英米同盟と日米同盟:ウィルソン・センターでの会合を振り返る
去る11月16日にジョージ・W・ブッシュ米国大統領と小泉純一郎首相は京都で会談した。両首脳は日米関係の緊密化を再確認した。だがこれをもって小泉首相がアメリカの頼れる同盟者となったとは思えない。戦後の歴代首相がそうであったように、小泉首相も”no pain, no gain”(労なくして益無し)の態度をとり続けているからである。首相はいつも口にするように「日本は日本にできることをする」という消極的な態度を変えてはいない。これでは、従来の古い平和主義とは何も変わらない。これをよく理解するために、ウッドロー・ウィルソン・センターで開催された「イギリスがアメリカとヨーロッパの間で果たす役割」についての会合を振り返りたい。英米特別関係から日本が学ぶことは多いにある。
先にワシントンを訪れた際に、11月7日にウッドロー・ウィルソン・センターのイベントに参加した。同じ時期に開催されていたカーネギー国際平和財団の大量破壊兵器不拡散国際会議と違って、こちらは小じんまりとしたものであった。参加者は20人ほどであったろうか。ウィルソン・センターのスタッフの他には学生らしき参加者がいた。その内の一人はジョージ・ワシントン大学のヨーロッパ史の教授であった。
ゲスト・スピーカーに招かれたのは、英国ノッティンガム大学のアレックス・ダンチェフ教授であった。ダンチェフ教授はブレア政権の外交には批判的な立場から講演した。ブレア首相の政策はアメリカの政策に深入りしすぎだと述べていた。また、冷戦終結によってドイツ問題が解決したので、英米同盟の性質も変化せざるを得ないと指摘した。
トニー・ブレア首相には批判的ではあったが、ダンチェフ教授は英米特別関係についてきわめて重要な点を述べた。アメリカの政権がどのようなイデオロギーに基づいていようとも、両国の特別関係はイギリス外交の要である。以下の目標によってイギリスの重要な国益を守ろうとしている。
(1) 他の国とは隔絶した存在となる
英米特別関係によってイギリスはアメリカにとって他の国とは比べものにならないほど重要な同盟国となる。よく言われるように、アメリカのローマに対してギリシアの役割を果たすのである。
(2) アメリカの力を活用する
アメリカとの緊密な関係によって、ヨーロッパでも世界規模でもイギリスの立場を強化する。
(3) アメリカの政策形成に影響を及ぼす
ローマに対するアテネのように、イギリスが世界の運営に関してアメリカの相談役になる。
(4) ヨーロッパとアメリカの仲介役となる
イギリスはアメリカに対してヨーロッパの声を代弁すべきである。また米欧間の政策にギャップが生じた際には調整役となる。
そうした理由からイギリスはアメリカとの緊密な関係を維持し続けている。冷戦が終結した現在、ダンチェフ教授はこうした戦略に疑問を投げかけている。だがアメリカ人の参加者からダンチェフ教授に向けられた質問は印象に残るものだった。アメリカ人の間でのブレア人気は高く、リベラル派から保守派まで支持されている。リベラル派はニュー・レイバーの経済政策を賞賛し、保守派からはアメリカの最も頼れる同盟者と見られている。また「新しいヨーロッパ」ではブレア首相は自由民主主義と市場経済の象徴として人気を誇っている。
確かにイギリスはアメリカの同盟国として他の国とは一線を画す存在である。特にグラスルーツのアメリカ国民の間ではそうである。アメリカのブログでは星条旗とユニオン・ジャックが並べてあるものが多い。また、私は「サンキュー・トニー・ドット・コム」と題する興味深いサイトを見かけた。これはブレア首相に対してイラク戦争での対米協力に感謝の手紙を送ろうというサイトである。私自身もこのサイトを通じて、ブレア首相宛ての感謝の手紙を3回送信している。善かれ悪しかれイギリスは他の追随を許さぬほど重要なアメリカの同盟国である。英国にとってこれは特別な強みである。
ひるがえって見ると、小泉首相には日米関係の強化に当たって上記のような明確な目標があるのだろうか?私の知る限り、歴代の日本の総理大臣、外務大臣、そして外務官僚にはこれほどの明確な目的意識はない。これでは「サンキュー・純・ドット・コム」がないのは当然である。
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日本人のメンタルティは、自己謝罪優先思考なのかもしれない。
全体戦においての原因はいろいろなものがあるが、真っ先に日本が悪かったという謝罪から始まるが、これを逆手にとって居るのが、極東3馬鹿国家であり、反日在日朝鮮人たちである。
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コメント・ありがとうございました。
舎さまの今回の記事とは関係がないかも知れませんが、東京裁判の日本側弁護人として活躍されたブルックス氏始めとするアメリカ人弁護人の奮闘は、インドのパール判事の功績にも匹敵する恩義を日本人は感じるべきだと思います。
アメリカ人の正義と公正を求める気質は、日本の真の友人となる資格を十分に有していると私は思います。
長い付き合いなのに大変遅れましたことをお詫び申し上げますが、今回
私の「お奨めサイト」に登録をさせていただきました。
今後ともよろしくお付き合いのほどお願い申し上げます。
投稿: 紫藤ムサシ | 2005年11月21日 12:59
お奨めサイトに登録していただき、ありがとうございます。こちらこそ宜しくお願いいたします。
投稿: 舎 亜歴 | 2005年11月21日 21:53
ダンチェフ教授が指摘している米英同盟の4つの特徴は(1)~(3)まで、そのまま日米同盟の今後の指針たりうると思います。(4)については「アジアと米国の架け橋」というと、何か勘違いしそうな日本人が多いので、これだけは忘れておくほうがいいような気がします。
それにしても、アーミテージ氏のような向こうの有力者が「英国のような同盟国になってほしい」と明確に述べてくれているにもかかわらず、それに応えることができないなどという事態になれば、日本の進路に暗雲が立ち込めるとさえ言えるような気がします。
投稿: 猫研究員 | 2005年11月21日 23:38
ダンチェフ教授の講演で、記事には書いていなかったのですが、現在のイギリスがこれまでのような特別な価値を持てるかという懸念も述べられていました。
例として、ケネディ大統領はソ連のフルシチョフ政権についてマクミラン首相からの情報を多いに参考にしたことを指摘していました。ケネディ政権がきわだって知的エリートの政権だったことを考えると、イギリスの外交情報網のすごさがうかがえます。
ダンチェフ教授は現在のイギリスがアメリカにこのような土産を与えられるだろうかと懐疑的な姿勢を示していました。
これが日本となるともっと心許ないのですが、この国には決定的な強みがあります。それは太平洋からインド洋に至るアメリカの戦略を支える基地の提供者だということです。少なくともハワイからスエズまでで、これほど安定して優秀な基地を提供できる国は他にありません。
外交の駆け引きはイギリスに及ばなくても、こうした強みは政治家も国民ももっと認識して欲しいです。それと同時に日本国民はもっと中東やさらに遠方まで視野を広げるべきです。近隣諸国との関係ばかりに目を奪われていては、せっかくの強みも活きません。
投稿: 舎 亜歴 | 2005年11月22日 13:11
トラックバックありがとうございました
投稿: じゃんゆう | 2005年11月29日 14:49
返信ありがとうございます。
投稿: 舎 亜歴 | 2005年11月29日 19:50