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2006年6月18日

ブッシュ政権のインド政策:国務省高官の講演

R・ニコラス・バーンズ国務次官がカーネギー国際平和財団で米印関係についての講演を行なった。今年3月にブッシュ大統領とライス国務長官がインドを訪問した際に、バーンズ氏は随行している。以前にも述べたように、アメリカとインドの戦略提携を進めるうえでの最大の障害は核拡散問題である。カーネギー財団のジョージ・パーコビッチ副所長は核不拡散の専門家とグランド・ストラテジーの戦略家との間で見解の違いが見られると指摘している。専門家の方は今回の対インド核協定によって現行の核不拡散体制が空洞化するのではと懸念している。一方で戦略家の方はインドとの関係強化によって中国・ロシア枢軸を封じ込められると考えている。

バーンズ国務次官は講演の中でこうした問題への鍵となる事柄を述べている(ビデオはこちら。Windows Media PlayerReal Player)。インドとの戦略的パートナーシップが模索されたのはクリントン政権の頃からで、アメリカは冷戦後の脅威に対処するために同盟関係の再編成に迫られていた。バーンズ次官は対インド外交について、核交渉ばかりでなくグランド・ストラテジーの観点から考える必要があると主張している。アメリカとインドは安全保障、経済、民主主義の普及、エイズなど疫病の防止といった共通の国益がある。

安全保障についてバーンズ次官はアメリカとインドはお互いに必要な国であると述べている。アメリカは世界規模で、インドは地域でのリーダーシップをとろうとしている。インドは南アジアの平和と安定に役立つ影響力を行使している。ネパール国王には民主化のために権力の委譲をするよう説得した。スリランカではEUや日本とともに政府とタミル解放戦線の虎との間の和平交渉を支援した。

経済分野も安全保障に劣らず重要である。講演でも述べているように、インドは世界でも最も成長の著しい市場である。フォーリン・ポリシー誌2006年1・2月号の“India outsmarts China”という記事によると、インド経済は頭脳集約的なので労働集約的な中国よりも期待が持てるという。アメリカにとってインドは最も魅力ある市場になっている。ハイテク企業はインドに投資を行なっている。ボーイング社は航空機を輸出している。政府、企業、市民社会といったあらゆる部門で、アメリカとインドの二国間関係は拡大している。

バーンズ次官は米印核協定について、核不拡散ばかりでなくこの観点からも理解されるべきだと言う。経済成長著しいインドは電力需要が伸び、エネルギー供給を多角化する必要に迫られている。核拡散防止体制に入っていなかったインドは30年もグローバル経済の外にあった。だが北朝鮮とイランが拡散防止のルールを侵害してきたのに対し、インドは核拡散に手を貸さなかった。NPTが抱えるこうした矛盾から、バーンズ次官はインドの民間核利用に対してアメリカは技術支援を行なうべきだと主張している。アメリカは各関連部品を輸出できるようになる。また、二酸化炭素の排出量削減にもつながるとまで述べている。

他方で、バーンズ次官は挑発的な発言は控えている。ヘンリー・キッシンジャー氏が言うように、インドを中国封じ込めに利用することはアメリカの国益にかなわないとも主張している。バーンズ次官の考え方は、信頼できる民主主義国インドを中国と対抗させようと言うネオコンのものとは異なる。イランについては、インドもヨーロッパや日本と同様に関係を保っても良いと述べている。さらにインドとの戦略的パートナーシップの強化によって、アメリカとパキスタンの関係が損なわれることはないと強調している。

バーンズ次官が講演で述べたことは概ね妥当である。最も重要な問題は核協定である。カーネギー国際平和財団のアシュリー・G・テリス上級研究員は議会での証言で、今回の協定は現実的なものであり議会での審議によって変更を加えられるべきではないと述べている。インドはNPTを信用していないが、核不拡散のためには何らかの義務を科さねばならない。インドを核不拡散体制に組み込むには、アメリカも見返りを提供せねばならないと言う。また、議会が協定内容に変更を加えてアメリカとインド両国の政府に更なる負担を科すことは慎むよう述べている。

タイムズ・オブ・インディアの報道にもあるように交渉は現在も継続中である。アメリカ議会での通過がかなうかどうか、鍵を握るのはこの協定で査察がどこまで行なわれるかである。アメリカにとってインドは市場としても戦略提携国としても大きな可能性を秘めている。だからと言って、二国間協定が現行の核不拡散体制を弱体化するのもであってはならない。

最後にThe Real Truthの記事も参照を。

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コメント

ASEANサイドから見ると、この米印関係は今一つ納得が行きませんね。

中国もインドもその地域覇権主義に関してはどうしても同じに見えてしまうんですが・・

ミャンマーに対する影響は現段階では一歩も二歩も中国がリードしてはいますが
(首都移転等もその影響の一つだと思いますが)
インド側の攻勢も見過ごせないモノがあるのも確かです。

パキスタンへの対応も、テロ対策が不十分だというだけならバランスがいいかはちょっと疑問。

議会対策が残っているとは言え、結局はパワーゲームだけなのか・・・
っというのがASEANとしてはちょっと複雑な心境ですね。

投稿: asean | 2006年7月20日 15:49

ある程度の力がある国なら、地域のリーダーシップをめぐって競っています。中国は西側に対抗するかのような軍拡や上海協力機構の設立などを行なっています。これに対しインドは冷戦期の親ソ政策が失敗だったとの反省からアメリカに接近しています。これは大きな違いです。そのうえ世界の民主化というブッシュ政権のアジェンダから言えば、インドは中国より好ましい提携相手になります。

パワーゲームもさることながら、インドの市場と頭脳は欧米にとって大きな魅力です。

とはいえ、インドが常に西側に従うわけではないので、慎重な対応が必要です。

投稿: 舎 亜歴 | 2006年7月22日 00:52

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