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2006年10月24日

北朝鮮核危機への対処

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出典 The Nightmare Comes to Pass, The Economist, October 12

コンドリーザ・ライス国務長官が北朝鮮の核実験問題について話し合うために極東を訪問した。今回の訪問を前に、国際経済研究所のマーカス・ノーランド上級研究員がフォーリン・ポリシー誌秋季号のインタビューで7つの問題点について答えている。インタビューの内容を見てみよう。

問1:北朝鮮は核実験から何を得ようとしているのか?

ノーランド氏は北朝鮮の指導者の間に核保有によって現体制が維持できるという考えが広まっていると述べている。今回の実験は核兵器開発への第一歩である。

問2:実験のタイミングについてはどう見るか?

次のことが考えられる。キム・ジョンイル氏の朝鮮労働党書記長就任10周年記念、韓国のバン・ギムン外相の国連事務総長選出に向かう関心を北朝鮮に向けさせる、日本の安倍晋三首相の中国訪問への当てつけといったところである。

問3:北朝鮮の核実験によって他の国への核拡散の懸念は高まったか?

ノーランド上級研究員は、この実験によって極東地域の核拡散の危険は高まり、日本、韓国、台湾が要注意だと述べている。フォーリン・ポリシー誌秋季号の“The List: The Next Nuclear States”では3ヶ国への核拡散の可能性について評価を下している。核開発の能力と動機については以下の通りである。

日本

能力:「核兵器に転用できるプルトニウムの貯蔵量は23tに達し、兵器レベルのウラン濃縮の技術もある。日本は世界でも最大で最先端の民間核利用技術を持っている。」

動機:「北朝鮮の急速な核開発によって日本の世論も変わってきており、核保有の是非について国民的な議論が必要だと主張する政治家も現れている。」

韓国

能力:韓国には兵器レベルの核燃料濃縮技術はないと見られるが、民間核利用の技術は高い。しかし1970年代から遅くとも2000年まで、秘密の核開発を進めていた。海外から核兵器開発技術を輸入することはできる。

動機:北朝鮮の軍事的脅威は深刻になっている。米韓関係の悪化もあり、自主国防能力の強化を真剣に考えている。他方、北朝鮮の崩壊に伴う祖国統一によって核兵器を引き継ぐことも有り得る。

台湾

能力:1980年代末までに台湾は数年で核兵器が保有できるほど研究を進めてきた。アメリカなどの圧力もあり、ウラン濃縮技術もプルトニウム生産施設も破棄した。兵器レベルの核燃料の貯蔵量は多くない。だが研究から得た知識は残っていると思われる。

動機:中国の軍事的脅威は高まっており、核保有の決断を下す可能性はある。北朝鮮のように大国の脅威に直面していると主張することは有り得る。

東アジア諸国の指導者達は充分に注意しなければならない。アメリカの政策形成者達は極東諸国をイランやシリア並みに厳しく見るようになっている。閲覧者の皆さんには日本の麻生太郎外相と中川昭一自民党政調会長の発言が向こう見ずだとわかるであろう。二人とも日本の核武装について公然と口にした。核不拡散は世界的な政策課題で、狭い国益を超えたものである。英エコノミスト誌は以下のように記している。

「大量破壊兵器は世界の平和と安全保障に対する明らかな脅威である。大国が国益むき出しの勢力争いを差し置いてもこうした兵器の拡散問題に対して取り組むかどうかは予断を許さない。」(“Going Critical, Defying the World”, October 19参照)

問4:アル・カイダのような組織が核分裂物質を手にする可能性は?

ノーランド氏はその可能性は低いと言う。非国家アクターへの核兵器技術の移転は難しい。固定した場所と設備が必要になるとの答えである。しかしテロ集団への核拡散の危険性は否定していない。

問5:中国は北朝鮮に有効な制裁を科すだろうか?

ノーランド上級研究員の指摘では、アメリカとインドに対抗してゆくために北朝鮮をつなぎとめておく必要があるので中国の立場は微妙だという。

英エコノミスト1019日号の“The Nightmare Comes to Pass”によると、清華(Tsinghua)大学の閻学通(Yan Xuetong)教授 は際限ない制裁の強化には中国は乗り気でないと述べている。閻教授は制裁強化によって北朝鮮がさらに核実験を行なうと主張している。また朝鮮半島での影響力を維持し、台湾海峡からアメリカの注意をそらすためにも中国にとって北朝鮮は必要だと述べている。「閻教授の見解では、北朝鮮の核実験に対する中国の怒りは2003年のアメリカのイラク侵攻にたいするフランスとドイツの怒りと似たところがあるという。」

中国が北朝鮮に対して意味のある制裁をするかどうかは不透明である。同じく英エコノミスト1019日号に掲載された“Sanctions: History Lessons”では重要な以下の点を挙げている。

制裁が効果を挙げるにはできるだけ多くの国が参加しなければならない。特に中国の動向が鍵を握る。制裁は一般国民を苦しめないようにスマートに行なうべきである。キム・ジョンイル主席は海外での悪評など気にしないうえに、イエスマンに取り囲まれている。そのため「これまで以上に孤立させるのは危険を伴う可能性がある。」

それは正しい。世界からの孤立、これが北朝鮮問題を難しくしている。

問6:制裁が適切でないなら、国際社会はどのように対応すべきか?

ノーランド氏は「制裁カード」によって北朝鮮に再実験をやめるよう圧力をかけるべきだと主張する。しかし北朝鮮が事態を把握できずに危険な一線を踏み越え、韓国がどう思おうともアメリカが軍事行動に出ざるを得なくなることを懸念している。ノーランド氏は宥和政策をとれば北朝鮮が冒険主義に出てくると警告している。

問7:今後の北朝鮮はどうなるか?

中国と韓国は核の脅威よりも北朝鮮の混乱を懸念している。しかし北朝鮮の真意は核保有を認めさせたうえでの体制維持だとノーランド上級研究員は述べている。北朝鮮への対応で中韓は結束しているのだろうか?

英エコノミスト1012日号の“The Nightmare Comes to Pass”という記事では中韓関係について興味深い分析をしている。中国は統一朝鮮によって半島全域でナショナリズムと反中感情が高揚するのではと懸念している。韓国民の多くは中国が日本への防壁として朝鮮支配の野心を抱いているのではと疑っている。歴史をふり返れば、朝鮮は中国に服属していた。中国と韓国の亀裂は注目の必要がある。

ここまで7つの問題を見てきた。今、北朝鮮は再実験をしないと公約した。しかし独裁者がいつまで沈黙を守るか定かではない。実験がイランに与える影響も無視できない。最終的には北朝鮮の現体制は国内の反体制運動への支援で崩壊させるべきだと私は信じている。.

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コメント

所詮、日本が併合するまでは中国の自治国であったのだからまた中国に併合させればよい。 国家として扱おうとするから難しいだけだ。拉致、麻薬、偽札等々をやることは国家のやることではない。中国の再併合を認める対価として米国の核攻撃を承認せよ。北に核を持たせれば遅かれ早かれイスラム圏に核拡散する。イスラムの核に怯えるのは米中露の多民族国家である。覇権国家を目指すこれらの諸国だ。核保有国家に対する核攻撃は、核を持っても容赦しないぞとの警告になる。核を保有していない日本に核攻撃をした米国は何を躊躇するのだ。現在の覇権国家としてその明快な国家意志をみせよ!ココで怯むと米国の覇権国家の衰退を世界に見せつけるものだ。その国際収支の赤字の膨大さ、ユーロの台頭もあり通貨が不安定化している。偽札でないといえどもあまりにも米札を刷りすぎた。一気にドルが不安定化する。暴落する。世界が否応なしに巻き込まれる。
 中国は米の核攻撃を理由に陸軍を北朝鮮へ侵攻させ一気に制圧へ。日本は在日北朝鮮人を財産没収のうえ強制送還へ、その対価として経済支援を。当たるかどうか解らぬミサイル防衛システムに8000億円賭けるのは馬鹿げている。それ以外の軍拡への財政負担を考えると安上がりだ。

投稿: 寄稿人 | 2006年10月25日 15:14

初カキコのbystanderというものです。以後よろしくお願いします。

麻生・中川両氏の発言の真意は「北朝鮮の核を中国が本気でどうにかしないんだったら、日本が核保有を考えちゃうかもよ? そうなったら困るのは誰かな?」という外交戦術としてのブラフだと思います。さらに深読みすれば、昨今、中間選挙における民主党の優位が伝えられる中で08年における「民主党政権」誕生を見越した、民主党の(親支鮮反日的と日本で思われがちな)将来の東アジア政策に対する牽制でもあると邪推します。

>東アジア諸国の指導者達は充分に注意しなければならない。アメリカの政策形成者達は極東諸国をイランやシリア並みに厳しく見るようになっている。

 それならば、もう少しイラク・イラン・パレスティナに向けている(国内世論も含めた)関心をこちら側に向けてくれるといいんですけどねぇ(嘆。あと、この表現にはイスラエル=日本という含意が透けて見えて「神の国」には失礼ですけども、戦略的重要性も所詮そのレベルかと思うとなんともorz。

投稿: bystander | 2006年10月25日 16:25

舎さん、おはおうございます

MSNはトラック・バックが出来ませんので固定リンクで引用させて頂きました。

A scenario to isolation:Indochina crisis-1
A scenario to isolation:Indochina crisis-2 Live and Let Die

DPRKの核実験からの反応として東アジア諸国は米国の軍事戦略上からのポイントを、読み違えないことでしょうね。

確かに日本は国力的にも技術的にも核兵器開発が最も可能な国家だという意味で核拡散の元凶になりうるのだとは思いますが・・・

DPRKだけが動機・・・というのは余りにもそのグランド・デザインが幼稚過ぎる訳で

DPRKにした所で日本国内で破壊工作を実施することに何のメリットも見出せない。
(詳細は僕のブログに書きましたが)

肝心の米国は当の昔に「核抑止論」等は捨てていることを最近来日したライス国務長官すら伺わせる発言をしている。

日本が視野狭窄に陥らないことを願いますね。

投稿: asean | 2006年10月26日 12:10

aseanさん、

核抑止論など冷戦下の五大国、実質的には米ソ二極の睨み合いだから通用する理論であって、核保有国が際限なく登場してはMADも何もかも通用しなくなります。

それとも最近の日本の政治家にはシャルル・ド・ゴールの亡霊でもとりついたのでしょうか?今や核は大国のステータス・シンボルどころか自国を孤立化させるだけのものになっっています。

「あの日本が核を持った」となれば、核拡散は極東に限らなくなる恐れがあります。遠い国での良からぬ影響を考えられないようでは、国連安保理の常任理事国などやめておくべきです。

投稿: 舎 亜歴 | 2006年10月26日 13:31

こんばんは

まず、『ならずもの国家』の核には、核抑止は、働かないんですね。
テロリストについても、同様。

次に、少数、日本が核をもったところで、中国へのけん制という人もいるが、たいした効果はないのですね。

何故なら、日本のような領土が狭く、首都機能が東京に集中しているような国家では、第2報復能力がないんですね。だから、中国とはMADは機能しません。

あくまでも、アメリカの核の傘、防衛があってこそのバランスですから

やみくもに、核保有国を増やし、核軍拡のジレンマに陥るだけですね。
言うまでもなく、拡散の可能性もあがり、より、国際社会は、緊張と危機に直面しなければいけなくなります。

投稿: あいけんべりー | 2006年10月27日 19:27

日本が核を持って最悪の事態は、アメリカと中国を両方とも敵に回しかねないことです。

狭い国土でも核報復能力ならイギリスのように潜水艦を主力にするという方法がありますが、そんな資金は他に使った方がよほど合理的です。

韓国のノ・ムヒョンのように「自主国防」と言い出して孤立化を深める愚は犯さぬことです。アメリカを関与させる努力の方が重要です。

投稿: 舎 亜歴 | 2006年10月28日 11:17

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 所詮、日本が併合するまでは李氏朝鮮は事実上の中国の自治国であったのだ。また中国に併合させればよい。一人前の国家として扱おうとするから難しいだけだ。拉致、麻薬、偽札等々をやることは国家のやることではない。日米中の3カ国は、中国の再併合を認める対価として米国の核攻撃を承認せよ。北に核を持たせれば遅かれ早かれイスラム圏に核拡散する。イスラムの核に怯えるのは米中露の多民族国家である。覇権国家を目指すこれらの諸国だ。核保有国家に対す... [続きを読む]

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