アメリカの保守支配は続くか?
今年は中間選挙の年で、ブッシュ政権の支持率が何かと取り沙汰されている。メディアは支持率の低下をセンセーショナルに伝えるが、アメリカ社会での保守の基盤は依然として強固である。2006年と2008年の選挙に向けて、保守とリベラルの動向を見てみたい。
保守の運動は依然として活発である。イギリス人のジョン・ミクルスウェイトとエイドリアン・ウールドリッジの共著でベストセラーになった“The Right Nation”(残念ながら邦訳は出ていない)では、保守思想の発展、グラスルーツでの保守運動の拡大、そして9・11以降の保守的国民感情の高まりが述べられている。かつて保守主義といえば富裕なWASPの政治思想であった。だが“The Right Nation”にも記されているように、 保守主義はもはや大企業と独立自営農民のイデオロギーではない。ジョンソン政権期の「偉大な社会」という高福祉高負担政策が破綻したこともあって、大きな政府への嫌悪感が広まっていった。その一方で保守派は頭脳面での強化をはかり、ミルトン・フリードマンやフリードリッヒ・フォン・ハイエクらの最先端の理論を採用したり、保守系のシンクタンクや財団を設立していった。さらに、両著者は保守派がグラスルーツでどのように運動を展開して自分達の思想を行きわたらせているかを詳細に分析している。現段階ではこの両面で保守派はリベラル派より優位にある。
保守派にとってもう一つの有望な動きは、黒人の保守主義の台頭である。このことは“The Right Nation”では述べられていない。ここ十年の間、新聞などで社会的成功を収めた少数民族の中にはアファーマティブ・アクション(進学や雇用の際の少数民族優遇措置)に反対する者も現れるようになったという記事を見かけることもある。白人との競争にも勝てる者にとって、アファーマティブ・アクションは利益にならない。自分達の成功が能力よりも人種割当によるものだと思われてしまっては、不利なだけである。当ブログの提携ブログである「保守思想」では、バーノン・ロビンソンをとり上げている。保守主義はもはやWASPのイデオロギーではないという現実を示すうえで、ロビンソンは典型的である。ジョン・F・ケネディとマーティン・ルーサー・キングの時代は過ぎ去った。人種平等はもはやリベラル派の得意な争点ではなくなった。
アメリカでは保守主義は依然として広い支持を得ている。こちらの英語版の提携ブログ“My Newz’n Ideas”では、保守派の人気ラジオ・コメンテーターのグレッグ・ジャクソン著“Conservative Comebacks to Liberal Lies”という注目の書籍をとり上げている。そこではジャクソンはあらゆる政治問題での保守派の視点をとり上げ、リベラル派エリートの考え方をしている。主張の是非はともかく、この本がグラスルーツの保守派の間で広く支持されていることは、アマゾンの読者コメントを読めば一目瞭然である。7月半ばに出版されたばかりの本がこれほどの反響を呼ぶとは驚きである。
外交政策では、保守派の論客達はブッシュ政権に対して強い態度で臨むよう要求している。ワシントン・ポスト7月19日号の“Conservative Anger Grows over Bush’s Foreign Policy”という記事にも記されているように、「保守派の論客達はイランと北朝鮮といった長年の脅威に対して及び腰で混乱した対応であり、最近のイスラエルとヘズボラの紛争にも断固として態度をとっていない」と見なしているブッシュ大統領は二期目に入って柔軟路線を歩み始めたとよく言われている。しかし大統領も中間選挙が迫る時期に至っては、保守派の論客の声を無視できない。
リベラル派は巻き返せるのだろうか?確かにリベラル派は歴史上で重要な役割を担ってきた。ケインズ経済政策の採用、福祉の拡大、「進歩のための同盟」の設立、人種平等の達成などなどの業績を挙げてきた。しかし、リベラル派はフランクリン・D・ローズベルト、ジョン・F・ケネディ、マーティン・ルーサー・キングの遺産にすがっているだけである。三人とも偉大な指導者だが政治は時代とともに動いている。リベラル派にはFDR-JFK-MLKの理想ではなく、新しい時代に合った政治理念を示す必要がある。
当ブログの以前の記事でも述べたように、民主党はイラクをめぐって分裂している。実現可能な政策を示すこともなくブッシュ政権を批判しているだけである。イラクとアフガニスタンからの一方的な撤退ではテロの根源を絶つことなしに中東を混乱に陥れるだけなので、反戦のスローガンでは選挙に勝てない。
リベラル派を活性化するような新しい争点はある。その内の一つは、アルバート・ゴアによる「環境十字軍」である。現時点ではリベラルには充分なアピールがない。地球温暖化については賛否両論があるが、この問題でアメリカのリーダーシップに良からぬ影響があったことは間違いない。実際にブルッキングス研究所が発行し「米欧賢人会議の盟約」では、イラク戦争後の米欧分裂を修復するためにも、アメリカはCO2排出量を削減するよう提言している。しかし環境問題を争点に政権を獲得した政党は皆無である。ドイツで「緑の党」がシュレーダー連立政権に入閣しただけである。もっと強い争点を挙げないと、リベラル派はラルフ・ネーダーと大して変わらないものになる。
この他にエネルギー安全保障のような争点なら、合衆国の統治にもっと直接の関係があるものとなる。マデレーン・オルブライト元国務長官はアメリカ進歩的政策センターでのパネル・ディスカッションで「我が国は石油依存症だが、石油は世界で最も危険な地域から輸入されている」と述べ、こうした地域からの輸入エネルギーへの依存を下げるよう主張している。こうした争点で投票者の気持ちをつかめるかどうか、今後を見守る必要がある。
結論として言えば、現政権への支持率が低下したからといって民主党の巻き返しが保証される訳ではない。保守派はリベラル派に対して依然として優位にある。2006年の選挙に向けて、事態はどのように進展するだろうか?2006年と2008年は21世紀初頭で重要な年になる。



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