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2006年5月10日

米国リベラル派の巻き返しなるか?:新興シンクタンクを検証

今年は中間選挙の年である。重要な問題の一つは、リベラル派が巻き返すかどうかである。CBSとニューヨーク・タイムズが行なった世論調査によれば、ブッシュ大統領の支持率は就任以来で最低の31%まで落ち込んだ。現時点では44%の有権者が民主党に、33%が共和党に投票すると答えている。

世論調査の結果は移ろいやすい。リベラル派が真剣に政権を取ろうというなら、国民から本当の信頼を得るための政策ビジョンを示さねばならない。さもなければ、現政権への批判だけに終わってしまう。

2003年にビル・クリントン政権のジョン・ポデスタ大統領首席補佐官が「アメリカ進歩的政策センター」(CAP:Center for American Progress)というリベラル派のシンクタンクを設立し、アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)やヘリテージ財団といった保守派のシンクタンクに対抗しようとしている。現在のところ、リベラル派の有力シンクタンクは皆無と言っても良い。ブルッキングス研究所は民主党との関係が深いとはいえ、イデオロギー色が濃厚というわけではない。さらに規制の問題ではAEIと共同プロジェクトを立ち上げている。その他にも政治的な影響力の強いシンクタンクは多いが、外交問題評議会、カーネギー国際平和財団なども不偏不党ないし中道派である。「新世紀アメリカのプロジェクト」はネオコンであり、ケイトー研究所はリバータリアン(自由市場経済至上主義)である。

ここまで読めばわかるであろうが、政策立案に関して言えばリベラルはまだまだなのである。実際に、テロとの戦いに限ってみると共和党が40%の支持を得ているのに対して民主党は35%に過ぎない。そうした事情から、合衆国と世界が直面する現在の危機をリベラルが本当にうまく対処できるのか検証することが重要である。

まず、このシンクタンクの設立目的を見てみたい。CAPのモットーは「強く、公正で自由なアメリカのための進歩的な構想」である。この目的のために、「アメリカ進歩的政策センター」は内政、経済から安全保障にいたる広い範囲にわたる政策研究を行なっている。

外交問題では以下のような目的を述べている。

当センターは強力で有効な軍事組織を作るべきだと主張している。そしてアメリカの本土防衛に全力を尽くすとともにテロと戦い、ボーダーレスな脅威への対処能力を高めるべきだと訴えてゆく。またアメリカの国益を守るためにも同盟国との関係を強化し、法の支配を徹底させるためにも多国間機関とも連携を強めるべきだと信じている。

従来のシンクタンクは違い、反ブッシュ政権の方針を明確に打ち出している。また、広い範囲にわたる政策について一般市民への啓蒙活動にも力を注いでいる。CAPには実現できるだけの政策があるのだろうか?昨年10月にCOMBATING CATASTROPHIC TERROR: A SECURITY STRATEGY FOR THE NATION”というレポートを出版したが、これはクリントン政権下のマデレーン・K・オルブライト元国務長官をはじめとする専門家が執筆している。このレポートではイラクからの撤退が主張されているが、その後をどうするかについては述べられていない。興味深いことにはリベラルの識者であっても現政権と同様に中東の民主化をアメリカ外交の重要課題と位置づけていることである。

アメリカと世界がどうなるかを見通すためには、選挙の結果だけに注目するような近視眼的思考は良くない。共和党であれ民主党であれ、選挙での勝利は目的でなく手段に過ぎない。リベラル派は現在の危機にもっとうまく対処できるのだと国民を納得させる必要がある。テロとの戦いについては共和党の方が民主党より支持率が高いという事実を忘れてはならない。

リベラル派は現政権よりもアメリカと世界が抱える現在の難題にうまく対処できるのだろうか?答えは彼らの政策ビジョンにある。だからこそこの進歩派シンクタンクの動向を見過ごせないのである。

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アメリカのリーダーシップ/世界秩序」カテゴリの記事

コメント

舎さん、

リベラルのシンクタンクって新しい事ではないと思いますよ。昔から”Urban Institute" http://www.urban.org/ などのシンクタンクはリベラルな政策の後押しとして活用されてきました。

問題は新しい考えが全くと言って良いくらいこのようなシンクタンクから出てこないということです。昔ながらの社会主義、共産主義のコンセプトで動いているので… 

新しいコンセプトが出てこないから、既存のコンセプトを”温暖化”、”環境”や”人口コントロール”などの”Crisis"をでっちあげているのが現状です。

MikeRossTky

投稿: マイク | 2006年5月12日 22:30

アメリカには無数のシンクタンクがあるので、確かにリベラルなシンクタンクが目新しいということはありません。日本でも知られるようなトップ・クラスのシンクタンクとしてはCAPの動向は注目すべき存在かなと思っています。

シンクタンクも色々で、特定分野に特化したものもあります。有名でなくてもかなりな影響力をふるうものも多いです。全てにはとても目が届きませんが。

ところで、
>新しいコンセプトが出てこないから、既存のコンセプトを”温暖化”、”環境”や”人口コントロール”などの”Crisis"をでっちあげているのが現状です。<

これはどうでしょうか?こうした問題では有名なシンクタンクのワールド・ウォッチ研究所や世界資源研究所(WRI)が特にリベラルなイデオロギー、即ち大きな政府やハト派外交を主張しているわけではありません。また、民主党支持をうたっているわけでもありません。

それとこうした問題は別に保守にとっても重要なのでは?2005年NATO首脳会議を前にブルッキングス研究所がまとめた米欧賢人会議の盟約では温暖化防止がうたわれていますが、その署名者にはサッチャー政権下のダグラス・ハード元英外相やロバート・ケーガンといった保守派の論客の名前もあります。

確かにリベラルが強い分野ではありますが。

投稿: 舎 亜歴 | 2006年5月14日 19:41

舎さん、

Brookings Institutionの温暖化に関わる論文はhttp://www.brook.edu/index/taxonomy.htm?taxonomy=Science%20and%20Technology*Environment%20and%20energy*Global%20warming%2C%20climate%20changeで見ることができます。論文を提出している”人”のResumeを吟味する必要があると思います。Brookings Institutionは"Independent"を売りにしている研究所ですが、やはり"Environmental Issues”に関して参加されている人は温暖化で食っている人達がメインです。政治で”保守派”と考えられていても、温暖化問題では世論のまま動く人も多いかと思います。

Brookings InstitutionのMcKibbin氏の論文などを読むと、科学的問題を残した温暖化問題をどのように政府は扱うべきかを問うものなどもあります。

現時点で”Environmentalist”は温暖化抜きで飯を食って行く事は難しい環境です。リベラルな思想に基づいての科学が横行している限りこの問題をちゃんと科学的に証明して政治的な対応を行なう事は難しいと思います。

最終的にはみんなお金を使って、結果は… で終わるとおもいますが、その無駄をどこまで抑える事ができるかが小さな政府を推奨する保守思想家の課題かと思います。

MikeRossTky

投稿: マイク | 2006年5月15日 10:44

温暖化ガス排出については確かに科学的に完全なモデルを作り挙げるのは難しいでしょう。もっと現実的な対策――例えば森林や湿地の保護や再生に力を入れた方が温暖化防止に役立つうえに、経済界への負担も少なくなるはずです。温暖化ガスの吸収だけでなく、森林や湿地に気温上昇を抑える働きがあるので。同じように政府の資金を使ってもこれなら有効と思われます

イラクではサダム時代にシーア派討伐のため下メソポタミアの湿地を干上がらせてゲリラの隠れる藪をなくしたとか。こうした湿地が回復すれば、広大な周辺地域が冷却できるはずです。

ただ、何事も一度動き出したプロジェクトを方向転換させるのは容易ではありませんが、温暖化問題で給与を得ている人材をもっと有効な対策に転用することは不可能ではないと思われます。

米欧賢人会議については以下のリンクで。温暖化にも触れられていますが、この主題はイラク戦争後の米欧関係の修復です。気候変動は副次的な問題なので、これにenvironmentalistの影響は余り及ぼされていないでしょう。

http://www.brookings.edu/fp/cuse/analysis/USEUCompact.pdf

環境問題には人類共通という大義名分があるだけに、時には「保守的な」政治目的に利用もできます。特に中華帝国の封じ込めには。先の大陸棚紛争で、日本はなぜ海洋環境保護という名分を振りかざさなかったのか悔やまれます。中国の未熟な技術で海底資源開発をやって大丈夫かぐらいは言わないと!!!

いつも歴史認識という特殊な問題で中国に苦しめられている日本、ここぞとばかりに普遍的な正義で反撃できるのに!!!

投稿: 舎 亜歴 | 2006年5月16日 23:39

舎さん、

<<温暖化防止に役立つうえに

温暖化はまず起きている事が前提の発言ですか?

また、

<<同じように政府の資金を使ってもこれなら有効と思われます

なぜ、税金をこのような事に使う必要があるのですか?

<<温暖化問題で給与を得ている人材

これが問題ではないのでしょうか?給与を得るためにこの”税金”や”寄付金”で養われている人達はどのような結果を作りますか?この人達はマーケットフォースの外にいるわけですよね。

科学者は真実・証拠をベースに動くはずです。研究費用の基となる団体がほしい情報を出して給与を得るのはおかしいのでは?政府が真実・証拠を探すために科学者を雇うのはOK。政策に合う”結果”を作り出すのは問題では?

リベラルの方々も歴史を振り返って起きた科学と政策が癒着した結果を探せば問題があることに築くと思うのですが。Eugenicsなど例は沢山あると思いますよ。

いかがでしょう?

MikeRossTky

投稿: マイク | 2006年5月17日 22:48

Folks,

I wana post the trailer for former Vice-President Al Gore's movie "An Inconvenient Truth" here

http://www.apple.com/trailers/paramount_classics/aninconvenienttruth/trailer/

Take action now!!

投稿: 真魚 | 2006年5月18日 23:43

マイクさん、

どうもお待たせしました。温暖化について、WRIの報告書を閲覧してみましたが、地域ごとに気温が上昇しているところとそうでないとろこがあるようです。その中でも、極地方の気温上昇は深刻です。これはNASAの調査に基づいており、科学的です。

リンク先は
http://pubs.wri.org/pubs_content_text.cfm?ContentID=3951

こうしたデータを見れば、温暖化はあることを前提に政策を立てるべきでは?実際に今年の大統領一般教書演説でも石油資源と温暖化には触れられていました。

少なくとも設立目的が
"WRI's founders saw the need for an institution that would be independent and broadly credible, not as an activist environmental membership organization"で

"That research and analysis had to be both scientifically sound and politically practical."である以上、基本的に怪しげな情報で世論を扇動することはあり得ません。

より詳しくは
http://pdf.wri.org/climatescience_2005.pdf

気候変動の問題はさておいて、
>>この人達はマーケットフォースの外にいるわけですよね。<<

マーケットフォースは確かに経済を効率的に動かすうえで最も重要な働きをしますが、企業活動以外の分野には適用できません。公益や文化に関わることに「いくら注ぎ込んだから、何時までにこれだけの結果を出せ」とはゆかないはずです。

もちろん、民間で公益や文化に関わる活動を推進することは大賛成ですが、長期的で大きな視野に立ったプロジェクトには政府の支援が必要な場合もあります。宇宙開発など、まだまだ民営で市場任せにはできない分野も多いです。

ただ、マイクさんの指摘にもあるように、環境活動家には環境とは関係のない「リベラル」な政策を押し通すために環境という口実を利用しているところもあります。自由貿易反対運動がそうした例です。99年のシアトル・ラウンドを閉会させてしまいました。

私はかつてそうした人達とつき合いがありましたが、彼らが何かにつけて先進国の政治家や財界人を悪の権化に仕立て上げることには強い違和感を抱きました。普段はそうして先進国をけなしながら、都合の良い時には頼りにする。これはイラクとアフガニスタンの戦争に反対しながら、リベリアやミャンマーへの介入を要請する国際市民運動によく似ています。

彼らの議論を妄信してはなりませんが、市場機能を過信したり実際にあると疑われる危機(万年雪の消失や島の縮小など)への対応がないのは望ましくないと思います。

投稿: 舎 亜歴 | 2006年5月24日 10:30

真魚さん、

これ日本語のブログなんですけど・・・・。

リンク先の映画は興味深いです。アルバート・ゴアには大統領よりこの仕事の方が向いています。となると民主党は次の大統領に誰を立てるのでしょうか?日本でもよく知られる有力候補はイマイチという感を拭えません。

投稿: 舎 亜歴 | 2006年5月24日 10:35

>いつも歴史認識という特殊な問題で中国に
>苦しめられている日本、ここぞとばかりに
>普遍的な正義で反撃できるのに!!!

目の付け所が鋭いです。
私、近々(今年の受験が終了したら。万が一w)
「日本が目指すべきは『環境国家』だ!!」という
特集で記事を書きたいんです。

なぜなら、
1.日本は環境破壊が進む北半球でもかなり良好な
  環境に恵まれており、中でも水資源の豊富さは
  群を抜く。これを国家の生存戦略に組み込む
  必要がある
2.アメリカにもの申すことが出来そうな分野は
  環境くらいしかない
3.中国、ロシアのような環境破壊大国を政治的に
  押さえ込むために国連を使える
  といった理由によります。

  さあて、連載が始まるか?それとも7月まで消耗戦が続くか?どちらにしても6月の発表が楽しみです。(笑)

投稿: ろろ | 2006年5月25日 03:07

連載、楽しみにしています。東シナ海大陸棚の海底資源開発については、環境保護団体から抗議が挙がらないのが不思議です。

政府には言えないことも民間団体なら言えるのです。例えばこんな具合に。

・地上の炭鉱で事故ばかり起こす中国、海底資源開発やって大丈夫?
・漁場荒らし、黒潮汚し、日本人を殺す気か!
・技術に不安、官僚主義にも不安、東シナ海の環境は守られるか?

などなど、これだけきつい言葉を政府に使えとは言えませんが、民間団体ならOKでしょう。「愛国無罪」の破壊行為にまで及ばなければ。

大きな環境保護団体なら、こうしたネガティブ・キャンペーンを張るのに充分なノウハウ、資金、人材がいるわけですが、なぜかやってくれません。

環境だ開発だと看板を掲げる団体の中には本当の目的が左翼系の政治活動ではという疑問がわくものもあります。そうでなければ、先進国にはいつも厳しい批判の目を向けながら、中華帝国にはお構いなしということはあり得ないでしょう。

ホワイトバンドの寄付金ゼロより、こっちの方がもっと深刻です。

投稿: 舎 亜歴 | 2006年5月26日 07:15

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