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2006年11月10日

中間選挙後のアメリカ外交政策

去る11月7日の中間選挙では民主党が上下両院で多数派となった。今回の選挙を前に選挙結果がアメリカの外交政策にどのような影響をもたらすかという分析がなされている。今後2年間、ブッシュ政権は議会対策で苦慮することもある。今回の選挙ではイラクが争点となった。ジョージ・W・ブッシュ大統領はイラク政策と外交全般で路線転換するのだろうか?また2008年の大統領選挙への影響についても触れたい。

ブルッキングス研究所のトマス・マン上級研究員は11月1日に国務省で行なわれた公開フォーラム今回の選挙はイラク戦争への反発とブッシュ政権への国民の不信感、そして議会共和党の腐敗が大きな争点となったと述べた。だが注目すべきは民主党が国民の怒りにうまく乗り切れず、下院まで落とすようなことになればアメリカの選挙制度が民主的なものかどうかという信頼性が揺らいでしまう。そうなれば議会民主党そのものの存在意義が問われかねない。しかし今回の選挙結果が2008年の大統領選挙に直接つながる訳ではない。中間選挙の勝敗と大統領選挙の行方は関係ない。大統領選挙ではイラク問題の展開と経済動向が大きな影響を及ぼし、両党がどれだけ魅力ある候補者を立てられるかも重要であると述べていることである。言い換えれば、民主党は内政でも外交でも説得力のある代替案を出さねばならない。アメリカはテロ、核拡散、アフガニスタンなど実に多くの外交問題を抱えている。イラクはその内の一つなのだが、他の重要な問題については選挙では殆ど議論されなかった。共和党政権の成果は悪くはない。 

良かれ悪しかれ、共和党政権はそれなりの実績を挙げてきた。好調な経済、低い失業率、に加えて2001年9月11日からアメリカ本土への大規模なテロ攻撃は起きていないにもかかわらず、アメリカ国民の多くは殆ど成果が挙がっていないと考えている。(Goodbye to the permanent majority?”, The Economist, November 2)

中間選挙後の外交政策について、ブルッキングス研究所のマイケル・オハンロン上級研究員はデイリー・読売111日号に投稿した“What is a Hard Power Progressive?”という論文で民主党タカ派hard power Democratについて述べている。それは内政ではリベラルだが外交では共和党保守派のクローンといったレベルにはとどまらない。ブッシュ・シニア大統領やビル・クリントン大統領のように現政権よりもリアリストでアメリカの価値観を余りにも高らかに謳いあげる傾向は見られなくなるであろう。だからと言ってアメリカの外交政策が急激に変わるわけではない。民主党タカ派と共和党の同調者達は国家安全保障に関しては保守派とネオコンが掲げたものと同じ問題に取り組むことになる。現在、アメリカはイラク、イラン、北朝鮮の他にエネルギー政策や中国の台頭といった問題にも直面している状況である。そしてオハンロン氏は以下のように述べている。

民主党タカ派はイラク問題でブッシュ政権を厳しく批判しているが、イラクでの敗北を認めて引き下がるという訳でないなら、現状打破のために新しい解決策を打ち出さねばならない。

オハンロン上級研究員は、民主党タカ派は新しい時代と新しい課題に対してハードパワーとソフトパワーをどのようにうまく兼ね合わせるかをよく理解し、アメリカが現在抱えている脅威に対処するであろうと結論づけている。

最後に今回の選挙がアメリカ外交に及ぼす影響について保守派の意見としてアメリカン・エンタープライズ研究所の3人の専門家による見解を取り上げたい。ジョシュア・ムラブチック常任研究員は、民主党の上下両院で指導的立場にあるハリー・リード上院議員とナンシー・ペロシ下院議員は現政権を批判するだけで代替案を持たないと批判している。ノーマン・オーンスタイン常任研究員は選挙後に二つの動きがあると見ている。まず、イラク政策、虐待、情報収集能力について徹底的な調査が行なわれるであろう。そして行政部の権限の拡大に対して議会が制限を科そうとするであろう。両常任研究員の見解に加えて、ダニエル・プレトカ副所長はアメリカが弱く分裂していると見ればならず者国家やテロリストを勇気づける危険を指摘している。いずれにせよ、三人とも共和党が行政権を掌握している限りは根本的な変化はないとの見解で一致している。

外交政策について本格的な議論が始まるのはこれからである。メディアはイラク政策の「失敗」ばかりを取り上げる。だがしっかりした考えもなしに即時撤退してもイラクの安定化にはつながらない。さらにアメリカは外交と安全保障で多様な課題に直面している。どちらの党がこうした問題に対処するうえで真の解決策を示せるだろうか?2008年の大統領選挙に向けたテストは始まったばかりである。

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アメリカのリーダーシップ/世界秩序」カテゴリの記事

コメント

私も、アプローチにおいては、多少変化があるでしょうが、大きな進展は期待できない2年になると考えています。

つまり、外交目標に変化なく、その方法論に変化ありといったところでしょうか。

実際、民主党もまとまった、外交政策があるわけでもないですし、特にイラク政策の現実的なオプションは、そう多くありません。

心機一転、ブログを移転しました。お手数、お手間をとらせます。すいません。よろしくお願いします。

投稿: forrestal | 2006年11月13日 05:24

>2001年9月11日からアメリカ本土への大規模なテロ攻撃は
>起きていないにもかかわらず、アメリカ国民の多くは殆ど
>成果が挙がっていないと考えている。

  これ、言われてみるとすごく正当な評価だと思うんです。しかし、素直にそう感じられないのは、やはり米国に置いても、いわゆる「マスコミ」が左寄りに偏向しているからではないでしょうか。
  政権を担当するということは、マイナス要因についての責任を背負うと言うことです。だから、減点法で評価してしまうのは仕方のないことです。しかし、減点法が全てになってしまえば、およそ「良い政権」というものは存在し得ないことになってしまいます。
  この減点法を生業にしているのが、自称インテリの巣窟であるマスコミだと私は思います。朝日新聞でも、NYタイムズでも、ボストングローブでも、CNNでも、程度の差こそあれ、そういうものが見え隠れするのです。
  私は共和党の方が「好き」ですが、次の民主党の候補者がヒラリーだとすると、レーガン・ブッシュ父以来の共和党の三期連続は相当危ない気がしています。自称インテリは、フェミニズムや「女性初」を抜きにして、純粋に政策の効果でヒラリー大統領を批判できるんでしょうか。

投稿: ろろ | 2006年11月13日 21:33

forrestalさん、

ブログもハンドルネームも一新で今後のブログに期待しています。それにしても今回の選挙でイラクが大きな争点になりましたが、根本的には核不拡散とテロ戦争という問題があるわけです。それを真剣に考えずにイラク政策を批判しても余り意味はないと思います。奇妙なことに、アフガニスタンは全く話題になりませんでした。

例の「マカカ発言」は論外ですが、メディアというのはこうしたつまらない一言を取り上げて本当に議論すべき問題から注意をそらしてしまいます。

とは言え、昨年9月の日本の選挙もそうでした。「郵政民営化に賛成ですか、反対ですか?」だけが争われました。わかりやすい問題だけを取り上げるのが選挙での勝利の早道とは言え、これは健全な民主主義ではありません。

投稿: 舎 亜歴 | 2006年11月14日 00:08

ろろさん、

メディアは権力への批判に使命感を抱くことがあります。BBCなど、これが行き過ぎてしまうことがあります。NHKや朝日新聞にもそうした傾向が見られます。

面白いのはこちらの記事。
http://mikerosstky.spaces.live.com/blog/cns!65DFD4754018BC2A!2064.entry

このブログにリンクしている「保守思想」のものです。

ヒラリーでも大きな権力を握りながら期待外れとなると自称インテリ達は容赦なく批判するので、心配には及ばずといったところでしょうか?

投稿: 舎 亜歴 | 2006年11月14日 00:36

舎さん

今後もより一層、頑張りたいと思います。よろしくお願いします。

およそ、選挙というのは、内政(国内問題)が中心となるものです。
では、イラク政策が内政なのかと言われれば、アメリカの対外政策である。
しかし、R.パットナムの2レベルゲーム(対外政策ー対内政策リンケージモデル)を適用・応用すれば、アメリカのイラク政策は、対外政策であり、対内政策でもある。テロ攻撃、本土防衛、予算(財政)、亡くなる米兵、アメリカの理念(価値)は、アメリカの内政(国内問題)ということになる。

イラク政策、とくに、戦争後の治安回復などは、ある程度、長期的なスパンがかかる。日本でも戦後、国際社会に復帰するまでに、7年、かかっているのである。また、近代化の過程には、内乱などは、つきものである。

G.W.ブッシュ政権は、このことを急ぎすぎたし、国民へのアカウンタビリティが少なかったのも事実である。

しかし、アメリカ国民は、日本国民もだけれども、メディアに対して距離を置き、しっかりと、リテラシーしていくことが、肝要である。(メディアは、第4の権力と呼ばれるが、メディアをチェック・監視していく、権力は、国民にしかない。)

メディアのメッセージは、意図的に構成されているがゆえに、論理的に分析可能である。これが、メディア・リテラシーの意味である。

対外政策をめぐる党派対立は、国民統合を危うくする。アメリカ史をさかのぼれば、それは、ワシントンの告別の辞にもあらわれている。

M.オハンロンは、ブッシュの姿勢は変わらないと述べるが、私は、分割政府でも、G.W.ブッシュ大統領は、柔軟に上手くやると思っている。

それは、そうせざる得ない事情もあるが、2008年に向けての共和党のためでもある。

投稿: forrestal | 2006年11月15日 22:22

はじめまして。
通常、アメリカの中間選挙は政権党が敗北するのでしょう?
クリントン政権ではずっと民主党が少数党ただったと思います。
ブッシュ政権は今までが幸運だったのでこれが普通。
それほど極端な政策の変更があるとは思えませんしまたその必要もないでしょう。

投稿: アラメイン伯 | 2006年11月16日 23:26

forrestalさん、

仰るようにイラクはアメリカの外交と内政が絡み合った問題です。核不拡散とテロというアメリカ外交の重大アジェンダの中でも選挙で特別に注目度が高くなるだけの理由はあります。それにしてもアフガニスタンの注目度は低かったです。こちらも「テロ攻撃、本土防衛、予算(財政)、亡くなる米兵、アメリカの理念(価値)」と関わっているのですが。

やはり開戦に向けてのアカウンタビリティの問題でしょうか?アフガニスタンの戦争は同盟国の協力を仰げましたが、イラクではそうではありませんでした。

ところで民主党多数の議会ですが、つい先日にインドとの各協定が上院を通過しました。これは賛否両論のある問題でしたが、民主党多数だから大統領の政策をことごとく否決はしないという一例です。

投稿: 舎 亜歴 | 2006年11月19日 13:10

アラメイン伯さん、

今回の選挙で問題になったイラクの場合、民主党も始めは賛成していましたから現政権の政策を全面否定しても自らの立場を危うくするだけです。事は超党派の研究グループで打開するようになるでしょう。

共和党政権の成果は決して悪くないだけに、今後の民主党が政権政党に相応しい政策を打ち出せるか注目です。

投稿: 舎 亜歴 | 2006年11月19日 13:14

舎さん、こんにちは

アフガニスタンですが、私はこう考えています。

①9.11直後で、アメリカ国民の支持が極めて高かった。
②同盟諸国の協力、国際社会の容認があった。
③国際法上の根拠が明白にあった。
④攻撃後の治安回復が一定の軌道にのった。(一時ではありますが)
以上が国内的にも、国際的にも正統性を備えていたという点で、あまり、アメリカ・メディアは、取り上げませんね。


言うまでもなく、日本のメディアは、アフガンもイラクもあまり取り上げないのですが・・・。

投稿: forrestal | 2006年11月21日 13:03

ご指摘の通り、1~3が大きな要因です。4についてはどうか?今も南部を中心に旧タリバン勢力との厳しい戦いが続いていますが、ISAFの士気は高いようです。

イラク開戦が差し迫ったのはアフガニスタンから。もっと外交安全保障政策の全体像から議論して欲しかったのですが、選挙でそこまで求めるのは酷か?

投稿: 舎 亜歴 | 2006年11月27日 20:28

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