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2006年9月 5日

アメリカの盟友を採点:英国宰相の群像

今回はBBC History Magazineによる20世紀の歴代イギリス首相の採点を紹介したい。マーガレット・サッチャーとクレメント・アトリーがトップの評価を受けたが、ウィンストン・チャーチルはこの座を逃した。トニー・ブレアは平均の評価しか得ていない。同じようにアメリカの最も信頼できる同盟者でありながら、何がサッチャーとブレアの評価をここまで分けたのか?評価のあり方を詳しく検討してみたい。

20世紀のイギリス首相
[
評価 0 (最低) – 5 (最高)]

5 Margaret Thatcher
5 Clement Richard Attlee
4 Edward Heath
4 Winston Churchill
4 Harold Macmillan
4 Sir Henry Campbell-Bannerman
3 Robert Arthur Talbot Gascoyne-Cecil [
後のLord Salisbury]
3 Herbert Henry Asquith
3 David Lloyd George
3 Stanley Baldwin
3 James Harold Wilson
3 Tony Blair
2 James Callaghan
2 Arthur James Balfour
1 Andrew Bonar Law
1 James Ramsay MacDonald
1 Sir Alec Douglas-Home
1 John Major
0 Robert Anthony Eden
0 Neville Chamberlain

イデオロギーのうえではサッチャーとアトリーは対極にあるが、イギリス社会を新しい時代に向けて変革したことで共通している。アトリーはイギリスを植民地帝国から福祉国家へ変貌させた。ベバレッジ・プランは社会政策の教科書になった。インドからは威厳をもって撤退した。だが、この表でのアトリーの評価は高すぎると思われる。アトリー政権がイギリスの主要産業を国有化したことは、戦後を通じてイギリス経済が停滞した一因ともなった。

マーガレット・サッチャーはトップの評価を得るに相応しい。この表の作成者は以下のように述べている。

マーガレット・サッチャーはイギリス社会を大幅に変革した。アトリー政権より30年にわたる福祉国家を強固な意志で変えてしまった。労働組合が幅を効かせる、公共部門が経済の重要部分を占める、地方議会が教育と他の地方行政サービスを牛耳る、給付金の受給が市民の当然の権利としてまかり通る、今や40歳未満でかつてのイギリスがこのような状況であったことを知るものは殆どいない。かつては強い力を振るった全英鉱山労働者組合を徹底的に叩いたことは過去50年でも歴史を動かす重大な出来事である。

この意見には賛成である。サッチャーが断固とした態度をとったからこそ、イギリス経済は今日に至って回復した訳である。また、ロナルド・レーガンにとって最高のパートナーであったサッチャーは、冷戦の勝利で大きな役割を担うとともに、イラクのサダム・フセイン、リビアのムアマル・カダフィ、アルゼンチンのレオポルド・ガルチェリといった独裁者を破った。

国民の人気は高いチャーチルだが、トップの評価を得るには至らなかった。確かにカリスマ性はあり、歴史上でもアメリカにとって最高の同盟者の一人であった。だが歴史学者の中には最高行政官としてのチャーチルの能力に疑問を抱く者もいる。ドイツ打倒に心血を注ぐ余り、戦後のイギリス経済には無頓着だったことが挙げられる。4点というのは適切な評価である。

他方、トニー・ブレアの評価は低すぎる。タイムズによると以下の通りである。

ブレア氏は民間部門に公共部門の仕事に関与するという「比較的永続性のある変化」をもたらした。だが「イラク戦争の不人気と戦争開始の理由が後からこじつけられたという事実から、ブレア氏の政策ビジョンの実現能力は大幅に低下してしまった」とつけ加えている。

だが考えて欲しい。ブレア首相がイラク攻撃に反対したなら、大西洋同盟には致命的なものとなったであろう。イラクでの米欧対立にもかかわらず、NATO軍はアフガニスタンとパキスタンでテロ掃討作戦を行なっている。この評価のタイミングが悪かったとしか言いようがない。現在、ブレア首相は次の首相への政権移譲を迫られている。通常なら、もっと高い評価が得られるであろう。

イギリスの首相の中でもチャーチル、サッチャー、ブレアはアメリカにとって最高の同盟者である。自由と民主主義の拡大、世界平和の達成で三首相の果たしてきた役割は大きい。BBCマガジンでの評価はどうあれ、米欧関係で三首相が残してきた業績は高く評価されるべきである。

英米協調は外交と安全保障に限らない。マーガレット・サッチャーとロナルド・レーガンは保守主義の伝道者であった。彼らの考える小さな政府は世界の指導者に大きな影響を及ぼした。北欧諸国では福祉国家が考え直された。日本の小泉改革はサッチャーとレーガンに触発されたものである。

マーガレット・サッチャーは首相在任中に国民から愛されなかった。歴史は指導者を適切に評価するものだ。必要なことは批判を受けてもやり通す。これが本物の政治家になるために重要な教訓である。

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英米特別関係&大西洋同盟」カテゴリの記事

コメント

舎さん、

はい!!(と手を挙げて)

20世紀の最も優れた英国の宰相はSir Winston Leonard Spencer-Churchillだと思います!!
Margaret Hilda Thatcherではありません。

と先に言ってしまう。(笑)

投稿: 真魚 | 2006年9月 6日 01:24

チャーチルは大指導者ですが、最高行政官としては少し疑問があります。チャーチル首相にサッチャー蔵相なら最高のコンビではないでしょうか?

投稿: 舎 亜歴 | 2006年9月 7日 21:29

  ブレアが低いのは、自分も納得が行きません。現在の政権担当者だから、粗が目に付いてしまうのでしょうか。あれだけパキスタン移民が多い国の中で、テロ対策はよくやっていると思います。

投稿: ろろ | 2006年9月10日 23:19

現役の政治家を過去の政治家と比べる事が間違えでは?

良い例はレーガンやクリントン。レーガンは無能な元役者と言われたが今では常時トップ10の大統領と評価されている。クリントンはすばらしい大統領とされたが、今では中堅レベルの評価を受けている。

時が経つと政治家の評価は見えてくるのでは?

MikeRossTky

投稿: マイク | 2006年9月11日 07:41

ろろさん、

ブレアの評価が下がったのはイラク戦争に加わったことよりも、その過程で不透明な情報操作があったためです。確かに民主主義で政治の透明性は重要ですが、戦争ともなれば情報操作はつきものです。

左派からはアメリカのプードルと批判されてますが、若年離職者に非営利ボランティアで経験を積ませたり、途上国の援助にも積極的であったりとフェビアン政党らしさも政策に反映しています。

エコノミスト誌では労働党左派のこうした動きを厳しくたしなめています。リンク先は

http://www.economist.com/displaystory.cfm?story_id=7885772&fsrc=nwl

投稿: 舎 亜歴 | 2006年9月11日 13:01

マイクさん

レーガンとクリントンに関して時がたっても変わらないのは道徳面での評価です。現役の頃からレーガン夫妻は理想的な家庭のロールモデルでしたが、クリントンの行状はあまり評判が良くありませんでした。

クリントンは有能な管理者ではあったでしょうが、理念をもって時代を築くタイプではなかったように思えます。頭は良かったが、基本原則に欠けていた。これがレーガンとの違いではないでしょうか。

投稿: 舎 亜歴 | 2006年9月11日 13:10

舎さん、

カリスマ的に見れば、やはりチャーチルの方が上ではないでしょうか。サッチャーが、ヒトラーやド・ゴールやFDRやスターリンと渡り合えることができたかどうかは疑問です。しかし、イギリス経済を立て直すことがチャーチルにできたかどうかも疑問ですね。

ところで、ブレア後のイギリスの対米関係についての記事をお願いします。昨日のIHTにも"America is losing its best friend"というタイトルで、ブレア以後のイギリスの対米関係についての論評がありました。ブレアの信念はイラク戦争は正しいというものです。しかし、イラク戦争への評価はアメリカ国内ですら変わってきています。レバノンへの対応も同様です。ブッシュの時代はブレアの時代でもあったと思います。それが今終わろうとしています。

投稿: 真魚 | 2006年9月11日 19:28

サッチャーでも諸大国の指導者と渡り合えたと思います。実際にレーガンともゴルバチョフとも渡り合ったので。ただ、戦中にあの緊張感の走ったメソディスト的な態度で第二次大戦を指揮すれば、国民はうんざりするでしょう。

チャーチルとサッチャーを比べると、男女の差がどうしてもあります。やはり、指導される国民としては切れ者の女性から厳しく叱咤されるよりも、男性の方が安心感があるというのが一般的なところでは。アメリカ国民へのビルとヒラリーの受けもこうした違いが原因では?

ブレアの対米関係で非常にわかりやすいものは、以前の記事でとりあげたフォーリン・ポリシー2005年5月号のものです。以下のリンクを参照を。

http://newglobal-america.tea-nifty.com/shahalexander/2006/04/no_d785.html

"ブレア内閣の外交政策をもっと理解するには、フォーリン・ポリシー誌の2005年5月号に掲載された”Think again”という論文を推薦したい。同誌のジェームス・G・フォーシス編集助手は、ブレア首相をブッシュ政権のプードルと見るのは誤りだと記している。ブレア首相はアメリカに対する協力の見返りに影響力を得たが、この政策を有効なものとするためにはそうした影響力の成果を高らかに口にすべきでない。トニー・ブレア首相による影響力の行使がなければ、ジョージ・W・ブッシュ大統領がイラク問題で国連決議を求めることはなかったであろう。また、イギリスの口添えがなければ、イラン問題でアメリカがヨーロッパを支援することもなかったであろう。

さらにフォーシス氏はトニー・ブレア首相が外交政策に関してはネオコンであると記している。ブレア首相は世界の民主化のための積極介入という大プロジェクトを支持し、必要なら武力行使も躊躇しない。米国のネオコン同様、ブレア首相もアメリカのリーダーシップなしには世界は動かないと信じている。ブレア首相は機会あるごとにアメリカの積極関与の必要性を説き、孤立主義に陥らぬように訴えている。2003年にアメリカ議会で演説を行なった際には、ブレア首相はアメリカがリーダーシップをとらねばならない理由を次のように述べている。「歴史の中での今この時にアメリカが世界のリーダーとしての使命を背負っている以上、それを全うするべきである」。ブッシュ政権のブレーンでもここまで説得力のあることを言える者はいない。"

この他に最近の労働党の内紛を厳しく批判する記事にはエコノミストより

http://www.economist.com/world/britain/displaystory.cfm?story_id=7855203

http://www.economist.com/displaystory.cfm?story_id=7885772&fsrc=nwl

>>ブッシュの時代はブレアの時代でもあったと思います。

これは正確ではありません。ブレアはイデオロギー的にはむしろクリントンに近いです。昨年5月の総選挙でも一般市民になったクリントンが応援に駆けつけました。

次いでに言えば、温暖化の議論でもあったように確かにヨーロッパではアメリカ以上に環境運動の影響が強いです。その中でもブレアは輪をかけてenvironmentalistです。英国貴族伝統のキツネ狩りを禁止したほどです。

私自身はキツネ狩り禁止はやり過ぎと思っていますが、こうしたところからもブレア=ブッシュという見方は正確ではありません。

投稿: 舎 亜歴 | 2006年9月13日 22:47

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