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2006年5月19日

パックス・アメリカーナの三銃士?:英国、日本、インド

アメリカン・エンタープライズ研究所の“National Security Outlook December 2005”で興味深い論文を見かけた。AEIのトマス・ドネリー常任研究員が書いたThe Big Four Alliance: The New Bush Strategy”というもので、以下のような主張をしている。

ここ半年の間でブッシュ政権は日本とインドとの「戦略的パートナーシップ」を強化した。従来からの対英「特別関係」に加えて、冷戦後の世界では真の同盟とまではゆかなくてもグローバルな戦略提携が見られるようになっている。そうした戦略提携で重要になるのは政治的な利害関係と価値観の共通する国同士での軍事協力である。パックス・アメリカーナを支援するパートナーがこれまでより多く出てくることは、大いに期待できる。

冷戦後の新たな脅威に対処するためにアメリカは主要同盟国と新たな戦略パートナーシップを再構築する必要がある。私は基本的にドネリー氏の考え方に賛成だが、論文が発行されてから事態がどのように推移したか検証する必要がある。イギリスとの特別関係はこれからも強固であろうが、日本とインドとの同盟関係にはいくつかの問題点もある。

まずドネリー氏の論文を見てみたい。それによるとブッシュ政権への批判が高まったのはイラク攻撃のためではなく一国中心主義のためだという。冷戦後の世界で自由主義的世界秩序を強化してゆくためには、アメリカ、イギリス、日本、インドのビッグ4を中心とした新しい同盟関係を築く必要があると述べている。ドネリー氏はビッグ4には以下のような戦略的な原則があると言う

(1)拡大中東地域における過激派、独裁者、核拡散の脅威に対処する

(2)中国の脅威に対抗する

(3)民主主義の拡大により平和を築く

(4)軍事力の行使の必要性を認める(日本について、これは疑わしいが)

こうした共通の戦略目的だけでなく、三ヶ国にはユーラシア大陸周辺に位置し、勢力均衡を担う要衝となっている。イギリスはヨーロッパに、日本はアジアに、インドは中東と中国に対してである。ドネリー氏はビッグ4の中心はアメリカであるべきだと主張する。冷戦のしがらみから解き放たれた今、アメリカはブッシュ・ドクトリンで述べたように世界の自由と民主化のために邁進できる。この目的を達するために、ドネリー氏はドナルド・ラムズフェルド国防長官が言う臨機応変の「有志連合」に代わってより恒久的な提携関係が必要になると主張している。この議論には私も賛成で、それぞれの国ごとに検証したい。.

最も安定して信頼のできるパートナーはイギリスである。ブレア政権になってから英米特別関係は一層強化された。トニー・ブレア首相はビル・クリントン大統領(当時)に対して国連決議なしでもバルカン紛争に介入するよう要請した。ジョージ・W・ブッシュ大統領になってもイラクとアフガニスタンでの政策を支持している。

ブレア政権以後も英米特別関係は強固であり続けるだろうが、問題はいかに優秀とはいえイギリス軍の規模が小さいことである。海外での作戦をこれからも積極的に行なおうとするうえで、これは問題である。そうした事情にもかかわらず、特に日本のようにアメリカとの緊密な戦略提携を模索する国にとって英米特別関係は目標となるべき基準と言っても過言ではないとドネリー氏は言う。

アーミテージ・レポートの出版を機に、日本は対米同盟を英米同盟に準ずるものにしようとしている。同レポートでは日本の平和憲法の再考を促している。現在、日本は中国と北朝鮮の脅威に直面している。そのため日本にとってアメリカの存在は不可欠であり、ミサイル防衛のような日米協調関係を深めている。さらにイラクとアフガニスタンでのアメリカ軍の作戦行動を支援するために自衛隊を派遣している。

だが日本の自衛隊には作戦行動経験がない。さらに憲法と政治的な制約もあって防衛費はGDPの1%にとどまっている。そのため、日本の現在の能力は潜在力を大きく下回るとドネリー氏は述べている。

9・11以降のインドはアメリカにとって新たな戦略的パートナーとなった。インド軍はカシミールでのイスラム過激派テロとの戦いの経験も豊富である。また、アメリカの政策形成に関わる者の中にもインドを中国封じ込めに役立つ存在と見る向きもある。だがインド軍の装備が依然として冷戦期のソ連製で占められているのは問題であるとドネリー氏は指摘する。アメリカと緊密な作戦行動をとるうえで、これは障害となる。

ドネリー氏はビッグ4同盟をまだ構想の域を出ないものだと言う。ブッシュ政権は戦略的協調関係を推し進めてはいるが、共通の国益と価値観があるからと言ってビッグ4のパートナーシップがパックス・アメリカーナの礎となるかどうかは予断を許さない。

私は基本的にドネリー氏に賛成だが、この論文ではそれぞれの国が抱える問題点について述べていない。その後の情勢がどう変化したか、国別に論じてみたい。

まずイギリスだが、次期首相の最有力候補であるゴードン・ブラウン蔵相はニュー・レイバーの政策を継承するであろう。だが労働党左派は現政権の政策が党のイデオロギー的基盤であるフェビアン主義からかけ離れているとして巻き返しをはかることもあり得る。先の選挙では労働党が敗北を喫したので、その後の政治的推移を見守る必要がある。

日本については、若干の懸念材料が見られる。数年前に沖縄でアメリカ兵が地元の小学生をレイプした事件があった。これは沖縄県民の怒りに火をつけ、米軍基地の沖縄への過剰な集中によって沖縄が負担に耐え続けていると訴えるようになった。以後、日本のメディアには米軍基地を厄介者のように報道する会社もある。また最近の日米協定で沖縄の基地をアメリカ領内のグアムに移転する際に日本が経費を負担することになった。こうしたことから反米感情が噴き出している。

さらに中国、韓国との緊張関係によってナショナリズム感情が刺激され、第二次大戦中の日本の行動を正当化する世論も台頭している。これは明らかに自由と民主主義というビッグ4の共通の価値観とは相容れない。

インドとの関係で最も重大な事項は米印核協定である。オピニオン・リーダーの中にはこの協定によって現行の核不拡散体制が崩壊すると警告する者も多い。ヘンリー・キッシンジャー氏はインドとの戦略提携には肯定的だが、インドを中国封じ込めに利用することには反対している。インドは自国の国益に沿って行動するからである。また、アメリカはインドとパキスタンの間のバランスをうまくとらねばならない。

インドはアメリカと共通の価値観を有しているのだろうか?フリーダム・ハウスの指標では、インドは「自由な国」に分類されているが、それがトップクラスという訳ではない。ブッシュ政権はインドを信頼の置ける民主主義国と見ているが、この国には注意深く接する必要がありそうである。

イギリス人の歴史学者であるニール・ファーガソン、ハーバード大学教授はアメリカがレジーム・チェンジよりさらに深く世界に関わるだけ持続的な意志を有しているかという問題提起を行なっている。ユーラシア大陸周辺の要衝国との有効なパートナーシップ築けるかどうかが、この問題の鍵になると私は信じている。今後の記事で、国別の戦略的パートナーシップについて述べたい。

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コメント

このAEIの論文は私も昨年末に拝見しました。現時点ではこれがブッシュ政権の置き土産になるかどうかは?ですが、ご指摘されているように米印関係は一筋縄ではいかない部分があろうかと思います。ここで日本がバランサー的プレゼンスを発揮してくれれば美味しいと思うのですが。
最近ではヘリテージ財団の対中強硬派のJohn J. Tkacik, Jrの論文が面白かったですね。記事中にリンク貼っておきましたのでそちらもTBしておきます。(既にご覧になっていらっしゃったら蛇足なことでスミマセン)

投稿: tsubamerailstar | 2006年5月23日 11:05

ヘリテージの論文はまだ読んでいませんでした。内容はトマス・ドネリーとよく似ているようです。中国が主題のようですが、日本とインドとの戦略提携にも触れられているので。

前記事でのコメントに返答した通り、シンクタンクも論文も無数にあります。その中で、有益なものを見つけ出すためにも労力は惜しめませんが、一人では全てに目が行き届かぬものです。

投稿: 舎 亜歴 | 2006年5月26日 07:00

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