« キッシンジャー元長官ら、世界非核化構想を提言 | トップページ | 迫る暴虎!:北朝鮮の情報入手に有益なブログ »

2007年1月23日

イラクのショッカーを退治せよ!

ブッシュ大統領は110日にイラクの暴徒に対処するため兵力を増強すると発表した。この案自体は何も目新しいものではなく、この決定には特別に驚くところはない。サダム・フセイン打倒後の占領の早い時期から、ロバート・ケーガン氏、ウィリアム・クリストル氏をはじめとする論客やジョン・マケイン上院議員らが大統領に対してバグダッドとイラク国内の危険地域への兵員増強を訴え続けてきた。ワシントン・ポスト20039月1日号に“Why Iraq Needs More U.S. Troops”という論説を寄稿したロバート・ケーガン氏はバース党政権打倒後のイラク再建に向けて治安維持のためにアメリカ軍の増員を主張した。ロバート・ケーガン氏は予備役の動員の必要性を指摘していたが、現政権がこの選択肢には乗り気でなかったことも認めていた。

米軍増員が必要となったのはどのような事情からだろうか?この問題に答えるためには中東全体とイラクの現状を理解する必要がある。

イスラエルの学際研究センターのバリー・ルービン国際問題部長は中東では1950年代以来で最も大きな政治的地殻変動が起こっていると主張している“The New Mideast Alignment” エルサレム・ポスト1月14日号)。ルービン氏は中東が二つのグループに分かれてしまったと言う。一方はHISH(ヘズボラ、イラン、シリア、ハマス)で、もう一方はアラブ穏健派である。現在、イラクはHISHとアラブ穏健派の衝突の最前線となっている。さらに重要なことに、国家安全保障委員会が2007年1月に発行した“Highlights of the Iraq Strategy Review”によれば、ブッシュ政権はイラクを対テロ戦争の最前線と位置付けており、イラクでの勝利がアメリカ、中東地域、そしてアメリカの同盟国にも死活的だと見なしている。ホワイトハウスは、HISHの中でもイランがイラクに及ぼす好ましからざる影響力が最も深刻なものだと受けとめている。

さらに事態を理解するため、イラクに焦点を絞ってみたい。中間選挙直後にイラク研究グループがアメリカの可能な限りの早期撤退、イランとシリアとの協調を提言した。ファイナンシャル・タイムズ1113日号に共同投稿したウィリアム・クリストル氏とロバート・ケーガン氏は“Bush Must Call for Reinforcements in Iraq”という論文でこの案を否定している。両氏はこのような名誉ある敗北では事態の改善に役立たないと主張している。イランとシリアとの協調関係については両氏とも懐疑的である。だがジェームス・ベーカー氏とリー・ハミルトン氏が主宰するイラク研究グループがブッシュ大統領に自らの政策に対する超党派の支持を求めるよう提言したことには賛成している。両氏は「共和党の敗北はブッシュ氏にはイラクでの勝利戦略がないと思われたためで、早く撤退すべきだという世論のためではない。大統領が明確な勝利戦略を示せれば、必要な政策に対する支持を得ることができる。」と指摘している。

先に述べた“Highlights of the Iraq Strategy Review”ではイラクの現状を分析している。 このレポートによれば、多国籍軍は以下の目的を達成した。

サダム・フセイン体制がイラク国民、近隣諸国、アメリカに対して組織的な脅威となることはなくなった。

イラクでは憲法に基づく自由な選挙が行なわれるようになった。

民主主義が確立し、イラク国民が自らの国作りに参画できるようになった。

国民一人当たりの所得は増加(インフレはあるが、世界銀行の試算では$743から$1593に上昇している)したが、これはIMFの指導下での実績である。(グローバル・アメリカン政論では以前、「イラク再建:リベラルが見ても成果は挙がっている」という記事でこのことを述べている。)」

しかしアメリカ主導の多国籍軍は以下の問題に直面している。

アル・カイダのテロ活動と悪意に満ちた暴徒に加えて、今や民族と宗派が関わった暴動も起きている。

イラク政府は権限の移譲を求めているが、政府機構の能力は不充分で民族と宗派の対立も深まっている。

権力の中枢は拡散し、国際管理地域の外側の情勢がイラクの国政に大きな影響を及ぼすようになっている。

このレポートではバグダッド周辺の事態は改善しておらず、多国籍軍に対するイラク国民の支持は低下して地域社会の「自助努力」に頼るようになってきている。イラク情勢に対する主な前提条件が変わってきていることに注目する必要がある(p.7)。敵はスンニ派を基盤とした暴動から様々な民族と宗派に基づく蜂起になってきている。反乱分子との対話は暴動の鎮静化につながると思われてきたが、今やそれが治安の改善に役立たないことがわかった。

イランの脅威の増大も深刻な問題である。ブッシュ政権はイランもアメリカと同様にイラクの政治的安定を望むものと考えてきた。今やイランがシーア派の反乱分子を支援してイラクでの影響力の拡大をはかっていることが明白になっている“Vindicating Larry Franklin”、ニューヨーク・サン1月16日号)

そのような危機的な事態に対してアメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)のフレデリック・ケーガン常任研究員は, “Choosing a Victory: A Plan for Success in Iraq”と題するレポートでイラクの暴徒に対する勝利戦略を示している。アル・カイダ、旧バース党、スンニ派とシーア派の反乱分子、からイランにいたるまでの敵を分析したうえで、イラクでの軍事作戦、復興、兵員拡大の戦略を提言している。イラク戦略を語る前に、フレデリック・ケーガン氏は基本的な前提条件を述べている。

「2001年から2006年にかけてアメリカがこの戦いに費やした労力は国力から見て小さなものであった。現役と予備役で100万人以上の兵力があるにもかかわらず、イラクに駐留している兵力は14万人に過ぎない。」

ケーガン常任研究員は、まずバグダッド地域に兵力を集中するよう主張している。そこの鎮圧に成功した暁には、スンニ派とシーア派の地域を一つづつ平定すべきだと述べている。また、アメリカとイラク政府はスンニ派反乱分子に対する鎮圧とスンニ派住民もシーア派住民も守る意志を明確に示すべきだと主張している。そうすることでそれに続くシーアは民兵の掃討作戦も政治的にやりやすくなると分析している。(p.33 ~ 34

さらにフレデリック・ケーガン氏はアメリカがイラクに決然と関与すべきだと言う理由を明確に述べている。ケーガン氏は一般に広まっているイラク軍への訓練と権限委譲を進めるべきだという考え方を否定し、民族・宗派間の暴動の激化はイラク軍の着実な能力向上を上回っていると述べている。アメリカ軍はこうした暴徒を撃破すべきで、イラクから撤退すればイランの影響力がシーア派地域に広まる恐れがある。ケーガン常任研究員はアメリカがサダム・フセインを打倒した目的を達成するにはイラクへの関与を拡大するしかないと主張している。(p.40 ~ 44

最後にAEIのマルク・ルエル・ジェレクト常任研究員の一言を引用する。 

アメリカにとって現時点でのイラク撤退は、米軍以上の犠牲者を出したイラク国民に対する裏切り行為である。 “Should We Surge?”, The New Republic Online, January 11

メディアはよくイラクとベトナムを混同する。しかしジェレクト氏が述べているように、イラクの民主化は進展しており、ベトナム戦争時とは異なってアメリカが支援しているのは腐敗した独裁者ではない。メディアは絶対にこの点を忘れてはならない。

|

« キッシンジャー元長官ら、世界非核化構想を提言 | トップページ | 迫る暴虎!:北朝鮮の情報入手に有益なブログ »

中東&インド」カテゴリの記事

コメント

舎さん

ご無沙汰しておりました。

イラクの増派ですが、基本的には、賛成なのですが、2万で、足りるのかという懸念があります。拙ブログでも、記事に書いたのですが、やるなら、中途半端なことはせず、圧倒的な兵力をもって、鎮静化しなければいけない。もちろん、現状の議会との関係、アメリカ国内世論も理解しております。しかし、短期的に鎮静化した方が、その両者は、議会も世論も、そして、アメリカにとっても、プラスです。

私の記憶が確かならば、ジョン・マケイン議員は、10万程度の増派でしたね。
開戦時の前国務長官コリン・パウエル氏に至っては、30万であったはずです。

外交的努力はもちろん、軍事力の行使に限っては、ワシントンが率先して行わなければ、イラクの混迷ーイランとの連動は、止められないと考えています。

投稿: forrestal | 2007年1月31日 15:53

増派の必要兵力は様々な意見があります。ゲーツ国防長官は6万人としていました。昨日のNHK「クローズアップ現代」で河野ワシントン支局長がコメントしたように、政治家達はイラク戦略の是非もさることながら2008年選挙に目が向いているのも問題です。

2万人の増加は中途半端と言えますが、これより急な増派では世論の反発を気にせざるを得ないということです。

いずれにせよフレデリック・ケーガンのレポートは今後のイラク戦略にはmust readです。どう見てもイラク研究グループのものよりずっと良いです。イランへの宥和まで勧告するとは、ISGって一体何だろうと思ってしまいます。

投稿: 舎 亜歴 | 2007年2月 1日 21:26

お久しぶりです、舎さん。

最近になって漸く「イラク政策」に関する”まともな”レポートが出てくるようになりましたね。

ISGが出したレポートは、まぁ~ベイカーですから、超現実主義でしょうし、中東地域に関しては知らない訳ではないので
イラン、シリアとの関係を、ってな辺りはあの地域での「本質部分」を戦略的に~という意味ではそれなりですが
ブッシュ政権側からするとISGレポートを認めることは中東”アラブ”諸国への背信行為と
取られ兼ねないのでなかなか「ハイ、ソウデスネ!」とは言えない。
(ベーカー達からすると、そんな対外的なことなんかはどうでもいいんでしょうけどね・・)

リベラル派やメディアにしてみると、テロ行為が”成功した場面”は絵になるでしょうけど、治安が落ち着いた風景は絵にならない。
ましてや、自由気ままな個人的な抗議のスリオーガンが書かれたプラカードを持った反政府抗議デモや反米デモなんてのが
フセイン政権時代に出来た訳もないことには口を拭って反米意識の高まりだ!ってな注釈を付けて仕事をしている振りをする。

イラクに侵攻した元々の目的である”イラク”の民主化はそれなりに進んではいますが主権国家を建て直すんです、
そんなに短時間で出来る訳がないのに、リベラルは「当事者のイラクの将来」等ではなくて内政的な政治問題に摩り替えている。
(故に対案さえ出せない)

大衆政治の傭兵みたいな扱いを受てイラクに駐留する現場の兵員の身になってもいないような印象を最近受けますね。

投稿: asean | 2007年2月 2日 12:24

aseanさん、お久しぶりです。ISGはイラク政策に対する不満のガス抜きぐらいの意味しかないというのが定説ですし。民主党でも本気で大統領選を狙う政治家になると兵力増強の必要性は認めているほどですし、うっかり変な発言をしてジョン・”F”・ケリーのように叩かれては元も子もないです。

投稿: 舎 亜歴 | 2007年2月 8日 01:02

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/109615/13636449

この記事へのトラックバック一覧です: イラクのショッカーを退治せよ!:

» フセイン元大統領死刑執行 [ TOEIC満点の勉強法]
フセイン元大統領死刑執行住民虐殺「人道に対する罪」でフセイン元大統領の死刑執行された。 [続きを読む]

受信: 2007年1月27日 02:08

» ナマ身の人間を考えない厚労大臣はいらない&安倍首相の情けない対応 [日本がアブナイ!]
 時間がないので、とりあえず柳沢トンデモ発言の関連記事の中から、気になったもの をアップしておきたい。 <コメントのレスは、今夜から順次書きます。少し待って下さい。m(__)m>  リンク、参照記事もあとでアップします。 前記事<コチラ>でも取り上げた柳沢厚労大臣のトンデモ発言の波紋が広がっている。  当然にして、野党からは批判が続出(後述)しているわけだが。私は、柳沢大臣が どのように釈明or自らの身を処するのか、また何より安倍首相がこの件に関して、どの ように対応を... [続きを読む]

受信: 2007年1月30日 01:26

« キッシンジャー元長官ら、世界非核化構想を提言 | トップページ | 迫る暴虎!:北朝鮮の情報入手に有益なブログ »