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2006年4月30日

自由の格付け:フリーダム・ハウスの指標

現在のアメリカ外交の重要な課題の一つが自由と民主主義の拡大である。この目的を達成しようというなら、政治プロセスや市民の権利を査定する必要がある。この問題について書こうと思ったのは、真魚さんマイク・ロスさんのブログ討論を読んでからである。

二人とも私にとってブログ上の友人である。真魚さんはJ・F・ケネディ大統領のリベラル政治を信奉する日本人である。一方でマイクさんはユニークなバックグラウンドの持ち主である。神戸育ちのアメリカ人で、徹頭徹尾のアメリカ保守主義者でありながら数年前に日本国籍を取得している。

真魚さんはニューヨークタイムズの大西哲光東京支局長が昨年9月に寄稿した"Why Japan Seems Content to Be Run by One Party"という記事を引用し、長らく一党支配下にあった日本は韓国や台湾より民主主義の発達が遅れていると指摘した。これに対してマイクさんは日本で公権力が市民の自由を侵すことはないと反論した。

二人の論争に参加した私は、自由と民主主義について客観的なデータを参照する必要があると感じるようになった。そこでフリーダム・ハウスのホームページを閲覧してみた。

フリーダム・ハウスは影響力のあるアドボカシー(市民政策提言)団体で、アメリカのリーダーシップによって自由を広める目的でエレノア・ローズベルト大統領夫人らによって設立された。ウクライナのオレンジ革命では、学生の反体制運動への支援で中心的な役割を果たした。フリーダム・ハウスの委員会には元政府高官、財界や労組の指導者、学界、文壇、メディアといった各界の人物が名を連ねている。フリーダム・ハウスが提起する人権問題は、世界の民主化というアメリカ外交の中核課題で重要なものになっている。フリーダム・ハウスの評価がどのようなものか、一見の価値がある。

フリーダム・ハウスは現状を1から7の7段階に分けている。数字が小さいほど良い評価となっている。その結果については「各国の現状2005年」に示されている。最高の評価は1-1、すなわち政治的権利(PR)と市民の自由(CL)の両方で1ランクをマークすることである。当然のことながら、以下の欧米民主主義国がこの評価となった。

アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、デンマーク、スウェーデン、ノルウェー、フィンランド、オランダ、ベルギー、等

注目すべきは「新しいヨーロッパ」に1-1という評価になった国が目立つことである。こうした国々は民主主義になってから日が浅く、旧共産体制下にあった国がこれほど急速に自由な社会になれるのかは疑問の余地がある。ともかく、「新しいヨーロッパ」では以下の国が1-1となっている。

ポーランド、エストニア、チェコ、スロバキア、スロベニア、ハンガリー

日本は本当に自由な国なのだろうか?フリーダム・ハウスの指標では政治的権利で1、市民の自由では2という評価になっている。韓国は1-2、台湾は2-1なので、日本が両国より悪いということはない。大西支局長が言うほど事態は悪くない。だがこれらの国の民主主義は欧米の水準には達していないので、フリーダム・ハウスの評価は甘過ぎるのではないかと思える。日本の専門家として名高いカレル・バン・ウォルフレン氏は日本社会のシステムがアカウンタビリティ(説明責任)に欠けることを”The Enigma of Japanese Power”“Keeping the People Ignorant”といった有名な著書で述べている。こうした視点に立てば、フリーダム・ハウスは日本に甘過ぎる評価を下していることになる。韓国は権威主義的な警察、反日あるいは反米の感情を煽り立てる政治を考慮すれば、日本以上に評価を下げねばならないと思われる。

フリーダム・ハウスの評価はどのように行なわれるのだろうか?方法については以下のように記されている。

「フリーダム・ハウスでは自由のあり方について各国の文化を尊重している。私達の方法は国連人権宣言に基づいて行なわれた調査によって評価を下している。この基準は地理的位置、民族宗教構成、経済開発水準を問わず、全ての国と地域に当てはまる。」

途上国の中にも1-1の評価を得た国があることは注目すべきである。確かにフリーダム・ハウスの評価は公平で、欧米あるいはアングロ・サクソン中心主義ではない。以下の途上国が1-1の評定であった。

バルバドス、カポベルデ、チリ、コスタリカ、キプロス、ドミニカ連邦、キリバス、マーシャル諸島、マルタ、モーリシャス、ナウル、ツバル、ウルグアイ

最後に、何かと話題になる国、すなわちイラク、アフガニスタン、イラン、北朝鮮、中国、インドはどのような評価となっているか見てみたい。アメリカ主導の介入が行なわれたイラクとアフガニスタンであるが、現状はまだ自由な国というには程遠い。イラン、北朝鮮、中国については当然ながら悪い評定である。ブッシュ政権が信頼にたる民主主義国であるとして核協定を結んだインドであるが、フリーダム・ハウスは2-3の評価しか与えていない。悪い評価ではないが、インドに過大な信頼を置いてはならないようだ。

フリーダム・ハウスの指標は完全ではないかも知れないが、文化的なバイアスがないことだけは明らかである。さらに重要なことには、この指標がアメリカの政策形成に重要な影響を与えるということである。共和党政権であろうと民主党政権であろうと、民主主義の拡大によるテロ集団とならず者国家の打倒はアメリカ外交の重要課題となる。だからこそ、このNGOから目が離せない。

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アメリカのリーダーシップ/世界秩序」カテゴリの記事

コメント

舎さん、

ブログの紹介ありがとう御座います。フリーダムハウスで日本について読んでいるとCivil Libertiesで日本が向上できるとかかれています。部落民、アイヌ、在日韓国・中国人、外国人の扱い及び女性に対してのセクハラ、談合などが指摘されている。

部落民・アイヌ問題は私が子供のころと比べると大きな問題とはいえないぐらいになったと思います。在日韓国・中国人問題はアメリカの移民問題と同じく、”同化”をどのように見るかで視点が変わると思います。外国人の扱いについては”When in Rome, do as Romans do"を外人さんが志せば… 温泉に石鹸をつけたまま入ってこられては困る宿って感じの問題ですよね。日本人の顔を持つ日系外国人が一番問題視する問題でもありますが…

日本で生まれ、日本で育つ人が”自分の両親の”血”、”ルックス”の為に何かできない”時代は過ぎたと思います。言い訳でいくらでもいえますが。”Excuse is the tool of the incompetent"ですからね。

官僚主義、談合、天下りなどがもう少し無くなればもっと”自由”な国になるのでは?

MikeRossTky

投稿: マイク | 2006年5月 1日 17:08

舎さん、

イスラム社会の人々は非「自由」なのかどうか、価値観で分かれると思います。例えば、江戸時代は封建制度で身分社会でしたが、庶民は不自由感を感じていたのかどうか。おそらく、エレノア・ルーズベルトには理解できないのではないでしょうか。

投稿: 真魚 | 2006年5月 2日 20:09

真魚さん

フリーダム・ハウスはイスラム文化であるが故に非「自由」という評価を下した訳ではないと思います。イスラム圏では以下の国と地域が比較的良い評価でした。

アルバニア(3-3)、マリ(2-2)、ニジェール(3-3)、トルコ(3-3)

この中でもマリはブッシュ政権が「信頼に足る民主主義国」としているインドより高い評価で「自由な国」の範疇に入っています。非独立国ではトルコ系住民が建てた北キプロスが2-2となっています。

少なくとも、イスラム教であるが故に不当に評価が下がっているとは言えません。

ただし、記事中でも述べたように、フリーダム・ハウスの指標が完全なものかどうかは疑わしいところもあります。しかし、これが正しいか否かにかかわらず、アメリカ政府の政策に大きな影響を与えているのなら見過ごすわけにはゆきません。

投稿: 舎 亜歴 | 2006年5月 2日 20:50

マイクさん、

在日韓国・朝鮮人についてはある程度の「反日」あるいは「反米」の思想に寛容である必要はあります。しかし、今は「テロとの戦い」の時代なので日本人や在留外国人の安全に脅威を与えるなら事態は変わってきます。

例の拉致問題では朝鮮総連が北のスパイに協力した事実があります。南の系統である民団も拉致に協力していたとも言われます。このような安全保障上の脅威となるなら、それなりの対応が必要です。北の核武装に協力している者もいると言われます。

とにかく、彼らが日本の敵か味方かをはっきりさせることが重要です。味方とはっきりすれば人権を尊重する。しかし敵ならば、彼らの自由に制限を加える必要があります。

基本的に、どのようなバックグラウンドがあっても良き市民として生活する者には寛容なのは当然です。

談合体質と言えば、良かれ悪しかれこの問題に着手したのが小泉改革でした。格差社会ばかり取り上げるメディアは、このことを考え直して欲しいです。ただし、いわゆる「勝ち組」にはマックス・ウェーバーが言う「プロテスタンティズムの倫理観」が欠けているのは苦々しく思っています。

「ルックス」と「血」?確かにかつての日本人はそうした異質性に戸惑うところがありました。一方でモデルなどでは典型的な東洋人の平たい顔よりも目鼻立ちのくっきりした白人的な顔が好評価でした。草刈正雄などがそうした例になるでしょうか。

偏見とあこがれは表裏一体とも言えそうです。

投稿: 舎 亜歴 | 2006年5月 2日 21:19

興味深いトピックをありがとうございます。
私は、日本は、かなり自由の高い国だと思います。特に、言論においては、日本かなり自由があるのではと思います。

やはり、歴史を見れば分かるとおり自由のない国は硬直して、決して豊かになることは出来ないと思います。
例を挙げれば、職業の自由、結社の自由、言論の自由(批判できる)、など、こういった自由は人々の流動を容易くしや硬直した世論や考えを防ぎ、政治家の腐敗をなくすのに必須だと思います。ひいては、自由というものが豊かさも作っているのではと思います。

舎さまがおっしゃっている、『勝ち組』も生まれ(親の財産の差)ばかりを煽るばかりではなく、本人の努力と資質次第で皆、勝ち組になれるんだという事も強調して欲しいですね。
『勝ち組』、『負け組み』で分ける自体ナンセンスだとは思いますが。

そういうことを、考えると、左派の人や、第3国のゆうアメリカの資本社会が搾取云々というより第三国世界の不自由さが国を貧しくさせてるのではと思います。
自由と豊かさは切っても切れない関係にあるのではないかと思います。

多分、舎様と意見が同じようなので、メルマがもとってますが、情報が少なくて残念です。

これからも、良質な情報を提供してくれると期待しています。

投稿: Tea | 2006年5月 3日 10:32

基本的に日本が自由な国の範疇に入ることに異存はありません。ウォルフレン的な日本は壊されつつありようですが、今後はどうなるのか?

私は特別に小泉政権の熱心な支持者ではありませんが、これまでどの政治家も手をつけなかった問題に着手したことだけは確かです。

今後も宜しくお願いします。

投稿: 舎 亜歴 | 2006年5月 5日 15:53

http://www.opinionjournal.com/wsj/?id=110008342

上記のURLの記事を読むと”自由”がはぐくまれる環境とは何か?と問いたくなりますね。

真魚さんは”自由”の定義を討論したいようで…”イスラム社会の人々は非「自由」なのかどうか”を日本の江戸時代と比べてまでも。

イスラム社会では人の自由は踏みにじられている。イスラムの国の中だけでなく、他国にまでもその影響を与えようとしている場合もある。

政府がテロリストから国民を守ろうとすると”自由”の侵害だ!イスラム教徒が自分の妻、子供を監禁することは”文化”だと言って非難しない。

定義をころころ変えるリベラルの方々のモラルですね。

MikeRossTky


投稿: マイク | 2006年5月10日 13:15

Mike,

イスラム教徒であるだけで「敵」であるかのように扱うのがいかがなものか。イスラム社会に問題があったとしても、それは彼らの問題であって、アメリカ軍が介入すべきことではありません。ベトナム化している今のイラク占領をみても、それはよくわかりますね。アメリカ国内は合衆国憲法の範囲の場所です。国民のメールや電話を盗聴して、それでテロが防げるのでしょうか。自由であることは、そのリスクを背負うことです。そのリスクを避けたいがために、テロ対策と称して国民を監視しているのが今のブッシュ政権です。

投稿: 真魚 | 2006年5月11日 00:28

真魚さん、

<<イスラム社会では人の自由は踏みにじられている。

<<イスラム社会に問題があったとしても、それは彼らの問題であって

私が提示したURLの記事を詠みましたか?アメリカ軍とイラクの次元ではありませんよね。(なんでもその次元でお話するのは…)

隣の家に住む人が妻を虐待し、11歳の二人目の妻を娶り、子供を家の名誉を守るため殺す。それを”イスラム社会の問題”と片付けていいのですか?

韓国では北朝鮮がどのように”兄弟”を扱おうとも”Future Unity"の為、目を瞑る。

モラルってなんでしょう?

また”国民のメールや電話を盗聴”と真実の半分だけを提示しての論議をなぜおこなうのですか?アメリカ国内から海外のAl Quaidaのものとわかっている電話番号やメールへの通信を傍受することがなぜテロで死ぬリスクと”自由”の天秤にかけられるのでしょうか?

普通にFBIや警察がギャングやマフィアから国民を守る事に使うツールをAl Quaida相手に使ったらなぜいけないのでしょうか?それほどまでにリベラルな人達はAl Quaidaに勝利を与えたいのでしょうか?それまでにアメリカに負けてほしいのでしょうか?

MikeRossTky

投稿: マイク | 2006年5月11日 08:50

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