2008年5月 5日

レッド・チャイナか、マッド・チャイナか?:チベットと五輪と圧政国家

北京オリンピックとチベットの問題は世界各地の人権活動家達が聖火リレーに抗議したために日を追って激しくなっている。良心ある世界市民からの激しい非難にさらされた北京当局は自国民を動員して人海戦術によってチベット解放活動家を黙らせようと決意した。

キャンベラ、長野、ソウルでは共産党支持の中国人の群れが路上でチベット解放活動家を取り囲み、自由の戦士達に心理的な圧迫を加えた。このように異様な赤旗の中国人の群れを見るに及んで、私はそうした光景に背筋が寒くなった。中国政府は自由の戦士達に対し、どのようにしてそのように中央統制の効いたデモ隊員を送り込めたのだろうか? あれらの赤旗中国人達は親チベット活動家を殴ったり蹴ったりはしなかったものの、あのような類の脅迫は暴力以外の何物でもない。まさにオーウェルの世界である。あのように異様な行動は断じて愛国心の発露などではない!見かけの急速な近代化とは裏腹に、中国が遅れた危険な国家であることが白日の下にさらされた。

考えてもみて欲しい。アメリカとイギリスはイラク戦争をめぐって激しく批判されたが、両国政府は間違っても自国民に命令を下して反戦デモへの対抗に動員しようとはしなかった。ソ連でさえアフガニスタン侵攻を非難されてもそんなことはしなかった。中国が恐ろしく権威主義的な社会で、今でも暗黒時代の真っ只中にあることが明らかとなった。

中国の後進性と圧政を議論するために、いくつかの論文を参照したい。私がぞっとするのは、中国はアヘン戦争でイギリスの砲艦に敗れるまで自らを地上の支配者だと何の疑いもなく信じていたことである。歴代の中国皇帝は東アジア一帯に「冊封体制」を強要し、その地の君主達に中国への朝貢を要求し続けてきた。ロイヤル・ネービーに敗北を喫して初めて、儒教的世界観では地上の支配者であった中華皇帝がウエストファリア体制を受け容れたのである。あの時から中国は充分に近代化したのだろうか?中国の現体制の性質を理解することが、チベットの自由化を語る際には必要不可欠である。

カーネギー国際平和財団のロバート・ケーガン上級研究員は、中国問題の専門家達の間で広く主張されているように西側が中国を「責任ある当事者」として受け容れることに疑問を呈している(“Behind the ‘Modern’ China”; Washington Post; March 23, 2008)。 ケーガン氏は中産階級の増大によって中国が政治的に自由になり、グローバル化が進む経済に適応してゆくとの考え方を批判している。また、そうした議論は商業利益に目が眩んだ西側財界人の自己中心的な希望的観測に過ぎないと述べているが、それは独裁者の関心は自己保身であり、海外とのビジネスで挙げた収益はチベットの抑圧と台湾への恫喝に用いられるだけという理由からである。

またケーガン氏は東アジア共同体を設立しようという構想も拒絶している。ヨーロッパ諸国民はスペインのカタロニア人であろうが、ベルギーのフランドル人であろうが、イギリスのスコットランド人であろうが、地域の少数民族に対して敬意を払っている。だが中国共産党はチベットだろうと台湾だろうと新疆だろうと自分達の権威を押し付けることに何の躊躇もない。これに加えて、私は中国の指導者達は韓国だろうと日本だろうと、近隣諸国に対して自分達のアジア史観を押し付けて当然だと思っていることにも言及したい。

ロバート・ケーガン氏は、独裁者の望みは世界を少なくとも自分達だけは安全なものにしたいというもので、民主主義国が安全な世界を作ろうという西側諸国の指導者とは相容れない考え方であると指摘する。そのため、中国を我々の自由な世界秩序に組み込もうという考え方は誤りであるとケーガン氏は主張する。

中国の指導者達は自らの国と世界の中での自国の立場をどのように見ているのだろうか?北京大学国際問題研究所長で中国共産党中央学院国際戦略研究所長の王緝思氏は、米中の間に真の友好関係は期待できないものの、両国の国益は複雑に絡み合っているので相互協調こそが最善の途だと述べている。また、王氏はアメリカの覇権は長期間に渡って続いてゆくと認めている(“China’s Search for Stability with America”; Foreign Affairs; September/October 2005)。

しかし王緝思氏は9・11後の世界の安全保障と経済の相互依存の増大によって、アメリカと中国は互いに真の友好関係など期待できなくても戦略的協調関係の緊密化を模索するようになっていると指摘する。アメリカとの関係改善の困難にもかかわらず、王氏は中国にとって自国の近代化のためにも、経済、教育、文化、工業技術、科学で世界の最先端を行くアメリカとの関係の強化は不可欠であると主張する

この論文は温和な語調ではあるが、王氏は台湾問題を国内問題と断言している。共産党の外交政策のトップにある王氏の発言なので、中国の指導者達がチベット、新疆ウイグル、内モンゴルといった国内少数民族のことをどのように考えているかは明らかである。実際に中国の政治的自由と市民生活の自由の改革に関して王氏は何も述べていない。王氏が述べているのはアメリカとの経済関係の強化による利益と戦略上の駆け引きだけである。このことは中国の指導者達は真の近代化になど関心はなく、表面的な刷新しか考えていないことを意味する。このような国家は我々の自由な世界秩序にとても受け容れられるものではない。

フリーダム・ハウスは「中国とオリンピック」に関する政策理念普及活動を立ち上げ、国際オリンピック委員会が北京オリンピック開催を決定したことを非難している。このサイトは多くの有益な論文、レポート、広報記事にリンクされている。フリーダム・ハウスの“Ten Things You Should Know about Chinaというサイトについて簡単に述べたい。その内の何点かの項目に言及する。

2)中国は世界のどの国より多くのジャーナリストを投獄している。

メディアはこれまで以上にこのことを報道すべきである。

5)65種類の罪状で死刑が執行されている。

死刑そのものはアメリカでも州によって行なわれ、日本では全国規模で行なわれているので、私にとって驚くべきことではない。問題は以下のことである。

中国の司法制度は多くの問題を抱えている。拷問による自白強要は日常茶飯で、司法の独立も報道の自由もないので、司法の説明責任など望むべくもない。

オリンピックとチベットに関しては:

7)チベットの仏教徒、キリスト教徒、イスラム教徒、その他の宗教信者は頻繁に迫害されている。

憲法に明記されているとはいえ、中国では宗教の自由は殆ど尊重されていない。宗教団体は全て政府への登録が義務とされ、公認宗教団体には寛容な当局も法輪功のような非公認宗教の信者は迫害、拘留、そして投獄して悲惨な状況に置いてしまう。

チベットでは中国政府によって宗教の自由は著しく制限されている。ある程度の宗教行為は許容されているが、当局が政治活動やチベット独立運動と見なすような行為は強引に鎮圧される。ダライ・ラマの写真を持っていれば投獄され、チベットで宗教を学ぼうとする者には政府の宗教局が許認可を与えている。チベットの独立拒否、中国政府への忠誠、ダライ・ラマ非難の宣言に署名した少年だけが中国政府によって仏教の僧侶となることを許可される。

結論として、私はこの国をレッド・チャイナ(中共)よりも、マッド・チャイナ(中狂)と呼ぶべきだと訴えたい。私はつい最近までは中国製の商品を拒絶するほど過激ではなかったが、今やチャイナ・フリー生活を始めるべき時に来ているのかも知れない。最後に、スミソニアン博物館にはみやげ物店で中国製の商品を売らぬようにお願いしたい。安い商品が必要ならメキシコからでも買えば良い。アメリカの精神の殿堂が狂気の体制に汚されて良いのだろうか。

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2008年4月30日

ブラウン首相の米英首脳会談を振り返る

アメリカとイギリスの特別関係はグローバル・アメリカン政論では重要な論点である。この4月にはローマ教皇ベネディクト16世と韓国のイ・ミョンバク大統領をはじめ外国の首脳がジョージ・W・ブッシュ大統領を訪問した。その中でもイギリスのゴードン・ブラウン首相ほど重要な人物はいないであろう。ホワイトハウスのローズ・ガーデンで行なわれた共同記者会見でジョージ・W・ブッシュ大統領が述べたように、英米同盟は世界への自由と民主主義の普及で最も成功を収めてきた同盟である(スカイ・ニュース、4月18日)。

両国の特別関係を象徴するかのように、イギリス首相は世界の安全保障とアメリカ外交の重要課題を協議した。そこで話し合われたのは、イラク、イラン、第三世界の開発、保健衛生、食料危機、経済、そしてジンバブエの問題である。前任者のトニー・ブレア氏と違い、ゴードン・ブラウン氏は内向きだと見られていた。しかし、ブラウン氏は前任者とは違ったスタイルで世界に伍してゆける指導者であることを見せてくれた。

ブラウン首相は4月16日から19日にかけてアメリカを訪問し、ホワイトハウスと国連で重要な地球規模の問題を協議した。今回の訪米に先立ち、内閣府から“The National Security Strategy of the United Kingdom: Security in an Interdependent World”というレポートが公開された3月19日を機に首相は下院で新しい安全保障戦略に関する演説を行なっている。首相は冷戦後の脅威は冷戦期の敵に比べてはるかに想定しにくいいえに多様化していると述べた。ブラウン首相はテロ集団と圧制国家の緩やかなネットワーク、気候変動、疫病、そして貧困といった新しい脅威について言及した。こうした難題に対処するために、首相はアメリカ、NATO、EU、英連邦、そして国際機関との緊密な協調関係の重要性を強調した。ゴードン・ブラウン氏はイギリス政府が貧困、社会的不平等、統治の失敗といった問題に取り組むための支出を増やして途上国の安定化に寄与するとともに、究極的にはテロと組織犯罪を弱体化してゆくべきだと主張した。

16日にブラウン首相はニューヨークに到着し、ABCニュースの「グッドモーニング・アメリカ」に出演した。首相はEUとアメリカの緊密な関係によって気候変動、アフリカ、グローバル化の諸問題に対処すべきだと主張した。ブラウン氏はイギリスがイラクへの関与を継続するとともにイランへの制裁強化の可能性も示唆した。

また、首相は国連安全保障理事会でジンバブエに関する演説を行なった。この国の民主化はチベットの自由化に劣らず重要である。私は南アフリカが着実に民主化への途を歩んでいるのに対し、ジンバブエがこれほどまでに腐敗してしまったのはなぜだろうかと疑問に思っている。フリーダム・ハウスの2007年版の指標によると、南アフリカは政治の自由と市民の自由の両方で2という評価である。これに対しジンバブエはそれぞれが7と6という世界でも最悪の部類に入る評価である。アパルトヘイト後の両国がここまで違ってしまったのはどういうことだろうか?ブラウン首相が国連とアメリカに訴えかけたことは、ロバート・ムガベ氏を政権の座から引きずり降ろしてジンバブエを民主化するために重要な一歩となろう。

17日にブラウン首相はジョージ・W・ブッシュ大統領との会談に臨み、次期大統領候補となる共和党のジョン・マケイン上院議員、民主党のバラク・オバマ上院議員、ヒラリー・ロッダム・クリントン上院議員の全員と会見した。現時点で、ゴードン・ブラウン首相は次期大統領候補の全員と会見した唯一の外国首脳となる。すなわち、イギリスは他のどの国よりもブッシュ政権後のアメリカに対する準備が整ったことになる。

ブッシュ大統領とブラウン首相は二国間関係、イラク、イラン、食料と経済、開発と疫病、そしてダルフールとジンバブエについて協議した。ブラウン首相がイラクでのテロリスト打倒のために対米協力を続けると約束したのに対し、ブッシュ大統領もジンバブエの民主化でイギリスを後押しすると宣言した。(ホワイトハウスでの共同記者会見の全文とビデオはこちら。)食料価格の高騰は7月の洞爺湖サミットで死活的な議題となる。ブッシュ大統領とブラウン首相はアフリカでの世界食糧計画の活動を支援することで合意した。

18日にブラウン首相はボストンのジョン・F・ケネディ記念図書館でイギリス外交の基本姿勢について演説を行なった。この行事を主催したのはエドワード・ケネディ上院議員である。新戦略のレポートで述べているように、ブラウン首相はアメリカとヨーロッパという「最も偉大な両大陸」による政策協調の強化によって冷戦後の安全保障の課題に対処すべきだと強調した。また中国とインドのような新興経済諸国がG8など国際的な政策形成の場で役割を拡大すべきだとも訴えた。さらにブラウン首相は「改革され刷新された」国連が世界の政策形成で重要な役割を果たすべきだとも述べた。最も重要なことに、ゴードン・ブラウン首相は相互依存を深めてゆく世界でアメリカのリーダーシップが不可欠だと断言した。

首相は翌日にロンドンへ戻った。イラクとジンバブエだけがこの首脳会談の議題ではなかった。今回の会談は洞爺湖サミットへの準備とも言える。食料、疫病、アフリカといった課題は主要先進民主主義国の会議で重要なものとなる。イギリスはこうした問題にアメリカの注意を向けさせるうえで重要な役割を果たしている。アメリカとの同盟関係をより良くしてゆくために学ぶべきことは多い。

米英首脳会談の写真はこちら。

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2008年4月20日

ようこそ日本へ!イ・ミョンバク韓国大統領

韓国のイ・ミョンバク大統領が4月20日から21日にかけて来日する。グローバル・アメリカン政論が開設されてから、韓国について投稿するのは初めてである。当ブログの「中国・朝鮮半島&アジア太平洋」のカテゴリーでは中国と北朝鮮を中心に投稿をしてきたが、それは両国が我々の自由主義世界秩序に重大な挑戦を突きつけているからである。また、日本にとって両国の脅威は非常に大きなものなので、当ブログでは東アジアのどの国よりも頻繁に登場することになった。

しかし東アジアで最も危険な問題の一つである朝鮮半島の安全保障で、韓国が積極的に関わることは必要不可欠である。昨年の大統領選挙でイ・ミョンバク氏は親北派のチョン・ドンヨン氏を破った。イ氏は前任者のノ・ムヒョン氏の対北宥和政策を一掃したばかりか、日米両国との関係改善を模索している。これは極東の安全保障と悪の枢軸に対する戦いを格段に進展させるものである。だからこそ、今回の記事に「ようこそ日本へ!」と題名をつけたのである。

ノ・ムヒョン政権期にはバラク・オバマ氏がフォーリン・アフェアーズの論文で朝鮮半島の安全保障で韓国の役割の拡大を主張した際に、私は懸念を感じた。よく知られているように、ノ大統領の下で韓国はアメリカと日本との関係を悪化させた。しかし今や新しい大統領の韓国が役割を拡大することに懸念材料はない。

現在、イ大統領はアメリカと日本を訪問して東アジアの安全保障のために3ヶ国の関係を強化しようとしている。4月19日のキャンプ・デービッドでの共同記者会見で、ジョージ・W・ブッシュ大統領とイ・ミョンバク大統領はアジア太平洋地域での自由の拡大に両国が協力し合うことを表明した。また両首脳は北朝鮮の人権侵害に懸念を述べた。

朝鮮日報(イ・ミョンバク大統領、日米へ出発;4月15日)AFP通信(イ・ミョンバク韓国大統領が来日;4月20日)の報道によると、イ大統領と日本の福田康夫首相は二国間と世界規模の問題で以下のことを話し合う。北朝鮮、気候変動、そして自由貿易協定である。

きわめて重要なことに、イ・ミョンバク氏は韓国が植民地統治に関して日本の謝罪を求めないことを宣言した。戦後の歴史を通じて、日本と韓国の関係は非常に「特異」であった。二国間の歴史と靖国神社をめぐって日韓関係は感情剥き出しの諍いに阻まれていた。以前の記事でも述べたように、私は靖国神社遊就館の国粋主義には賛同していない。しかし韓国と日本のナショナリスト達は、北朝鮮の脅威に直面している現状では歴史認識と靖国は優先度の低い問題だと理解しなくてはならない。日本の右翼が何をのたまおうとも、日本はレジーム・チェンジをとっくに経ており、何者もこの国をファシズムに戻すことはできない。

韓国と日本は共通の敵と共通の同盟国を有している。核兵器ばかりか、北の赤い悪魔は拉致によって両国に恐るべき脅威を突きつけている。「拉致被害者を救う会」によると、日本人が100人以上、韓国人は80,000人以上がピョンヤンのショッカーに拉致されている。残虐でならず者の北朝鮮は日本人以上に多くの韓国人を閉じ込めているのである。

共通の同盟国も冷戦後の危険に対処するうえで重要である。ブッシュ大統領が世界規模の民主化で両国の積極関与を支持しているように、NATOも日本韓国との戦略提携を模索している。両国はワシントンとブリュッセルの期待に応えねばならない。

私は日韓両国の愛情に満ちた友好関係という絵空事は期待していない。しかし両国は二国間関係に過剰にとらわれるべきではない。日本と韓国が普通の関係となることは西側同盟全体に多大な利益なる。両国にとって真の脅威は北方の暴虎である。これは絶対に忘れてはならない!

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2008年4月13日

NATOブカレスト首脳会議から新時代の大西洋同盟へ

ルーマニアのブカレストで開催されたNATO首脳会議はブッシュ政権最後の年を飾る外交行事の一つであった。ジョージ・W・ブッシュ大統領はコンドリーザ・ライス国務長官を伴って4月2日から4日にかけて開催された首脳会議に乗り込んだ。現政権が誕生してから大西洋同盟の再構築はアメリカ外交で重要課題の一つであった。ヨーロッパ諸国も冷戦後の政治情勢に対処し、テロリストを打倒するためにもアメリカとの協調関係をアップグレードする必要がある。ブカレスト首脳会議はアメリカの次期大統領に引き継がれるバトンなのである。

今回の首脳会談では加盟国の拡大、ミサイル防衛、アフガニスタンでの作戦行動が議題となった。ミサイル計画は承認され、アフガニスタンではフランスが新たに派兵することになったが、ウクライナとグルジアのNATO加盟は見送られた。首脳会議を前にNATOの将来について専門家が行なった議論を検証してみたい。

今年の初めにドイツ・マーシャル基金のロナルド・アスムス理事はNATO拡大、そしてロシアと欧米の関係について述べている(“Europe’s Eastern Promise: Rethinking NATO and EU Enlargement”; Foreign Affairs; January/February 2008)。NATOとEUの拡大による自由と民主主義の拡大を主張する一方で、アスムス氏は欧米が安全保障でのロシアの懸念を刺激しないよう充分に注意深く振る舞うべきだと言っている。アスムス氏はNATOとEUの拡大はロシアの民主化と並行して行なわれるべきで、そのことによってロシアは欧米のパートナーどころか実質的な同盟国にもなれると主張している。またアスムス氏はNATOとEUの拡大によって東ヨーロッパの民主化と安定がもたらされたが、ロシアの指導者達の懸念を深めることになっていると指摘する。

民主主義の拡大はブッシュ政権の専売特許ではないことを銘記すべきである。アスムス氏はクリントン政権でヨーロッパ担当国務次官補であった。そのアスムス氏が現政権の政策をアメリカの理念として主張しているのである。もちろん、アスムス氏のロシア観がブッシュ政権よりハト派なのは、将来はロシアを実質的な同盟国にしようという考え方からもわかる。

ロナルド・アスムス氏は3月に、NATOは近隣諸国とEAPC(欧州・大西洋パートナーシップ理事会:Euro-Atlantic Partnership Council地中海対話を通じての協力関係を強化する一方で、戦略目的が不明確になった冷戦後の世界で岐路に立っていると述べている(“Rethinking NATO Partnerships for the 21st Century”; NATO Review; March 2008)。

オランダ軍士官学校のジュリアン・リンドレー=フレンチ教授と全米大西洋審議会のジェームス・タウンゼント部長は、今世紀の脅威に対処するための組織と実戦部隊の刷新のための戦略上の共通認識を持つ必要があると指摘する。また大西洋地域外からもオーストラリア、インド、日本、そして韓国がより大きな西側同盟の意思決定に参加するべきであると述べている(“Bucharest: Planning and Partnership for security effect in the 21st Century”; NATO Review; March 2008)。

ヨーロッパ側でNATOの再構築をどのように考えているかに言及する必要がある。ブカレスト首脳会議の前日に、イギリスのデービッド・キャメロン保守党党首は王立国際問題研究所で講演を行なっている(“Crossroads for NATO - How the Atlantic Alliance Should Work in the 21st Century”; 1 April, 2008)。[ビデオへのリンクはこちら。]キャメロン氏はNATOが状況反応の同盟から平和強制執行力のある同盟に変化したと主張する。NATOはバルカン半島に平和と安定をもたらすうえで重要な貢献を果たした。9・11によって世界は新たな脅威に目覚めさせられた。デービッド・キャメロン氏はNATOが新時代の脅威に対処するうえで以下の4つの点を議論している。

1・大西洋同盟の強化による民主化促進

2・ヨーロッパでのアメリカの関与の強化

3・アメリカの政策形成へのヨーロッパ諸国の関与

4・ヨーロッパ諸国の役割分担増大

アフガニスタンに関してキャメロン氏はアフガンでの作戦が失敗に帰せばアメリカがNATOを信用しなくなり、究極的にヨーロッパの利益を損なうと警告する。キャメロン氏はフランスのニコラ・サルコジ大統領が「ヨーロッパの安全保障を3~4ヶ国でまかなうわけにはゆかない」と述べたことを引用し、ヨーロッパの全加盟国が世界の平和執行強制のために国防力を強化するように訴えている。

私はキャメロン氏の講演は傾聴に値すると信じているのは、その中から世界の市民達が新時代に向けたアメリカとの同盟関係について学ぶことが多いにあるからである。同氏の視点と分析は国内政治の党利党略が一切関わっていない。ヨーロッパと日本の左翼国粋主義者達はこのことをしっかりと銘記すべきである!

ブカレスト首脳会議ではアメリカとヨーロッパは強硬路線を強めるロシアへの対応の違いが主な理由で、ウクライナとグルジアの加盟で合意に至らなかった。ドイツとフランスはNATOの拡大よりもロシアとの勢力均衡を気にかけている。ドイツの高官はロシアに戦略上の難題を突きつける前に、欧米はドミトリー・メドベージェフ次期大統領をもっと静観する必要があると言う(“The NATO Summit: With Allies like These”; The Economist; April 3, 2008)。

東方拡大についての見解の相違をよそにミサイル計画は承認された。さらにフランスがNATOに完全復帰し、アフガニスタンへの追加派兵を決定した。

今回の首脳会議は成功なのか、それとも失敗なのか?ジョージタウン大学教授のチャールズ・カプチャン外交問題評議会上級フェローは、冷戦後の不明確な政治情勢では同盟国同士で問題の共通認識に至ることがいかに難しいかをブカレスト首脳会議は示していると述べている。加盟国の拡大で合意に至らなかったことについて、カプチャン氏は「まさに異常である。これほど重要な問題でアメリカの主張が退けられた例は私の記憶にはない」と述べている(“Kupchan: NATO Summit Shows Growing Difficulties in Reaching Solidarity in Western Alliance”; CFR Interview; April 7, 2008)。

メディアはNATOでのアメリカの指導力の低下に注目しがちであるが、フランスがゴーリストの伝統を捨ててアフガニスタンでアメリカ、イギリス、カナダの軍隊を支援し、NATO軍事機構に復帰する決定をしたことは見落としてはならない(“The Perils of Atlanticism”; Certain Ideas of Europe; April 7, 2008)。イラク戦争勃発時にアメリカ主導の多国籍軍の攻撃を激しく批判したドミニク・ドビルパン元外相は、サルコジ大統領の決定を非難している。しかし、ゴーリズムは時代遅れとなったこのご時勢ではドビルパン氏は再び敗北するであろう。

ともかくウクライナとグルジアの加盟の途が完全に閉ざされたというわけではなく、将来に加入できる余地はある。ジョージ・W・ブッシュ政権は古いヨーロッパと戦略上の不協和音で始まったが、今では大西洋同盟を将来に向けて再構築して任期を終えようとしている。

さらに深く研究するための参照資料:

“Is NATO up to the Afghan Challenge? Expectations for the BucharestMeeting”; Event at the Carnegie Endowment for International Peace; March 24, 2008

“NATO Summit: Fears for the Future” by Robin Shepherd; World Today; April 2008

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2008年4月 5日

「日米永久同盟」著者の長尾秀美氏が新著出版

当ブログの以前の記事「書評:日米永久同盟」で言及した長尾秀美さんが先の3月末に新しい著書を出版しました。今回は日米同盟についてではなく、「原発が日本を救う」(ERC出版、電話03-3479-2151)と題するもので、日本のエネルギー政策について語っています。

序論では6月の洞爺湖サミットで重要な議題となる気候変動への対策として温室効果ガスの排出抑制のためにも、日本にとって原子力発電所の建設が重要なことが力説されています。

また、エネルギー資源の自立という観点からも原子力発電の建設が訴えられています。石油と天然ガスの価格高騰、バイオエタノールの生産による食糧供給の逼迫を考えれば、原子力の利用は必要不可欠だと主張しています。

きわめて重要なことに、石油と天然ガスの輸入先は中東やロシアのように政治的なリスクを抱えていることを指摘しています。

長尾さんは原子力発電所の安全性に関する懸念を払拭するために議論を展開しています。何よりも注目すべきは、建設用地の獲得や地震対策のためにメガ・フロートの建設を訴えていることです。沿岸での海洋環境や漁業への影響を少なくするためにも、この案は研究を進める価値があると私は思います。

ともかく、エネルギー資源供給の多角化は必要です。長尾さんは新刊で日本がエネルギー資源の獲得で自立できないと真の国際協力はできないということを力説しています。

エネルギーと安全保障の関わりを考えてゆくうえで、「原発が日本を救う」は重要な提言をしています。なお、この新書はまだアマゾンなどネット販売では入手できません。ERC出版(電話03-3479-2151)へ問い合わせるしかありません。

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2008年3月30日

イラク戦争5周年の成功と失敗

米英両軍がサダム・フセイン政権のイラクを攻撃してから今年で5年になる。アメリカン・エンタープライズ研究所のフレデリック・ケーガン常任研究員とジャック・キーン退役陸軍大将の草案による増派計画が実行に移されるまで、アメリカ主導の多国籍軍は重大な困難に直面していた。しかし、その後は事態の好転がイラクで最も危険な地域であったスンニ・トライアングルで顕著であった。今年の大統領選挙でイラクは重要な争点の一つである。そのため、イラクでの成功と失敗を議論し、勝利のために必要な手段を模索することはきわめて重要である。

増派は本当に成功したのだろうか?イラク戦争開戦5周年を前に、国連はイラクの人権に関するレポートを発行し、バグダッド地域で著しく暴動の沈静化が進んでいると述べている。また国連はイラク政府が拷問等禁止条約への加盟を決定したことも歓迎している(“Iraq: UN report on rights violations says violent attacks in decline”; UN News Centre; March 15, 2008)。

このレポートの発行よりほどなくして、ディック・チェイニー副大統領共和党のジョン・マケイン大統領候補がイラクを訪問し、テロ討伐作戦の成果を称賛した。3月19日にはジョージ・W・ブッシュ大統領がイラクと対テロ戦争に関する演説を行ない、戦争は困難を抱えながらも成果を挙げていると主張し、任務の完了までイラクに駐留するという強い意思を訴えた。サダム打倒後の混乱についてブッシュ大統領は以下のように述べた。

我が政権はアメリカがテロに屈して撤退してはならないことがわかっていた。また我々が行動しなければイラクではびこる暴力は悪化し、特定の民族や宗派の抹殺につながりかねない。バグダッドは分裂と殺戮の場となり、イラクは民族宗派間の戦争の真っ只中に置かれることになろう。

そのため我々は戦略を見直し、イラク政策を変更した。我々は「増派」によって治安を強化するという大幅な政策転換を行なった。デービッド・ペトレイアス大将が新たな任務の指揮を執った。それはイラク軍と共同作戦によるイラク国民の保護、敵対勢力の追討、イラク全土でのテロリストの聖域の撃破。我々は以上のことを成し遂げた。

大統領はアメリカが撤退すればイラクはテロリストとイランによる暴虐のなすがままに陥ると強調した。

アメリカの指導者達に挑むかのように、大統領の演説からバスラ地域でシーア派民兵の暴動が強まっている(“More than 100 Dead in Two Days of Iraq Fighting”; CNN; March 26, 2008)。カーネギー国際平和財団のジェシカ・マシューズ所長は今年の3月初旬の安定はいつ崩れるかわからない民族宗派間の妥協のうえに成り立っていると指摘する。マシューズ氏は増派の効果に疑問を呈し、政治的解決の重要性を強調している。

しかし性急な撤退がイラクの安定化に役立たないことは明白である。最近の暴動によりイギリスは駐留兵力削減の決断を撤回した。イラク軍が南部でシーア派民兵を撃破できないとあって、ゴードン・ブラウン首相は昨年10月の兵員削減計画を破棄する必要に迫られている。国防省は現在の駐留している兵力に少数の追加派兵を行なう可能性も否定していない(“Basra Crisis Leaves British Withdrawal in Ruins”; The Times; March 28, 2008)。 下院軍事委員会に所属する労働党のデービッド・ハミルトン下院議員は、兵員削減計画の破棄には同意するものの、イラクとアフガニスタンの両方で戦闘を行なうのはイギリスにとってかなりの負担になると憂慮している(“Iraq violence puts pull-out of 1,500 UK troops in doubt”; The Scotsman; 29 March, 2008)。

アメリカン・エンタープライズ研究所のリチャード・パール常任フェローはイラク戦争の成功と失敗を評定している(“We Made Mistakes in Iraq, but I Still Believe the War Was Just”; Sunday Telegraph; 16 March, 2008)。パール氏は多国籍軍がわずか21日でサダム・フセインを打倒したこともあって戦争自体は正しい決断であったと述べている。しかしパール氏は占領政策に重大な過ちがあったと指摘する。その極めつけは多国籍軍がバグダッド陥落の際に暫定政府に主権を移譲しなかったことだとパール氏は信じている。そのためイラク国民はアメリカ軍を解放軍でなく占領軍と見なすようになり、抵抗勢力はアル・カイダも旧バース党勢力もそうした反感を利用した。

予期せぬ困難にもかかわらず、リチャード・パール氏はアメリカ軍の占領による好ましい結果に言及している。イラク国民はテロリストの妨害に屈することなくアラブ世界で史上初の自由選挙に投票した。さらに現地の長老達との協調関係によって増派は成功していると言う。

増派計画の草案にも関わったアメリカン・エンタープライズ研究所のフレデリック・ケーガン常任研究員は、アメリカ軍は現地指導者との緊密な協力によって正しい標的に強大な火力で攻撃を行なっていると指摘する(“The Army Grew into the Job”; New York Times; March 16, 2008)。

最後にデューク大学のピーター・D・フィーバー元アレクサンダー・F・ヘーマイアー記念政治学教授の論文にも言及したい(Why We Went Into Iraq: The question McCain must answer”; Weekly Standard; March 24, 2008)。フィーバー氏はマケイン氏がイラク戦争開戦時の大義名分を強く主張するように訴えている。これによってアメリカ国内の賛戦世論を勇気づけるであろう。フィーバー氏によるとブッシュ大統領は開戦の大義名分を訴えることができず、イラクの混乱への対策について言明した。国民にはこれが罪の許しを請うかのように見えた。フィーバー氏はマケイン氏がこうした過ちを犯さぬようにと主張している。

他方でピーター・フィーバー氏は反戦派を以下の理由から批判している。核兵器は発見されなかったが、反戦派もサダム・フセインの核が重大な脅威だと信じていた。彼らには情報の「誤り」を非難する資格はない。さらにフィーバー氏はイラクが査察官を受け入れず国連の制裁も空洞化していた2002年の時点ではバラク・オバマ氏がサダム・フセイン対策に何のアイディアも持っていなかったと指摘する。アメリカ軍の圧力によって安全保障理事会と査察体制が機能するようになったにもかかわらず、オバマ氏は力の外交に反対していたと言う。

ここで引用した論文と報道から、多国籍軍と国際社会はイラクの暴徒を打倒しなければならないとの結論に達した。イギリス軍の駐留規模縮小によってバスラは混乱に陥った。ピーター・フィーバー氏が指摘するように、反戦派の主張は根拠薄弱である。過去の間違いから教訓を得ることは重要だが、イラクでの戦闘は断固とした態度で行なうべきもので誤りの許しを請うようなことがあってはならない。

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2008年3月24日

ジョン・マケイン候補、大統領選出に世界へアピール

民主党の候補が未だに大統領の座をめぐって争っている一方で、ジョン・マケイン上院議員はアメリカの次期大統領としての準備が整っていることを印象付けた。イラク戦争5周年を前に、マケイン氏はディック・チェイニー副大統領と同じ日にイラクを訪問した。その直後にジョン・マケイン氏はイスラエルとパレスチナの指導者と会談し、すぐにロンドンに向かった。ロンドンではゴードン・ブラウン首相とデービッド・キャメロン野党党首と会談し、英米同盟の強化をはかった。マケイン氏の外交および内政での政策を議論し、大統領に選出された場合を見通してみたい。

マケイン氏は2003年3月のアメリカ主導によるイラク攻撃以来、今月16日に上院軍事委員会での真相究明の任務のために8度目のイラクを訪問している。マケイン上院議員はチェイニー副大統領とともにイラク戦争の成功を訴えた。さらにマケイン氏はイラクでのアメリカ軍の駐留継続が戦争の早期終結につながると明言した(“McCain Visits Iraq”; Reuters; March 17,2008)。

これは上院軍事委員会での任務であって大統領選挙のキャンペーンではないが、マケイン氏が民主党の候補達より次期大統領としての資格を備えていることが以下の文からもわかる(“John McCain”; ABC News; March 20, 2008)。

「クリントン候補とオバマ候補はアメリカ国内での争いを続けている中で、海外訪問の途にあるマケイン候補は実際に大統領であるように見える。マケイン陣営はそのように印象付けようという戦略である」とABCニュースの政治コンサルタントのマーク・ハルペリン氏は言う。

イラク訪問を終えたジョン・マケイン氏はアメリカの主要同盟国の首脳と会談を重ねた。会談を行なったのはヨルダンのアブドラ国王、イスラエルのエフード・オルメルト首相、イギリスのゴードン・ブラウン首相、そしてフランスのニコラ・サルコジ大統領である。現在、外交政策ではマケイン氏が民主党に先行している。

ロンドンでマケイン上院議員はブラウン首相とキャメロン保守党党首と会談し、イラクとアフガニスタンの戦争でのイギリスの貢献を称賛した。ゴードン・ブラウン氏との会談では中東の安全保障だけでなく気候変動も話し合われた。他方でマケイン氏はイラク駐留の英軍縮小の可否については言及を避け、イギリス国内の反戦世論を刺激しないようにした。きわめて重要なことに、マケイン氏はチベット抑圧に関するブラウン首相のダライ・ラマとの会談を支持した(Senator praises British troops in Iraq”; the Herald; March 21, 2008)。

他方で内政政策については注意深く見守る必要がある。ジョン・マケイン候補は保守派を自分の陣営に引きつけようとするのか、それとも民主党から共和党に乗り換える可能性のある穏健派に訴えかけるのか?これはマケイン政権の政策を見通すうえで重要である。

ウィークリー・スタンダード(ネオコン系の有力誌)のフレッド・バーンズ編集委員は、共和党保守派の支持を取り付けて選挙での勝利を確実にするためにもジョン・マケイン氏の副大統領候補の選択の余地は少ないと主張する。さらに副大統領候補は政界の重鎮として充分な実力が必要である。ジョセフ・リーバーマン上院議員は長年にわたるマケイン氏の友人であるが、あまりにリベラルである。共和党予備選を競ったライバル達は充分な票を集めきれなかった。そのため、バーンズ氏はミット・ロムニー元マサチューセッツ州知事こそ本命だと主張する(“The Veepstakes”; Weekly Standard; March 17, 2008)。その場合はマケイン氏の政策は共和党主流派の知的基盤からかけ離れることはないであろう。

NPR(全米公共ラジオ:National Public Radio)のマラ・ライアソン政治記者は正反対の議論をしている。ライアソン氏は超党派の政策を掲げるジョン・マケイン氏の指名は共和党の急速な変化を象徴していると言う。ライアソン氏はミネソタ州のティム・ポーレンティ知事の発言を引用し、マケイン氏だけがこれまでの「カントリー・クラブ・リパブリカン」(財界人など従来からの共和党支持層)とは全く異質な「サムズ・クラブ・リパブリカン」(ウォルマート傘下の安売り店、Sam's Clubを愛用するようなグラス・ルーツの共和党支持層)と呼ばれる浮動層の票を取り込むことができると述べている。共和党のエスタブリッシュメントと違い、サムズ・クラブの有権者は小さな政府の理念は捨てないまでも福祉への政府の支援に関心を払っている。

フレッド・バーンズ氏とマラ・ライアソン氏の対照的な見解は非常に印象深い。ジョン・マケイン氏は黒人候補のバラク・オバマ氏にも女性候補のヒラリー・ロッダム・クリントン氏にも劣らず革命的な候補なのである。マケイン氏の内政政策は外交政策と同様に注目に値する。

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2008年3月20日

無責任な反米主義への警鐘:ニール・ファーガソン教授出演のDVD映画

アメリカの大統領選挙とイラク戦争5周年に合わせたかのように、2007年9月に多いに注目すべきDVD映画が登場した。“The World without US”と題されたこの映画はミッチ・アンダーソン氏とジェイソン・トマリック氏の監督で製作された。この映画はリベラル派に蔓延する孤立主義に疑問を呈し、アメリカの海外からの撤退がもたらす破滅的な結末を描き出している。このDVD映画は民主党のバラク・オバマ候補とヒラリー・ロッダム・クリントン候補が掲げるイラク政策を風刺していると思われる。実際にヒラリー・クリントン氏と近い関係にある新アメリカ安全保障センターというシンクタンクはイラクからアメリカ軍を早期撤退させ、本国に帰した軍の最構築によってアメリカ軍をより優れた強いものにしようと呼びかけている。

ニール・ファーガソン氏はグローバル・アメリカン政論ではよくとりあげられるが、それは英米による「慈善的」な帝国主義を主張する論客として世界有数の存在だからである。イギリスの歴史学者であるファーガソン氏は英米両国で飛び抜けた名声を博している。現在はハーバード大学のローレンス・A・ティッシュ記念歴史学教授であるとともに、学士から博士の学位を取得した母校のオックスフォード大学でも上級フェローの座にある。2005年にはタイムから世界の賢人100人の一人に選出されている。

政治家、企業、NGO、個人活動家も自分達の理念の普及を目指して映画を作ることがある。時にそうした映画は自分達の理念を訴えることに熱心なあまり、客観性に欠けることがある。ニール・ファーガソン氏に関する限り、そうした情報の歪曲とは無縁である。このDVDでの議論の質は保証されている。

映画はドラマ、ドキュメンタリー、インタビューから構成されている。ドラマはロイ・ワーナー主演で、アメリカ軍の海外からの撤退を主張するターナーという大統領候補を演じている。これが破滅的な結果となることは容易に理解できるであろう。またトモ・カワグチ、マーク・オーフジ、マリ・ウエダといった三人の日本人俳優も映画の主要登場人物を演じている。

ドキュメンタリーの他に、ヨーロッパ、中東、アジア太平洋地域からの専門家へのインタビューも行なわれている。ニール・ファーガソン氏とアメリカのジェームズ・ライリー元中国、韓国、台湾駐在大使の他に、アメリカの介入が死活的に必要な国民を代表する専門家も登場している。元北朝鮮難民のカン・チェオルファン氏はそうした専門家の一人である。また台湾のシァオ・ビキム国会議員もアメリカが不用意に世界から手を引くことに懸念を抱いている。台湾海峡は米中衝突の可能性を秘めた重要な最前線の一つで、シャオ氏の議論は理に適っている。

ニール・ファーガソン教授は以下のように、世界の安全保障を理解するうえで重要なコメントを残している。トレーラー1でファーガソン氏は世界の市民に「世界は自然状態では平和で秩序だった場所ではない」と訴えている。その通り、世界はホッブス的であり、カント的ではない。トレーラー2の最後にファーガソン氏は無責任な反米論客に「あなた方の望みがどのような結末をもたらすか注意すべきだ」と諭している。

この印象深い映画はアメリカ、イギリス、日本という主要先進3ヶ国のコラボレーションの賜物である。世界の友人達、ニール・ファーガソン教授のメッセージに注意深く耳を傾けよう!

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2008年3月17日

世界の多極化?

イラクとアフガニスタンでの戦争の開始以来、アメリカの覇権に対する反感が世界各地の左翼とナショナリストの間で高まるばかりである。中にはロシアと中国のような大国が強硬路線をとり、インドやブラジルのような新興国が力を伸ばしてアメリカによる世界秩序を多極化して欲しいと渇望する者もいる。それは本当に国際社会にとって望ましいものなのだろうか?新興勢力がアメリカ、ヨーロッパ、日本にとって代われるのだろうか?前回の記事では、ファイナンシャル・タイムズに掲載されたロバート・ケーガン氏とギデオン・ラッチマン氏の討論をとりあげた。

ロシアも中国も普遍的な訴えを持つイデオロギーを有していない。両国とも強気の外交とは裏腹に孤立している。ロシアはNATOとEUの東方拡大を不安視している。中国は近隣諸国から脅威と疑念の視線で見られている。新しいヨーロッパの諸国民はロシアの影響から懸命に脱け出そうとしている。日本国民は自分達の国がアジア太平洋地域では欧米と共に重役の椅子に座る唯一の国であることに誇りを持っている。

アメリカあるいは西洋の優位に怒りを感じている者ならロシアと中国が欧米に対して対抗勢力となることを喜ぶであろうが、国際社会は両国に世界でのリーダーシップを期待してはいない。多極化主義とはアメリカの覇権による自由主義に対するネガティブな心理に基づいてはいても、新しい世界秩序を作り出そうという進取の気性に満ちたものではない。ここで気に留めておくべきは、イギリスからアメリカへの覇権の移譲が比較的円滑だったのは、両帝国が世界の運営に関して共通の普遍的哲学を持っていたためである。他方、ロシアと中国は英米のような自由主義の覇権国家よりも自国民と近隣地域の問題に関わる傾向が強い。

ロシアがエネルギー外交によって影響力を拡大していると見る向きもある。しかしながら、OPECの凋落からもわかるように、エネルギー資源は超大国となる切り札ではない。最終的には資源輸出国は先進国に依存するようになる。さらにロシアも中国もIMF-WTO体制という欧米の世界経済システムに入ろうとしている。このためには自由、人権、透明性のレベルを欧米に合わせて引き上げる必要がある。

しかし前回の記事ファイナンシャル・タイムズの“Illiberal Capitalism”を引用したように、途上国の指導者の中にはロシア・中国型の権威主義的な資本主義を自分達の経済政策のモデルと見る向きもある。ロシアはエネルギー価格の高騰に依存しているが、中国は引き続き高い成長にある見通しである。途上国には欧米よりも中国の援助を歓迎する向きもあるが、それは中国の援助では政治改革が要求されないからである。問題は両大国ともチベット、チェチェンといった少数民族地域での政治的な弱点を抱えていることである。

多少の浮き沈みはあろうとも、英エコノミスト誌がアメリカはハードパワーでもソフトパワーでも圧倒的な優位にあると記していることは、以前の「アメリカの覇権に関する英エコノミスト記事の論評で述べた。またロンドン・スクール・オブ・エコノミックスの故スーザン・ストレンジ名誉教授による構造的な力のモデルについても言及したい。国際政治経済では構造的な力と関係的な力の二つが働いている。構造的な力とは物事がどのように行なわれるかを決定する力だが、関係的な力とは単に本来ならされないことを他者にさせる力に過ぎない。アメリカだけが構造的な力の4分野、すなわち生産、金融、頭脳、安全保障の全てで優位になる(“States and Markets”; p. 24~29; Susan Strange)。この力は普遍的な自由の価値観に深く根ざしている。イスラム過激派でさえ欧米の自由主義を賞賛していることは以前のイスラム過激派に関する5つの問題点」という記事でも述べた。

ヨーロッパ連合が統一されれば、アメリカと競合あるいはそれに代わり得る大国となる。統一ヨーロッパなら規模の経済、頭脳、産業、科学技術、金融機関、普遍的なイデオロギーがそろっている。しかしヨーロッパ諸国は自国の主権を犠牲にしてまで統一をしようとまでは思っていない。また、ブリュッセルの官僚機構が全面的に信頼されているわけでもない。金融面ではユーロが基軸通貨の役割を担うかも知れないが、イギリスが加盟していないようではドルにとって代わることはない。科学、工業技術。経済といった基本的な利点がありながら、ヨーロッパがアメリカに匹敵する軍事力を備えようという気運はない。

世界は多極化するのだろうか?それは「多極化した」世界とはどのようなものかという定義にもよる。アメリカの覇権に挑戦する相手はそれに「抵抗」はできるであろうが、新たな世界秩序もシステムも作り上げられはしない。

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2008年3月10日

ロシアと中国が我々の自由な資本主義に対抗してくる!

去る3月2日のロシア大統領選挙では、ドミトリー・メデベーデフ第一副首相が選出された。一般にはメドベーデフ大統領はプーチン首相の傀儡で、プーチン政権の政策を引き継ぐものと見られている。石油会社の元社長であるメドベーデフ氏は国益を強引に押し付けるエネルギー外交を展開するのだろうか?もっと重要なことは、自己肯定的になったロシアと野心をみなぎらせる中国が我々の自由な資本主義に挑戦を突き付けてくることである。両国の権威主義的な資本主義が成功すれば、途上国で反西側の独裁者がそれに惹かれ、その結果として自由主義の世界秩序を脅かしかねない。そのため、私はロシアの次期政権の外交政策と中露提携が国際社会に突きつける挑戦について述べたい。

まず、