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2005年10月26日

特定アジア?奇妙な造語

このところ日本ではメディアもブログもアジア問題で議論が過熱している。だが私はこうした傾向に疑問を感じている。日本は世界の200ヶ国と関係があり、アジア諸国はそれぞれその内の一つに過ぎない。中でも最近の造語「特定アジア」には言語的センスの悪さ以外の何物も感じられない。ともかく日本国民に言いたい。アジアに対する注目度が極端に大きくなっている最近の傾向は異常である。もっと世界をバランス良く見るべきである。

まず日本と世界の関係を再検討してみよう。日本にとって最も重要な同盟国がアメリカであることは誰も疑う余地がない。また日本が世界の政治経済を共に運営してゆく仲間はアメリカとヨーロッパである。間違っても中国や韓国ではないし、両国が世界のエグゼキュティブになれる見込みは全くない。そうした事実をしっかりと踏まえていれば、昨今の日本でアジア、特に中国と韓国に対して過剰な意識を抱くことがいかに奇異なことかわかる。物事には適正なバランスというものがある。中国と朝鮮半島への意識が過剰になれば、世界の全体像を見誤りかねず、ひいては日本の進路を誤りかねない。

考えてもみて欲しい。日本の最重要同盟国であるアメリカにとって重要なのは大西洋同盟の拡大・安定と中東の民主化である。それを基に大量破壊兵器の不拡散やテロとの戦いに取り組んでいる。ロシアや中国への対処は、ヨーロッパばかりか日本やオーストラリアまで含めた拡大大西洋同盟の充実が不可欠である。このようにアメリカの視点を基にして世界の中での日本を考えてゆかないと、適正なバランスで日本の進路を見定めることができない。アメリカと同じ視点でもっとヨーロッパや中東に目を向けるべきである。

日本とアジアの関係できわめて奇妙に感じるのは、日本人もアジア人も自分達を同じ東洋人だと信じていることである。だが両者は全く異質の文明圏であるという事実を忘れてはならない。以前の「文明の衝突:日本vsアジア」という記事でも指摘したように、日本とアジアは対馬海峡という文明圏の断層を隔てて向かい合っている。はっきり言えば、日本とアジアの関係は西欧とイスラムの関係と全く同じである。西欧が十字軍を派遣したように、日本も朝鮮出兵を行なった。西欧がトゥール・ポワティエ間の戦いでイスラム軍を撃退したように、日本も二度にわたる元寇を撃退した。

さらに忘れてはならないことは、アヘン戦争以前の中華皇帝は東アジア儒教文明圏の最高支配者として蛮族はことごとく中華帝国に屈することが当然と思っていた。これに対して敢然と叩頭の礼を拒んだのは日本と英国だけである。日本は聖徳太子が「日出る国の天子より日没する国の天子へ」という書簡を隋の皇帝へ宛てた。豊臣秀吉は「汝を日本国王に封ず」という明の国書に激怒した。イギリスも通商を求めて清の皇帝との交渉に臨んだマカートニー、そしてアマーストが皇帝への叩頭の礼を拒んだ。東アジアの歴史ではどちらもきわめて異例である。朝鮮、ベトナムなどは嬉々として中華皇帝の臣下に下っている。こうした事実からも、日本がアジアよりアングロ・サクソンとの関係が良くなるのは自然である。

そうした事実を踏まえれば、日本がアジア諸国に媚びへつらうように皮相的な「友好」を訴えるのは無意味である。

これほどまで日本とアジアが異質な世界だというのに、どうして「特定」なる形容詞を冠した造語を考え出すのか?おそらく、こうした造語を好む人の深層心理には日本人とアジア人が本来は同じ東洋人の同胞なのに、中国、韓国、北朝鮮ばかりが日本に敵対的であり続けることへの苛立ちがあるのだろう。だが日本とアジアは全く異質なのだから中国や朝鮮半島でなくても何かを契機に関係が悪化する危険を秘めていると思っておいた方がよい。それをわからずに「大東亜共栄圏」など作り上げようとすれば、失敗して当然である。日本は植民地帝国の抗争に参加しただけで、日本軍によるシンガポール陥落などはドイツ軍がスエズを陥落させることと本質的に変わらない。日本の右翼はこれを東洋人による白人植民地支配からの開放だと自画自賛しているが、馬鹿もほどほどにしろと言いたい。よって日本人はアジアに対するセンチメンタルな感情は一切捨て去るべきである。

以上より「特定」アジアなる造語には言語的センスが全く感じられない。それに比べてラムスフェルド米国防長官の「古いヨーロッパ」と「新しいヨーロッパ」という造語はまさに強烈なメッセージが込められている。だからこそ言おう。アジア、特に中国と朝鮮半島の重要性はもっとドライで合理的に査定されるべきである。奇妙な造語を濫用しては、彼らを過剰に意識していますと公言しているようなものだ。それこそ、この地域のナショナリスト達の思うつぼである。

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2005年10月20日

米・インド間にイラン問題の影

前回の「インドとアメリカの戦略的パートナーシップ」という記事では、インド・イラン間の天然ガス・パイプラインと米印間の戦略提携について述べた。ブッシュ大統領は7月にワシントンを訪れたインドのマンモハン・シン首相に対して、インドが核保有国の道を歩むことを認めた。9月の国連首脳会議の際に二国間の会談を行なった両首脳はイラン問題について話し合った。アメリカはイランへの核拡散を防ぐために、インドがイランとのパイプライン建設を中止するよう圧力をかけた。インドがアメリカとイランの狭間で態度がゆれる中で、アメリカはインドが最終的にイランより西側につくかどうかを試している(“Iran Issue Strains India’s Tie to US”, September 14, International Herald Tribune / New York Times)。

前回も述べたように、インドがグローバルな大国にのし上がってゆくためにはアメリカとの緊密な関係が重要である。また、テロとの戦いでインドはイスラム過激派というアメリカと共通の敵をかかえている。他方でイランもインドにとって重要な国である。人口の増大と経済成長によってインドのエネルギー資源需要は急増している。インド・イラン間のパイプライン建設は、将来にわたってこうした需要をまかなうための国家的プロジェクトである。またインドにとってイランはアフガニスタンや中央アジアに通じる道でもある。インドはイランとの軍事協力を進めながら、この地域への足場を築こうとしている。さらにインドは世界第二位のシーア派人口を抱えている。そうしたインドにとって、イランとの対立は避けたいところである。

アメリカ政府の情報機関が今年の1月に行なった推定では、イランの核開発には10年を要するという。だがブッシュ政権にも大きな影響力を及ぼしているネオコンのシンクタンク「新世紀アメリカのプロジェクト」のゲーリー・シュミット上級研究員は、アメリカと同盟国にとってイランは要注意だと主張している。イランが核開発の野心を捨て去ったわけではない。またイランの核開発についての正確な情報は入手が難しい。エルサレム・ポストはイスラエル情報筋の話として、イランは2012年までに核兵器を保有すると見られ、2008年にも核兵器製造能力を得ると伝えている。さらにブッシュ政権が先制攻撃戦略を採用した理由も思い出すべきだと言う。アメリカや同盟国がどのようなタイミングで攻撃を受けるかは、相手が国家であれテロ集団であれ誰も予測できない。イランについては現体制がどのような性質なのか、どのような戦略的意図があるのかあまりよくわかっていない。そのためイランの行動はますます予測しにくくなっている。そうした事情からシュミット氏は国際社会がイランに対する警戒を怠らず、危険な計画の資金源となるようなことは慎むべきだと主張している。

イラン問題の解決にはアメリカとEU3(イギリス、フランス、ドイツ)がロシア、中国、インドにもイランへの核拡散を防ぐ取り組みに関与するよう要求する必要がある。イランとは地理的に近いインドの役割はかなりなものとなろう。石油価格の高騰はイランのテロ支援や核開発に追い風となっている。インドとのパイプラインの建設が進めば、イランの現体制にはさらなる追い風となろう。

アメリカは7月の首脳会議でインドの平和的核利用への支援に同意した。現在のところ、原子力はインドのエネルギー生産高の2.7%に過ぎない。アメリカがインドの平和的核利用での支援を拡大すれば、イランからのパイプラインの穴を充分に補える。パイプライン計画は中止しないまでも、9月の国連総会でシン首相はイランを批判する票を投じた。これはアメリカにとってインドが頼れるパートナーかどうかを判断するうえでは重要な試金石であった。問題はインドの自尊心である。ヒンドゥータイムズ・オブ・インディアといった主要紙では、英国から独立してから非同盟諸国のリーダーであったインドがアメリカの意を受けた票を投じたことを嘆いている。インドはロシアや中国とは緯線を画し、アメリカとEU3の側につくことを明確に示したのである。

このことはイランとのエネルギー資源開発プロジェクトに取り組んでいる他の国にも重大なメッセージとなった。日本は現在、イラン西部のアザガデンで石油開発合弁事業を行なっている。欧米とイランの対決において、これが日本にとって三度目の失敗とならねばと願っている。最初の失敗は1952年にモハマド・モサデグ首相がアングロ・イラニアン石油会社の国有化に踏み切った時である。日本は急進左派政権から石油を輸入したことでイギリスとアメリカの怒りをかった。幸運にもモサデグは追放され、シャーが復権した。二度目はテヘランのアメリカ大使館人質事件でアメリカとイランが対立した際に、日本が三井物産による石油開発プロジェクトを継続した時である。またイランと西側が対決するようになれば、今回は三度目の失敗となるのだろうか?「三振!」だけはごめんである。

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2005年10月12日

エッセイ投稿の雑誌掲載

東京を中心とした日本在住の外国人向けの情報誌、「メトロポリス」に私のエッセイが掲載されました。同誌への掲載はこれで3度目です。内容は、以前の当ブログ記事「終戦60周年の日本:レジーム・チェンジの模範たる自覚を持て!!」「日米同盟こそ冷戦後の日本の国体である!」に基づいています。以下のリンクを参照ください。

http://metropolis.japantoday.com/tokyo/602/lastword.asp

これまでは以下のエッセイを投稿しました。

http://metropolis.japantoday.com/tokyo/583/lastword.asp

http://metropolis.japantoday.com/tokyo/565/lastword.asp

こちらの方も宜しくお願いします。

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2005年10月 9日

英国の戦略核兵力:トライデント・ミサイルの後継兵器は?

先のイギリスの総選挙では将来の戦略核兵力の問題も重要な争点となった。現在、イギリスはアメリカ製のトライデント・ミサイルを戦略兵器として配備している。2024年にはバンガード級ミサイル原潜が退役するため、現在保有しているトライデント・ミサイルのシステムの後継をどうするかが問題となっている。そうした情勢から、将来の核戦力をめぐる議論が白熱している。トニー・ブレア首相はイギリスが将来も大国であり続けるために、バンガード級原潜の退役後も核抑止力を続ける意志を明確に示した。保守党もこの決定を歓迎している。そうなると将来のイギリスの核戦力はどのようなものになるかが問題となる。イギリスが世界の核抑止力の一翼を担うためには、次世代核戦力の費用対効果が重要となる。一方で左翼政治家は冷戦後の国際政治に適応するためにもイギリスは核兵器を全廃すべきだと主張している。

核兵器論争について詳しく述べる前に、イギリスの核戦力の歴史を少し振り返りたい。イギリスが独自の原爆、次いで水爆を開発したのは1952年と1957年である。以後のイギリスの核戦力は、SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル Submarine Launched Ballistic Missile)と戦略爆撃機の二本柱で構成されていた。戦略爆撃機についてはV爆撃機(Valiant VictorVulcan)を独自に開発したが、核抑止の主力となったのはアメリカ製のSLBMである。

イギリスは独自のSLBM開発がうまくゆかなかったので、ハロルド・マクミラン首相はジョン・F・ケネディ大統領との会談をへて1962年のナッソー協定を締結してアメリカ製のポラリス・ミサイルの輸入を決定した。以来、イギリスの核戦力はアメリカとの関係が強くなっていった。ポラリスに代わるミサイルが必要になると、マーガレット・サッチャー首相は新たなSLBMのトライデントを導入した。イギリスは冷戦終結に伴って戦略爆撃機を退役させ、全ての核戦力をSLBMに集中した。それによってイギリスの核戦力はアメリカとの関係が一層強まった。

イギリスの次世代の核戦力については以下の選択が考えられる。

1.トライデント・ミサイルのシステムの使用年数延長

この場合は新たにトライデント発射原潜かミサイル発射にも兼用できる攻撃型原潜を建造する必要がある。トライデント・ミサイル自体も現在のD5からD5Aに更新することが考えられる。こちらの方はアメリカがミサイルを更新するか否かにかかっている。いずれにせよ巨額の出費が予想される。

2.巡航ミサイル

この場合はミサイル発射もできる攻撃型原潜が利用されるであろう。イラク戦争ではアメリカ製のトマホーク・ミサイルを攻撃型原潜から発射している。巡航ミサイルの射程距離は弾道ミサイルより短い。

3.空中発射ミサイル

RAF(Royal Air Force=英国空軍)が強く主張。だが地上に基地を置く戦略核兵力は敵からの攻撃に対して脆弱である。これが採用される可能性は最も低い。

いずれにせよ、核抑止力の継続保有は保守党も自由民主党も賛成している。現時点ではトライデント・ミサイルの更新が最も有力なように思われる。

だが労働党左派からはトライデントは冷戦の核抑止力であって、テロリストが利用する可能性のある放射性物質爆発物、イランや北朝鮮への核拡散といった現在の脅威には対処できないという主張が挙がっている。イラク戦争の勃発により閣僚を辞任したロビン・クック元外相は、イギリスは不毛で資金の浪費にしかならない核保有から手を引くべきだと主張している。むしろ一方的な核廃棄によってイギリスが世界の核廃絶に向けてリーダーシップをとるべきだとさえ述べている。イラク戦争で辞任したもう一人の閣僚、クレア・ショート元開発相は「核兵器はイギリスが大国である証だと言いますが、大国の地位にそれほど核兵器が重要だと言うならインドなどが核開発に走るも当然ではないでしょうか」と厳しい発言をしている。

イギリスがトライデントをめぐってどのような決定を下すかは、WMD(Weapons of Mass Destruction=大量破壊兵器)とテロの問題に重要な影響を及ぼす。両問題とも今日の世界の安全保障では最懸案事項である。イギリスが一方的に核廃棄に踏み切るとは思えない。より安上がりで効果のある抑止力として巡航ミサイルを選択することもあり得る。すでにアメリカのトライデント原潜の中にはトマホーク・ミサイルで代用しているものもある。この論争の行方の鍵となるのは、世界規模でのテロとの戦いと核不拡散の問題でイギリスがどのような役割を果たすかである。

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2005年10月 1日

弾道ミサイル拡散の現状

missile

この地図は核拡散が懸念される6ヶ国が保有する弾道ミサイルの現状を示している。ここに挙げた6ヶ国は射程距離1,000km以上の弾道ミサイルを保有している。ミサイルの射程範囲は円で示されている。

この内、インド、パキスタン、イスラエルはすでに核兵器を保有している。イランと北朝鮮については保有の疑いが濃厚である。

北朝鮮のテポドンIIはアラスカにまで達すると見られているが、実験は行なわれていない。

サウジアラビアは1987年に中国よりCSS-2を輸入しているが、核廃棄は保有していない。

参照:カーネギー国際平和財団大量破壊兵器不拡散プロジェクト

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