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2007年2月10日

イスラム過激派に関する5つの問題点

イスラムに対する理解は対テロ戦争の鍵となる。西側は過激派を抑えるために軍事作戦のみならず政治的関与と開発援助にも取り組んでいる。ジョージタウン大学ウォッシュ外交学院のジョン・エポスティーノ教授とギャラップ社イスラム研究部のダリア・モガヘド上級部長は一般に広まっている見方とは裏腹に、イスラム過激派は裕福で教育水準が高く、将来への希望もあり西側の自由主義を賞賛していると指摘している。

ここでフォーリン・ポリシー誌200611月号のインターネット版の“What Makes a Muslim Radical?”という記事を参照したい。

問題1: 日常生活での宗教の重要性

(1)   宗教は日常生活で重要である

過激派:92%

穏健派:91%

(2)   最近7日間で宗教行事に参加した

過激派:56%

穏健派:59%

穏健派と過激派の間で宗教の重要性について差はない。熱心な信仰が必ずしもテロの引き金にはならない。

問題2:教育と所得

(1) 教育水準

小学校以下 

過激派:23%   穏健派:34%

中等教育から大学

過激派:44%   穏健派:38%

(2)   所得

低所得ないし貧困

過激派:22%   穏健派:31%

平均以上あるいは高所得

過激派:25%   穏健派:21%

過激派は穏健派より教育水準も所得も高い。彼らを暴力に駆り立てるのは恵まれない教育と生活水準ではない。

問題3:将来の生活への希望

悪くなる

過激派:7%   穏健派:7%

良くなる

過激派:53%   穏健派:44%

一般には自爆テロは絶望感によるものだと考えられているが、過激派の方が穏健派よりも自分達の生活に対する満足度が高い。

問題4:西側の賞賛できるところ

科学技術(両者とも1位に挙げた)

過激派:30%   穏健派:31%

自由・民主主義・言論の自由(両者とも2位に挙げた)

過激派:22%   穏健派:22%

イスラム過激派は欧米の生活様式を嫌っているわけではない。両者とも西側の自由と民主主義を賞賛している。

問題5:イスラムとの関係改善に西側がすべきこと

(1) 西側は何をすべきか?

イスラムに敬意を払う(両者とも1位に挙げた)

過激派:39%   穏健派:36%

(2)   他には何をすべきか?

自分達の価値観や政策を押し付けない

過激派:17%

経済開発・雇用対策

穏健派:22%

両者とも西側にイスラムへの敬意を払って欲しいと思っている。過激派は西側の関与を自分たちへの支配を強める脅威だと感じているのに対して、穏健派は経済開発を通じて西側との関係強化を模索している。

結論:

過激派は所得、教育、将来への展望のいずれにおいても恵まれている。彼らが絶望感に突き動かされていると見るのは完全な誤りである。最も重要になるのは問題5である。過激派は西側の自由主義を賞賛してはいるものの、西側の関与は自分達の文明への脅威だと感じている。他方で穏健派は経済開発と雇用創出で西側の援助を期待している。

過激派と穏健派の正反対の要求を満たすことは不可能である。しかし西側は文化交流を通じてイスラムへの敬意を示すことができる。恵まれない人達への自立支援や地域社会の建設支援によって穏健派を親欧米派に取り込むことができる。こうした政策は力を背景とした政策と併用されるべきである。

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中東&インド」カテゴリの記事

コメント

  興味深い内容です。

  映画「シリアナ」で描かれていたパキスタン人の「テロリスト」は、カリカチュアでしかないということなんでしょうか。異質さを協調して、断絶を煽るような気がしないでもありません。

投稿: ろろ | 2007年2月14日 00:00

「シリアナ」は観たことがないので何とも言えません。いずれにせよ、イスラムとテロリストに対する誤解を払拭しないといけません。実はリベラル派や左派が誤解を広めているのは要注意です。貧困や教育水準の低さを取り上げるのが好きですからね、彼らは。

投稿: 舎 亜歴 | 2007年2月14日 23:19

舎さん

この分析は、興味深いですね。

ただ、この、過激派/穏健派の分類の基準は、どういったものなのでしょうか?(自分で、フォーリン・ポリシーを読んで下さいと言われればそれまでですが・・・)

ただ、学術的に言うなら、すでに、社会学がこの手の実証分析を行ってますね。例えば、デュルケームなどによれば、貧乏人より、はるかに、お金持ちの方が、自殺率が高いわけです。

相互交流も大切ですが、相互理解のためには、併用して、まず、相手の心情・思考認識の基盤を学ぶ必要もあるでしょう。欧米は、コーランを、イスラムは、ギリシア神話や聖書を。

アラブや、欧米、日本、どこでも言えることですが、尊重して欲しければ、まず、自分たちから、相手を尊重しなければならないと考えます。

投稿: forrestal | 2007年2月15日 13:13

これはweb exclusiveなので、図書館でフォーリン・ポリシーを読んでも見つかりません。各項目については、リンク先を参照してください。

穏健派と過激派をどう分類したのか、私もわかりません。リンク先にも分類法は書いてありませんでした。エポスティーノ、モガヘド両氏に尋ねるわけにもゆかないので、ギャラップに問い合わせるしかなさそうです。

欧米とイスラムの相互理解には相手の文化基盤を学ぶことは重要です。それを基礎に問題4、5にある現代の問題にどう対処するか。イスラム圏の人達は欧米に対して愛憎相反する感情を抱いているようです。

投稿: 舎 亜歴 | 2007年2月17日 22:23

お久しぶりです、舎さん

この系統の調査は、イラクとの開戦時期辺りから何度か欧米の調査会社による調査でも出ていましたよね・・

下記に引用させて頂きましたの、ご連絡迄
Respect: A difference of interpretation--Islam and non-Islam

投稿: asean | 2007年3月 9日 10:11

引用していただいてどうもありがとうございます。こうした調査結果とは別に欧米のpolitically incorrectな意見として、穏健派か過激派かを問わずイスラム教のジハード思想そのものがテロの温床というものがあるのには驚かされます。

英語のassassinの語源がアラビア語のhashshashinというのは
こうした議論を後押しするうえで示唆するところ大ですが、現実はどうなのでしょうか?

投稿: 舎 亜歴 | 2007年3月11日 15:03

おはようございます、舎さん。

>穏健派か過激派かを問わずイスラム教のジハード思想そのものがテロの温床というものがあるのには驚かされます。

・・・僕のブログでも何度か書いていますが、仰る「ジハード思想」がテロの温床~となるかはどうでしょうか。

温床と言う表現も、温床があるなら、種とか、苗とか・・・があってそれらが結果としてテロを生み出す。。。となる訳ですよね。

そしてそれらを包括している存在が”イスラム教”である、ということだと思います。
(貧困説にしても貧困だからではなくて、貧困がテロに共感してしまう、ということだと思いますが・・・)

で、イスラム側の非イスラム側への反論の代表格でもある「テロを実行する人間がイスラム教徒である訳がない」が発展して
「(イスラムに関する無知さが)イスラムを差別している」といった理屈もイスラム教の理論として実は矛盾している。

イスラムの歴史からすると、イスラムの一般国民と指導者(宗教思想、政治思想etc)の関係性も支配者と被支配者という関係なので
大半の一般国民(ムスリム)がコーラン等の内容を完全に理解している訳でもないですから、
一般的なムスリムはジハード等と言われても実はピンと来ない。
(なのでhashshashinも同じ程度のモノでしかないんですけどね)

一般的なムスリムには(自分達は)犠牲者だ概念がかなり浸透しているので、9.11で加害者を排出してしまったことには
(非常に無責任なメディア・イベントとして)受け取られるので「溜飲を下げた」人は多かったと思いますが
逆に指導者達はそれ迄、率先して(自分達は)犠牲者だ!としていた論拠が崩壊してしまった為に加害者を出してしまった背景を
イスラム教思想として未だに説明が出来ない、というのが本当だと思いますね。

自らが理論的な説明が出来ないが為に欧米メディア等やネット記事、政府発表への対処療法的な論難しか出来ないんだと思います。

つまり、現在のイスラム世界では欧米の対イスラム論をよすがにして自分達の正当性や絶対的な普遍性を補強しようとしている
・・・というのが実際だと思います。

ですんで、白か黒か的な単純化された理屈は元々そうした二元論に還元したがるイスラム側に絶好の題材を与えてしまう”だけ”
なのではないかなぁ・っと思うんです。

長くなってスミマセン・・・

投稿: asean | 2007年3月14日 12:43

イスラム教のジハード思想がテロの温床という考え方に、私が賛成しているというわけではありません。ただ中世以来、異民族の支配に対する暗殺教団が存在した歴史はあります。これがどこまで現在のテロと関係しているか明らかではありませんが。

自分達が加害者になったことに説明がつかなくて困っているのが穏健派を中心とするイスラム教徒の大多数でしょうが、テロリストやそれに同調する人達は破壊行為をジハードと信じて疑っていないと思われます。

投稿: 舎 亜歴 | 2007年3月19日 21:59

おはようございます、舎さん

hashshashin=assassin=謀殺(暗殺)という解釈で良いか?はちょっと疑問ですね。

全ての宗教に当てはまってしまうんじゃないか?っと思うんですが・・・いわゆる
自分達が標榜する平和と秩序を維持する為に周囲と衝突してしまう危険性・・ってことなんです。
ですんで、イスラム教に限った話では”なかった”(現代のキリスト教等ではその歴史的経緯から
そうした”自らの善意に基づく暴力性”を周辺化してはいますが)

イスラム教の最大の問題は、いわゆる”7世紀のまま”である・・・ことだと思うんです。

アッラーを唯一絶対の存在にした為に、その教義への疑問や問題点を探る仮設(メタ概念)さえも立てられない。
結果的に、憲法や現代法等とも”並列”にする方法をイスラム教自身が見出せていない。

仰る
>信じて疑わない~
っというのも、イスラム原理主義自体が、その教義に対する疑問や批判を受け入れないが故に”原点回帰”するしか方法が無い
・・・そんな結果だと思います。

何せ、コーランには全て書かれているという前提が動かしがたい訳ですから、相対的な比較検討自体が背教的な行為になってしまう
で、一般的なムスリムにしてみると「コレコレ、このようにコーランでは書かれているではないか!」っとやられてしまうと
「ふ~~む、なるほどぉ!」っとなってしまう。

絶対的な善として存在しているので、7世紀と21世紀の現代とどのように違うのか?という説明も解釈もなされない。

欧米のリベラルな思想が行う「相手への理解」も「認めるなら帰依しろ!」となり「認めるなら批判すること自体が駄目!」っと
なってしまう。
(理解することと認めることは違う・・・という理屈は絶対的な価値観の前ではほとんど説得力を持たない訳で・・・)

イスラム対非イスラムの関係性として現段階で成立させる方法は、そうした(お互いの)価値観を迂回するか、無視するか、しか無い訳です。
(イスラム的価値観を外部からの介入で見直させるキッカケを与えたり、という手法の延長線にあるのは
徹底的な武力介入しかなくなってしまう・・・と思います)

但し、イスラム原理主義テロ組織の最大の欠点は「理想とするイスラム世界が実現した”後”」のことも何も考えていない
(流石にコーランにも書かれていない・・・イスラム世界が実現したら全ての問題は消滅することになっているのですから)

つまり、破壊する対象がある限り終わらない・・・・
(自分達が政権を奪取、掌握する等の共産ゲリラ的な政治目的が存在していない訳ですから)

彼らが目指しているのがそれこそ15世紀のオスマントルコ帝国だ、というならそれなりの対処の仕方は考えられますが
そうではない為に(表現悪いですが)始末に終えない。

相手にしないか、相手をするなら徹底的にやるしか先進国側には選択肢がないのが現実だと思います。

投稿: asean | 2007年3月22日 12:58

aseanさんの指摘した問題点をさらに深く考えるには以前の記事「イスラムと民主主義」にリンクしている論文を参照するのが良いでしょう。その記事は:

http://newglobal-america.tea-nifty.com/shahalexander/2006/10/post_0707.html

その論文とはAEIのルエル・マルク・ジェレクトがウィークリースタンダードに投稿したもので、以下のリンクです。

http://www.aei.org/publications/filter.all,pubID.23872/pub_detail.asp

「イスラム文明はエドワード・ギボンのように厚い信仰心を持ちながらもそれに懐疑的で批判的、そして時には極端に非宗教的な視点から自らの文明の土台を見つめ直した人物を輩出していない。」との一文は、まさにaseanさんが言う7世紀のままにあるイスラム世界の精神そのものです。

興味深いことですが、武力によって広められた宗教は中世のイスラム教の他に例が殆どないということです。他にはスペイン帝国によるアメリカ大陸の征服に伴うカトリック布教ぐらいでしょうか?ただし、この場合でもカトリックの教祖パウロが自ら武器を持って征服したわけでも、パウロの後継者であるローマ教皇が出陣して新大陸の異教徒に武力による改宗を強いたわけではありません。

そうした歴史があるからといって、穏健派イスラム教まで敵視しているわけではありません。念のため。

投稿: 舎 亜歴 | 2007年3月27日 13:06

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