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2007年2月27日

英米の覇権を哲学から考える

バートランド・ラッセル著 “A History of Western Philosophy”

正直なところ、私は哲学に関して全くの素人である。しかし19世紀より世界の自由主義の王者として君臨してきた英米の覇権を理解するうえで哲学的な背景を理解する必要があるのではと思えるようになった。パックス・ブリタニカとパックス・アメリカーナを哲学から理解するにはバートランド・ラッセル著の“A History of Western Philosophy“を推薦したい。なぜか?それはこれから説明し、その著書に関しても手短にコメントしたい。

私がロンドン・スクール・オブ・エコノミックスの大学院に在学時の主要テーマは覇権安定論であった。アメリカの政治経済学者チャールズ・キンドルバーガー氏とロバート・ギルピン氏はこの理論を基に自由主義秩序が戦間期に崩壊した原因を考察し、イギリスの国力が低下する一方でアメリカが新たな覇権国家としての責務を果たそうとしなかったことが世界大恐慌と第二次世界大戦につながったと結論づけた。

現在、私はニール・ファーガソン著の“Empire: The Rise and Demise of the British World Order and the Lessons for Global Power” “Colossus: The Rise and Fall of the American Empire” に加えてロバート・ケーガン著の“Dangerous Nation“という3冊の歴史的洞察力に富む著書を読んでいる。そうした著書を読むうちに、イギリスとアメリカの覇権において道徳面でのリーダーシップが私の想像よりももっと重要なものであると理解し始めるようになった。“A History of Western Philosophy”では両覇権国家の哲学的な拠り所について基本的でしかも深く掘り下げて論じている。

ハーバード大学のニール・ファーガソン教授は奴隷制度の廃止でイギリスがリーダーシップを発揮したことを述べている。ロックの啓蒙主義に基づき、大英帝国首相の座にあったパーマストン卿はイギリスには道徳、社会、政治のいずれにおいても文明の指導者という特別な役割があると主張した。パーマストン首相は奴隷貿易を阻むために砲艦を差し向けたばかりか、ベルギー、ギリシア、イタリア、ポーランド、イベリア半島での自由主義運動も支援した。カーネギー国際平和財団のロバート・ケーガン上級研究員はアメリカが拡張主義外交を推し進めるうえで自由主義の理念がどのように強力な武器となったかを詳細に述べている。“A History of Western Philosophy”で近代イギリスの哲学者について参照すれば、大英帝国とアメリカ合衆国による「慈善的な帝国主義」のイデオロギー的基盤を理解するえで役立つ。

歴史を通じて数多くの超大国が出現した。しかしその殆どは人類の進歩と福祉のための普遍的理念を持っていなかった。大英帝国とアメリカ合衆国は歴史上の他の帝国とは全く異質の存在なのである。歴史上の超大国を数例ほど取り上げて、こうした国による世界秩序と英米両帝国による自由主義秩序がどれほど違うものか述べてみたい。

まず世界史上初のグロ-バル帝国となったスペイン帝国について述べる。スペインは大英帝国と現代のアメリカとは似ても似つかぬ超大国であった。スペイン建国の基になったのは「レコンキスタ」であり、イベリア半島のキリスト教徒がイスラム教徒より祖国を取り戻そうという情熱がこれを突き動かした。それは一種の十字軍であった。歴代のスペイン国王は宗教的情熱が強過ぎて非寛容的なカトリック主義政策を追求していった。本国ではイスラム教徒、ユダヤ教徒、そしてプロテスタントが悪名高き異端審問の弾圧を受けた。ハプスブルグ家よりカルロス1世が王位に就くとスペインはカトリックの守護者を自認するようになり、プロテスタントへの弾圧はさらに激しくなった。フランシスコ・ピサロとヘルナン・コルテスがアメリカ大陸で現地の文明を抹殺したもの何ら不思議ではない。

もう一つの超大国として中国を挙げる。歴史を通じて中華帝国は周辺アジア諸国ばかりかインドからヨーロッパにいたる諸国に対しても圧倒的な経済力と軍事力を誇ってきた。主人を敬うという儒教の理論を利用して、歴代の中華皇帝は内政でも外交でも権威主義的なヒエラルヒーを押し付けてきた。自らを天帝より遣わされた地上の支配者と位置付ける歴代の皇帝は、アヘン戦争でイギリスに敗北するまで諸外国の「夷荻」の王を見下し続けてきた。イギリスは東洋の巨龍をロック、スミス、リカードの理念に基づく新しい秩序に引きずり込むことに成功した。中華秩序は自由とか普遍的という概念とは程遠いものであった。

イギリスとアメリカとは違ってスペインにも中国にも道徳面でのリーダーシップがとれるだけの知的基盤がなかった。その他の歴史上の大国も同様である。“A History of Western Philosophy”では西洋哲学の進化をギリシア文明の初期から眺めている。バートランド・ラッセルはギリシアで哲学がどのように始まったかを述べている。また西洋哲学の進化の背景を歴史的視点からも分析している。近代自由主義については、商工業に従事した中産階級の役割を述べている。さらに初期の自由主義が勃興する市民階級を反映して楽観的で活力に満ち、哲学的であったと指摘している。これはイギリスとアメリカの拡張主義を理解するうえで押さえておくべきポイントで、こうして自信に満ちた自由主義が世界の覇権国家となった両国の外交政策に大きな影響を及ぼすからである。この本は大変な分量なので、全てを読みこなすのは難しい。それでなくても素人が哲学の考え方と専門用語に慣れるのは大変なことである。この本を偉大な思想の百科事典として利用すれば、現在の世界情勢をより深く理解するうえで役立つであろう。

この記事で挙げた文献については別の機会にもっと詳しく取り上げたい。冒頭で述べたように私は哲学に関して全くの素人なので、この分野に詳しい者からコメントいただくとあいがたい。道徳面でのリーダーシップはアメリカ外交の重要課題、中でも対テロ戦争と民主主義の拡大ではきわめて大きな地位を占める。必要な“A History of Western Philosophy”を参照し、将来を形成する基本的な思想を理解することができる

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2007年2月18日

都庁でのNPO相談

先のブログ記事「都庁へ」で述べたように、現在の活動を正規の法人化してよりアドボカシー(市民による政策提言)活動を充実させようとしています。そのために13日に特定非営利法人の設立についての正式の相談に都庁へ出向きました。都庁の担当者からは、設立趣旨に政治色が強いので特定非営利法人としてNPO設立を申請するよりも、法務省管轄下の中間法人として申請した方が良いのではという助言をされました。

今後は特定非営利法人と中間法人の利点を比較検討して、法人として申請したいと思っています。尚、法人設立の趣旨は以下の通りです。

特定非営利活動法人設立趣旨書

1・設立に当っての社会の現状及び背景

テロ、核拡散、宗教や民族の過激派など新たな脅威が台頭する中、第二次大戦と冷戦のバイアスを廃した新しい世界を模索。新時代に向けて対米関係を強化し、自由と民主主義の拡大で日本の役割を強化する必要がある。

2・上記の現状と背景の問題点

(1)第二次大戦と冷戦にとらわれて未だに抜けきらない戦後のフリーライダー平和主義

(2)米英が主導する自由と民主主義の普及に対する理解の不充分

(3)パックス・アメリカーナへの根拠薄弱な反感

3・上記問題点の解決の望ましい方策

(1)   第二次大戦と冷戦に基づく思考の排除

(2)   日米同盟強化により日本を「東方の英国」にグレードアップして特別関係を構築

(3)   アメリカ、ヨーロッパ、オーストラリアと共に先進民主主義国として世界の指導的役割を担い、特に中東からアジアでの平和に貢献

(4)   日本は戦後レジーム・チェンジの実績を踏まえてフリーライダー平和主義を撤廃し、今後は世界のレジーム・チェンジへ積極関与

(5)   パックス・アメリカーナへの不平不満だけの後退思考を排除

(6)   特に(5)のような思考を国際世論の代表のように扱う風潮には抗議

4・これまでの実績

ブログを中心に以下の行事に参加してきた

(1)   米独ブログ・カーニバル

ドイツのフルブライト奨学卒業生が主宰する米欧間のブログ交流

(2)   安全保障関連のブロガー・コミュニティに参加

アメリカを中心とした安全保障問題のブロガー同士の交流会に参加

(3)   メトロポリス誌など外部活字メディアへの投稿

(4)   国際的な研究会への参加

5・今後の活動での取り組み及びその公益性

活動内容

(1)   従来通りのブログ

(2)   通常ホームページでのオンライン・ジャーナル

(3)   政府、メディア、企業などへの投書

(4)   外部メディアへの投稿

(5)   小冊子の発行

公益性

(1)   国際平和と協力の推進

(2)   自由と民主主義、人権擁護の促進

(3)   自由貿易の拡大による経済と福祉の拡大

(4)   特定の利害を代表しない市民による政策活動の活発化

6・特定非営利法人設立の理由

(1)   政策研究の充実

(2)   アドボカシー活動の強化

(3)   上記活動のための資金調達に有利な条件の整備

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2007年2月10日

イスラム過激派に関する5つの問題点

イスラムに対する理解は対テロ戦争の鍵となる。西側は過激派を抑えるために軍事作戦のみならず政治的関与と開発援助にも取り組んでいる。ジョージタウン大学ウォッシュ外交学院のジョン・エポスティーノ教授とギャラップ社イスラム研究部のダリア・モガヘド上級部長は一般に広まっている見方とは裏腹に、イスラム過激派は裕福で教育水準が高く、将来への希望もあり西側の自由主義を賞賛していると指摘している。

ここでフォーリン・ポリシー誌200611月号のインターネット版の“What Makes a Muslim Radical?”という記事を参照したい。

問題1: 日常生活での宗教の重要性

(1)   宗教は日常生活で重要である

過激派:92%

穏健派:91%

(2)   最近7日間で宗教行事に参加した

過激派:56%

穏健派:59%

穏健派と過激派の間で宗教の重要性について差はない。熱心な信仰が必ずしもテロの引き金にはならない。

問題2:教育と所得

(1) 教育水準

小学校以下 

過激派:23%   穏健派:34%

中等教育から大学

過激派:44%   穏健派:38%

(2)   所得

低所得ないし貧困

過激派:22%   穏健派:31%

平均以上あるいは高所得

過激派:25%   穏健派:21%

過激派は穏健派より教育水準も所得も高い。彼らを暴力に駆り立てるのは恵まれない教育と生活水準ではない。

問題3:将来の生活への希望

悪くなる

過激派:7%   穏健派:7%

良くなる

過激派:53%   穏健派:44%

一般には自爆テロは絶望感によるものだと考えられているが、過激派の方が穏健派よりも自分達の生活に対する満足度が高い。

問題4:西側の賞賛できるところ

科学技術(両者とも1位に挙げた)

過激派:30%   穏健派:31%

自由・民主主義・言論の自由(両者とも2位に挙げた)

過激派:22%   穏健派:22%

イスラム過激派は欧米の生活様式を嫌っているわけではない。両者とも西側の自由と民主主義を賞賛している。

問題5:イスラムとの関係改善に西側がすべきこと

(1) 西側は何をすべきか?

イスラムに敬意を払う(両者とも1位に挙げた)

過激派:39%   穏健派:36%

(2)   他には何をすべきか?

自分達の価値観や政策を押し付けない

過激派:17%

経済開発・雇用対策

穏健派:22%

両者とも西側にイスラムへの敬意を払って欲しいと思っている。過激派は西側の関与を自分たちへの支配を強める脅威だと感じているのに対して、穏健派は経済開発を通じて西側との関係強化を模索している。

結論:

過激派は所得、教育、将来への展望のいずれにおいても恵まれている。彼らが絶望感に突き動かされていると見るのは完全な誤りである。最も重要になるのは問題5である。過激派は西側の自由主義を賞賛してはいるものの、西側の関与は自分達の文明への脅威だと感じている。他方で穏健派は経済開発と雇用創出で西側の援助を期待している。

過激派と穏健派の正反対の要求を満たすことは不可能である。しかし西側は文化交流を通じてイスラムへの敬意を示すことができる。恵まれない人達への自立支援や地域社会の建設支援によって穏健派を親欧米派に取り込むことができる。こうした政策は力を背景とした政策と併用されるべきである。

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2007年2月 3日

2007年のアメリカ政治の方向性

ジョージ・W・ブッシュ大統領は1月23日に一般教書演説を行なった。大統領は内政と外交の重要課題にどのように対処するか指針を示した。そうした問題には予算、社会保障、教育、健康保険、移民、エネルギーと気候変動、対テロ戦争、そしてイラク戦争がある。

基本的な政策の方向性は昨年とそれほど大きく変わってはいない。メディアは現政権と民主党が気候変動の問題で近づいていると報道しているようである。実際には大統領は脱石油化と温暖化ガスの排出削減について昨年の一般教書演説で言及していた。今年のブッシュ大統領はこの問題に取り組むためにアメリカがエタノールの使用を進めるべきとまで発言している。

最も重要な問題はイラク戦争とテロとの戦いである。大統領はアメリカの対イラク関与を増強すると発表した。民主党は早期撤退を求めているが、その後について明確な構想を示していない。

フォーリン・ポリシー誌のブログに同誌の編集スタッフのマイク・バイロン氏がPassport live-blogs the State of the Union tonight”という記事を投稿しているが、それによると「メディアの報道とは裏腹にブッシュ政権はイラクとイランにとどまらず対外関与を強める方向である。ブッシュ政権のスピーチ・ライターも政権の評価を決定づけるのがイラク問題であることをよく理解している」。

またバイロン氏は移民問題と気候変動といった重要課題で民主党がどのように対応するか注目すべきだと述べている。

エネルギー問題では両党ともアメリカが脱石油化をはかるべきという共通の認識を抱いている。ブルッキングス研究所のデイビッド・B・サンダロウ環境エネルギー研究員はそれを以下のように説明している。「国家安全保障でタカ派に属する者は毎年のようにペルシア湾岸地域に送られる巨額の資金に警戒感を抱いている。環境活動家は地球温暖化に警鐘を鳴らしている。農家はエタノールをビジネス・チャンスととらえている。消費者は石油価格が高騰すると悲鳴を上げる」。 “Ending Oil Dependence, Brookings Institution Report,22

気候変動に関してブッシュ政権は京都議定書に基づかない解決策を模索している。だがオーストラリア国立大学の国際経済学のウォーリック・J・マキビン教授とシラキュース大学の行政学のピーター・J・ウィルコクセン助教授はA Credible Foundation for Long Term International Cooperation on Climate Change” in Brookings Discussion Papers in International Economics No. 171, June 2006で以下のような主張をしている。

国際的な合意によって二酸化炭素の排出量削減を目指すなら、既存の制度によって資本と研究開発に信頼性のある長期的な投資を行なう環境を整えるべきである。

この問題では現政権と民主党の間で認識の一致があるものの、京都議定書をめぐっては依然として意見は一致していない。議定書を受け入れないなら、ブッシュ政権は説得力のある代替案を出す必要がある。

最も重要な問題はイラクと対テロ戦争である。アメリカン・エンタープライズ研究所のトマス・ドネリー常任研究員はArmed Forces Journalの2月2日号に寄稿した“Buying Boots: The Challenge of Expanding US Land Forces”という論文で、ヒラリー・クリントン上院議員の意見を引用しながら民主党でも責任ある議論をする者はイラク派兵増加の必要性を認めていると指摘している。さらにドネリー氏は民主党の弱点についても言及している。「民主党は昨年秋の選挙の結果を誇らしげに語ってはいるものの、実際に自分達が戦争にどのように対処すべきかという政策を打ち出せる信頼性も能力も不十分なことを理解している。民主党は国防に弱いと見られることを恐れており、その一方で戦争に積極的だとも言えない状況である。そのうえに最高司令官の前には議会の力はかすんでしまう。2008年の大統領選挙を視野に入れている民主党は、イラク撤退を声高に主張する支持者の手綱を締めようとしている。1994年からずっと野党の立場にある民主党にとって政策よりも政権奪回の方が重要課題になっている」。他方で共和党も中間選挙の敗北の衝撃を受け、良い状況ではない。しかも共和党の大統領候補の間で政策の整合性はない。

ドネリー常任研究員はイラクへの関与拡大で以下の四つの問題点を挙げている。

派兵費用はどれほどで、その財源はどうするか?どれほどの兵力増強が必要か?増強された兵力の任務はどうなるか?どのような兵力が必要になるか?

兵力の種類と規模が決定されれば、次は反乱の鎮圧と政治プロセスの促進が課題になる。この点についてはAEIニュースレター2月号の“A Turning Point for the Iraq War”という記事で述べられている。AEIのフレデリック・ケーガン常任研究員は最優先課題となるのはバグダッドの治安確立だと主張している。さらにジャック・キーン退役陸軍大将は治安の確立が成功して初めてアメリカが政治的な役割を果たすことができると述べている。こちらのリンクからそのイベントのビデオも閲覧できる。

イラク問題は今年と2008年の大統領選挙では最重要課題である。今や真の解決策が求められている。この記事の結論にスーパーヒーローの仮面ライダーBLACK RXのリンクを聴いて頂こう。

傷つくことを恐れたら、地球は悪の手に沈む。

Wake up the hero! 燃え上がれ!光と闇の果てしないバトル!

Wake up the hero! 太陽よ!愛に勇気を与えてくれ!

テロリストに対しては、この歌のような決然たる態度が望まれる。

追記:アメリカの保守派の間では温暖化否定論が根強いが、それについては当ブログにリンクしているマイクさんの「保守思想」を参照するよう薦める。もちろん、否定論に賛同する必要はないが、このブログを読めば保守派の間で温暖化の議論がどうして否定されるのかがよくわかる。

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