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2006年7月23日

日本の国連常任理事国入りへの課題

アルビオンよりの投稿です。

アジアの力のバランスは変動している中でも象徴的な現象は中国の台頭と北朝鮮の脅威の深刻化である。歴史上、今ほど日本がアジア近隣諸国から孤立している時期はない。台湾は例外だが、北東アジア諸国と日本の関係は極めて悪い。実際にここ20年の反日感情は中国と北朝鮮で顕著であった。だが近年に入って日本で歴史認識を見直す動きが高まるとともに、韓国でも自国の立場を声高に主張するようになり、それが対北朝鮮宥和政策と日本植民地統治の歴史の批判という形で表れるようになった。

アジアの専門家の間では、日本は国際社会の中で自らの進路を取り損ねていると見られている。一方で日本政府は国際政治での影響力を強化しようと努めており、小泉首相はイラクとアフガニスタンでアメリカや国連の活動を支援しようと自衛隊を派遣した。小泉首相を党首とする自民党にはナショナリストも多い。小泉首相の下で自民党政権はアメリカ軍への支援によって憲法解釈を微妙に変えてきた。そして昨年は「戦略的国益」を守るために初めて台湾への政治的経済的支援を行なった。これは、台湾問題は国内問題だとする中国の立場と真っ向から対立するものである。9.11以来、日本はかつてないほど世界の安全保障に積極的に関わるようになった。日本政府は憲法9条の制約の下で軍事力の増強を模索しているが、日本の将来像においてこれが難題となる。日本が国連安保理の常任理事国として拒否権を付与されるべきかどうかという問題では、これをクリアしなければ難しい。

中国とインドの経済成長がアジアを引っ張ったことで、日本が最も大きな恩恵を受けたであろう。日本は政治、経済、軍事の全ての面で変化の真っ只中にある。力のある者が責任を担うという論理とともに上記のようなアジアの政治情勢を考慮すれば、日本が国連常任理事国入りを目指すのは驚くべきことではない。日本は北朝鮮の脅威と中国との対立に直面している。北朝鮮は1998年と2006年に日本海に向けてミサイルを発射し、国際社会の非難と制裁発動の世論を高めてしまった。だが国連が北朝鮮に経済制裁を行なおうにも、安保理で中国とロシアの拒否権に阻まれてしまう。日本が常任理事国入りする際にもこれが障害となる。アメリカの強固な同盟国である日本が拒否権を得るようになれば、ロシアと中国はアメリカと国際社会の行動に拒否権を行使しづらくなってしまう。だが日本政府が常任理事国入りを目指すなら、一貫性のある外交政策をとるとともに国連改革を支援してゆく必要がある。日本の政治家達は常任理事国の地位ばかりを気にしてアメリカのジョン・ボルトン国連大使が掲げる国連改革は気にかけていないようである。

東京はワシントンにとってアジアで最も強固な同盟国である。日本の常任理事国入りへのアメリカの支持は当選のように思える。だが逆にワシントンのタカ派の中には日本が国連改革に熱心でないと不満を感じる向きもある。実際に日本が四ヶ国グループ(日本、ドイツ、インド、ブラジル)で拒否権のある常任理事国入りをしようとした時に、アメリカは乗り気ではなかった。これはアメリカにとって由々しき問題である。一方ではアメリカは日本の台頭を支持し、政治的にも軍事的にも日本とは密接に関わり合っている。他方でアメリカの指導者層は日本の国連常任理事国入りに対して諸手を挙げて賛成という訳ではない。実はアメリカは強固な同盟国である日本が安保理に留まること以上は望んでいない。日本が拒否権つきの常任理事国の地位を望むのは時期尚早なのである。日本が国際政治でより大きな役割を担おうとし、政治家達が憲法改正を叫ぶに至って、アメリカはそうした動きを歓迎し、地域の安定と中国封じ込めに役立てようとしている。

日本が自国の外交政策の目的を明確にできるようになれるかどうかという問題は、自民党首脳部の能力を超えたものである。こうしたことも平和主義からの脱却によって変わってくる。自民党のナショナリストの間では、日本を戦前のような大国として復活させようという動きが活発になっている。日本が軍事的に「普通の国」を目指して他の大国とも対等な関係を築こうとするにおよんで、アメリカはこうした日本の動きを受け容れるべきである。国連常任理事国入りについても同様だと言えるだろうか?

日本が拒否権を行使できる国連常任理事国になろうというなら、以下のことが肝要である。

(1) 明確な外交政策目標を持つ

(2) 憲法9条を改正する

(3) 政府関係者の靖国神社参拝を控える

(4) アメリカは日中対立では日本を支持するとともに、両国の対話を促す。

(5) 日本が国際政治への関与を強めようというなら責任も担わねばならず、国連改革も推進しなければならない。

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コメント

>(3) 政府関係者の靖国神社参拝を控える

まさか、中国韓国の感情に配慮してやれ、という
ご託宣でしょうかね?(笑)

常任理事国入り「そのもの」が目標であるなら、中国の拒否権が発動されるようなことはするなということになります。これは「配慮」ではなく、きわめて現実的な観点からです。

先の書評で取り上げた「日米永久同盟」では、日本は巨額の拠出金に見合わぬ待遇を受ける国連など脱退してその資金を直接の二国間援助に使った方が有効だと述べています。これは少し過激な意見ですが。

常任理事国入りの議論では、日本は国連をどう考えているのか、常任理事国になって何がしたいのかが不明です。国連など頼らずに、世界の重要事項は先進民主主義国だけで運営してゆこうという考えもあります。そうすれば中国やロシアの拒否権に煩わされすに済みます。

靖国については日本人自身が戦後のレジーム・チェンジとの兼ね合わせで考えるべきです。こちらのブログでは

http://newglobal-america.tea-nifty.com/shahalexander/2005/12/post_22a3.html

で述べています。

いずれにせよ、常任理事国の地位「そのもの」が目的なのか、もっと先の目的があるのか、日本政府にはそこを明らかにして欲しいです。

>国連など頼らずに、世界の重要事項は
>先進民主主義国だけで運営してゆこうと
>いう考えもあります。

私はこれに賛成です。英米日豪+アセアン有志だけで、
「環太平洋連合」でもつくればよいと思います。

>常任理事国の地位「そのもの」が目的なのか、
>もっと先の目的があるのか

この筆者の言いたかったことも、「日本は本当に
世界列強の一角として、主体性を持って責任を果たす
覚悟があるのか」ということなのでしょうね。
もちろんマイナス評価ですが、中国は世界に対して
どういう立場で振る舞うべきか、スタンスが明確です。
そうだとすれば、まだまだ国民も政府関係者も
考えが甘いのではないのでしょうか。
国旗国歌程度の問題で反対する人間がおり、その人間の
言い分に対して消極的シンパシーを感じる人間が
かなりいる状況で、列強の一角などとは笑止千万です。
あと10年くらいかけて、まともな国になるための
基盤作りをして、初めて名乗りを上げるべきだと思います。

靖国神社に関しては、遊就館の展示物や、庭にある
東京裁判云々のモニュメントはなくすべきだと思います。
程度の差こそあれ、終わったことをひきずっているのは
儒教アジア国家と変わりません。
単なる戦没者の礼を祀った神社にすればいいのです。
(もちろん、A級戦犯は国内法上戦犯でないので、
分祀する必要などない。
というか、神道の考えでは無理)
神社に参ること自体をこの筆者が否定しているのなら、
私は「アーリントン墓地は非宗教なのか?」と
反論するつもりです。
なにより、アーミテージ氏も慰霊は国によって違って良いといい、
反対派の上院議員も「強く反対しているわけではない」と
言っているのです。そういう意味では、この筆者は
中国の反対を意識しすぎなのではないでしょうか。

大戦の記憶はさておき、最近の北朝鮮のミサイル騒動の「おかげ」で韓国でも本当の敵を認識してきてくれる動きが高まっています。良い兆候です。かつてのサッカーW杯の日韓「共同」開催のような作りものの友好関係は必要ありません。

私はネトウヨではないので、あの国が特別に嫌いな訳ではありません。独特の国民性はありますが、意外にも日本に「多少屈折した」親近感も抱いているようです。同じアジアの国があそこまでやるなら、俺達もやるぞといった。ともかく、偽りの友好は要りませんが、本当の敵がわかれば、両国は「普通の関係」でいられるはずです。

戦没者の慰霊についてはどこの国もやることに差し支えはありません。中国に対しては、参拝反対を口実に日本が安全保障での積極政策をとることを牽制しているのではという疑念を晴らしてもらう必要があります。さもないと、靖国で譲歩すれば次は何を要求されるのかという日本側の疑惑を払拭し切れません。よって、あなた方の要求は何ですかと明らかにしてもらわないことには、両国の話し合いなど進展しようがありません。

>参拝反対を口実に日本が安全保障での
>積極政策をとることを牽制しているのでは
>という疑念

ここを指摘する辺り、やはり舎さんは大事なことに
気づいていらっしゃることがわかります。
話によると、麻生外相や額賀長官が敵基地攻撃能力に
言及したら、早速中国が過敏に反応したようですね。
(韓国政府はさらに過敏でしたがww)
連中の言うことを真に受けず、下心があるということを
本来ならメディアがもっと警鐘を鳴らしてしかるべき
なのでしょうが、記者交換協定のせいか、保身に走るせいか、
そういう問題提起をしているのは、若干姿勢に問題のある
産経新聞以外ないというのが現状です。
今は、ネットの世界で頑張るしかないようですね。

>麻生外相や額賀長官が敵基地攻撃能力に
言及したら、早速中国が過敏に反応したようですね。(韓国政府はさらに過敏でしたがww)

日本を軍事的に弱体化させておくというのは中国の基本戦略なので、驚きません。丁度、外洋への出口を日本に塞がれていますし。

韓国のノ・ムヒョン政権が過敏なのはいわゆる「反日」だけでなく、北朝鮮が崩壊した場合に難民流入などの負担に耐え切れないよいう事情もあるので、やたらに反感を抱いても仕方ないです。人気の高いブログの中には、低級な嫌韓感情を煽るものの多いですが。

中韓は経済的にも軍事戦略的にも日本にとって無視できませんが、両国との対立抗争を過剰に意識することは常任理事国らしくない(実際にはなっていませんが)です。

尚、アルビオンに直接のコメントはalbionjhargrave@gmail.comへどうぞ。

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