変節漢、ルビオ新国務長官は信用できない
共和党のマルコ・ルビオ上院議員は、ドナルド・トランプ大統領の2期目の就任式の日に満票で国務長官に承認された。彼はトランプ政権の中では物議を醸すことの少ない候補者の一人であるからこそ、第2次トランプ政権で任命される最初の閣僚となった(1)。ルビオ氏がトランプ氏の指名した何人かの閣僚候補者よりもはるかにましなことに疑いの余地はない。国防長官に指名されたピート・ヘグゼス氏はアルコール依存症と性的暴力のために、その資格を厳しく問われた。J・D・バンス副大統領の決選投票により、国防長官の指名は上院で辛うじて承認された(2)。国家情報長官に指名されたトゥルシ・ギャバード氏も、ロシアやシリアのバッシャール・アサド元大統領寄りの発言ついて厳しく問われている。ギャバード氏の任命はファイブ・アイズの情報協力を壊滅させかねないため、イギリスの国家安全保障関係者は当件について非常に懸念している(3)。ルビオ氏はこうした閣僚指名者ほど問題視されていないが、2016年の大統領選挙の共和党予備選でトランプ氏に屈して以来、外交政策で方針転換してしまったことを忘れてはならない。またルビオ氏は自身の選挙運動中でのトランプ氏への嘲笑に対してお世辞のような謝罪をしたが、トランプ氏の方がルビオ氏にもっと容赦ない罵倒を浴びせたので、そうした態度はアルファ雄ゴリラに対して惨めに媚びを売るかのように見えた。
ルビオ氏はオバマ政権の任期終了が迫った時期の大統領選挙出馬以前から、下院と上院で長らく外交問題に携わってきた。共和党予備選ではトランプ氏のアメリカ・ファーストよりも、元共和党候補ジョン・マケイン氏の世界におけるアメリカのリーダーシップのビジョンに共鳴する「新たなアメリカの世紀」の理念を掲げた。ますます相互に結びつく世界において、海外の混乱が米国の国家安全保障に与える影響は充分に認識していた。そのため、当時の大統領バラク・オバマ氏の「ネーション・ビルディング・アットホーム」政策について、国防費の大幅な削減、理念外交への懐疑、ロシア、中国、イラン、イスラム過激派などを含む世界中の敵に対する宥和政策といった点から批判した。さらに重要なことに、ルビオ氏は世界の安全と繁栄のために、アジア、ヨーロッパ、中東へのアメリカの永続的な関与を支持した(4)。ルビオ氏は予備選挙の討論会で、自分より外交政策の知識も経験もはるかに少ないアルファ雄ゴリラに「核の三本柱」の概念を解説講義したにもかかわらず、トランプ氏の軍門に下ってからは外交政策の見解を彼のアメリカ・ファーストに合わせた(5)。
そうした一貫性のなさは、ルビオ氏の外交政策顧問を務めたマックス・ブート氏によって批判された。2021年のPBSニュースのインタビューで、ルビオ氏が選挙活動を中断した後にトランプ氏に対する態度を変えたため、ブート氏は失望したとコメントした。ルビオ氏が選挙活動を続けていた時には、トランプというアルファ雄ゴリラが核軍備管理について致命的に無知であるために最高司令官としての資格に疑問を呈していた。しかし選挙活動から撤退した後、ルビオ氏はトランプ氏の主張の大義について語り始めたばかりか、、言葉や言い回しまで真似し始めた (6) 。明らかに、今回の政権入りはアルファ雄に対するそのような忠誠心に対する見返りである。注目すべきことにブート氏と同様に共和党大統領候補ジョン・マケイン氏とミット・ロムニー氏の外交政策顧問を務めたロバート・ケーガン氏は、民主党候補ヒラリー・クリントン氏の陣営に加わった。初期の段階ではトランプ氏が泡沫候補とみなされていたにもかかわらず、ケーガン氏は共和党の劣化をうかがわせる何らかの兆候に気付いていたのかもしれない。またトランプ氏に対する「長い物には巻かれろ」と言わんばかりの卑屈な態度に見られるように、ルビオ氏の人格的欠陥を認識していたのかもしれない。
就任前の上院承認公聴会でルビオ氏は自身の外交政策の見解を概括したが、それは2016年の選挙運動で掲げた「新たなアメリカの世紀」の見解とは明らかに相容れないものだった。彼はウクライナ、人道支援、その他の世界的問題に対して「現実的」な外交政策を主張した。その言葉は暗にオバマ政権のオフショア・バランシング戦略のような抑制的な外交政策を暗示している。そのため、彼は大統領選で当初の考えを覆し、トランプ氏のアメリカ・ファーストを臆面もなく擁護している。その観点からルビオ氏は全世界およびユーラシアでの地政戦略、イデオロギー的優位性におけるロシアとの競争よりも、技術と世界市場における競争、政治的軍事的影響力における中国との競争の方が国家安全保障にとってはるかに重要だと考えている。彼の対中強硬派のビジョンは「国内産業能力の再構築」という保護貿易政策と絡み合っているが、これは2016年の大統領選での彼の自由貿易の見解からの逸脱である(7)。また議会公聴会では、新任の国務長官はアメリカ・ファーストの要求を満たすために人道的対外援助の凍結、すなわち民主主義の促進、エンパワーメントなど、経済や国家安全保障におけるアメリカの国益に直接役立たないと考えられるプロジェクトには資金を提供しないと宣言した (8)。しかし批判に直面したルビオ氏は、中絶とLGBTQ問題を除く、医療サービス、公衆衛生、食糧供給など、人命救助のための「人道的」プロジェクトの凍結を免除した。この決定にでは「人命救助」の定義が不明確になり、アメリカの対外援助従事者は自分達の活動を続けるか止めるか決めることができず混乱に陥っている(9)。これはルビオ氏が国務省をトランプ・ファーストの方針で仕切ったために起こったことである。
そのように卑屈なトランプ氏への忠誠心を抱きながら、ルビオ氏は国務長官としての初の外遊で、パナマ、グアテマラ、エルサルバドル、コスタリカなどラテン・アメリカ諸国を訪問して中国の影響力拡大を打破しようとした(10)。ルビオ氏の指名にはヒスパニック系というバックグラウンドも考慮されているので、トランプ政権が今世紀版モンロー・ドクトリンの実行に当たってアメリカの南の裏庭を重視していることを示している。それはカナダ、グリーンランド、パナマ運河に関するトランプ氏自身の挑発的発言にも見られる通りである。トランプ政権1期目に国家安全保障会議の首席補佐官を務め、現在はアメリカ外交政策評議会(AFPC)のシニアフェローとなったアレクサンダー・グレイ氏は最近の『フォーリン・ポリシー』誌への寄稿で、この新たなモンロー・ドクトリンを正当化している。非常に残念なことに、グレイ氏はラテン・アメリカにおけるアメリカの戦略的敵対国の影響を排除することに気をとられており、1960年代にジョン・F・ケネディ大統領が「進歩のための同盟」で高らかに謳い上げた、地域の安全保障、経済発展、統治、エンパワーメントにおける相互協力を深めるという将来の希望に満ちたアイデアについてはほとんど言及されていない。グレイ氏が提唱するトランプ流モンロー・ドクトリンは狭い視野の対中恐怖心に突き動かされ、地政学的な競合については被害者意識、つまりアメリカの戦略的利益が侵害されているという考え方から述べられている。そして自由主義世界秩序の守護者としてのアメリカの役割について、欠片も考えていない(11)。
国際的なインフラ・プロジェクトの弁護士でエセックス大学博士課程在学中のロドリゴ・モウラ氏によると、ラテン・アメリカにおけるトランプ外交の見通しは暗い。左右両派を問わず、ラテン・アメリカとカリブ海諸国は過去のように圧倒的なアメリカ依存ではなく、より多様な外交関係を模索している。さらに重大なことにトランプ氏がラテン・アメリカ諸国をスケープゴートにしてMAGA岩盤支持層に訴えかけていることは、未登録移民の強制送還問題をめぐってコロンビアに課された強制的関税措置に見られる通りである。それはさらに反米感情を醸成し、最終的には中国が得をすることになる。ルビオ氏が貿易や移民などの内政でのトランプ氏のMAGA主張を代表する限り、この地域でのアメリカの評判が好転する可能性は低い(12)。そして全世界的に見て、トランプ氏のモンロー・ドクトリンはロシアよりも中国に不釣り合いなほど重点を置いている。MAGA有権者達はヨーロッパの地政学を自分達とは無関係で遠いものと見なす一方で、自分達の雇用は中国の脅威にさらされているからだ。トランプ氏はヘンリー・キッシンジャー氏が歴史上で果たしたように、中国とロシアを離間させたいと考えている。しかし中ソ間の亀裂はキッシンジャー氏の秘密外交以前から存在していた。現在では中国とロシアの関係に亀裂はなく、BRICS会議やウクライナ戦争で示されたように連携し合っている。MAGAリパブリカンの偏向した中国強硬論は間違っている(13)。ともかくルビオ氏はガザに関するトランプ氏の非人道的な「リビエラ」発言への擁護(14)に典型的に見られるように自身をトランプ化しながら、ニカラグア、ベネズエラ、キューバを含むラテン・アメリカの独裁国家を人間性の敵と呼んでいる(15)。
前にも増して頑迷なMAGA志向を強めたトランプ氏と従属性を増した閣僚が就任したことで、今のアメリカはブライト・パワー(世界秩序のルールと規範の担い手)からダーク・パワー(他国を犠牲にしても近隣窮乏化政策を臆面もなく追求する国)に変わってしまった。議会では満場一致で承認された国務長官でさえ、自国内での右翼ポピュリズムの影響を強く受けている。アメリカの同盟国は、トランプ2.0のアメリカとの関係を再調整している。ヨーロッパは戦略的自立の模索を加速させているが、それにはキア・スターマー首相が昨年7月の総選挙で主張したようにイギリスが大陸への関与を再び強めることが必要である。しかしトランプ氏は関税戦争でイギリスを他のヨーロッパ諸国から引き離そうとしているようだ(16)。何と言っても就任最初の訪問国としてイギリスを検討している(17)。それにもかかわらずトランプ氏は鉄鋼とアルミニウムの輸入に一律25%の関税を検討しているが、それが非EU加盟国のイギリスにどの程度の打撃を与えるかは明らかではない(18)。何よりもトランプ氏の貿易戦争はロシアに対する防衛でヨーロッパが自立せよという彼の要求とは矛盾し、そんなことをすればヨーロッパの結束を乱してレジリエンスを弱めることになってしまう。
日本については、石破茂首相がトランプ大統領との会談を一まず成功裏に終えた。しかし日本政治アナリストのトビア・ハリス氏は、2期目トランプ氏は外国の指導者からの助言を必要としないため、安倍レガシーは必ずしも石破氏にとって有利に働くわけではないと述べている(19)。従って、日本は依然としてトランプ大統領の突発的な言動に警戒する必要がある。ベン・ローズ元国家安全保障担当副補佐官が最近の『ニューヨーク・タイムズ』紙の投稿で、トランプ大統領が突然、選挙公約にはなかったカナダ、グリーンランド、パナマ運河に対する領土欲を表明したと記していることを思い出してほしい(20)。日本は多国間安全保障体制の傘もない「ひよわな花」だが、慶応大学の細谷雄一教授による岩屋毅外相へのインタビューで言及されたように、石橋湛山による「現実的平和主義」のおかげで「悪い奴ら」とも長きにわたる外交関係を経験している(21)。注目すべき事例としては、フン・セン政権下のカンボジアにおけるウクライナの地雷除去活動に対するJICAの研修が挙げられる(22)。こうした経験は、トランプ政権への対応に役立つだろう。
最後に、ルビオ長官はアルファ雄ゴリラさながらのトランプ氏に従順な態度をとっているものの、それでも超党派外交政策の重要性を理解していることを述べておきたい。彼は、民主党のティム・ケイン上院議員とともに、2023年に大統領がNATOから一方的に脱退することを阻止する法案を提案した(23)。国家と世界の安全保障が重大な試練にさらされているとき、彼がボスへの個人的な忠誠心よりも良心を優先してくれることを期待したい。
Footnotes:
(1) "Senate confirms Marco Rubio as secretary of state, giving Trump the first member of his Cabinet"; AP News; January 21, 2025
(2) "Vance Breaks Tie To Confirm Pete Hegseth For Pentagon"; Daily Wire; January 25, 2025
(3) Twitter; @carolecadwalla; November 14, 2024
(4) "Marco Rubio's Foreign Policy Vision"; Council on Foreign Relations; May 13, 2015
(5) "Marco Rubio schools Donald Trump on the nuclear triad"; Politico; December 15, 2015
(6) "Max Boot: “Extremists” in Control of the Republican Party"; PBS News; October 22, 2021
(7) "Rubio details what Trump’s ‘America First’ foreign policy will entail"; Washington Post; January 15, 2025
(8) "State Department freezes new funding for nearly all US aid programs worldwide"; AP News; January 25, 2025
(9) "Rubio backtracks on near-total foreign aid freeze, issues humanitarian waiver"; Washington Post; January 28, 2025
(10) "Rubio Sends Strong Message With Destination Of His First Foreign Trip"; Daily Wire; January 23, 2025
(11) "Trump Will End U.S. Passivity in the Western Hemisphere"; Foreign Policy; January 13, 2025
(12) "Can Marco Rubio Help Rebuild US Influence in Latin America – and Erode China’s?"; Dilomat; January 29, 2025
(13) "Transition 2025: Events Will Test Donald Trump’s Foreign Policy Promises"; Council on Foreign Relations; December 13, 2024
(14) "Trump aides defend Gaza takeover proposal but walk back some elements"; Reuters News; February 6, 2025
(15) Twitter; @StateDept; February 6, 2025
(16) "Trump's Tariff Threats Drive New Wedge Between UK and Europe"; Financial Post; February 4, 2025
(17) "Trump says Starmer is doing ‘a very good job’ ahead of phone call between two leaders"; Leading Britain's Conversation; 26 January, 2025
(18) "Donald Trump’s tariffs: what’s happening and what could it mean for the UK?"; Full Fact; 4 February, 2025
(19) "自民総裁選「米国が警戒するのはこの人」知日派評論家ハリス氏指摘 安倍元首相の伝記著者"; 産経新聞; 2024年9月17日
(20) "This Isn't the Donald Trump America Elected"; New York Times; February 9, 2025
(21) 巻頭対談◎二〇二五年の日本外交; 外交; 2025年1・2月
(22) "Japan partners with Cambodia to share demining knowledge with Ukraine, other countries"; AP News; July 7, 2024
(23) "Congress approves bill barring presidents from unilaterally exiting NATO"; Washington Post; December 18, 2023
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