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2005年10月 9日

英国の戦略核兵力:トライデント・ミサイルの後継兵器は?

先のイギリスの総選挙では将来の戦略核兵力の問題も重要な争点となった。現在、イギリスはアメリカ製のトライデント・ミサイルを戦略兵器として配備している。2024年にはバンガード級ミサイル原潜が退役するため、現在保有しているトライデント・ミサイルのシステムの後継をどうするかが問題となっている。そうした情勢から、将来の核戦力をめぐる議論が白熱している。トニー・ブレア首相はイギリスが将来も大国であり続けるために、バンガード級原潜の退役後も核抑止力を続ける意志を明確に示した。保守党もこの決定を歓迎している。そうなると将来のイギリスの核戦力はどのようなものになるかが問題となる。イギリスが世界の核抑止力の一翼を担うためには、次世代核戦力の費用対効果が重要となる。一方で左翼政治家は冷戦後の国際政治に適応するためにもイギリスは核兵器を全廃すべきだと主張している。

核兵器論争について詳しく述べる前に、イギリスの核戦力の歴史を少し振り返りたい。イギリスが独自の原爆、次いで水爆を開発したのは1952年と1957年である。以後のイギリスの核戦力は、SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル Submarine Launched Ballistic Missile)と戦略爆撃機の二本柱で構成されていた。戦略爆撃機についてはV爆撃機(Valiant VictorVulcan)を独自に開発したが、核抑止の主力となったのはアメリカ製のSLBMである。

イギリスは独自のSLBM開発がうまくゆかなかったので、ハロルド・マクミラン首相はジョン・F・ケネディ大統領との会談をへて1962年のナッソー協定を締結してアメリカ製のポラリス・ミサイルの輸入を決定した。以来、イギリスの核戦力はアメリカとの関係が強くなっていった。ポラリスに代わるミサイルが必要になると、マーガレット・サッチャー首相は新たなSLBMのトライデントを導入した。イギリスは冷戦終結に伴って戦略爆撃機を退役させ、全ての核戦力をSLBMに集中した。それによってイギリスの核戦力はアメリカとの関係が一層強まった。

イギリスの次世代の核戦力については以下の選択が考えられる。

1.トライデント・ミサイルのシステムの使用年数延長

この場合は新たにトライデント発射原潜かミサイル発射にも兼用できる攻撃型原潜を建造する必要がある。トライデント・ミサイル自体も現在のD5からD5Aに更新することが考えられる。こちらの方はアメリカがミサイルを更新するか否かにかかっている。いずれにせよ巨額の出費が予想される。

2.巡航ミサイル

この場合はミサイル発射もできる攻撃型原潜が利用されるであろう。イラク戦争ではアメリカ製のトマホーク・ミサイルを攻撃型原潜から発射している。巡航ミサイルの射程距離は弾道ミサイルより短い。

3.空中発射ミサイル

RAF(Royal Air Force=英国空軍)が強く主張。だが地上に基地を置く戦略核兵力は敵からの攻撃に対して脆弱である。これが採用される可能性は最も低い。

いずれにせよ、核抑止力の継続保有は保守党も自由民主党も賛成している。現時点ではトライデント・ミサイルの更新が最も有力なように思われる。

だが労働党左派からはトライデントは冷戦の核抑止力であって、テロリストが利用する可能性のある放射性物質爆発物、イランや北朝鮮への核拡散といった現在の脅威には対処できないという主張が挙がっている。イラク戦争の勃発により閣僚を辞任したロビン・クック元外相は、イギリスは不毛で資金の浪費にしかならない核保有から手を引くべきだと主張している。むしろ一方的な核廃棄によってイギリスが世界の核廃絶に向けてリーダーシップをとるべきだとさえ述べている。イラク戦争で辞任したもう一人の閣僚、クレア・ショート元開発相は「核兵器はイギリスが大国である証だと言いますが、大国の地位にそれほど核兵器が重要だと言うならインドなどが核開発に走るも当然ではないでしょうか」と厳しい発言をしている。

イギリスがトライデントをめぐってどのような決定を下すかは、WMD(Weapons of Mass Destruction=大量破壊兵器)とテロの問題に重要な影響を及ぼす。両問題とも今日の世界の安全保障では最懸案事項である。イギリスが一方的に核廃棄に踏み切るとは思えない。より安上がりで効果のある抑止力として巡航ミサイルを選択することもあり得る。すでにアメリカのトライデント原潜の中にはトマホーク・ミサイルで代用しているものもある。この論争の行方の鍵となるのは、世界規模でのテロとの戦いと核不拡散の問題でイギリスがどのような役割を果たすかである。

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