今回はBBC History Magazineによる20世紀の歴代イギリス首相の採点を紹介したい。マーガレット・サッチャーとクレメント・アトリーがトップの評価を受けたが、ウィンストン・チャーチルはこの座を逃した。トニー・ブレアは平均の評価しか得ていない。同じようにアメリカの最も信頼できる同盟者でありながら、何がサッチャーとブレアの評価をここまで分けたのか?評価のあり方を詳しく検討してみたい。
20世紀のイギリス首相
[評価 0 (最低) – 5 (最高)]
5 Margaret Thatcher
5 Clement Richard Attlee
4 Edward Heath
4 Winston Churchill
4 Harold Macmillan
4 Sir Henry Campbell-Bannerman
3 Robert Arthur Talbot Gascoyne-Cecil [後のLord Salisbury]
3 Herbert Henry Asquith
3 David Lloyd George
3 Stanley Baldwin
3 James Harold Wilson
3 Tony Blair
2 James Callaghan
2 Arthur James Balfour
1 Andrew Bonar Law
1 James Ramsay MacDonald
1 Sir Alec Douglas-Home
1 John Major
0 Robert Anthony Eden
0 Neville Chamberlain
イデオロギーのうえではサッチャーとアトリーは対極にあるが、イギリス社会を新しい時代に向けて変革したことで共通している。アトリーはイギリスを植民地帝国から福祉国家へ変貌させた。ベバレッジ・プランは社会政策の教科書になった。インドからは威厳をもって撤退した。だが、この表でのアトリーの評価は高すぎると思われる。アトリー政権がイギリスの主要産業を国有化したことは、戦後を通じてイギリス経済が停滞した一因ともなった。
マーガレット・サッチャーはトップの評価を得るに相応しい。この表の作成者は以下のように述べている。
マーガレット・サッチャーはイギリス社会を大幅に変革した。アトリー政権より30年にわたる福祉国家を強固な意志で変えてしまった。労働組合が幅を効かせる、公共部門が経済の重要部分を占める、地方議会が教育と他の地方行政サービスを牛耳る、給付金の受給が市民の当然の権利としてまかり通る、今や40歳未満でかつてのイギリスがこのような状況であったことを知るものは殆どいない。かつては強い力を振るった全英鉱山労働者組合を徹底的に叩いたことは過去50年でも歴史を動かす重大な出来事である。
この意見には賛成である。サッチャーが断固とした態度をとったからこそ、イギリス経済は今日に至って回復した訳である。また、ロナルド・レーガンにとって最高のパートナーであったサッチャーは、冷戦の勝利で大きな役割を担うとともに、イラクのサダム・フセイン、リビアのムアマル・カダフィ、アルゼンチンのレオポルド・ガルチェリといった独裁者を破った。
国民の人気は高いチャーチルだが、トップの評価を得るには至らなかった。確かにカリスマ性はあり、歴史上でもアメリカにとって最高の同盟者の一人であった。だが歴史学者の中には最高行政官としてのチャーチルの能力に疑問を抱く者もいる。ドイツ打倒に心血を注ぐ余り、戦後のイギリス経済には無頓着だったことが挙げられる。4点というのは適切な評価である。
他方、トニー・ブレアの評価は低すぎる。タイムズによると以下の通りである。
ブレア氏は民間部門に公共部門の仕事に関与するという「比較的永続性のある変化」をもたらした。だが「イラク戦争の不人気と戦争開始の理由が後からこじつけられたという事実から、ブレア氏の政策ビジョンの実現能力は大幅に低下してしまった」とつけ加えている。
だが考えて欲しい。ブレア首相がイラク攻撃に反対したなら、大西洋同盟には致命的なものとなったであろう。イラクでの米欧対立にもかかわらず、NATO軍はアフガニスタンとパキスタンでテロ掃討作戦を行なっている。この評価のタイミングが悪かったとしか言いようがない。現在、ブレア首相は次の首相への政権移譲を迫られている。通常なら、もっと高い評価が得られるであろう。
イギリスの首相の中でもチャーチル、サッチャー、ブレアはアメリカにとって最高の同盟者である。自由と民主主義の拡大、世界平和の達成で三首相の果たしてきた役割は大きい。BBCマガジンでの評価はどうあれ、米欧関係で三首相が残してきた業績は高く評価されるべきである。
英米協調は外交と安全保障に限らない。マーガレット・サッチャーとロナルド・レーガンは保守主義の伝道者であった。彼らの考える小さな政府は世界の指導者に大きな影響を及ぼした。北欧諸国では福祉国家が考え直された。日本の小泉改革はサッチャーとレーガンに触発されたものである。
マーガレット・サッチャーは首相在任中に国民から愛されなかった。歴史は指導者を適切に評価するものだ。必要なことは批判を受けてもやり通す。これが本物の政治家になるために重要な教訓である。
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