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2006年8月12日

英米同盟にレバノン危機の一石

中東とヨーロッパでのアメリカの戦略において、強固な英米同盟は重要である。イラクとアフガニスタンの戦争を通じて、イギリスはアメリカにとって最も信頼できる同盟国である。トニー・ブレア英国首相は7月28日にワシントンでジョージ・W・ブッシュ米国大統領と会談した際に、現在のレバノン危機に関してもアメリカとの緊密な関係を続けてゆくと表明した。だがウエストミンスターでは労働党の若手議員からの反対運動があり、事態は予断を許さない。 

ワシントンでの首脳会談では英米両国の首脳はヘズボラの攻撃に対するイスラエルの自衛に青信号を出し、レバノンでの即時停戦には反対した。ここでもイギリスはアメリカの最も緊密な同盟国となった。アメリカ大統領とイギリス首相はレバノンの鎮静化に向けて国連安全保障理事会の決議案による多国籍軍がなされるべきだということで意見が一致した。ブッシュ大統領は「我々の目的は国連憲章第7章に基づく決議案によって直ちに敵対行為を停止する明確な枠組みを作り、多国籍軍に事態を委ねることである」述べている。さらにブレア首相は、多国籍軍が任務を開始する前にヘズボラが停戦を受け入れるべきだと強調した。ホワイトハウスでの記者会見で、両国首脳はイランとシリアがヘズボラに兵器と資金の援助を行なっているとして批判した。イランのマノウシェ・モッタキ外相は米英両国をイスラエルと「共犯」であると非難した。

アメリカが正規の手続きを踏まずにイギリスの空港を通じてイスラエルに爆弾を輸出するという事件があったが、イギリス側からこれに対する抗議があった。両国のパートナーシップ強化のために、ジョージ・W・ブッシュ大統領は7月8日の会談でトニー・ブレア首相に謝罪したことは注目すべきである。

ブレア首相がブッシュ大統領との共同戦線を張ったことで、ウエストミンスターでは労働党の議員から共同声明に対する怒りの声が挙がっている。閣僚の中でもジャック・ストロー前外相のようにレバノン問題の平和的解決のためにイスラエルは「適切に行動」しなければならないと発言する者もいる。ブレア首相に忠実なデービッド・ミリバンド環境相と上院議長のグロコット卿さえも今回の声明には批判的である。こうした事態は労働党内と閣内に緊張がみなぎっていることを示している。8月8日には労働党と自由民主党の左派議員の有志がジャック・ストロー下院議長に書簡を提出し、下院でのレバノン情勢の討論開催を求めた。レバノンでの即時停戦を求めようと、ジョン・トリケット下院議員に率いられた左派議員のグループは200名の支持を集めている。 外務英連邦省もブレア首相がワシントンで行なった共同声明に懸念を抱いている。サー・スティーブン・ウォール元首相外交政策顧問は以下のように述べている。

外務官僚が外交の自主性を重視しているのは、何も今年がスエズ危機から50周年に当るからというだけではない。現政権はアメリカ外交にイギリスの意向を反映させるうえで首脳間の個人的関係に頼りすぎている。イギリスとアメリカの国益は全く同じものではないということをいともたやすく忘れ去っている。

トニー・ブレア首相はアフガニスタンからイラク、そして今回のレバノンの戦争でもブッシュ政権を一貫して支持し続けている。だがブレア首相がアメリカのプードルであるという見方は間違っている。ジェームス・G・フォーシス氏が米誌フォーリン・ポリシー2005年5月号の “Think Again: Tony Blair” という論文で述べているように、ブレア首相は「世界の民主化のためには武力行使も厭わない」という意味ではある種のネオコンである。さらにブレア首相が国際政治で道徳的な介入を重視しているのは大英帝国の伝統も引き継いでいる。ハーバード大学のニール・ファーガソン教授は、ジョン・スチュアート・ミルのようなビクトリア朝時代のオピニオン・リーダーはイギリスが自由主義をアジアとアフリカに広めるためには力の行使も支持していた(“Empire: The Rise and Demise of the British World Order and the Lessons for Global Power”3章を参照)。こうした思想はパーマストン卿、ローズベリー伯爵そしてウィンストン・チャーチルとった歴代首相によって政策に反映されてきた。

他方でブレア首相の外交政策は労働党の伝統から外れたものになっている。イラク戦争では、労働党は市民社会のような長年の支持基盤を失った。平和活動家は労働党にとって強固な支持基盤であったが、彼らはニュー・レイバーがフェビアン主義からかけ離れてしまったことに幻滅を抱いてしまった。イラク戦争をめぐってはロビン・クック外相とクレア・ショート国際開発相といった主要閣僚が辞任している。

英米関係が低調になれば、ドイツのアンジェラ・メルケル首相がイギリスに代わって大西洋同盟で重要な役割を担うと見る向きもある。ドイツのフルブライト奨学生が運営する“The Atlantic Review”という有名なブログでもこうした意見が取り上げられている。 確かにメルケル政権になってイラク戦争以来の米独間の冷たい関係に変化が見られ、またドイツはMitteleuropa に大きな影響力を持っている。これはイギリスにはない強みである。

だがドイツにイギリスの役割はできない。保守政権とは言いながら、メルケル内閣はアメリカのイラク政策に依然として批判的である。さらにイギリスは長年にわたってアメリカと最高級の軍事技術と情報を共有してきた。ドイツとアメリカの間ではここまでの相互信頼関係はできていない。メルケル首相がどれほど親米であっても連立内閣の首班に過ぎないので、リーダーシップを発揮しようにも党利党略に阻まれてしまう。

現在のイギリス政治の動向は米欧関係に重大な影響を与えかねない。英国と米国の同盟関係が良好であり続けるためには、ゴードン・ブラウン現蔵相がニュー・レーバーの政策を引き継いで過激左派の動きを静められるか、それとも保守党が巻き返すかが望まれる。ロンドンの政局の嵐から目が離せない。

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