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2007年3月31日

ゴア「大統領」、イラク問題にも発言を

アルバート・ゴア元副大統領は「不都合な真実」でオスカー賞を受賞して時の人になっている。ゴア氏の環境保護活動は有意義なことだが、元副大統領にはアメリカと世界が直面している安全保障上の重要問題についても何かを話す必要がある。ゴア氏は副大統領であったわけで、環境長官であったわけではない。ゴア氏は政治家であって映画監督ではない。だからこそ、アル・ゴア氏にはイラクとテロの問題について何かを語って欲しいのである。

現在、ホワイトハウスと議会の間でのイラク論争は激しさを増している。しかしこの戦争が正しいか誤りかを議論するためには、イラク問題にクリントン政権がどのように対処していたか理解する必要がある。バース党支配を打倒した後のイラクの治安が安定しない事態から、メディアやハト派の論客達は民主党政権の大統領ならサダム・フセイン打倒のためにイラクに介入しなかったかのように語っている。それは間違いである。

この問題を議論するために、カーネギー国際平和財団のロバート・ケーガン上級研究員は3月4日のCスパン(アメリカで有名なニュース討論のテレビ番組)のQ&Aに出演した。ケーガン氏はネオコンのグループが当時のサンディー・バーガー国家安全保障担当補佐官とともにビル・クリントン大統領にイラク侵攻を強く要求したと述べた。インタビューを簡単にふり返りたい。

番組ホストのブライアン・ラム氏は1998年に「新世紀アメリカのプロジェクト」(PNAC)がクリントン大統領に宛てた有名な書簡を引用しながらインタビューを進めた。ロバート・ケーガン氏はこのシンクタンクの設立背景について語った。当時は冷戦の終結もあって孤立主義の気運が蔓延していた。こうした見方とは裏腹に、ケーガン氏はアメリカが権威主義的な中国やロシアのような新たな脅威に直面していたと述べた。冷戦後の脅威の中でもイラクは最も深刻な問題で、サダム・フセインは1991年の湾岸戦争での敗北にもかかわらず国際社会からの圧力に屈しなかった。また、ケーガン氏はビル・クリントン大統領とマデレーン・オルブライト国務長官が自分達のイラク政策では不充分だったことをよく理解していたと答えている。

サダム・フセインは重要地点での国連査察を拒否してきたが、その中には大量破壊兵器の大規模な貯蔵が予測された大統領宮殿も含まれる。サダムが査察官を妨害したことで欧米の政策形成者たちの懸念は一層深まった。

サンディー・バーガー国家安全保障担当補佐官はPNAC書簡に同意し、クリントン大統領にサダム・フセインに対する封じ込め政策が効果を挙げない以上はもっと強力な手段に訴えるように要請した。ケーガン氏はモニカ騒動によってクリントン大統領はイラク攻撃どころではなくなったと述べている。

何はともあれ、ロバート・ケーガン氏はアルバート・ゴア副大統領が対イラク強硬派の最たる存在だったと指摘している。2000年の選挙で当選していれば、ゴア氏もイラクを攻撃したとケーガン氏は主張する。なぜか?サダムはわずかの隙でもあれば近隣諸国への侵攻の機会を窺っていた。実際にイランとクウェートに侵攻した。しかもイラク問題は10年来のものであった。

さらに重要なことに、911によってアメリカの政策形成者達はイラクの脅威を再認識するようになった。パール・ハーバー攻撃の時がそうであったように、ホワイトハウスは現存する脅威がもたらす危険を認識するようになった。ロバート・ケーガン氏は合衆国大統領が誰であってもPNACがクリントン大統領に対して1998年に宛てた書簡の主張に沿って行動したと断言している。

アルバート・ゴア氏には副大統領在職時のイラク政策について語る責務がある。さらにリベラル派が好んで言う「悪名高きフロリダの事件」が起こるまでのしばらくの間、ゴア氏は次期大統領であった。そうした立場を考慮すれば、クリントン政権がサダム・フセインの脅威をどのように評価していたかを世界に語りかけて当然なのである。さらに、大統領として実際にこの世界規模の対テロ戦争を戦っていた可能性もあるだけに、ゴア氏はイラクとテロについてどのように考えているかを言うべき立場にある。

反戦活動家とリベラル派はゴア大統領ならサダムのイラクに平和的に対処していたかのような絵空事を振りかざしている。しかしホワイトハウスがサダム・フセインの打倒を10年以上もかけて模索していたことを忘れてはならない。ロバート・ケーガン氏がアル・ゴア大統領でも911後の事態ではイラク攻撃に踏み切ったと述べているのも不思議ではない。

ブッシュ政権がバース党体制を打倒してイラクを混乱に導いたと非難する者が余りに多いが。しかしクリントン政権の閣僚が全員一致でサダム・フセインはアメリカと同盟国への重大で差し迫った脅威だったと認識していたことを忘れてはならない。クリントン=ゴア政権の政策論争を理解せずにイラクの現状を正確に評価はできない。だからこそゴア「大統領」は地球温暖化に対するのと同様に、イラクについても語るべきなのである。

PS:ゴア元副大統領については当ブログにリンクしている保守思想が、温暖化否定論の立場からよく取り上げている。ゴア氏に対してかなり批判的な内容だが、参考になる記事が多い。

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コメント

アル・ゴアが大統領候補だった時、フセイン政権への強硬な対応を主張していたのは確かにその通りです。しかし、軍隊を送ってフセイン政権を倒すことは言ってはいなかったと思います。そもそも、フセインを残したのは、ブッシュ・シニアです。ブッシュ・シニアとジェイムズ・ベーカーが、なぜああした形で湾岸戦争を終結させたのかということを考える必要があります。ちなみに、ご存知のようにスコウクロフトもイラク戦争には反対しましたし、ベーカーは、今回、イラク研究グループの一員として、息子ブッシュのイラク政策には反対しています。コリン・パウエルも内心はそうですね。

本来、911と結ぶはずのないイラクが結びついたのは、ボブ・ウッドワード記者が書いているように、チェイニーとラムズフェルトとネオコン一派の存在があればこそです。民主党政権でもこうなったとは思えません。

そもそも、クリントン・ゴア政権によって、アメリカの安全保障は低下したのか。それすらも疑問です。グローバル経済の観点から見れば、クリントン政権におけるルービン・サマーズ・ボルカーの時代こそ、アメリカが経済がグローバル・スタンダードを築き挙げた時代です。経済によって地球がひとつになることこそ、最大の安全保障ではないでしょうか。

もちろん、ゴアが次の大統領選挙の候補になるというのであるのならば、ご指摘の通り、環境問題だけを論じているだけではすまなくなるでしょう。しかし、外交にはシロウトであると言っても、クリントンやブッシュもそうでしたし、ゴアならば米欧関係も良くなるのでは?

投稿: 真魚 | 2007年4月 3日 00:31

真魚さん、やはり敬愛するゴアについてコメントしてきましたか。ウハハ。

まず誤解を解いておきたいのですが、私はゴア批判を目的にこの記事を書いたわけではありません。また、クリントン・ゴア外交でアメリカの安全保障が低下したかどうかも論じていません。むしろクリントン政権からブッシュ政権までの合衆国のイラク政策の一貫した流れを考えるべきだと言っているのです。

今のアメリカでイラクをどうするかが大きな問題になっているのは周知です。Cスパンのビデオを観れば、ブッシュ政権のイラク政策がクリントン政権のものと継続したものだということがよくわかります。インタビューを視聴しての通り、ロバート・ケーガンは当時の民主党政権内でもPNAC書簡を支持する者が多かったと述べています。注目すべきはこれに対して当時の政権スタッフから反論が出ていないことです。これなら民主党政権でも封じ込め以上の対策がとられたとしか考えられません。

ブッシュ・シニアがクウェート解放にとどまり、サダム・フセイン打倒に踏み切らなかったのは、当時の国連決議案がそこまでだったのが最大の原因です。まだイラクの大量破壊兵器の査察など議論もされていなかったので、仕方のないことです。その後、大量破壊兵器の査察でサダム・フセインが国連決議に違反し続けたこと、そしてイラク国民会議など反体制派の支援が準備され続けてきたことは周知の通りです。両ブッシュ政権に影響力を持つヘンリー・キッシンジャーは今回のサダム打倒は支持しています。コリン・パウエルの腹心であるリチャード・アーミテージがPNAC書簡に署名している事実も見逃せません。

アメリカがグローバル・スタンダードを築き、経済によって地球が一つになれば、確かに世界の繁栄は促されます。その裏でこれまでにない脅威も台頭してきます。9-11テロや「統治に失敗した国家」などグローバル化の波に乗り切れない、あるいはそうした不満を吸収してくれそうに映るアクターがそうです。左翼系の運動が「市民の声」を代弁するかのように装って、アメリカ主導のグローバル化に異議を唱えていますが、これもテロリストを喝采する心情を醸成しています。

9・11とテロの結びつきですが、そもそもオサマ・ビンラディンが決起したのは湾岸戦争で聖地メッカを抱える故国にアメリカ主導の多国籍軍が進駐した姿に仰天したからです。あのままサウジやクウェートにアメリカ軍と同盟軍が駐留し続け、いまだに効果不明の爆撃を続ければ良かったとは誰も考えないはずです。その場合はイラクの代わりにサウジアラビアやクウェート、その他湾岸諸国の外国軍などがテロの標的になったはずです。

米欧関係について、確かにラムズフェルドの発言で両者の亀裂は深まりました。ただ、注意すべきはアメリカと大陸諸国の間では脅威の認識の違いが大きくなっていることです。イラクだけでなく、先のミサイル防衛論争でもアメリカの迎撃ミサイル配備に対し、「古いヨーロッパ」が強く反対したのに対し、イギリスと「新しいヨーロッパ」が賛成しています。イラク戦争と同様の亀裂が大西洋同盟内で走ったわけです。これはロシアの脅威に妥協してエネルギー開発など経済関係を深めてゆけるとするドイツやフランスに対し、東欧諸国はそれではすまないと考えているからです。こうした脅威の認識の違いは、まさに"Paradise and Power"の世界です。となると「ゴア政権」に対して過度な判官びいきは禁物では?

いずれにせよ、イラク政策をめぐる議論が高まる中でゴアには真実を語る義務があると思います。当時の意思決定の渦中にいたわけなので。現在の議論は超党派の解決どころか党派争いそのものです。だからこそ、クリントン、ゴア、オルブライトには真実を語ってもらい、そのうえで超党派の解決策を模索した方がよほど良いと思うのですが。最後に、政権の中枢で世界戦略を練り続け、大統領になりかけた人物が外交には素人では通用しないと考えるのが普遍的なのではないでしょうか?

投稿: 舎 亜歴 | 2007年4月 7日 02:05

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