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2006年2月25日

日中のアジア主導権争い

先日、当ブログで紹介したAHの投稿です。以下、宜しくお願いします。

現在の日中関係の悪化は東アジアの激動期と重なっている。両国を含め東アジア全体が、かつてない水準での経済成長と変化の真っ只中にある。そうした中で政治、経済、軍事といった分野での中華人民共和国の台頭は、日本との関係に大きく変えている。日本と中国は東アジアの事実上のリーダーであるが、殆どの専門家は中国の軍拡と経済成長が地域あるいは世界全体に及ぼす影響に注目している。だが中国だけが東アジア情勢を左右する訳ではない。日本、韓国、そしてアメリカも大きな影響力を及ぼすことを忘れてはならない。

日中関係は対立と誤解の歴史である。日本の歴史教科書をめぐる歴史認識の問題、尖閣諸島をめぐる領土紛争、東シナ海での石油採掘権、第二次大戦時の日本軍による虐殺行為、小泉首相の靖国神社参拝など、両国の対立は枚挙暇がない。

北京、上海、広州、深釧で繰り広げられた暴動によって、中国の政府も一般市民もどれほど強い反日感情を抱いているかが白日の下にさらされた。北京政府が広めてきた公式のナショナリズムに代わって、中国では新たにグラスルーツのナショナリズムが台頭してきた。こうした中国国民のしらけた感情は、日中関係の冷却化とも軌を一にしている。

国同士の関係では経済や通商が大きな役割を果たすが、現在の日中関係では状況が異なる。両国の政治敵関係は悪化する一方で貿易は過去5年間で飛躍的に伸び、今や中国は日本にとって最大の貿易相手国となった。こうした貿易増大の影響ははかり知れない。中国の経済成長によって日本やアジア近隣諸国の経済成長にも好影響が出てくる。そうなると中国が東アジア経済の牽引車となってしまう。これにより東アジア地域のGDPはかつてない水準に達すると予測されている。 

だが特定分野での日中の競争が両国の経済的な結びつきを強めたにもかかわらず、両国の関係改善にはつながらなかった。それどころか東シナ海をへだてて両国の貿易が増大しても、政治的には両国は互いに非難の応酬をしている。その結果、政治的な関係は悪化の一途をたどっている。中国が覇権主義的な態度をとるほど、日本も東アジアでの政治経済的な影響力の拡大をはかるようになる。そうした中で、他の東アジア諸国やアメリカが両国関係に及ぼす影響が重要になってくる。 

韓国が日中間のパワーゲームで演ずる役割には興味深いものがある。中韓関係が緊密になってゆくの対し、日韓関係は緊張が進んでいる。また中国の影響力が強まるにつれて、韓国の対米関係も悪化している。韓国が中国のジュニア・パートナー化するようになると、日米韓のパートナーシップがほころびを見せるようになる。韓国民の大多数は中国こそ将来のパートナーと見なしていることは明らかである。そうなると韓国の国民はアメリカ軍の存在によって地域の安定をはかろうと思わなくなり、代わって中国が影響力を増すおそれがある。中国ウォッチャーにとって、中韓関係が進展すれば中国は在韓米軍の存在を認めないことは明らかである。中国の影響力の下で朝鮮半島が統一されてしまえば由々しき事態である。現在は韓国が中国に対して貿易黒字を抱えていることから経済的に優位にあると言っても、中国が朝鮮半島を経済的に支配下に置こうとするであろう。中国が韓国に影響力を及ぼすようになれば、日米にとって深刻な事態となる。

日中関係の緊張化は米韓関係の冷却化と並行している。在韓米軍を削減するため、韓国に対するアメリカの影響力は低下している。北朝鮮の核開発をめぐる六ヵ国協議でも米韓関係の冷却化は明らかである。アメリカは韓国に対して北朝鮮の核開発にもっと強硬な姿勢で臨むように求めているが、韓国は北朝鮮に対して具体的な政策をとれずに事態を悪化させている。アメリカは韓国のこうした姿勢に不信感を強めている。韓国が北朝鮮に対してアメリカと共同歩調をとりたがらないので、両国の関係は冷え切っている。韓国がアメリカから離れてゆくに従って、アメリカの同盟国として日本の比重が高まっている。日米関係は良好で、経済でも安全保障でも協調関係は緊密になっている。日本政府は憲法9条の見直しを進め、アメリカ政府も日本のミサイル防衛を後押しするとともに中台紛争では日本とともに台湾支持を表明した。

日中双方のどちらかが何ら行動をとらなければ、両国の関係は悪化の一途をたどるであろう。アジアでの日中の主導権争い顕著になるほど、中国の経済力と軍事力は日本にとって重大な脅威となる。こうした情勢を反映して、日本は周辺諸国との二国間貿易協定を締結し、経済での中国との主導権争いに勝とうとしている。長期的に見れば、日本は中国と北朝鮮の脅威に対抗するために安全保障の面でアメリカへの依存度を高めるであろう。しかしかし日本は現在の自衛隊を日米ガイドラインに沿ってもっと強力な国防軍に改めねばならない。

日中の主導権争いではどちらも完全な「勝者」とはなり得ない。双方ともここ数年は睨み合いを続けるであろう。日米同盟がある限り中国も日本に対して軍事行動には出られない。だが日米台関係についてはこれが当てはまらず、中国の台湾に対する敵対姿勢は軟化する兆しはない。日中関係と中台関係は根本的に異なるが、これが日中関係にも影を落とすことになる。将来的に中国はアジア最大どころか世界最大の経済大国になるかも知れない。だからと言って中国が世界経済を支配するようになるわけではない。中国の経済成長によって日本経済も繁栄し、今世紀には両国の競合関係が激化するであろう。

AH

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コメント

はじめまして!
読んでて面白かったです。
オレ、ミサイル防衛について勉強しています。
もしよろしければ、オレのブログに遊びに来てください。

投稿: コウタ | 2006年2月26日 02:12

どうもありがとうございます。今後とも宜しくお願いします。

投稿: 舎 亜歴 | 2006年2月27日 19:23

AHさん、初めまして。簡明にして分かりやすい分析を披露してくださりありがとうございます。とりわけ「中国の影響力の下で朝鮮半島が統一されてしまえば由々しき事態である。」というくだりは、重要であるにもかかわらず日本人があまり明言したがらないことがらです。

舎 亜歴さま、新ライターを迎えて今後のますますの発展を期待しています!

投稿: 猫研究員。 | 2006年2月28日 23:03

年明け以降多忙で新年のご挨拶が遅くなりまして大変失礼いたしました!本年度も宜しくお願い申し上げます!(←今更逆効果!)
ご紹介いただいた記事は全くその通りだと思いますし、私如きが何も申し上げることはございません。
今年の米中関係は様々な局面で「関与」と「封じ込め」が揺れると思いますが、昨年9月のゼーリック副長官の論文をベースに4月の米中首脳会談は展開していくでしょうし、中国が「ステークホルダー」たるかどうかの踏み絵になろうかと思います。
とにかく米中はあれこれありすぎて予想通り昨秋の会談も総花的になってしまいましたが、日本として今最優先すべきな課題はずばりトランスフォーメーションだと思います。昨秋の「2プラス2」が最終合意で後は日本がどう動くかというのを(≠これから地元自治体と話をつけるという段階である)米側は待っているだけという認識と危機感があまりになさ過ぎるのではないでしょうかね?

投稿: tsubamerailstar | 2006年3月 1日 23:51

猫研究員さん、tsubamerailstarさん、

返事が遅れて申し訳ありません。3月11日の独米ブログ祭に向けて記事を書いていました。「イラン・レビュー」の第一号です。

新メンバーのAHともども宜しくお願いいたします。

投稿: 舎 亜歴 | 2006年3月11日 04:43

AHさん、日米VS儒教勢力、特に興味深く読ませて頂きました。
しかし、私は儒教勢力が世界最大の経済力になるとは思えません。
食料、エネルギー、地球環境などの制約から、新たな価値へのシフトが起こり、それに基づく経済力新秩序に移行すると思ってます。

投稿: si | 2006年4月18日 01:09

AHさん、日米VS儒教勢力、特に興味深く読ませて頂きました。
しかし、私は儒教勢力が世界最大の経済力になるとは思えません。
食料、エネルギー、地球環境などの制約から、新たな価値へのシフトが起こり、それに基づく経済力新秩序に移行すると思ってます。

投稿: si | 2006年4月18日 01:09

儒教勢力が世界経済の指導的地位を築くことは、予見し得る将来にはないでしょう。しかしながら、彼らの経済成長が今後の世界にどのような影響を及ぼすのか、あるいはどのような脅威となるのかは注目の的です。


この記事の著者AHとは以下のメールアドレスへ日本語でコメントされてもOKです。

albionjhargrave@yahoo.co.jp

投稿: 舎 亜歴 | 2006年4月23日 16:04

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