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2007年1月 2日

新年への問いかけ1:開放的なNATOと閉鎖的なEU

まるで新年を祝うかのように、ルーマニアとブルガリアが1月1日にEUに加盟した。EUのさらなる東方拡大は冷戦後のヨーロッパの安全保障で重要課題である。だが加盟の順番をいまだに待っている国について言及したい。その国はトルコである。トルコの加盟問題はEUの閉鎖性とNATOの開放性を象徴するものである。どうして両者はこれほど違うのだろうか?

トルコがEUに受け入れられれば、西側同盟に大きな利益をもたらす。イスラムと欧米の架け橋として、トルコは中東と中央ユーラシアへの自由と民主主義の拡大を行なううえで前進基地となるであろう。この国は西ヨーロッパの主要国ほど自由で民主的ではないかも知れない。しかし、トルコがケマル・アタチュルクによる革命からずっと政教分離、西欧化、近代化を追及し続けてきたことを忘れてはならない。これは今も続いている。一度EUに受け入れられれば、トルコはアメリカが主導するイスラム世界の民主化の主要基地となるであろう。これはこの地域でのポジティブなドミノ現象に向けた第一歩となる。さらに、トルコのEU加盟によってエネルギー資源に恵まれたシルクロード沿いの広大な地域からロシアと中国の影響を振り払い、欧米の影響下に置くことができる。さらに西側がイランに圧力をかけるうえでも有利である。

歴史的にトルコはアナトリアから新疆にいたる広大なトルコ・ペルシア文明圏と強いつながりがある。勇敢な騎馬民族であったトルコ人は、中央アジア、イラン、アフガニスタン、インド北部、アナトリアで王国を築いてきた。東西の架け橋として、また自由民主主義と啓蒙主義のためのポジティブなドミノ現象の前進基地として、これは絶好の条件である

しかしヨーロッパ人の中にはヨーロッパとは均質なキリスト教世界であるべきだと主張する者も多い。しかしヨーロッパが本当に均質なキリスト教世界だろうか?十字軍の時代にはそうであった。そのキリスト教世界は二分されてしまった。一方は教皇のキリスト教、他方は市民のキリスト教である。すでにヨーロッパは多文化で多宗教の世界である。イスラム教を理由にトルコを拒絶するよりもヨーロッパ人はこの国との共通の絆に注目すべきである。

トルコはイスラム世界でケマル主義による啓蒙路線の追求に成功した唯一の国である。トルコはヨーロッパと共通の価値観を有している。さらに重要なことに、トルコはビザンチン帝国の文明と領土の継承者である。さらにオスマン帝国は同化したヨーロッパ人をイェニ・チェリとして採用した。

拒絶され続ければ、ヨーロッパ人がEU加盟のためにトルコが行なってきた努力を認めてくれないことにトルコ人が苛立つようになる。これがイスラム過激派を勢いづかせることを私は懸念している。

考えてみれば、EUは新規加盟国の受け入れに慎重過ぎた。イギリスがECに加盟するまで10年以上かかったことは余りによく知られている。他方でNATOは連合軍による占領統治の任務が終了すると西ドイツの加盟を認めている。今日ではNATOは日本やオーストラリアばかりか韓国の加盟さえ議論している。他方でEUはアメリカとカナダの加盟さえ議論したことがない。

これほどまで大きな違いをもたらしているのは何であろうか?ともかくNATOと同程度まで開放的なEUであれば、全世界への自由と民主主義の拡大という西側同盟の戦略目標にとてつもなく大きな恩恵をもたらす。これが今回の問いかけの理由である。

ルーマニアとブルガリアの友人達、EU加盟と新年おめでとう!トルコの友人達、新年おめでとう!

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コメント

挨拶が遅れましたが、今年も宜しくお願いします。コメントも久しぶりですが。

EUは方向性として国家の統合にあるのに対し、NATOはその活動のための基盤が各国の確固とした自立にあるからではないかと思っています。利益を求めるのが中心である組織と、義務を果たす側面もある組織では異なるとも自明かと。

投稿: カワセミ | 2007年1月14日 03:37

カワセミさん、お久しぶりです。もちろん、ご指摘の通りなのですが、それにしてもEUの閉鎖性には驚愕します。トルコは50年近くEU加盟を望み続けながら、いまだに願いがかなっていません。米英が新規加盟に賛成なのに対し、独仏が慎重という図式も昔からです。独仏両国もトルコの加盟自体は賛成でも、何かと国内事情から加盟条件を厳しくしています。

東欧諸国の受け入れもNATOの方が早いです。年末年始はたいした資料にも当たれなかったので、問題提起だけをしました。今後、何か資料を見つけてもっと深い議論をするつもりです。

投稿: 舎 亜歴 | 2007年1月16日 00:49

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