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2006年3月10日

イラン・レビュー:日米欧と神権政治の核兵器

この度の独米ブログ祭に「イラン・レビュー」の初版を提出できたことは多いに喜ばしく思います。以前のお知らせでも記しましたが、これは当ブログの新規プロジェクトです。以下、宜しくお願いします。

今回はアメリカ、EU3、日本の間での政策の協調と食い違いについて述べたい。注目すべきは、イラクをめぐってあれほど対立したアメリカとヨーロッパがイランについては行動を共にするようになったことである。米欧関係が修復されつつある一方で、日本は自らのイラン政策を明確に示していない。こうした日本の態度は西側同盟の結束を乱すことになるのだろうか?

この記事では、軍事行動、外交交渉、制裁といった選択肢の中でどのような政策をとるべきかを論ずる。この問題では、西側諸国からのイラン国民による抵抗運動への支援についても触れる必要がある。また、現在の神権体制の性質についても理解しておく必要がある。.

まずイランの神権政治について述べたい。現在亡命中のレザ・パーレビ元皇太子は、イランの神権体制が核開発の野望を捨て去ることはないと言う。パーレビ氏によるとイランの現体制はイスラム革命の輸出を目標としており、国際社会との衝突は避けられない。イタリアのスカイTVとのインタビューに応じたパーレビ氏は、マフムード・アフマディネジャド大統領の反ユダヤ政策によってキュロス大王がバビロニアの圧政からユダヤ人を解放してから他民族に寛容であったペルシアの伝統が損なわれていると非難した。さらに現体制はイランの国民を代表していないと述べた。

アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)のマイケル・ルービン常任研究員もパーレビ氏と同じ見解である。ルービン常任研究員はAEIオンライン “Iran Means What It Says”という論文で、イランはイスラエルに次いで中東第二位のユダヤ人人口をかかえていると指摘している。さらに興味深いことにイスラエルのモシェ・カツァフ大統領はイラン出身であるが、イラン人の多くはそのことに誇りを感じている。アフマディネジャド大統領の反イスラエル政策は国民からの広い支持を受けてはいない。

イスラム過激派が跋扈するようになったのは1979年のイラン革命からである。それからというもの、イランはヘズボラ、ハマス、パレスチナ・イスラム・ジハードといったテロ組織を支援するようになった。このような体制の下にある国が核開発をしようというのである、国際社会にとって深刻な脅威と言わざるを得ない。

イランの脅威を抑えるためにはどのような政策をとるべきか考えておかねばならない。現在のところ、軍事的な攻撃、外交交渉、そして懲罰としての制裁が議論されている。こうした政策と並行して、西側はイラン国民による反体制運動も支援する必要がある。上記の選択肢の内、軍事行動は余り考えられない。レザ・パーレビ氏は2月6日のBBCとのインタビューで、イランの現体制に西欧の侵略に対する聖戦という絶好の口実を与えてしまうと述べている。またブルッキングス研究所のフリント・L・レベレット上級研究員は以下のように述べている。

「アメリカ(あるいはイスラエル)はイランの核関連施設に軍事的攻撃を加えられるだろう。しかしこうした施設はイラン国内に広がっているので、全ての攻撃目標がどこにあるか知ることは難しい。さらに、攻撃によってイランの態度が硬化してしまえば逆効果である。」

そうなると残りは外交交渉の継続か制裁の実施かである。国際社会は現体制と交渉しても成果を挙げられるであろうか? レザ・パーレビ氏はフォックス・ニュース(1月7日)とのインタビューで、体制存続のためには外部世界との抗争が必要なファシスト政権に外交交渉は通用しないと応えている。パーレビ氏のコメントを検証するために、いくつかの論文を参照したい。先のロシアとの交渉でもそうだったが、イランはなぜあれほど譲歩しないのだろうか?

アメリカン・エンタープライズ研究所のマイケル・A・レディーン特別フリーダム研究員は、イランは西側の強みと弱みを自ら基準で判断したうえで行動していると言う (“A Mullah’s-Eye View of the World”, National Review Online, 217) 現体制の指導者達はアメリカもイスラエルも国内世論が分裂していてイランに強硬な態度はとれないと見ているので、世界からの孤立などなんとも思っていない。またマイケル・ルービン氏はAEIの論文でイランが過激なイデオロギーを標榜し続ける限り、外交交渉を行なっても核武装のための時間稼ぎに過ぎなくなると主張している。

事態はルービン氏の言う通りになっている。ロシアとイランの交渉を前に、レザ・パーレビ氏はアメリカのCスパンTVの番組で、外交交渉はイランの現体制が時間稼ぎに利用するだけだと語った。実際に交渉は実を結ばなかった。

外交交渉では成果を挙げられないなら残るのは制裁である。レザ・パーレビ氏も主張するように制裁は少ない犠牲で大きな効果がなければ意味がなく、制裁のための制裁は科すべきではない。効果を挙げながらイランの一般市民への犠牲を最小限にとどめるにはどうするべきであろうか?

レジーム・チェンジ・イランからのEニュースで、興味深いファイルを見かけた。それによると、アメリカのリック・サントラム上院議員は3月2日の上院外交委員会で以下の制裁案を提出した。

1) イランの指導者の海外渡航禁止

2) 国際線でのイラン航空の受け入れ禁止

3) イラン政府所有の貨物船からの積荷の受け取りの禁止

4) イラン政府首脳による人権侵害と刑の執行を司法の場に持ち込む手続きの整備

カーネギー国際平和財団のジョージ・パーコビッチ副所長は下院軍事委員会の証言で、拙速に制裁を口にしないようにと助言している。制裁を科すなら、イランに対する重要な投資国と貿易相手国の全てが行なうべきだと述べている。パーコビッチ副所長は、イギリスとフランスが制裁を行なう際のモデルを検討していると証言している。

制裁は現体制に打撃を与えるできもので、イラン国民に打撃を与えるべきものではない。これはただ人道的な観点からだけではない。過激な聖職者達を政権から引きずり降ろすうえで、イラン国民は西側と共に行動できる。英国外交政策センターのクリス・フォスター氏とジェームス・オーウェン氏の論文によると、イランの若年層は近隣アラブ諸国よりずっと親米で、自国の警察の横暴さや経済の不振に不満を抱いている。AEIのマイケル・ルービン氏によると、テヘラン周辺部でアフマディネジャド大統領の政治的ビジョンを支持しているのは人口の10%に過ぎないという。ルービン氏はアメリカとヨーロッパがこうした国民の自由への希求を支援できれば、イランは中東の民主化の牽引役になれると主張する。

先のロシア・イラン会談は物別れに終わったこともあり、西側は制裁を真剣に検討すべき段階にさしかかっている。

最後に、イランをめぐっての米欧関係の改善について述べたい。ドイツのアンジェラ・メルケル首相がワシントンを訪問した際に、イラクをめぐって米欧間の食い違いの根深さが浮き彫りになった。だが頑迷なアフマディネジャド大統領の「お陰」で米欧の絆は再び強まっている。ワシントン・ポストのジム・ホーグランド論説委員とAEIのルエル・マルク・ジェレクト常任研究員は、こうした傾向を歓迎している。過激思想を振りかざす聖職者の野望を打ち砕くには西側同盟の結束が不可欠である。

アメリカとヨーロッパが協調を深める中で、日本の対イラン戦略は明らかになっていない。目下、日本はイラン南西部のアザガデンで大規模な油田開発を行なっている。このプロジェクトは見直すべき時が来ている。日本は西側同盟の主要国としての役割を理解せねばならない。さらブッシュ大統領の発言を真剣に受け止める必要がある。インドに核の平和利用への支援を申し出た際に、大統領はイランからのパイプライン建設の中止を要請した。また、今年の一般教書演説では中東の石油への過剰な依存を戒めた。

事態が深刻になる中で西側同盟の結束強化は重要になってくる。アメリカとヨーロッパは協調関係を深めてゆく。日本も国際政治での指導的役割を担いたいと本気で思っているなら、アメリカとヨーロッパの取り組みに加わることを躊躇している場合ではない。

Shah Alex

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