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2005年6月15日

中東の諸問題と日本人の誤解

中東に関して一般の日本人の間では誤解が流布している。不思議なことに最近のメディアやブログ界で騒がれているアジアの問題に関しては左翼の捏造情報に対する批判の声が挙がっているが、中東に関してはそうした声は殆ど皆無と言って良い。アジアの場合は日本が叩かれているのに対し、中東で叩かれるのはアメリカかせいぜい英仏だとしか思わないので彼らの関心が低いのだろうか?日本の「保守系」ブログなぞこの程度のものか?

ともかく、ここではいくつかの誤解を正しておきたい。

1.イラクのサダム・フセインはかつてアメリカと蜜月関係にあった。――>全く大嘘。

1980年から1990年にかけてのイラン・イラク戦争では、イランの神権政治の拡大を懸念するアメリカがイラクに接近したのは事実であるが、それはきわめて慎重なものであった。そもそも当時のイラクで政権を握っていたバース党の民族社会主義のイデオロギーはアメリカとは相容れない。実際に、冷戦期のサダム・フセインはアラブを代表する親ソ派であり、当時のイラク軍の兵器はソ連製とフランス製が中心であった。後に問題となる核兵器についても、軍事転用されかねないような原子力発電所の建設を支援したのはフランスである。ちなみにこの原発は、イスラエルに空爆されたので操業されなかった。ともかく、公正中立を旨とするNHKまでがサダムとアメリカの「蜜月期」があったと報じていた。マスコミの左傾を論ずるならこういうところである。アジアと日本の対立での一部言論人の左翼ぶりなど、これに比べれば大した問題ではない。

イラクでは他にもおかしな報道があった。アメリカのイラク討伐をこぞって「単独」と報じていた。実際にはイギリスやオーストラリアなども討伐軍に加わっていたので、当時の私は抗議電話を行なった。左翼勢力は、とかくこうした世論のミスリードが好きなようだ。

2.中東の諸悪の根源はパレスチナ問題である。――>これも違う。

中東では、各国の国内問題やアラブ国家同士の衝突、そして各国の少数民族抑圧といったパレスチナとは関係のない問題が多い。ここではアメリカの専門誌Foreign Policyに掲載された論文、A World without Israelが大いに参考になる。そこではパレスチナ問題とは関係なく、アラブ諸国同士での戦いが挙げられている(シリアのレバノン侵攻、イラクのクウェート侵攻など)ばかりか、近代化と伝統の狭間にゆれるアラブの現状も述べられている。左翼勢力が「陰謀理論」を振りかざし、とかくアメリカとイスラエルを槍玉に挙げているが、彼らの主張は徹底的に否定されないとバランスのとれた世論は形成できない。

3.イスラム過激派はアメリカが育てた――>いい加減にしろ!

イスラム原理主義の台頭はイラン革命が契機となっている。カーター政権が、キッシンジャーがチリの共産政権を葬り去ったような対策を講じていれば、原理主義者がイランを制することもなかったであろう。どういう訳か、日本のマスコミはこうした優柔不断なハト派政策を批判しない。それどころか同時期にアフガニスタンに侵入したソ連軍を駆逐しようとしてアメリカが行なったゲリラ支援を悪の元凶として批判している。すなわち、アメリカが育てたアフガニスタンのゲリラこそ、9-11テロに発展したと言うのだ。

だが考えてみて欲しい。イラン革命以前に反西欧化、近代化の動きはあったが、あそこまで過激な神権政治イデオロギーが存在しただろうか?イランがパーレビ王朝あるいは親米派軍事政権に統治されていれば、サダムも戦争は仕掛けてこなかったであろうし、アフガニスタンにソ連軍が出てくることもなかった。それとも左がかった言論人はアフガニスタンばかりか、ペルシア湾岸地域とインド亜大陸を丸ごとソ連に献上すれば良かったとでも言うのだろうか?

以上、中東に関して日本人の間に流布している誤解を正してみた。最後に、保守を自称する日本のオピニオン・リーダーやブロッガーは、もっと大きな視野で世界を論じて欲しい。彼らの多くがアジアの反日感情をこき下ろすだけなのは嘆かわしい。メディアに潜り込んでいる左翼勢力は、もっと大きな問題でこの国の世論を捻じ曲げている。そうした問題で、もっと彼らを批判すべきである。

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中東&インド」カテゴリの記事

コメント

 すばらしい論調です。感心しました。局地的な問題も、世界中とリンクさせないと解決の方向性が見えないことは、自分自身も感じています。それをどう表現すれば良いか、悩みが尽きませんね。日中間の問題も、EUや中央アジア、そしてイラク戦争を始めとする中東にさえも関連していると考えています。
 扱いが難しいですが、公正で独創性に富んだ分析が出来るよう励みたいと思います。
 

投稿: makoto | 2005年6月15日 18:51

コメントありがとうございます。以前にコメントいただいたshouinさんと同じブログにゆきつきましたが、友人ですか?
ともかく、メディアや世論はしばしば誤った事実を伝えるのが恐ろしいです。

投稿: 舎 亜歴 | 2005年6月16日 11:24

舎さん、こんにちわ。
TBさせてください。
シュワッチ!

投稿: robita | 2005年6月20日 11:37

TBありがとうございます。その記事通り、もっとバランスのとれた意見が世論を形成して欲しいです。

では、これから出かけます。シュワッチ!

投稿: 舎 亜歴 | 2005年6月21日 12:27

コメントありがとうございます!
質の高いブログですね☆
これからも更新楽しみにしています。
今後もブログ・メルマガともよろしくお願いします。

投稿: Issey | 2005年7月 3日 06:24

お褒めにあずかって光栄です。Isseyさんのブログは医学の最新情報をわかりやすく語っていて興味深いです。また、そちらを閲覧しにゆきます。

投稿: 舎 亜歴 | 2005年7月 3日 23:35

トラックバックありがとうございました。
遅ればせながら、こちらからもTBさせていただきました。
読み応えのある記事ですね。
過去ログもじっくり読ませていただきます。

投稿: 月刊「記録」編集部 | 2005年11月22日 23:18

どうもありがとうございます。過去ログへのコメントも楽しみにしています。そちらのブログにもコメントしにゆきます。

投稿: 舎 亜歴 | 2005年11月24日 01:20

さきほど、TB張らせていただいた者です。
私は数少ない中東に興味のある(造詣が深いとは言えませんが)保守系です。
私も、最近まで左翼マスコミのパレスチナ被害者論にドップリと浸かっていました。
しかし、勘のいい私の知り合いが原理主義者がテロをやめないのが悪いと言っていて、色々調べてみたところ、強硬イスラエル、それに対抗する組織がテロで戦っているとかそういった単純な図式ではないという事に気付きました。私は単純に、支援しているアフガンの女性関連の学校がタリバンに閉鎖させられたとか、アルカイダが女性の学校を襲撃したというニュースでイスラム原理主義が大嫌いになったのですが。
それでも、あんなところに国を作ったイスラエルもおかしいという考え方からまだ抜けきれていません。私のヴァイオリンの先生の知り合いでNY在住のユダヤ人は「あんなところ(イスラエル)に住みたいという奴の気が知れない」と言ってます。
イスラエル建国の背景に関しては、パレスチナ寄りの本しか読んだ事なかったので勉強し直しです。私のブログにこれに関連した映画『栄光への脱出』の感想も書いてます。


投稿: kiaraneko | 2006年7月24日 15:03

どうもコメントありがとうございます。「にほんブログ村」では私のすぐ後に登録されていたようで。

イスラエルがあの地に建国したことについては、特に不思議には思いません。ただ、祖国再建へのユダヤ人の情熱が、当時のバルフォア英外相の予測をはるかに超えたものがったのではないでしょうか。限られたユダヤ人の入植であれば、イギリス、そして後にはアメリカでもパレスチナ人との平和共存がはかりやすかったはずです。ナチスのユダヤ人虐殺によって、ヨーロッパからのユダヤ人流入が膨れ上がりました。

ある意味では、イスラエルの建国はピルグリム・ファーザーズと重なります。あの地が「約束の土地」であることは何の不思議もありません。

投稿: 舎 亜歴 | 2006年7月27日 03:11

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