アメリカ独立記念日から世界を振り返る
本日はアメリカ合衆国の独立記念日である。現在、アメリカはテロとの戦いと世界の民主化を推し進めている。その中で以下のことについて述べる。
1・国民の和解は進まず
大統領選挙の時の国民の分断はぬぐい去れぬままである。現政権がイラクで困難に直面しているのは事実である。中東の民主化も始まったばかりで、充分な成果とは言えない。だからと言ってイラクから早急に撤兵すれば良いというものではない。リベラル派はイラク撤退後の青写真を示せないでいる。中途半端でイラクを投げ出してしまえば、中東全体を危険な状態に陥れてしまう。党利党略も民主主義にはつきものであるが、現在のような危機においては国民の結束が肝要である。リベラル派は説得力のある代案を示せなければ、事態を悪化させるだけである。
また上院での国連大使の承認がここまで遅れているのは異常である。今期は軍備管理、イラン、北朝鮮といった重要な議題が安全保障理事会に持ち込まれることが考えられる。国連大使も決まらないでは、アメリカがリーダーシップをとろうにも、危機に当たって迅速な行動にでようにも思うようにゆかなくなる。リベラル派はジョン・ボルトンを好まないだろうが、自分達が推したくない大使でもいないよりはずっと良い。正しかろうが間違っていようが、保守派はアメリカと世界をどのように運営するかの構想を示している。リベラル派も代案を出すべきである。
2・アメリカと同盟国の現状認識の食い違い
アメリカにとってテロと大量破壊兵器は重要な問題であるが、同盟国は必ずしもそう思ってはいない。そうした現状認識の食い違いから、アメリカと同盟国の亀裂が広がる可能性もある。ヨーロッパ大陸諸国はテロとの戦いに関わりたがらなくなっている。スペインは爆弾一発で左翼のザパテロを選出し、イラクから早急に撤兵してしまった。日本はアジアの排外主義に直面している。
こうした傾向が続けば、アメリカは単独行動で問題解決せざるを得なくなる。幸いにもアメリカにとって最も強固な同盟者であるトニー・ブレアが再選された。こうした時期こそ、手遅れになる前にアメリカと同盟国の現状認識の食い違いを解消すべきである。
3・希望の国
こうした問題を抱えながらも、アメリカは希望の国となっている。フォーリン・ポリシー誌の本年7・8月号に掲載された“In Search of pro-Americanism”という論文で、ワシントン・ポストのコラムニスト、アン・アップルボームは親米派には社会的地位を向上させつつある者が多く、既得権益を持つ層や下層階級では反米派が多いと述べている。世界でアメリカの支持者と言えば、活力に満ちて前向きな者が多いようだ。こうした人達こそ、これからの世界を良い方向に導く者である。
テロやならず者国家との戦いを前にアメリカ国民は団結しなければならない。同盟国との間の現状認識の食い違いも埋め合わせる必要がある。独立記念日はアメリカ国民にとっても全世界の市民にとっても将来を見据える良い機会である。この歴史的な転機をうまく乗り切れれば、アメリカは世界の希望の国でい続けられる。
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”舎亜歴”さま。コメント・ありがとうございました。
「TBの意味が分らない?」とのことですが、大変失礼致しました。
ただ、私が貴殿のこの記事を拝見しましても”私と同意見”です。「アメリカの保守勢力を支持する。イラクのために米国民は団結するべきだ!」との立場は私と一緒です。
以前の記事を拝見しても、賛同できる記事が多く、敬意を込めてTBいたしました。
しかし、私のTBした記事は”バラエティもの”なので、驚かれた面があったのでしょう。しかし、よく読んでいただければわかりますが、全部・政治風刺です。
寄って立つ基盤が「保守」と判断させていただき、親愛の情を込めてTBいたしました。
何卒その点・御容赦いただき、今後ともよろしくお願い致します。
投稿: 紫藤ムサシ | 2005年7月 7日 05:26
紫藤ムサシ様、
どうもコメントありがとうございます。「保守」にも様々なタイプがありますが、今後も機会があればコメントなどよろしくお願いします。
亜歴 小次郎
投稿: 舎 亜歴 | 2005年7月 7日 22:29
アメリカが世界に民主主義を広げようという理念を明確に世界に主張したのは民主党のウイルソンであったことを考えると、保守とリベラルという区分けで見るよりも、アメリカそのもののミッションとして考えた方がよいのではないでしょうか。
問題なのは、このアメリカの理念が理念として世界に普及されるのではなく、経済なり軍事なりによって普及していくということではないかと思います。アメリカとは、他国の保守主義者や伝統主義者から見れば、巨大な軍事力をふりかざし、独善的で自分勝手であると見られています。世界中でアメリカの影響は大きいですが、潜在的な反米感情も大きいです。
アメリカはもっと世界を知るべきです。独立革命のもとで世界の移民が集まってできた国であるが故が、自分たちの国がイコール「世界」であるという世界観を持っています。しかしながら、実際の世界は多種多様な民族や文化や文明がある世界です。私は冷戦後の今のアメリカは、この「多種多様な世界」に直面しているだと思います。しかしながら、今の保守派への傾きは、この「多種多様な世界」に直面したため、逆に幻想の過去のアメリカンイメージを掲げて、なんとか国家としての統合性を保とうとしているだけのように見えます。しかし、舎さんが書かれている通り今のアメリカは断絶しています。
アメリカの強さとは多様性ではないかと思います。私は、アメリカの多様性の力を信じています。アメリカは自分たちの「思いこみの世界」ではなく、「現実の世界」を知り、その中でいかに建国の父たちの理念を広げていくかを考える必要があると思います。
投稿: 真魚 | 2005年7月 9日 17:36
真魚さん
>アメリカが世界に民主主義を広げようという理念を明確に世界に主張したのは民主党のウイルソンであったことを考えると、保守とリベラルという区分けで見るよりも、アメリカそのもののミッションとして考えた方がよいのではないでしょうか。
もちろん、私もそう思っています。英語版ブログの6月22日の記事では、中東の民主化はブッシュ政権やネオコンの陰謀ではなく、アメリカの国家的プロジェクトで、中立だろうとリベラルであろうと推し進めた政策だと述べています。ただ、そのやり方は違ったと思いますが。
それにしても大統領選挙依頼の国民の分裂がいまだに解消されていないのは深刻です。
アメリカのの理念の普及のあり方については、7月10日記事のキッシンジャー論文にこんな一節がありました。
The implementation of the freedom agenda needs to relate the values of the democratic tradition to the historic possibilities of other societies.
We must avoid the danger that a policy focused on our domestic perceptions may generate reactions in other societies rallying around patriotism and leading to a coalition of the resentful against attempts at perceived American hegemony.
A strategy to implement the vision of the freedom agenda needs consensus-building, both domestically and internationally. That will be the test as to whether we are seizing the opportunity for systemic change or participating in an episode.
コンセンサス作りでも、とりわけ重要なのはヨーロッパとの関係だと思っています。アメリカと最も理念を共有するのは他にないからです。
経済力や軍事力を理念の普及のために行使することについては異存ありません。ただ、面白いのは、イラクでアメリカの力の行使に反対していた国際市民運動が、同時期に混乱していたリベリアには介入を熱望していたことです。こうした市民運動のネットワークは、ミャンマーの人権抑圧にもアメリカの圧力を熱心に願い出ていました。
あなたたち、アメリカの力の行使が嫌いだったはずなのに。こうした疑問が沸いてきました。結局、あれだけ反感を抱かれながらも、どこかでアメリカを頼りに思っているのが地球市民の本音なのでしょうか?
投稿: 舎 亜歴 | 2005年7月10日 14:26
舎さん、
人類のどの社会も、おのおのの過去から継承した文化や伝統を持ち、ある程度は過去の歴史に縛られています。この社会で暮らすには、大なり小なりそうしたものを習得しなくては生きていけません。しかしながら、唯一アメリカという人工国家だけはそうした制約を持たず、独立独歩で良しとします。もしアメリカという国が地球上になかったら、さぞやこの世の中は窮屈なものになるのではないでしょうか。アメリカを嫌う人も、心のどこかではこうした自由な国がこの世にあるということは悪くは思っていないのではないかと思います。アメリカは、今の人類全体にとって気分として「新大陸」であり続けているのではないかと思います。
投稿: 真魚 | 2005年7月10日 23:52
真魚さん
私はアメリカもヨーロッパからの歴史と伝統を受け継いだ国と見なしています。ただ、このことはアメリカ人自身が余り自覚していないように思えます。アメリカの理念はヨーロッパから持ち込まれたものが、抵抗勢力のない新天地で純化されていったと考えています。
と言う観点から、アメリカに反感を抱く人が折に触れて口にする「移民の寄せ集めの200年しか歴史のない国」という一言は、彼らの憂さ晴らしにはなっても真実ではないと思います。そうした国なら他にもカナダ、オーストラリア、中南米諸国などがあります。
上記のヨーロッパ人植民地からアメリカを特徴づけるのは、初期の入植者が持っていたプロテスタンティズムの倫理観と旺盛な自治精神だと思います。都議会選挙についてマイクさんが真魚さんのブログで残したコメントには、こんな背景もあるのでしょうか?
ともかく、アメリカと言う国が英本国をはじめとしたヨーロッパから受け継いだ歴史と伝統に基づいている事実をもっと強く意識すること。外国人にとってもアメリカ人にとっても忘れてはならないと思っています。
投稿: 舎 亜歴 | 2005年7月12日 23:18