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2006年4月30日

自由の格付け:フリーダム・ハウスの指標

現在のアメリカ外交の重要な課題の一つが自由と民主主義の拡大である。この目的を達成しようというなら、政治プロセスや市民の権利を査定する必要がある。この問題について書こうと思ったのは、真魚さんマイク・ロスさんのブログ討論を読んでからである。

二人とも私にとってブログ上の友人である。真魚さんはJ・F・ケネディ大統領のリベラル政治を信奉する日本人である。一方でマイクさんはユニークなバックグラウンドの持ち主である。神戸育ちのアメリカ人で、徹頭徹尾のアメリカ保守主義者でありながら数年前に日本国籍を取得している。

真魚さんはニューヨークタイムズの大西哲光東京支局長が昨年9月に寄稿した"Why Japan Seems Content to Be Run by One Party"という記事を引用し、長らく一党支配下にあった日本は韓国や台湾より民主主義の発達が遅れていると指摘した。これに対してマイクさんは日本で公権力が市民の自由を侵すことはないと反論した。

二人の論争に参加した私は、自由と民主主義について客観的なデータを参照する必要があると感じるようになった。そこでフリーダム・ハウスのホームページを閲覧してみた。

フリーダム・ハウスは影響力のあるアドボカシー(市民政策提言)団体で、アメリカのリーダーシップによって自由を広める目的でエレノア・ローズベルト大統領夫人らによって設立された。ウクライナのオレンジ革命では、学生の反体制運動への支援で中心的な役割を果たした。フリーダム・ハウスの委員会には元政府高官、財界や労組の指導者、学界、文壇、メディアといった各界の人物が名を連ねている。フリーダム・ハウスが提起する人権問題は、世界の民主化というアメリカ外交の中核課題で重要なものになっている。フリーダム・ハウスの評価がどのようなものか、一見の価値がある。

フリーダム・ハウスは現状を1から7の7段階に分けている。数字が小さいほど良い評価となっている。その結果については「各国の現状2005年」に示されている。最高の評価は1-1、すなわち政治的権利(PR)と市民の自由(CL)の両方で1ランクをマークすることである。当然のことながら、以下の欧米民主主義国がこの評価となった。

アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、デンマーク、スウェーデン、ノルウェー、フィンランド、オランダ、ベルギー、等

注目すべきは「新しいヨーロッパ」に1-1という評価になった国が目立つことである。こうした国々は民主主義になってから日が浅く、旧共産体制下にあった国がこれほど急速に自由な社会になれるのかは疑問の余地がある。ともかく、「新しいヨーロッパ」では以下の国が1-1となっている。

ポーランド、エストニア、チェコ、スロバキア、スロベニア、ハンガリー

日本は本当に自由な国なのだろうか?フリーダム・ハウスの指標では政治的権利で1、市民の自由では2という評価になっている。韓国は1-2、台湾は2-1なので、日本が両国より悪いということはない。大西支局長が言うほど事態は悪くない。だがこれらの国の民主主義は欧米の水準には達していないので、フリーダム・ハウスの評価は甘過ぎるのではないかと思える。日本の専門家として名高いカレル・バン・ウォルフレン氏は日本社会のシステムがアカウンタビリティ(説明責任)に欠けることを”The Enigma of Japanese Power”“Keeping the People Ignorant”といった有名な著書で述べている。こうした視点に立てば、フリーダム・ハウスは日本に甘過ぎる評価を下していることになる。韓国は権威主義的な警察、反日あるいは反米の感情を煽り立てる政治を考慮すれば、日本以上に評価を下げねばならないと思われる。

フリーダム・ハウスの評価はどのように行なわれるのだろうか?方法については以下のように記されている。

「フリーダム・ハウスでは自由のあり方について各国の文化を尊重している。私達の方法は国連人権宣言に基づいて行なわれた調査によって評価を下している。この基準は地理的位置、民族宗教構成、経済開発水準を問わず、全ての国と地域に当てはまる。」

途上国の中にも1-1の評価を得た国があることは注目すべきである。確かにフリーダム・ハウスの評価は公平で、欧米あるいはアングロ・サクソン中心主義ではない。以下の途上国が1-1の評定であった。

バルバドス、カポベルデ、チリ、コスタリカ、キプロス、ドミニカ連邦、キリバス、マーシャル諸島、マルタ、モーリシャス、ナウル、ツバル、ウルグアイ

最後に、何かと話題になる国、すなわちイラク、アフガニスタン、イラン、北朝鮮、中国、インドはどのような評価となっているか見てみたい。アメリカ主導の介入が行なわれたイラクとアフガニスタンであるが、現状はまだ自由な国というには程遠い。イラン、北朝鮮、中国については当然ながら悪い評定である。ブッシュ政権が信頼にたる民主主義国であるとして核協定を結んだインドであるが、フリーダム・ハウスは2-3の評価しか与えていない。悪い評価ではないが、インドに過大な信頼を置いてはならないようだ。

フリーダム・ハウスの指標は完全ではないかも知れないが、文化的なバイアスがないことだけは明らかである。さらに重要なことには、この指標がアメリカの政策形成に重要な影響を与えるということである。共和党政権であろうと民主党政権であろうと、民主主義の拡大によるテロ集団とならず者国家の打倒はアメリカ外交の重要課題となる。だからこそ、このNGOから目が離せない。

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2006年4月22日

EU知識の小テスト

イギリス外務英連邦省のホームページで興味深い小テストを見つけた。問題はかなり難しい。貴方はどれだけできるだろうか?

私は10問中6問しか正解できなかった。かなり厳しい。EUについてもっと知っているつもりだったのだが。ヨーロッパは拡大し、進化している。

この小テストによってヨーロッパ統合への関心が深まれば、願ったり叶ったりである。

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2006年4月21日

英国、イラク・アフガニスタン平定と民主化の使命を主張

イギリスのトニー・ブレア首相は、世界の民主化とテロ打倒のためにもイラクとアフガニスタンの平定が是非とも望まれると明言した。

まずロンドンにある外交政策センターというニュー・レイバー系のシンクタンクでブレア首相が行なった演説の内容を見てみたい。ブレア首相は世界の民主化のためになぜ英米両国がイラクとアフガニスタンに駐留し続けなければならないかを明解に述べている。この演説の原稿はテロとの戦いを理解するうえで是非とも一読を薦めたい。(演説のビデオはこちら

西ヨーロッパ諸国では911以降のアメリカの政策は過剰反応だという意見が多数派を占めているが、ブレア首相はそうした考え方は外野席からの高みの見物で優柔不断だと一蹴している。さらに、民主化に向けた歴史的な転換期にあるイラクとアフガニスタンの両国を支援するためにも英米の駐留が必要だと訴えている。また、イラクとアフガニスタンでの英米の政策を批判する世論には次のように反論している。

「現在、ヨーロッパや日本で政権をとろうとするならば反米は格好のスローガンである。私は数週間前にスロバキア人の若い学生から米英のイラク介入に批判的な質問を受けたが、アメリカがその学生の国に自由をもたらさなければそのような質問はとてもできなかったであろうし、ましてや返答を得ることなど叶うはずもないことは明らかである。」

また、ブレア首相はアル・カイダとイランやイラク旧バース党員との関係はないという意見に対しては次のように明解な反論を述べている。

「確かにイランとアル・カイダは敵対関係にあり、彼らのテロ活動は支援していないかも知れない。だが歴史をふり返って見ると、同盟とは常に変化するものである。両者のイデオロギーから見れば、我々は敵である。」

さらに続けて、「『我々』とは欧米のことではない。・・・・・『我々』とは、宗教的な寛容、開かれた社会、民主主義、世俗的な司法に保障された自由と人権を守り抜こうとする者のことである」。ブレア首相は最も重要なメッセージを以下のように述べている。

「テロリストは、イラクやアフガニスタンは言うに及ばずレバノンでもその他の民主主義への道を歩む国々で成功を収めれば、アラブあるいはイスラム世界の民主化は頓挫してしまうことをよくわかっている。逆にこうした国々でテロリストが敗北してしまえば、民主化は進み、イラクの場合で言えば急速な発展への途を歩むであろう。そうなれば、テロリスト達の価値観は根底から正当性を失ってしまう。だがこれこそがアメリカ、西側先進国、その他の諸国についてのテロリストのプロパガンダに対する最も効果的な返答である。」

オーストラリアを訪問したブレア首相は議会で同じような内容の演説を行なった。英豪両国はイラクで緊密なパートナーとなっているので、この演説は国際社会に対してテロに対して強固な同盟がいかに重要かを再認識させるメッセージとなる。(演説のビデオはこちら

ここでもブレア首相はイラクとアフガニスタンでのイギリスの政策を以下のように主張している。

「勝利を収めるためには武力だけでなく価値観の戦いにも勝たねばならない。我々の価値観とはアメリカのものでもアングロ・サクソンのものでもなく、人類共通のもので世界市民に普遍的なものである。」

トニー・ブレア首相はアメリカとの強固な同盟関係が世界の平和と繁栄に不可欠な理由を以下のように述べている。

「アメリカ外交で懸念すべきことは、アメリカが積極介入に走ることではない。本当に危険なことはアメリカが対外関与に消極的になることである。我々にはアメリカの積極関与が必要である。現在の世界が直面している問題で、アメリカの力なしに解決できるものは何もないという現実を直視すべきである。我々がなすべきことは、問題を安全保障に留めないことである。我々の安全保障とは我々の価値観にあり、その価値観とは恐怖からの自由だけでなく正義と公正に基づくものであるなら、問題は安全保障にはとどまらず、同盟とはアメリカに限定されたものではない。」

ブレア首相のオーストラリア訪問からほどなく、ジャック・ストロー英国外相とコンドリーザ・ライス米国国務長官は4月3日にイラクを電撃訪問した。こうした抜き打ち外交はブッシュ大統領がイラクとアフガニスタンで過去に行なっている。バグダッドでの記者会見で英米外相はイラクの民主化のために、武装勢力の打倒とテロの原因の根絶に精力を注ぐ意志を示した。両外相はイラクの主権尊重と現在進行中の新政府設立に向けた動きを支持すると述べた。

ブレア内閣の外交政策をもっと理解するには、フォーリン・ポリシー誌の2005年5月号に掲載された”Think again”という論文を推薦したい。同誌のジェームス・G・フォーシス編集助手は、ブレア首相をブッシュ政権のプードルと見るのは誤りだと記している。ブレア首相はアメリカに対する協力の見返りに影響力を得たが、この政策を有効なものとするためにはそうした影響力の成果を高らかに口にすべきでない。トニー・ブレア首相による影響力の行使がなければ、ジョージ・W・ブッシュ大統領がイラク問題で国連決議を求めることはなかったであろう。また、イギリスの口添えがなければ、イラン問題でアメリカがヨーロッパを支援することもなかったであろう。

さらにフォーシス氏はトニー・ブレア首相が外交政策に関してはネオコンであると記している。ブレア首相は世界の民主化のための積極介入という大プロジェクトを支持し、必要なら武力行使も躊躇しない。米国のネオコン同様、ブレア首相もアメリカのリーダーシップなしには世界は動かないと信じている。ブレア首相は機会あるごとにアメリカの積極関与の必要性を説き、孤立主義に陥らぬように訴えている。2003年にアメリカ議会で演説を行なった際には、ブレア首相はアメリカがリーダーシップをとらねばならない理由を次のように述べている。「歴史の中での今この時にアメリカが世界のリーダーとしての使命を背負っている以上、それを全うするべきである」。ブッシュ政権のブレーンでもここまで説得力のあることを言える者はいない。

ブレア首相の演説は国際社会に対する重要なメッセージである。イラクとアフガニスタンの民主化に成功すれば、全世界に民主主義と安定を広められる。アメリカの最も緊密な戦略的パートナーとなることは隷属関係となる訳ではない。むしろアメリカを世界に関与させるべきである。ネオコンのアメリカの方が孤立主義のアメリカよりもずっと良い。 

どの同盟国の指導者もトニー・ブレア首相ほど重要な地位を占めていない。微妙なアウトサイダーだからこそ国際政治でのアメリカのリーダーシップの正当性を高められる。これはディック・チーニー副大統領からコンドリーザ・ライス国務長官、ドナルド・ラムズフェルド国防長官まで、政権内の閣僚の誰にもないポイントである。英米特別関係が世界の平和と安定の礎であり続けているのは、それなりの理由がある。ヨーロッパと日本の国民はこのことを理解する必要がある!

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2006年4月13日

中台関係と日米台同盟

今回はAHよりの投稿です。

今年は親台湾運動と独立派の陳水扁大統領の年である。陳氏は中国(中華人民共和国)本土で操業している台湾企業の増加に見られるような企業投資の拡大から、旧正月休暇期間中の台北からの本土への直接飛行を再開し増便しようという合意まで取りつけた。その一方で台湾ではタカ派の民主進歩党(DDP) の党首の座を守り続けた。昨年初頭には台湾と中国の関係は緊張がやわらぎ, 台湾財界人は中国との経済的関係強化による利益を強引に主張した。こうした経済関係の強化とは裏腹に, 台湾民主進歩党の指導者達は独立への希望を捨ててはいない。陳大統領は中国に対して硬軟両方を上手く使い分けた外交政策をとっていることが明らかである。陳大統領は大陸への投資を活用して中国との経済関係を強化しながら、他方では台湾の主権に関しては妥協を許さぬ政治姿勢を示して独立派の動きを勢いづけている。

経済的な視点だけで見ると中台関係はかなり一方的で、海峡間の投資の急速な拡大に見られるように中国は台湾の最大貿易相手国となってしまった。これは以下、二つの理由のから重要である。

(1)    歴史的に見て、経済統合が進めば国家間の友好関係が進む場合が多い。

(2)    中国への投資によって台湾は膨大な貿易黒字の恩恵に与り、経済成長を一層推し進めようとしている。

貿易と投 資によって経済関係の強化は進むが、その裏で両国関係の政治的あるいは軍事的要素に触れる必要がある。陳大統領が台湾の独立を守りきれるかどうかわからないが、経済関係だけが中台関係を決定づけるわけではない。

中台の経済関係の発展とは裏腹に、政治と軍事の面では両国関係の緊張は続いている。両国の貿易は活発になっているが、1972 年以来は両国民の間での建設的で持続的な対話が行われることはなかった。1949 年以来、台湾と中国は別々の政府と政治体制を維持してきたが、大陸政府にとって「二つの中国」は許容できないうえに正当なものとは考えられない。中国が台湾独立派に対して「国家分裂反対法」を制定してから1年が経過し、その間に政治関係も悪化した。台湾と中国の立場は正反対で、台湾はますます独立意識を強める中で中国は時代に逆行した政治宣伝や軍事的恫喝に訴えている。

台湾海峡問題は台湾, 中国, 日本そしてアメリカにとっては中台二国間問題を超えた地域全体の問題となっている。また地域機構も国際機関も中国の直接的な軍事行動を抑止している。こうした機関にはASEANやAPECに代表される地域協定と国連がある。周辺諸国が中国の意図に疑念を抱いていることもあって台湾海峡をめぐる政治情勢は不安定なので、中国が台湾を併合して再統一のしようにも国際社会の支持は得られないということは銘記すべきである。現在、台湾与党は台湾の独立を主張する中で、これに対して中国が異を唱えて台湾海峡の緊張は高まっており、アメリカも現状維持を呼びかけている。中国が台湾をならず者の省と見なしていることは驚くほどのことではない。両国の政治経済体制は共産主義者と民主主義とう互いに相容れないものだからである。このような政治経済的な文化衝突は、中台関係において一層重要になってくる。

台湾海峡問題でのアメリカの立場は、台湾の市場経済と民主政治への長年にわたる支持から明らかである。だがワシントンは台湾の独立を支持しているわけではない。それどころかアメリカは「三つのNo」という方針をとり続け、一 貫して現状維持を訴えた。 具体的には

(1)   台湾の独立を拒否

(2)   二つの中国を拒否(一つの中国政策)

(3)   主権国家が加盟する国際機関または同盟ならばどのようなものでも台湾の加盟を拒否

さらに台湾関係法(TRA)も台湾独立を支援するものではない。TRAは本質的に一国複数制度による中国の経済的そして文化的な統合を求めている。だが両国の政治的あるいは軍事的な統合を求めている訳ではない。2003年にアメリカのブッシュ大統領が中国の温家宝首相と会談した際にもアメリカは台湾の独立を支持せず、台湾海峡を紛争での単独行動には反対するというこの方針は再確認されている。台湾問題で中国と軍事的に対決することはアメリカの望むところではない。だがアメリカは台湾に武器を売却して軍事的な支援を行なっており、海峡の向こうから台湾に700基のミサイルを向けつける中国軍に睨みを利かせることになる。

陳水扁大統領のここ数年の国内政策ではアメリカとしても台湾への支援に疑問視せざるを得ないが、アメリカの台湾政策自体は変わらない。陳氏が民主進歩党の公約通りに国家統一審議会(NUC)を廃止して台湾が独立国同然に振る舞ったとしても、アメリカが「一つの中国」という方針を変えることはない。

日本政府は自国の与党自民党と良好な関係にある台湾民主進歩党に対して好意的である。だが日本の支持も軍事的には当てにならず、政治的にも弱まってきている。中国は日本の最大貿易相手国としての地位を利用して、日本の対台湾認識について大きな影響をもたらすようになってきている。日本は台頭する中国市場での経済的利権に熱い視線を注いでおり、台湾問題のために中国との関係を犠牲にしようとは思っていない。軍事力の弱さは言うまでもないが、紛争が生じても日本の軍事行動には憲法9条が効果的な歯止めとなっている。実のところ日本は中国との貿易拡大という経済的な利権を追及すべきか、日本の文化的あるいは政治的な影響力を頼みとするアジア民主主義の友邦を支援すべきかの狭間で揺れている。日本が本当に影響力を及ぼせるのは軍事力ではなくソフトパワーであるのは明らかで、政治的には中国が主張する「一つの中国」の原則を認めながらも台湾との文 化的そして経済的な関係を強化してゆくべきである。2005年に日本はアメリカとともに台湾海峡の緊張緩和のための共同宣言に署名したが、いかなる形でも台湾への軍事支援を行なえるのはアメリカであって日本ではない。

この問題は事態が流動的なので、最終的にどのような結果となるか予言することは不可能である。 だが、アジア太平洋地域の急速な経済成長を考慮すれば、経済発展を妨げるような衝突は回避されなければならない。 確かに陳氏が独立を押し通すのは、支持率の低下や自分の政治的業績を残そうという欲望に突き動かされているといった内政事情の影響もある。陳大統領は来る選挙で憲法改正問題を取り上げると明言した。どのように憲法が改正されても、台湾の完全独立を促進してしまう。陳氏は2008年に大統領職を退くので、台湾の戦略的な不均衡と中国との対立が続くようなら, 台湾の次期政権は分離か現状維持かの選択を迫られることになる。これはきわめて重要で最終的には地域にも国際社会にも大きな影響を与える。

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2006年4月 5日

キッシンジャー元長官、インドを語る

先のブッシュ 大統領のアフガニスタン, インド, パキスタン歴訪はアメリカ外交では画期的な出来事である。インドとアメリカのパートナーシップはこれまでになく強まった。アメリカはアフガニスタンに全面的関与してゆく意思を示した。一方でパキスタンの相対的な重要性は低下しつつあるように思える。あれから1ヶ月たつが、インドはワシントンで重要な問題となっている。

この問題の全体像を理解するために、ヘンリー・キッシンジャー元国務長官がインターナショナル・ヘラルド・トリビューンに寄稿した” Anatomy of Partnership” という論文に触れたい。この論文の中で、キッシンジャー氏はアメリカがこの強大な英語圏の民主主義国と新しいパートナーシップを築き上げることを歓迎している。アメリカとインドはイスラム・テロという共通の脅威に直面している。9・11以来、イエメンからムンバイに至るまでの地域でイスラム過激派を敗北に追い込むためにもアメリカとインドのパートナーシップは従来にも増して重要になった。また、インドをグローバル経済に組み込むことも必 要である。グローバル化には利益も損失もあるが、米印両国は相互協力によってこうした問題を克服できる。

他方で新しい世界秩序の構築にインドが加わることはアメリカの世界戦略にとって多いに有益であるが、キッシンジャー氏はインドを中国その他のアクターに対してアメリカの外交カードとして使用しないように警告している。また、チベットをめぐって対立しているにもかかわらず、インドも中国もユーラシア大陸中心部での力の優位を追求していないという。キッシンジャー氏によれば、アメリカもインドもの中国との建設的な関係を築く必要に迫られており、インドを中国に対する封じ込めに利用することはアメリカの国益にはそぐわない。

最も重大な問題は核協定である。キッシンジャー氏はインドの核保有は後戻りできないが、インドが拡散防止に取り組むことを明確にすることは必要であると主張している。R・ニコラス・バーンズ国務次官はヘリテージ財団での講演で同じような内容を述べている

アメリカとインドのパートナーシップについての賛否の議論で, 最も深刻な問題は核拡散防止の問題である。アメリカは現行の拡散防止体制に対する効果を考慮しないでインドを信頼しても良いのだろうか?

親インド派の論客はインドを信頼に足る民主主義国家と見ている。彼らは現行の現在NPTの枠外で現実的な合意に至れば核軍備管理に有益であると考えている。

カーネギー国際平和財団のロバート・ケーガン上級研究員は、インドのように強大で経済的にも繁栄している民主主義国なら中国とロシアの力を牽制できると述べている。最も注目すべきは、イランとインドに対してアメリカがとっているダブル・スタンダードを支持していることだが、それはイラ ンが瀬戸際外交をとるのに対してインドはそのようなことはしないからである。ケーガン氏は現行のNPT体制は核拡散を防ぐ有効な道具であることは認めながらも、この体制が崩壊しつつある現状ではインドとの現実的な取り決めは避 けられないと主張している。

こうした考え方はネオコンやブッシュ政権支持者の間で広く行き渡っている。ヘリテージ財団ダグラス/セーラ・アリソン外交政策センターのヘル・デール所長は、インドに批判的な主張は、犯罪者が拳銃を所持しているの善良な市民は銃を持てないワシントン市の銃規制法のようなものであるとまで例えている。

IAEAもこの協定を歓迎している。アメリカの保守主義者と国連官僚機構の間の冷え切った関係を考えると驚くべきことである。インドはNPTへの署名を拒否しているが、モハメド・エルバラダイ事務局長はインドのエネルギー需要の増大を満たしながら拡散防止体制でより重要なパートナーとなってもらうためには米印協定を支持するという。今回のような取り決めは過去30年間にインドによる核拡散がなかっためで このように特別な取り決めがインドの隣国でライバルでもあるパキスタンその他の国には適用されないとR・ニコラス・バーンズ氏がロイター通信社に語ったことは注目に値する。バーンズ氏が言うには、これが北朝鮮のような核拡散国家とインドとの決定的な違いである。

ブッシュ政権が充分な見返りのないままにインドにあまりに利益を与えたことを懸念する 論客もいる。カーネギー国際平和財団の大量破壊兵器拡散防止プロジェクトのジョセフ・シリンシオーネ部長によれば、ブッシュ大統領はどの核施設が査察から免除されるかについての決定権をインド側に委ねてしまったという。これでは交渉当初から追求してきた通常通りの全面的な査察とはかけ離れたものになっていると言う 。さらにダブル・スタンダードによってアメリカがイランの核保有を防ごうとしている努力が正当性を失うのではないかと警告している。

共和党の中からもリチャード・ルーガー上院外交委員長、ヘンリー・ハイド下院国際関係小委員長、エド・ロイス下院国際テロ及び拡散防止小委員長といった有力政治家が、今回の取り決めがインドに対して余りに寛大で拡散防止の目的が犠牲にされているのではないかと懸念の声が挙がっている。

米印両国の取り決めが効力を発する前にインドがロシアからのウランを輸入しているので, 反対派の意見には一考の価値がある。

こうしたの賛否両論の中で、カーネギー国際平和財団のジョージ・パーコビッチ副所長インドを組み込むためにも拡散防止体制は柔軟なものに変わる必要性があると言う。ただ今回の取り決めでは不明瞭な文言があり、合意に至るまでが早過ぎるのではと懸念している。「平和利用」と「軍事利用」の文言は厳密に定義されなければならないと述べている。パーコビッチ氏はブッシュ大統領のアプローチに全面的に賛成しているという訳ではないが、ダブル・スタンダードについては次のように弁護している。

「イランは法的義務を果たしておらず、それらを説明責任がある。また、イランはインドとは違って特定の国が存在する権利を認めていない。イランはインドと違いテロ活動を支援している。両国の違いは著しい。」

最後にアフガニスタンとパキスタンについて手短に触れたい。アフガニスタンへの抜き打ち訪問のためにブッシュ大統領はタージ・マハールを訪れなかった。ビル・クリントン前大統領とは 違ってインドでタイガー・サファリを楽しむことはなかった。こうした事実からもブッシュ政権がアフガニスタン問題をいかに重視しているかがわかる。一方でアメリカにとってパキスタ ンの重要性は低下している。それはバーンズ氏がヘリテージ財団で行なった講演内容を見ればよくわかる。そこではインドについて余りに多く語られているのに対し、パキスタンについては余りに少なく語られている。

基本的に,インドをグローバル経済に組み込み、この強大な英語圏の民主主義国との戦略的なパートナー シップを確立しようというブッシュ政権の方針は正しい。しかしインドは自らの判断で自らの国益に沿って行動することを忘れてはならない。アメリカはこの国を盲目的に信頼してはならない。現在はニュークリア・スレット・イニシアチブという団体の会長を務めるサム・ナン元上院議員は、今回の取り決めではインドには充分な義務を課さないでアメリカの国益を損なう事態に陥るのではいう深刻な懸念を述べている。こうなると議会での賛否論争は激化する。今後の議会での討論の行方はアメリカ外交と全世界の核拡散防止の将来を左右する。

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