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2006年9月30日

米欧関係の岐路:米独ブログ・カーニバルより

当ブログの「アメリカと古いヨーロッパ:911+5の世界」でも述べたように、911から5年がたつ。今は大西洋同盟がどのように変わってゆくかを見極めるうえで重要な時期である。イラク戦争勃発時の痛々しい対立を乗り越え、アメリカとヨーロッパはアフガニスタンとミッテル・エウロッパ(中欧)では緊密な協力関係にある。来る11月にはラトビアのリガでNATO首脳会議も開催され、世界規模での大西洋同盟の役割が話し合われる。

米独ブログ・カーニバルには自由世界の核となる米欧関係に強い問題意識をもつブロガーが招かれている。ドイツのブロガー二人がカーニバルの全容を良くまとめている。一人はLiberale Stimmeというブログを運営するカルステンさんである。このブログは元々ドイツ語で書かれているが、リンク先はグーグルで英訳されている。もう一人はDialog Internationalを運営するデイビッドさんである。

ヨーロッパとの関係はアメリカ外交の根幹をなす。また先進民主主義国の重役である日本のブロガーにとっても米欧関係はきわめて重要である。ブロガーの皆さん、このカーニバルに注目を!

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2006年9月27日

安倍新政権、核兵器開発に着手??

昨日、安倍晋三氏が日本の新しい首相に選ばれた。海外メディアには安倍氏をナショナリストと警戒するものもあるようだ。

今回はそのナショナリズムに関連して興味深い新聞記事をとりあげたい。これは中韓との対立や靖国神社参拝とは比較にならないほど深刻なものである。

シリコン・バレー地域の有力紙マーキュリー・ニュースの2006918日号に掲載されたAnxiety Chipping away at Japan's Nuclear Taboo”によると、日本が核兵器を保有する可能性があるという。これが本当なら、アメリカにとって由々しき事態である。現在、核不拡散はアメリカ外交の最重要課題の一つである。冷戦後の国際核不拡散体制は揺らいでいる。NPT加盟国の中にもイランや北朝鮮のように核開発疑惑が抱かれている国もある。悪の枢軸とその他のテロ支援国家は自国の核施設への国際査察に協力的とは言えないことが事態を一層深刻にしている。

日本が核保有に踏み切ろうものならアメリカにとって歓迎されざる事態である。そうなると日米同盟にひびが入り、スエズからパールハーバーに至るアメリカの戦略に支障をきたす。オーソドックスな理解からすれば、日本が核兵器開発に踏み切る可能性は低い。それではマーキュリー・ニュースはなぜそのような記事を載せたのか?

その記事によると中曽根康弘元首相が日本は核保有を検討する必要があると述べたという。日本は近隣諸国、特に北朝鮮の核ミサイルと中国の軍事的圧力という脅威に直面している。また日本は戦後の平和主義を脱して「普通の国」になろうとしている。

新任の安倍晋三首相は日本の伝統的価値観の復活と平和憲法の改正を唱えている。これによって中国、韓国との関係で緊張が深まる可能性がある。さらに安倍新首相は北朝鮮の核ミサイル発射に対する先制攻撃を主張している。

日本が核兵器を保有する可能性はどれほどだろうか?

オーストラリアの王立メルボルン工科大学の日本問題専門家、リチャード・タンター氏は「日本には実質的な抑止力がある。周辺諸国は日本なら半年もあれば高度な核兵器を造れることをわかっている」と述べている。

イギリスの原子物理学者で日本の原子力エネルギー産業にも精通している核不拡散活動家のフランク・バーナビー氏は「日本には充分なプルトニウムがある。技術もある。ないのは政治的な意志だけだ」と述べている。

平和主義感情が日本の核保有を阻むであろう。だが原子力資料情報室という反核団体の伴英幸共同代表は「日本では反核活動がそれほど盛んなわけではない」と言う。

日本が核兵器保有を決断すれば、東アジアでの核軍拡競争が激化する。それに刺激されて韓国も核開発に乗り出し、北朝鮮と中国も核軍拡に走るようになるであろう。インドと違って日本はNPT加盟国である。核保有にはNPTを脱退しなければならない。そのような核不拡散体制の空洞化をアメリカが許すとは到底思えない。核不拡散のためのアメリカの努力は全て水の泡となってしまう。インドとの特別協定は特例中の特例である。

もちろん、私も日本が核開発に乗り出すという記事を信じ込むほどナイーブではない。タカ派のナショナリストと報道される安倍氏であるが、親米派で日米同盟の強化によるアジア太平洋地域の安定を模索している。予見し得る将来に日本が核保有に踏み切るとは考えにくい。だが注意を怠ってはならない!極東地域の緊張は高まっている。核拡散を防ぐためにもアメリカは日本の安全保障に関わらねばならない。これはアメリカ外交の死活的課題である。.

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2006年9月22日

都庁へ

これまでの記事「NPO法人化への助言」「日米ファンド・レイジング・フォーラム」にもあるように、現在のブログを中心とした活動をNPO法人化によってさらに発展させようとしています。8月末に日本民際交流センターで様々な助言を受けましたが、NPO法人の設立の認可を行なうのは都庁です。やはり許認可について疑問のあるところはそこで、本日午後に都庁生活文化局のNPO法人係の窓口を訪れました。

今回の訪問は全く書類をそろえていなかったので、予約なしで短時間(10分から15分ほど)の相談となりました。正式の書類提出の前には大半の必要書類をそろえたうえで、予約をとって生活文化局NPO法人係の窓口を訪れると良いようです。何せ、膨大な量の書類で何を書き込めば良いやら、迷うことだらけです。その時は45分も時間をとってもらえるということで、私は11月2日の予約をとりました。それまで長い期間がありますが、必要な書類などそろえるものが多くあります。都庁の担当者によれば、NPO法人申請の相談を予約する団体は非常に多いので、どうしても予約をとるまで長い期間がかかるそうです。

ともかく正式の書類をそろえて法人設立を申請するまでには、まだまだやることがあります。そして申請から都の許可が下りるまで4ヶ月かかるということです。やはり行政の手続きを経るにはそれなりの時間も労力もかかりますが、法人化によって公的な信頼が高まれば今後の活動にも有利になります。

推薦リンクは都庁NPO法人係です。ブロガーの皆さんには、自分がもっと公的発言力を持ちたい、市民の一人として社会に影響力を発揮したいと思う人が多いと思います。是非とも参照して下さい。

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2006年9月20日

米独ブログ・カーニバル

今月24日にドイツのフルブライト奨学卒業生のブログAtlantic Reviewとアメリカの保守派ブログGM’s Cornerが主催する米独ブログ・カーニバルが開催されます。当ブログからは「NATO、世界の安全保障に積極関与:ブリュッセル国防相会議からリガ首脳会議へ」「アメリカと古いヨーロッパ:911+5の世界」を提出しました。

当ブログはこれまでも数度、このカーニバルには参加しています。米独カーニバルの趣旨はアメリカとドイツの関係を中心に大西洋間の対話と理解を深めようというものです。参加するブログの多くは英語、そしてドイツ語で記されています。

時節柄、911に関するものが目立つようです(英語はわかりますが、ドイツ語はわかりません。自信のある方はリンク先をどうぞ)。硬いものばかりでなく、「ユナイティッド93便」の映画に関するものもあります。

これまで同様に大西洋圏外からの参加者は私だけのようですが、米欧関係は世界の安定と自由・民主主義の普及の基礎です。欧米諸国と同様に先進民主主義国の一員である日本にとって、最近とかく騒がれる中韓との関係よりもずっと重要だと言っても過言ではありません。本格的な国際問題のブログを望むブロガーの期待に充分応えられる記事が集まってきます。どうぞ、こちらを参照して下さい。

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2006年9月17日

アメリカと古いヨーロッパ:9・11+5の世界

911から5年がたった。冷戦後で国際社会にこれほど大きな心理的影響を及ぼした大惨事はない。これはマドリードの311とロンドンの77より大規模な殺戮と破壊が行なわれたという理由からだけではない。アメリカ国民はテロリストによる新たな脅威に対してこれまで以上に警戒するようになった。そしてアメリカとその他の国では脅威への認識の差が大きくなってしまった。これによってアメリカとヨーロッパの古くからの同盟国の間で、特にイラク、そしてアフガニスタン、イラン、レバノンでもある程度の見解の不一致が目立つようになった。

ドナルド・ラムズフェルド国防長官はフランスとドイツを「古いヨーロッパ」と揶揄したが、この語は両国がアメリカにとって古くからの友邦であることも意味している。自由と民主主義の二大勢力であるアメリカとヨーロッパの良好な同盟関係は、世界の啓蒙と繁栄の礎である。そのため、米欧関係を修復し再強化することは不可欠である。

国際社会に広く行きわたっている見解とは逆に、ミシガン大学のファン・コール教授とフォーリン・ポリシーのウィリアム・ドブソン編集長は、フォーリン・ポリシー910月号で911後の世界も基本的な構造は変わっていないと主張している。ドブソン編集長は“The Day Nothing Much Changed”という論文で、911事件にもかかわらず旅行人口は増加し、高層ビルも建築され、経済のグローバル化もとどまるところを知らないと述べている。テロ攻撃によっても世界の力のバランスは変わらなかったばかりか、アメリカとその他の国々との力の格差を拡大しただけであった。コール教授は“Think Again: 9/11”という論文で、911でもアメリカ外交は根本的に変わらず、一時的に政治的制約が除かれただけだと記している。テロ攻撃がなければ、ブッシュ政権はイラクで限定爆撃かクーデター支援を行なうにとどまったかも知れない。

アメリカとヨーロッパの政策の違いを理解するうえで推薦したいのはカーネギー国際平和財団のロバート・ケーガン上級研究員の著書“Of Paradise and Power”(邦訳:「ネオコンの論理」)である。ケーガン上級研究員は「今日のヨーロッパとアメリカの間の明確な違いは、世界がジャングルの掟に従うか理性の掟に従うかという問題に対する心理的あるいは形而上学的な見解の不一致である」と述べている原書p.91。アメリカ国民はホッブスの世界を信じ、ヨーロッパ諸国民はカントの世界を信じている。

ケーガン氏はさらに911の影響を以下のように評価している。

911によってそれまでのアメリカが劇的に変わった訳ではない。アメリカがこれまで以上に力の論理を信用するようになっただけである。」原書p.91

アメリカも古いヨーロッパもイスラム過激派が重大な脅威だと認めているが、両者のアプローチは異なる。ケーガン氏が述べた力の格差だけが米欧のいがみ合いの原因ではない。ブルッキングス研究所のジェレミー・シャピロ研究部長とダニエル・バイマン上級研究員はThe Washington Quarterlyという国際政治専門誌の2006年秋号に“Bridging the Transatlantic Counterterrorism Gap”という論文を投稿している。この論文を検証したい。

この論文ではアラブ系とイスラム教徒の人口分布の違いが米欧の政策不一致の重要な鍵となると述べている。アメリカのアラブ・イスラム人口は少なく、国内に広く散らばっているが、ヨーロッパでは特定の場所に集まって彼らだけの社会を作り上げている。そのため、ヨーロッパではパリ暴動やロンドンとマドリードの爆破のような国内の混乱に注意が向いている。他方アメリカでは大規模破壊を画策するテロリストが海外から入り込み、大量破壊兵器さえ使いかねないと警戒している。

またアメリカ合衆国は単一の主権国家であるのに対し、ヨーロッパ連合は独立国家の集まった超国家機構である。EUの条約ではイギリス、アイルランド、新規加盟国を除いて国境は共通のものとなっている。そのため、テロリストは域内の国境を超えて自由に行き来できるが、合衆国ではこうしたことはあり得ない。

人口分布、政治的一体性、力の格差といった条件から、アメリカと古いヨーロッパがとるテロ対策は違ったものとなる。アメリカはテロリストを国内から締め出し、イラクでもアフガニスタンでも他のどこでも戦おうという外部化戦略をとっている。古いヨーロッパではテロとの戦いの場は国内である。そのためアメリカとヨーロッパではテロに対する言葉使いが違ってくる。アメリカの指導者達は好んで対テロ作戦を「戦争」と言うが、ヨーロッパでは刺激的な言葉は避けられる。911以降のアメリカと違い、ヨーロッパではテロ攻撃に対して愛国心に訴えることはない。

こうした背景の違いを考えれば、ドイツとフランスがテロ対策でアメリカと見解を違えることは何ら不思議ではない。アメリカにとって最も頼れる同盟国のイギリスでさえ、トニー・ブレア首相に対する労働党左派からの突き上げが激しくなっている。現状認識と戦略での米欧間の違いは大きいが、ジェレミー・シャピロ氏とダニエル・バイマン氏はヨーロッパとの緊密な関係はアメリカの国益にかなうと主張している。この目的のために、両人ともアメリカはヨーロッパ同盟国がとる国内テロを中心にした対策を支援するように薦めている。他方、ヨーロッパもアメリカが海外で行なう対テロ作戦に協力的であるべきだと述べている。また米欧が共同で中東の民主化に取り組むべきだと主張している。

ヨーロッパ側からも米欧がテロ対策で協調を進めるような進言がなされている。米欧共同の中東の民主化について、マドリードのFRIDEというシンクタンクの上級研究員も兼任する英ウォーリック大学のリチャード・ヤングス講師は「アメリカもEUも穏健派イスラム教徒との対話の必要を認めており、共同フォーラムに彼らを招けば情報交換にも多いに役立つ」と提案している。ヨーロッパ改革センターのマーク・レナード所長はイラク戦争の長期化とイランと北朝鮮に対する多国間交渉の非効率ぶりから、アメリカがウィルソン的理想主義から孤立主義に陥ることを懸念している。ヨーロッパ側がイラクでのアメリカの一国中心主義をどれほど嫌おうとも、コソボのような場合にはアメリカの介入がなければ立ち行かない。レナード氏はファイナンシャル・タイムズ2004年1月26日号で“The US heads home: Will Europe Regret It?”こうした重要な点を強調している。

あれから5年がたち、アメリカとヨーロッパの双方が互いのイメージを回復することが望まれている。アンジェラ・メルケル独首相とニコラス・サルコジ仏内相が古いヨーロッパに対してアメリカが抱く印象を改善するかも知れない。ゴードン・ブラウン英蔵相はトニー・ブレア首相に対する左派の突き上げを宥めた。アメリカ国民もヨーロッパ諸国民も大西洋同盟が世界の難題に立ち向かう中軸であることを再確認する必要がある。

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2006年9月11日

私の9・11

このところ日本のブロガーは紀子妃が新生児を出産した9・6について書いています。他方でアメリカのブロガーは9・11について書いています。どちらの日も私にとって特別な日となりました。赤ちゃんともテロリストとも関係はありませんが。

9・6にはファンドレイジング・フォーラムに参加しましたが、本日9・11には「日米永久同盟」の著者の長尾秀美氏と会って話しました。長尾氏については以前に「書評:日米永久同盟」でとりあげています。氏とは居酒屋で話し合いました。

長尾氏は既存の論客を盲信してはならないと強調しました。また私達が世論に訴える必要があるとも言いました。氏との話し合いは有益でした。アメリカ軍と同盟諸国軍についても興味深い話しを聞かせてもらいました。

とにかく、この9・6と9・11を重要なステップにしたいです。

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2006年9月 9日

日米ファンド・レイジング・フォーラム

以前の記事にあるように、資金源の発掘とNPO法人化を模索しています。アジェンダはアメリカの主要同盟国として、西側主要民主主義国として、日本が国際政治で積極的な役割を果たすというものです。このアジェンダはホームページとこのブログの両方でも述べています。

この目的のため、9月6日に日米ファンドレイジング・フォーラムに参加しました。この日は紀子妃が新親王を出産した日でもあります。より良い未来に向けてのイベントに参加するには良い日でした。

フォーラムは芝公園にある東京アメリカン・センターで開催されました。「市民活動を支える制度をつくる会」(C‘s)が主催し、アメリカ大使館、日本国内の財団、インディアナ大学が共催しました。

このフォーラムの演題はファンドレイジングの戦略的方法でした。講師はインディアナ大学フィランソロピー・センターから招かれたドワイト・バーリンゲーム博士、リリア・ワグナー博士、大西たまき氏でした。講師が強調したファンドレイジングの基本概念は以下の通りです。

ファンドレイジングとは、適切な担当者が、適切な寄付者に対して、適切な内容と寄付を、適切な活動・プログラムのために、適切なタイミングで、適切な方法で、実行する。

講師陣はこの原則を様々な角度から論じました。

バーリングゲーム博士とワグナー博士はアメリカ式のシステム化されたファンドレイジングについて詳細に説明しました。文化の違いはあるものの、基本的な考え方は世界のどこでも通じるものだと両講師は力説しました。

大西氏は日米のフィランソロピーに対する違いを述べる一方で、潜在的な資金提供者とのより良いコミュニケーションのあり方についても触れました。

ファンドレイジングの基本的な考え方を理解するうえで、この講演は役立ちました。おそらく、上級者にも有益なフォーラムだったでしょう。基本的な原則を自分のプログラムにはどう適合させるか?現時点で、日米の文化の差は感じていません。一般理論を個別のケースにどのように合わせるか。それが問題です。

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2006年9月 5日

アメリカの盟友を採点:英国宰相の群像

今回はBBC History Magazineによる20世紀の歴代イギリス首相の採点を紹介したい。マーガレット・サッチャーとクレメント・アトリーがトップの評価を受けたが、ウィンストン・チャーチルはこの座を逃した。トニー・ブレアは平均の評価しか得ていない。同じようにアメリカの最も信頼できる同盟者でありながら、何がサッチャーとブレアの評価をここまで分けたのか?評価のあり方を詳しく検討してみたい。

20世紀のイギリス首相
[
評価 0 (最低) – 5 (最高)]

5 Margaret Thatcher
5 Clement Richard Attlee
4 Edward Heath
4 Winston Churchill
4 Harold Macmillan
4 Sir Henry Campbell-Bannerman
3 Robert Arthur Talbot Gascoyne-Cecil [
後のLord Salisbury]
3 Herbert Henry Asquith
3 David Lloyd George
3 Stanley Baldwin
3 James Harold Wilson
3 Tony Blair
2 James Callaghan
2 Arthur James Balfour
1 Andrew Bonar Law
1 James Ramsay MacDonald
1 Sir Alec Douglas-Home
1 John Major
0 Robert Anthony Eden
0 Neville Chamberlain

イデオロギーのうえではサッチャーとアトリーは対極にあるが、イギリス社会を新しい時代に向けて変革したことで共通している。アトリーはイギリスを植民地帝国から福祉国家へ変貌させた。ベバレッジ・プランは社会政策の教科書になった。インドからは威厳をもって撤退した。だが、この表でのアトリーの評価は高すぎると思われる。アトリー政権がイギリスの主要産業を国有化したことは、戦後を通じてイギリス経済が停滞した一因ともなった。

マーガレット・サッチャーはトップの評価を得るに相応しい。この表の作成者は以下のように述べている。

マーガレット・サッチャーはイギリス社会を大幅に変革した。アトリー政権より30年にわたる福祉国家を強固な意志で変えてしまった。労働組合が幅を効かせる、公共部門が経済の重要部分を占める、地方議会が教育と他の地方行政サービスを牛耳る、給付金の受給が市民の当然の権利としてまかり通る、今や40歳未満でかつてのイギリスがこのような状況であったことを知るものは殆どいない。かつては強い力を振るった全英鉱山労働者組合を徹底的に叩いたことは過去50年でも歴史を動かす重大な出来事である。

この意見には賛成である。サッチャーが断固とした態度をとったからこそ、イギリス経済は今日に至って回復した訳である。また、ロナルド・レーガンにとって最高のパートナーであったサッチャーは、冷戦の勝利で大きな役割を担うとともに、イラクのサダム・フセイン、リビアのムアマル・カダフィ、アルゼンチンのレオポルド・ガルチェリといった独裁者を破った。

国民の人気は高いチャーチルだが、トップの評価を得るには至らなかった。確かにカリスマ性はあり、歴史上でもアメリカにとって最高の同盟者の一人であった。だが歴史学者の中には最高行政官としてのチャーチルの能力に疑問を抱く者もいる。ドイツ打倒に心血を注ぐ余り、戦後のイギリス経済には無頓着だったことが挙げられる。4点というのは適切な評価である。

他方、トニー・ブレアの評価は低すぎる。タイムズによると以下の通りである。

ブレア氏は民間部門に公共部門の仕事に関与するという「比較的永続性のある変化」をもたらした。だが「イラク戦争の不人気と戦争開始の理由が後からこじつけられたという事実から、ブレア氏の政策ビジョンの実現能力は大幅に低下してしまった」とつけ加えている。

だが考えて欲しい。ブレア首相がイラク攻撃に反対したなら、大西洋同盟には致命的なものとなったであろう。イラクでの米欧対立にもかかわらず、NATO軍はアフガニスタンとパキスタンでテロ掃討作戦を行なっている。この評価のタイミングが悪かったとしか言いようがない。現在、ブレア首相は次の首相への政権移譲を迫られている。通常なら、もっと高い評価が得られるであろう。

イギリスの首相の中でもチャーチル、サッチャー、ブレアはアメリカにとって最高の同盟者である。自由と民主主義の拡大、世界平和の達成で三首相の果たしてきた役割は大きい。BBCマガジンでの評価はどうあれ、米欧関係で三首相が残してきた業績は高く評価されるべきである。

英米協調は外交と安全保障に限らない。マーガレット・サッチャーとロナルド・レーガンは保守主義の伝道者であった。彼らの考える小さな政府は世界の指導者に大きな影響を及ぼした。北欧諸国では福祉国家が考え直された。日本の小泉改革はサッチャーとレーガンに触発されたものである。

マーガレット・サッチャーは首相在任中に国民から愛されなかった。歴史は指導者を適切に評価するものだ。必要なことは批判を受けてもやり通す。これが本物の政治家になるために重要な教訓である。

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