほとんどない。ロシア人も日ソ共同宣言に基づく国交回復によって鳩山一郎首相(当時)に謝意を示したりしない。アジアでも韓国人が日韓基本条約による国交正常化で佐藤栄作首相(当時)に謝意を表明したりしない。これらに鑑みれば、中国人が日本の指導者達から受けた恩と功績に対して示す仰々しくも映る謝意は、中華文明の伝統に基づく美しき礼節なのかも知れない。もしそうであるなら、日本側としてもそうした文化的伝統には敬意を払うべきだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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2023年2月14日

日本はウクライナとの首脳会談で、どのように存在感を示せるか?

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ここ最近はウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領による岸田文雄首相へのウクライナ訪問要請が取り沙汰される一方で、一時期は内閣支持率の低迷から盛んに報道された岸田降ろしはないようである。そうなると岸田氏は訪問の際に、どのように事態に対処すべきだろうか?

日本の首相のウクライナ訪問に関しては、疑問の声も挙がっている。それは以下の理由からである。まず国際的な公約によって日本自身が大変な負担を抱え込みかねないという懸念の声がある。また現政権には国会など日本国内での政治日程があり、ジョセフ・バイデン米大統領もウクライナを訪問していないことも指摘されている。さらに首脳同士の対面階段はなくとも日宇両国の実務協議は進展可能で、機密保持に関する法制度の整わぬ日本の首相が戦時のウクライナで首脳会談に臨めばメディアを通じて情報が漏洩しかねない。そうなると両首脳の身の安全確保が難しくなるということである(「「秘密を守る権利のない国」日本の首相がウクライナへ行けるわけがない」;ニッポン放送;2023年1月28日)。

そうした懸念はあるものの、対面会談の象徴性は無視できない。現時点でゼレンスキー大統領と直接会談がないのは、G7では日本の首相だけである。アメリカはバイデン大統領がウクライナを訪問していないとはいえ、アントニー・ブリンケン国務長官とロイド・オースティン国防長官はウクライナを訪問している。またバイデン大統領もワシントンではゼレンスキー大統領と会談している。それに対して日本からは林芳正外相がポーランドでドミトロ・クレバ外相と直接会談を行なったのみである(「日・ウクライナ外相会談」;日本外務省;2022年4月2日)。やはり、いつまでも二国間会談に応じないことで、現政権も湾岸戦争での海部政権のような消極的平和主義の方針と国際社会から見られないだろうか?この時の日本は渋々巨額のクウェート復興資金を支払いながら、多国籍軍に対して非協力的な印象を与えてしまった。

それでは日本がウクライナとの二国間会談で何をすべきだろうか?まず政策面では日本に軍事的な役割は期待されないだろう。実際にゼレンスキー大統領が昨年3月に日本の国会で行なったリモート演説では地道な復興支援への期待が語られた一方で、軍事的な要望は皆無である(「【全文】ウクライナ ゼレンスキー大統領 国会演説」;NHK;2022年3月24日)。そうした戦後の復興支援もさることながら、現在進行戦時下のウクライナ国民の生活と安全のための支援も必要である。その中でもロシア軍が戦時における国際人道法も眼中になく破壊し尽しているインフラの修復は急務で、ウクライナ軍のロジスティクス、食糧輸出経路の保全、電力など国民生活の維持には不可欠である。また日本が長年取り組んできたカンボジアでの地雷除去作業の実績から、彼の地でウクライナ人スタッフをJICA支援で訓練している(「ウクライナ向け人道的地雷・不発弾対策能力強化プロジェクトを開始:ウクライナ非常事態庁にクレーン付きトラックを供与」;JICA;2023年1月24日)。戦争被害者への医療及び精神的ケア、ロシアの戦争犯罪捜査などでも両国の協力が望まれる。だが直接の軍事支援が考えられないため、日本のウクライナ支援がより具体化するのは戦争終結後の協議の場だろう。

一連の政策面もさることながら、日宇両国の直接会談ではパブリック・ディプロマシーの側面も見逃せない。ゼレンスキー政権にとって最大の生命線は、国際世論でのウクライナ侵攻への関心である。日本が二国間首脳会談に臨むことで、ウクライナ危機が欧州大西洋圏の地政学的対立に留まらないことを国際社会に印象付けられる。言わば、日本は「遠方の善人」として振舞えばよいだろう。首脳会談の際には当然ながら共同記者会見や演説も考えられるが、遅れてやって来た国が存在感を発揮するには国際世論でウクライナへの「共感と感動」の創出に一役買うのが良いだろう。ゼレンスキー大統領が「見せる外交」に腐心していることは周知の通りである。日本の歴代政権は諸外国との首脳会談では粛々と実務をこなしてきた一方で、国際社会に「共感と感動」を呼ぶメッセージを発するという意識には乏しかった。

ウクライナへの国際的な「共感と感動」に関して言えばグローバル・サウスでは未だに自国と欧米との立場の違いが意識され、対露配慮が行き過ぎている。その中の主要国について述べたい。インドはこの度のウクライナ侵攻以前に次期国産ステルス戦闘機の共同開発で、ロシアの軍事技術が信頼に足らぬことがわかっていたはずである。だからこそ、この計画を中断した。ポスト・アパルトヘイト体制の南アフリカが、レイシストのプーチン政権との友好関係を維持しようとすることも矛盾している。ウクライナ侵攻後も欧米の極右にはロシアと気脈を通じる者も少なくない。またプーチン政権は旧ソ連がウクライナで起こしたホロドモールを否定しているが、これはまさにナチス同調者のホロコースト否定と同様なレイシスト思考である。ブラジルについては左派のルラ政権再登場でアメリカ離れを指摘する声もあるが、実は右派のボルソナロ前政権は親米というよりむしろ親トランプであった(”Russian Invasion of Ukraine Reveals Incoherence of Jair Bolsonaro’s Foreign Policy; Providence”; March 2, 2022)。すなわち、左右どちらであれ親露のブラジルではプーチン政権のプロパガンダに肩入れしかねない。もちろん、数十ヶ国以上のグローバル・サウスを十把一絡げにはできないが、日本の代表者が国際世論に「共感と感動」をもたらせれば現在進行中の戦争は我々にとってもっと有利になろう。

岸田首相は内政においても外交においても「信頼と共感」を重視すると言っている。だがコミュニケーションを専門とする東照二ユタ大学教授によると首相自身は政策を論理的に説明するリポート・トーク(report talk)には長けているものの、聞き手の情緒に共感を訴えるラポート・トーク(rapport talk)は不得手だという(「岸田首相の言葉はなぜ響かないのか」;時事通信;2022年10月7日)。それが顕著に表れた事例が、女性の産休時のリスキリングをめぐる発言で世論の反感を抱かれた一件だろう。ウクライナではロシア軍による非戦闘員への様々な暴力行為や学童の拉致による家族離散といった惨事が続いている。それに対して一日も早い平穏な生活と家族の絆の回復を訴えるためにラポート・トークを世界に発信し続けているのが、オレナ・ゼレンスカ大統領夫人である。

となると軍事支援よりも復興支援など役割の方が重視される日本の立場なので、岸田首相本人よりも裕子夫人がオレナ夫人と並んで首脳会談時の演説を行なった方が国際世論の「共感と感動」を呼ぶには相応しいとも考えられる。裕子夫人は東京女子大学卒でマツダの役員秘書という経歴である。基礎的な教養とコミュニケーション・スキルは充分にあると見て良いだろう。そして英語も堪能で、雰囲気にも華がある。もちろん裕子夫人自身は政治や外交の知識と経験が深いわけではなかろうが、オレナ夫人と並んで人道的意識高揚を訴えるメッセージを世界に発する役割を果たせると思われる。この場合、岸田首相は首脳会談の協議に徹し、セレンスキー大統領とともに日宇両首脳夫人の演説を後ろから見守るくらいが良いだろう。

もし岸田政権が退陣に追い込まれるようなら、誰が日本ならではの「共感と感動」のメッセージを世界に伝える役割は誰が担うだろうか?岸田降ろしの先頭に立っていると言われる菅義偉前首相についてだが、G7カービスベイでの首脳集合撮影では「私は英語が苦手だし、欧米人と並んで写るもの気が引ける」と言わんばかりの表情だった。このような態度は1960年代から70年代の日本の首相のようで、これでは国際的にアピール力のあるメッセージの発信はとても望めない。あの時の菅氏は、安倍政権の官房長官として記者会見でメディアからの質問を冷静沈着に捌いた人物とはまるで別人のようだった。菅前首相は河野太郎デジタル相を擁立するとも言われている(「田原総一朗「菅前首相は『岸田降ろし』に踏み切った」 担ぎたいのは河野デジタル相」;AERA;2023年2月2日)。河野氏はジョージタウン大学卒で外相や防衛相を歴任してきた。当然ながら英語堪能で演説も歯切れ良く、しかも華がある。しかし思い切りのよい発言の裏でツイッターなどでは意見が異なる者に不寛容な態度を示すようでは、ウクライナの戦争被害者や弱者に対する共感力については疑問を抱いてしまう。ともかく日本のメッセージ発信者の人選では、誰を選んでも一長一短がある。

二国会談には機密、安全、日程など困難な壁もあろうが、いつまでも日本だけが首脳会談を出来ない状況は好ましくない。会談場所はウクライナと日本以外に第三国も有り得る。会談日程もG7広島以前で調整できるなら、その方が望ましい。「見せる外交」もハイブリッド戦争の一環であり、我々の陣営の勝利目指して国際世論の形成を進めて行けば世界秩序の破壊というロシアの野望を挫くうえで有益である。それは世界覇権奪取の野望を顕わにする中国への牽制につながる。日本国内での両国首脳会談に関する議論はややもすると実務本位に走り、「見せる」意識が希薄に思えてならない。日宇首脳会談をどのように開催するか、両国はしっかり検討しておくべきだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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2023年1月24日

英・北欧統合遠征軍をめぐる国際情勢

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当ブログ118日記事の下から2段落目で言及したJEF(Joint Expeditionary Force:統合遠征軍)について説明するとともに、それが現在のウクライナ情勢をはじめとした国際諸問題とどのように関連しているのかについても述べたい。そちらでも記されたように、これはイギリスが主導する北欧およびバルト海諸国による多国籍軍である。現在は以下の国々が加盟している。

 

イギリス、デンマーク、エストニア、フィンランド、アイスランド、ラトビア、リトアニア、オランダ、ノルウェー、スウェーデン

 

まずJEFの沿革から述べたい。イギリスには元々、自国の三軍によるJRRF(Joint Rapid Reaction Force:統合緊急対応部隊)があり、2000年のシエラレオネ内戦、2001年の北マケドニアでの紛争で緊急に派遣された。しかし911同時多発テロ事件を契機にアフガニスタンとイラクに兵力を割くようになり、自国軍だけでは即応部隊に人員を出せなくなった。そこでアフガニスタンでISAF(国際治安支援部隊)の司令官を歴任したデービッド・リチャーズ陸軍大将の発案 ("Speech by General Sir David Richards, Chief of the Defence Staff"; RUSI; 17 December, 2012により、2014年のNATOウェールズ首脳会議を契機に発足したのが多国籍で構成されるJEFである ("The UK Joint Expeditionary Force (JEF)"; IFS Insights; May 2018)。

 

JEFの設立は、イギリスが昨年3月に打ち出した「インド太平洋地域への傾斜を強めながら欧州大西洋地域でも存在感を増す」という戦略の具現化とも言える ("Global Britain in a Competitive Age"; March 2021) 。そのJEFとはどのような組織だろうか?それは北欧およびハイ・ノース(High North)、すなわちグリーンランドからノルウェー・ロシア国境地帯のバレンツ海に至るヨーロッパ北極圏での緊急事態に対応するための多国籍軍である。JEFは自軍の任務だけでなく、国連やNATOのような国際機関とも、あるいはアメリカ、フランス、ドイツなど個別の主権国家とも共同で該当地域の防衛に当たることができる ("Ready to Respond: What is JEF?"; Strategic Command; 11 May 2021)。この多国籍軍の際立った特徴は、緊急即応性を充足させるためにNATOのような全加盟国の方針一致ではなく、その時の事態に対応できる国だけで多国籍軍を編成するということである。本年3月にはボリス・ジョンソン首相(当時)が、ロシアがウクライナ侵攻からさらに北欧およびバルト海地域にまで及ぼそうとした脅威の抑止ではJEFが最も素早く対応したと自画自賛したほどである ("The Joint Expeditionary Force: Global Britain in Northern Europe?"; CSIS Commentary; March 25, 2022)

 

ところでJEFの主要な活動地域が北欧、バルト海地域およびハイ・ノースである以上、その真ん中に位置するスコットランドの独立運動がイギリスと北欧・バルト諸国の軍事的協力に負の影響をもたらすか否かは要注意である。去る11月23日にイギリス最高裁判所は、スコットランド政府がイギリス議会の承認なしで独立に向けた国民投票のための司法手続きを棄却した ("Blow for Scottish nationalists as UK court rejects independence vote bid"; Reuters News; November 24, 2022。そもそもスコットランドが独立して仮にEU加盟が叶っても、自主独立で国家運営できるだろうか?現在のスタージョン政権は全ての女性への生理用品の配布など、きわめて高水準の福祉政策を行なっている。それには強固な経済的基盤が必要であるが、現在のスコットランドには高付加価値産業はあまり見られない。第一次産業に依存した経済で高福祉国家など夢物語である。

 

イングランドにはケンブリッジのような世界的なIT産業の拠点があるが、スコットランドにはそこまで有力な拠点はない。イギリスの航空宇宙産業もほとんどイングランドを拠点としている。そうした状況下で彼の地に高付加価値産業をもたらしているのはイギリスの軍事産業で、特に海軍はスコットランドが伝統的に強みを持っている造船業にハイテク艦船の需要を創出している。二コラ・スタージョン首相が本気で福祉国家の理念を実現する気なら、連合王国との経済関係をしっかり認識すべきだろう。

 

イギリスとスコットランドは国防でもウィンウィンの関係にある。冷戦期より、ロシアの脅威はムルマンスク方面から海空より迫ってきた。こうした北方からの脅威に対し、イギリスはNATO同盟諸国とともに自国の海空軍で対抗してきた。特にスコットランドは、こうした任務では戦略的に重要である。中でもファスレーンにあるクライド英海軍基地は複雑な地形から原子力潜水艦の秘匿性を保つうえで好都合で、米海軍および空軍もスコットランドに基地を持っている。スタージョン首相は自分達の自治国家が英米両国に防衛されないでロシアの脅威に対処できると信じているのだろうか?JEFに不安定要因を持ち込むことは、スコットランドにとって何の得にもならない。

 

だがそれ以上に現在のウクライナ危機との関係で注目すべき国際問題と言えば、スウェーデンとフィンランドのNATO加盟申請に対し、トルコが自国内ではテロリストとなっている亡命者を保護する両国の加盟には留保を主張している。イギリスと北欧諸国は旧EFTAの時代から深い友好関係にあり、それも近年のJEF設立の背景にもなっている。他方で英土関係は互いにEUのアウトサイダー同士という立場もあって、長年にわたって緊密である。イギリスはドゴール政権下のフランスから二度のEEC加盟申請拒否に遭い、1973年にやっとの思いで加盟を果たすも欧州統合のブレーキとなることが頻繁であった。他方でトルコは歴代政権がEU加盟を働きかけてきたが、未だにそれは実現していない。トルコはEUとの合意に先駆け、2020年12月にイギリスと二国間の通商合意に至った。軍事面でもトルコの次期国産戦闘機の開発はイギリスの支援を受けている。

 

現在、トルコはNATO加盟国としてウクライナにバイラクタルTB2無人機を供与し、本年10月には2020年に受注したウクライナ海軍向けのコルベット艦の進水式まで行なった ("Turkey Launches 326-Foot Warship For Ukraine, Won’t Arrive Until 2024"; The War Zone; October 3, 2022。そして国連では、ロシアのウクライナ侵攻に対する非難および制裁の決議には一貫して賛成票を投じている。にもかかわらず、ロシアとウクライナの間での穀物輸出合意をとりまとめるなど、両国の仲介者として存在感を見せつけている。トルコがそうした役割を果たせる背景には、露宇両国との建設業や観光産業での関係、小麦の輸入、野菜果物の輸出といった深い経済関係にある。そしてトルコは両国からの小麦輸入によって、世界有数のバスタや小麦粉の輸出国となっている ("Turkey not to suffer shortage in grains: Ministry"; Hurriyet Daily News; February 26, 2022) 。それに鑑みれば、トルコと北欧両国の双方と戦略的に重要な関係にあるイギリスは、NATOの盟主アメリカとともに何らかの役割を果たしてゆくのだろうか?JEFの説明にも記された通り、スウェーデンとフィンランドはすでに中立国ではなく西側同盟に深く関わっている。そうした同盟関係をさらに強化するためのNATO拡大は、ウクライナとロシアの戦勝終結後をも睨んだ世界秩序の重要問題である。

 

イギリスの軍事組織に関して、国際的にも日本国内でもメディアは頻繁には報道しないかも知れない。しかしそれを巡る国際関係は英本国の近隣を超えた広がりを持っている。折しも日英の防衛協力が高まる昨今、我々としてもイギリスの国家安全保障への関心を高めておくべきであろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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2022年12月31日

ANCの親露外交は欧米の黒人同胞に対する裏切りである

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トランプーチン:ロシアと欧米極右の間のレイシスト枢軸

 

ウクライナ侵攻を契機に史上かつてないほど欧米との対立が悪化しているロシアだがアフリカ諸国とは緊密な関係を維持し、その内の半数近くは度重なる国連総会の場でロシアの侵攻に対する批判や制裁の決議を棄権した。その中でも南アフリカが重大な注目に値する国である理由は、プーチン政権下のロシアが世界最悪のレイシスト国家であるにもかかわらず、与党ANCはこの国との友好関係を維持しようという致命的で自己敗北的な過ちを犯しているからである。

 

ANCの親露外交路線はイデオロギー的に間違いで自己破滅的である。我々は誰もが、この党が冷戦終結までの数十年にもわたって反アパルトヘイト抗争を続けてきたことを知っている。ヨーロッパとアメリカの黒人同胞は彼らの反レイシズム抗争に強い連帯を示した。しかし現在のANCは自らの長きにわたる抵抗の歴史を忘れ去ったかのように、ソ連崩壊後のレイシスト国家ロシアとの友好関係を維持しようとしている。これが多人種民主主義を追求する彼らの取り組みへの支援者に対する無自覚な裏切りである理由は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がリベラル民主主義弱体化を目論んで欧米の極右を支援する最も悪名高き存在だからであり、実際にロシアの選挙介入がブレグジットやトランプ政権誕生につながった。ロシアのウクライナ侵攻による全世界的なショックがあっても、そうした右翼ポピュリストにはなおもプーチン氏と共鳴し、自分達が抱いているグローバル化による社会文化的多様性への反感と白人キリスト教ナショナリズムへの妄信による世論を広めようよしている。人種平等を標榜する政党ならば、ロシアと欧米のレイシストの間のやましい関係を決して見過ごしてはならない。

 

 

 

嘆かわしいことに、ANCは無意識に彼らを裏切っている。

 

 

 

そうした親露派右翼達はアメリカ国内で酷い悪評を博している。MAGAリパブリカンは「小さな政府」の理念の名の下に、アメリカはウクライナをめぐるロシアとの対決から手を引くべきだと主張している。下院ではマージョリー・テイラー・グリーン議員(MTG)、マット・ゲーツ議員、ポール・ゴーサー議員、マディソン・コーソーン議員らがそうした極右に当たる。さらにトランプ政権期の高官ではマイケル・フリン元国家安全保障担当補佐官、ピーター・ナバロ元ホワイトハウス政策局長、スティーブ・バノン元大統領上級顧問らがクレムリンを代弁するかのように、プーチン氏のウクライナ侵攻を正当化している。そうした過激派の中には、馬鹿げたことにウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領が「ソロスとクリントン家に操られたグローバリストの傀儡」だと見做す者さえある。何よりもドナルド・トランプ氏自身がウクライナ侵攻に際してプーチン氏を天才だと賞賛したほどである(“Meet the pro-Putin Republicans and conservatives”; Republican Accountability Project)。彼らにはレーガン的な国家安全保障観などは全く見られない。

 

ヨーロッパでも極右政治家の中には親プーチンの態度を崩さぬ者も見られ、彼らの国々がアメリカ以上にロシアの脅威を直接受けることも顧みられていない。本年9月のイタリア総選挙でネオファシスト系「イタリアの兄弟」から選出されたジョルジャ・メローニ首相は対露政策で立場を転換したが、閣内のマッテオ・サルヴィーニ氏とシルヴィオ・ベルルスコーニ氏は親プーチンの姿勢を変えていない(“Putin’s Friends? The Complex Balance Inside Italy’s Far-Right Government Coalition”; IFRI; November 28, 2022)。ロシアは本年12月にハインリッヒ13世を首謀者とするドイツ極右クーデター未遂事件でも黒幕であった。容疑者の一人はハインリッヒとロシアの取り次ぎ役を果たした(“Germany arrests 25 accused of plotting coup”; BBC News; 7 December, 2022)。親露派のデマゴーグと扇動者は右翼メディアにもいる。FOXニュースのタッカー・カールソン氏は自分の番組の視聴者に、ウクライナでなくロシアに味方するようにと言っている。GBニュースのナイジェル・ファラージ元UKIP党首はもっと慎重な言い回しでロシア支持を間接的に訴えようと、ゼレンスキー氏の統治能力への懐疑的な見解を喧伝している。

 

 

このように大西洋の両側での欧米極右の名前を挙げてみれば、薄気味悪い恐怖感に駆られる。なぜブラック・エンパワーメントの党が、「トランプーチン」的なレイシストの枢軸と手を携えなければいけないのか?ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は昨年の4月にアメリカ国内の白人ナショナリストに対する心底からの共感の意を示そうと、「白人への逆差別」を非難した(“Russia Warns of Anti-White 'Aggression' in U.S.”; Moscow Times; April 1, 2021)。実のところクレムリンと欧米の極右に共通している思想はレイシズム、反フェミニズム、そして反LGBTの価値観だけではない。プーチン政権のロシアと欧米のレイシストが共有している価値観はもっと深く根本的なもので、それをイスラエルの右翼系歴史学者ヨラム・ハゾニー氏はナショナリスト民主主義と呼び、ロシアのウラジスラフ・スルコフ元大統領補佐官は主権民主主義と呼ぶ。それはリベラル民主主義の普遍的価値観を否定し、土着主義と反近代主義の性格が強いイデオロギーである。彼ら「トランプーチン」的なレイシストは啓蒙主義とグローバル主義という、西側エスタブリッシュメントが推し進める両思想を嫌悪している。

 

さらにプーチン氏のウクライナ侵攻によって、ロシア国内のレイシズムも曝されてしまった。モンゴル系のブリヤート人やコーカサス地方のイスラム系ダゲスタン人など少数民族出身の兵士の死傷率は、ロシア人のそれを大きく上回っている(“Young, poor and from minorities: the Russian troops killed in Ukraine”; France 24; 17 May, 2022)。より重大な点は、ルースキー・ミールという概念に対するプーチン氏の解釈と実行には彼のレイシスト的な世界観が反映されているのではないかと、私は疑念を抱いている。かの有名な『ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について』という論文でプーチン氏は冷戦後の国際政治における欧米の優位に対する深い怨念とともに、ウクライナの歴史と文化に対する蔑視の姿勢を顕わにして彼らの独立と主権を否定している。そうした軽蔑姿勢からすれば、ロシア軍がレイプ、強盗、拷問、殺人、その他ありとあらゆる暴力といった多くの犯罪を積み上げたことには何の不思議もない。あろうことかプーチン氏は厚顔無恥なブチャの犯罪者達を表彰した(“Putin honors brigade accused of war crimes in Bucha”; Washington Post; April 19, 2022)。

 

そうした事情はあれ、ANCが反アパルトヘイト闘争でかつてはソ連の恩恵を受けたことは否定しようがない。アメリカでもそうだったが、人種平等を目指す活動家には左翼に傾斜する以外に選択肢はなかった。彼らが共産主義の超大国を盟友としたことは当時なら自然な選択だったが、アンゴラとモザンビークでのソ連・キューバ勢力のプレゼンスを問題視するロナルド・レーガンおよびマーガレット・サッチャー両首脳にとっては非常に由々しきことであった。幸いにもネルソン・マンデラ党首は彼自身が欧米とも南アフリカの白人とも手を携えて多人種民主主義を発展させられると証明し、国際社会からも支持を得た。ともかくソ連は崩壊したのだが、ANCの指導者層は今なおロシアとの情緒的でノスタルジーに満ちた関係を感じているようだ。

 

どうやらアフリカ人にも日本人と同様なセンチメンタリズムがあるようにも思われる。典型的な例として故安倍晋三首相は、父晋太郎氏が残した北方領土返還実現によりソ連のミハイル・ゴルバチョフ大統領との間で平和条約の締結という見果てぬ夢の実現に尽力した。安倍氏は共産主義体制崩壊後のロシアとの経済協力発展を模索した。しかし安倍氏の希望的な夢はプーチン政権の力治政治という無慈悲な性質を踏まえていなかったので頓挫した。プーチン氏はゴルバチョフ氏ではない。現在のクレムリンから見れば、日本はアメリカの従属的な同盟国に過ぎず、ロシアは経済協力の見返りに領土を返還する必要もないのだ。問題は互恵性にとどまらない。イデオロギー的には旧ソ連と現在のロシアは正反対で、前者は世界各地の共産主義者を支援したのに対して後者は欧米の極右レイシストを支援している。よってANCがプーチン政権のロシアを友好国と見做すことは理に適っていない。安倍氏と同様に、彼らもロシアに幻想を抱いている。考えてもみて欲しい。アメリカとイスラエルは近代化路線のシャーの統治下にあったイランとは非常に友好的な関係にあったが、現在のシーア派神権体制にあるこの国とはそうした関係はとても考えられない。体制が変わってしまえば全く違う国になってしまうのだ。

 

ロシアとの友好関係を保つよりも、ANCはむしろプーチン氏の核脅迫レイシズムを非難するうえで格好の立場にある。彼のルースキー・ミール論文からはウクライナ人に対するロシア人の優越感が垣間見られ、そうした侮蔑的な思考だからこそ相手がチェチェン人、シリア人、ウクライナ人にかかわらず、敵に対してあれほど残虐になれるのだ。欧米の抑止力がなければ、彼のルースキー・ミール的価値観を否定する敵ならだれであれ大量虐殺の被害を免れないだろう。南アフリカは逆に自発的な核廃棄に踏み切った世界唯一の主権国家だが、他方でイランや北朝鮮のようなグローバル・サウスの専制国家は核拡散に手を染めている。両国ともプーチン氏の野蛮なウクライナ侵攻を支援していることを忘れてはならない。なぜ多人種民主主義の党が、レイシスト、反グローバル主義者、反啓蒙主義者の枢軸と友好関係にあらねばならないのだろうか?しかもその主要な構成者はプーチン政権のロシアと欧米の極右だというのに。

 

嘆かわしいことに大半のメディアは、世界各地の人種平等主義者に対するANCの無意識な裏切りに付随する壮大な矛盾を批判しない。彼らとソビエト・ロシアの歴史的な関係を「同情的」に報道しても意味はない。プーチン政権のロシアはもはや「万国の労働者よ、団結せよ!」という価値観など掲げていない。それどころか伝統主義の名の下に、今のロシアは欧米でのレイシストの不満爆発を扇動している。

 

アフリカ諸国の中で、南アフリカは以下の理由から私の注意を引き付けている。この国は大西洋地域とインド太平洋地域を結びつける位置にあり、それは21世紀の地政戦略で極めて重要である。またこの国の多人種民主主義の行方もグローバルな注目事項である。さらに付け加えるとこの国はアングロサクソン政治文化圏に属し、そのことは大英帝国の白人自治領としての建国の歴史に裏打ちされている。アメリカとイギリスを主要なフォーカスとしている私にとって、そうした事情から南アフリカに関心が向く。そしてだからこそ、メディアや学界にはANCの親露外交がはらむ致命的な矛盾を検証してゆくように注目を促せれば幸いである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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2022年11月 8日

日本とアングロサクソンの揺るがぬ同盟と、独自の戦略

Jaukus

 

JAUKUS?日本、オーストラリア、イギリス、アメリカによる太平洋同盟

 

 

先の記事『イギリスはインドを西側に引き込めるか?』に於いて、イギリスがトルコ、インド、日本と進める次期戦闘機共同開発について論じた。地政学的には、上記3ヶ国は大英帝国の戦略的ハブであり、各々がユーラシアの西、真南、東に位置している。もちろん現在のイギリスは覇権国家ではないが、ヨーロッパとの関係を保ちながらインド太平洋地域への傾斜は、欧州大西洋地域の地域大国の視点というよりもかつての海洋覇権国家、そして現在の覇権国家であるアメリカの戦略的視野に近いものがある。

 

過去の帝国の経験に基づく地政戦略を模索することは、必ずしも誇大妄想とは言えない。ロシアがウクライナの再征服を目論んだネオ・ユーラシア主義の夢は、破滅的な結果をもたらしたことは否定できない。他方でトルコはネオ・オスマン主義のビジョンを打ち出して世界の中での存在感を高めているが、これには欧米とその他の間での綱渡り外交が要求される。そうした中で日本は様々な事情が入り混じる立場である。冷戦後の世界で政治的存在感を増すために自主独立外交を追求する日本ではあるが、他方で自らの立場はクォッド+AUKUSというアングロサクソン主導によるインド太平洋地域の安全保障ネットワークに深く立脚させ、戦時中の帝国の再現など夢想だにしない。そうして、この国は自国の立場を今世紀におけるリベラル国際秩序、すなわち中国その他のリビジョニスト勢力に対抗するパックス・アングロサクソニカ2.0の重要な支持国と見做している。日本をアメリカと中国に挟まれた小さな島国としか見ないようでは、あまりに視野が狭い。地球儀を俯瞰して見れば、日本とアングロサクソン覇権国家は戦前からユーラシア・リムランドを地政戦略的に優先していたことがわかる。

 

そうした中で、日本外交の自主独立の側面も理解する必要がある。本年7月に日本国際フォーラムより刊行された『ユーラシア・ダイナミズムと日本』は、まさにユーラシアとインド太平洋における日本の戦略の自画像とも言える。1990年代に橋本政権がユーラシア・ハートランド との関係を強化する新シルクロード構想を打ち出したが、それは地政学的な考慮よりも、古代からのアジアとの文化的そして歴史的な関係をロマンチックに追い求めたもののように見えた。また、イデオロギー的側面はその構想ではあまり重要ではなかった。日本のグランド・ストラテジーの進化を促したものは、911同時多発テロ事件である。麻生太郎首相(当時)はブッシュ政権の拡大中東構想に呼応して、テロと専制政治に対抗する「自由と繁栄の弧」を打ち出した。

 

麻生氏を継いだ安倍晋三氏は、そうしたグランド・ストラテジーをさらに推し進めた。安倍政権はFOIPやTPPに代表される地域の安全保障と自由貿易の構想で指導的な役割を果たし、アメリカ・ファーストの孤立主義に陥るトランプ政権下のアメリカの穴を埋めた。非常に重要なことに安倍氏は世界各国、特に西側首脳に中国の脅威に対する注意を呼びかけた。それ以前には、西側のメディアは日中間の抗争を、まるでインドとパキスタン、イランとイラクなどの第三世界の地域大国の間の抗争のように扱っていた。実を言うと当時は私も中国を過剰に意識する者とは距離をとっていたが、それはネット右翼やその他リビジョニスト達のジャパン・ファーストな態度に嫌悪感を抱いていたからであった。彼らの世界観は地球儀を俯瞰したものには程遠く、今日で言えば戦後パックス・アメリカーナに対するプーチン的な怨念やグローバル化に対するトランプ的な怨念にも相通じるように思われた。日本国際フォーラムのイベントに参加することがなければ、私には中国が突きつける挑戦が増大する事態への認識を現状に追いつかせる機会を逸していたかも知れない。

 

他方で安倍氏はロシアが経済協力の見返りに北方領土を返還してくれると信じ込むほどの希望的観測を抱き、プーチン体制の「力治政治」という性質を認識できていなかった。忘れてはならぬことは、2016年の日露首脳会談を前に安倍首相はウラジーミル・プーチン大統領に一服とってもらおうと自身の選挙区である山口県内の温泉保養地に招待したが、その時に残虐な独裁者を歓待しようと取った態度は温泉旅館の主人さながらだったということである("Abe and Putin meet at a hot spring resort in Japan"; Yahoo News; December 16, 2016

 

さらに議論を進めるために、戦略的ハブ3ヶ国について歴史的な意味合いから言及したい。トルコはロシアの南下を食い止める防波堤であったばかりか、NATOとCENTOの重要な加盟国としてヨーロッパと中東でソ連の脅威の歯止め役を担ってきた。インドは英領インド帝国の時代から、東アジアと中東、そして中央アジアとインド太平洋を結び付ける場所であった。そのような地政学的背景から、インドは今日ではテロとの戦いとクォッドにおいてアメリカにとって不可欠な戦略パートナーとなった。そうした中で日本は東アジアのランド・パワーによる海洋へのアクセスを阻めるオフ・ショアの前線基地に役割を果たしてきた。現在、トルコとインドは多極化する世界の地政学で独自の役割を希求しながら、各々はNATOとクォッド加盟国の立場も保とうとしている。そうした中で日本はG7の原則であるルールに基づく世界秩序を掲げ、それによってアングロサクソンのシー・パワーにとって頼むに足る存在となっている。

 

地政学に加えてハブ3ヶ国の防衛産業についても言及する必要がある。3ヶ国ともある程度の軍事技術はあるが、次期戦闘機全体を製造できるほどの高度な技術はない。トルコは比較的廉価で入手が容易な兵器を、主に途上国に向けて輸出している。中でもバイラクタルTB2はロシアに対するウクライナの反撃で面目躍如となり、全世界的に評価が高まった。しかし先進技術となると、この国には欧米主要国の支援が必要である。他方でインドはナレンドラ・モディ首相による『メイク・イン・インディア』の旗印の下で多種多様な国産兵器を製造し、テジャス戦闘機、アージュン戦車、アストラ視界外射程空対空ミサイルなどが配備されている("Top 10 Indian Indigenous Defence Weapons"; SSBCrackExams; October 24, 2020)。しかしそうした兵器は国際市場で競争力は弱いので、インドは依然としてロシアに兵器調達を依存している。そうした事態にあって、インドは欧米との技術協力で国防の自立性を模索している。

 

上記2ヶ国と違って日本は基本的に先進技術に強く、欧米の兵器体系に重要な部品を提供している。中でも日本製のシーカーはイギリスのミーティア空対空ミサイルに組み込まれ、新たにJNAAMを生産するとこになった("Japan confirms plan to jointly develop missile with Britain"; UK Defence Journal; March 4, 2022)。しかし日本の防衛産業はマーケティングのための政治的ネットワークを持たないため、オーストラリアへの潜水艦輸出でフランスと競走して契約を勝ち取るには不利な立場にあった。日本にとって幸いなことに、AUKUS成立の公表を機に、オーストラリアはフランスの潜水艦に代わって米英の原子力潜水艦を輸入することになった。

 

アングロサクソンのシー・パワーはグローバルな観点から戦略を練り、各地域のハブの優先度は全世界の安全保障環境によって変わってくる。よって日本がアメリカ国内での視野の狭い対中強硬派の尻馬に乗ることは、ロシアがウクライナ侵攻によって世界秩序に反旗を翻す現況では得策とは思えない。彼らはアジアでの中国の脅威に囚われるあまり、地球儀を俯瞰する視点が欠けている。彼らと連携してアメリカのウクライナ支援を阻止しようとしている勢力は、アメリカ・ファーストを掲げる右翼と反戦を掲げる左翼である("A Moment of Strategic Clarity"; The RAND Blog; October 3, 2022。また、こうした非介入主義勢力は減税運動とも気脈を通じている("Inside the growing Republican fissure on Ukraine aid"; Washington Post; October 31, 2022)。バイデン政権の国家安全保障戦略にも記された通り、中国がリベラル世界秩序への第一の競合相手に上がってきた。そしてロシアとその他リビジョニスト勢力が、日本の平和と繫栄の礎となるこの世界秩序への妨害と反逆に出ている。よって日本が間違った相手と手を組むことによって自国第一主義との誹りを受けぬようにすべきである。

 

現在の地政学文脈の下で、アングロサクソンのシー・パワーはユーラシアとインド太平洋どのようにバランスをとるのだろうか?それについて、イギリスと共同で戦闘機プロジェクトを進める3ヶ国との関係から述べたい。トルコにとってイギリスは長年に渡ってヨーロッパで最も友好的な国である。ブレグジット以前には、イギリスはトルコのEU加盟申請を支持し続けた。ポスト・ブレグジットの時代にあって、イギリスとトルコはこれまで以上に互いを必要としている。通商では共通関税のために複雑な手続きが要求されるEUとの合意よりも、むしろ自国の経済主権を維持するためにはイギリスとの合意の方が好ましいとトルコは考えるようになった。非常に重要なことに、エルドアン政権が2020年にリビア内戦で残虐なシリア傭兵の派遣、そして2018年に自国内でのテロ行為阻止を名目にしたシリアでのクルド人民兵への攻撃を行なったことによって、トルコはEUとの関係で緊張をかかえることになった。しかしイギリスはトルコを強く非難することはなかった("TURKEY AND THE UK: NEW BEST FRIENDS?; CER Insights; 24 July, 2020。インドもポスト・ブレグジット時代に有望な市場である。戦略的には、この国は旧CENTO加盟国ながら親中でタリバンとの関係も深いパキスタンに代わり、南アジアではイギリスにとって最も重要なパートナーとなっている("The Integrated Review In Context: A Strategy Fit for the 2020s?" Kings College London; July 2021)。本年4月の英印共同声明で述べられた通り、両国の戦略的パートナシップはクォッド+AUKUSを超えてアフリカにまで達しようとしている。

 

そうした中で日本はオーストラリアとともにイギリスのインド太平洋傾斜で重要なパートナーとなっている。両国ともG7の一員としてルールに基づく世界秩序を支持している。イギリスにとってポスト・ブレグジットの政治および経済的な不安定を乗り切るためにも日本が必要であり、日本にとっては中国と北朝鮮の脅威の増大に対処するためにイギリスが必要である。通商においては、日本はイギリスのCPTPP加盟申請を支持している。二国間での安全保障の協力を強化するため、日本はメイ政権期のイギリスと共同軍事演習を開催し、自国版NSC設立による戦略的意思決定能力の向上のためにイギリス型の部分的な踏襲さえ行なった("The UK-Japan Relationship: Five Things You Should Know"; Chatham House Explainer; 31 May, 2019

 

大西洋の向う側ではバイデン政権が本年10月にアメリカの安全保障戦略の概要を示し、そこには我々が 地政学とイデオロギーで特に中国とロシアを相手にした競合の時代にあると記されている。現政権公表の戦略によると「ロシアが自由で開かれた国際体制に喫緊の脅威を及ぼし、無謀にも国際秩序の根幹を成す法を軽視していることは、ウクライナに対する残虐な侵略戦争に見られる通りである」ということだ。一方で中国に関しては、「その国は唯一の競合国であり、国際秩序再編の意志とともに、これまで以上に経済、外交、軍事、テクノロジーの力を強化してその目的に邁進しようとしている」と記されている。他方で現政権の安全保障戦略では、国際協力によって気候変動、エネルギー安全保障、パンデミック、金融危機、食糧危機などのグローバルに共有された問題を解決することが提唱されている。そうした挑戦相手国との競合であれ協調であれ、ジョセフ・バイデン大統領は全世界でのアメリカの同盟ネットワーク再強化に乗り出そうとしているので、そうしたものには軽蔑的だった前任者のドナルド・トランプ氏よりはましだろう。それはクォッドによる同盟深化を目指す日本にとって好都合である。

 

アングロサクソンのシー・パワーによる戦略上の重点は時の状況によって変わるだろうが、日本は他の戦闘機計画ハブの国よりも有利な立場にある。トルコは慢性的にクルド人問題を抱えている。エルドアン政権によるシリアのクルド人攻撃によって「NATOの脳死」がもたらされた。また、この国はスウェーデンとフィンランドのNATO加盟申請に際してクルド人亡命者の件で異論を挟んできた。それは友好国のイギリスを困惑させかねず、統合遠征部隊(JEF)で英軍指揮下に置かれたオランダ、スカンジナビア諸国、バルト海諸国に対する指導力発揮にも良からぬ影響が出かねない。インドはヒンドゥー・ナショナリストが権力を握り、国内での彼らとイスラム教徒およびキリスト教徒の衝突は無視できない懸念材料である。極めて問題となることに、両国ともクレムリンと強い関係でつながっている。トルコはロシアよりS-400地対空ミサイルを購入した。インドも国連総会では依然としてロシアへの非難や制裁の決議に棄権票を投じている。

 

それでも日本は、トルコとインドでは酷い状況にあるような国内での民族宗派間の緊張には苛まれていない。ロシアとの関係では、岸田文雄現首相はウクライナ危機もあって安倍政権下でのプーチン政権への融和政策を大転換している。岸田氏は陸上自衛隊出身の中谷元、元防衛相を自らの国際人権問題担当補佐官に登用し、日本が人権問題を国家安全保障上の喫緊の課題と見做しているという強いメッセージを送っている。そのことは岸田氏がウラジーミル・プーチン大統領によるロシア国内とウクライナで犯した残虐な犯罪を決して許さず、安倍氏のような過ちを決して犯さないと解釈することもできる。グローバルに共有される問題では、日本はG7その他多種多様な国際的ないし地域的なチャンネルを通じ、戦後のシビリアン・パワーとしての関与には積極的であった。グローバルな安全保障の状況と環境は常に変化する。しかし何があろうとも、日本は世界での評判と信頼を守るためにもジャパン・ファーストに陥るべきではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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