キーパーソン:アメリカのイラン政策で注目の人物
ワシントン近東政策研究所研究副部長、アメリカ
学歴:オバーリン大学卒、新社会科学研究大学院博士号取得
今回はイラン問題で重要な役割を果たす専門家をとりあげ、アメリカの対イラン政策を見通したい。イランの神権政治は1979年のイスラム革命以来、西側と国際社会に対して最も重大な脅威の一つであった。現在、イランは核不拡散とイラクの安全保障をめぐって西側と対立している。
パトリック・クローソン氏は中東問題に関して多くの著作があり、中でもイランについては“Eternal Iran: Continuity and Chaos” (Palgrave, 2005, Michael Rubin共著) と“Getting Ready for a Nuclear Iran” (Strategic Studies Institute of the U.S. Army War College, 2005, Henry Sokolski共同編集)を出版している。ワシントン近東政策研究所で研究を行なう以前は、国防大学の上級研究教授を皮切りに国際通貨基金、世界銀行、外交政策研究所で経歴を積み上げた。
当ブログの「イランとの対話は可能か?」という記事ではクローソン氏の“Forcing Hard Choices on Iran”という論文いついて言及した。クローソン氏はアメリカが軍事力を誇示してアフマディネジャド大統領の冒険主義を抑止するように主張する一方で、性急なイラン攻撃には反対している。ペルシア語に堪能なクローソン氏は核保有によって大国の地位を得たいというイランの望みも熟知している。
その後もイランは国際社会の問題児であり続けている。核問題ではイランはウラン濃縮の中止を要求する国連決議案を頑迷にも拒否し続けている。イラクではシーア派の暴徒を支援しているばかりか、イギリス海軍兵士と海兵隊員の15人の身柄を拘束するまでの挙におよんでいる。イランとこうした問題について話し合うにはどうすれば良いのだろうか? イラクの政治的安定にイランが責任ある当事者として行動できるのだろうか?クローソン氏の最近の論文などを検討してみたい。
ワシントン近東政策研究所から2月9日に出版された“Hanging Tough on Iran”というレポートで、クローソン氏は核交渉に当ってのイランの根本的な弱点を指摘している。こうした事態にもかかわらず、イランは状況を誤って解釈している。確かに2006年には石油価格の高騰を受けてイラン政府の歳入は増加した。クローソン氏はイランの弱点を以下の点から述べている。経済に関しては、イランは石油に過剰に依存している。IAEAは今年の石油価格は非OPEC産油国からの供給増大もあって、それほど上昇しないと予測している。戦略的にもイランは国際社会から完全に孤立している。ウラン濃縮を中止しないばかりにEU3(英国、ドイツ、フランス)や中東近隣諸国ばかりか、ロシアと中国さえもイランの脅威の増大に深刻な懸念を抱くようになっている。政治的には革命イデオロギーは信用を失っている。政府は男女同席のダンスや飲酒といった娯楽の規制を緩和した。
イラク問題について、クローソン氏はイランへの宥和は無意味だと主張している。近東政策研究所の“Engaging Iran on Iraq: At What Price and to What End?”というレポートで、クローソン氏はイランにはイラクに関してアメリカと対話を行なう気など殆どないと指摘している。穏健派と見られているアリ・ラフサンジャニ氏さえ、イランにはアメリカがイラクの泥沼から抜け出すのを助ける理由がないと主張している。アリ・ホセイン・ハメネイ最高指導者はケイハン新聞11月27日号で「占領軍は自分達のイラク駐留を正当化するために混乱を望んでいる。イラクの不安定化を楽しんでいるのだ。」とまで述べている。さらにクローソン氏はイラクへのイランの影響力は過大評価されていると指摘する。イランには事態を悪化させることはできても平和をもたらすことはできないと言う。
サンディエゴ・ユニオン・トリビューン紙2月18日号に投稿した“Iran Options”という論文で、パトリック・クローソン氏はイランにさらに圧力をかけるよう提言している。国際社会から孤立したイランは、核開発のために海外の技術を導入しようにも手段が限られている。しかしイランの頑迷な指導者達が短期間のうちに引き下がるとは考えにくいので、アメリカは中東の同盟国がイランの脅威から守られることを保証する必要がある。さもないと、トルコ、エジプト、サウジアラビア、アラブ首長国連邦といった国々が核保有を模索しかねない。イランに対する先制攻撃の可能性も除外すべきではない。
ワシントン近東政策研究所は1985年に設立され、安全保障、平和、繁栄、民主主義、安定といった中東でのアメリカの国益の増進に貢献してきた。運営委員会には両党から影響力のある人物が名を連ねている。パトリック・クローソン副部長は近東政策研究所きってのイランの専門家である。だからこそ、イラン・ウォッチャーにとってクローソン氏は注目の人物なのである。
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イラン情勢注目度高まってますね。
投稿: 星の王子様 | 2007年4月 4日 21:40
何とか人質は解放したようですが、依然として臨検のボートはイランが押収したままのようです。しかも、イラン側の尋問に脅迫があったとか。やはり。それにしても今回のような場合にはヘリコプターや戦闘機が空から護衛していれば、臨検ボートがイランに襲撃されなかったのではと思えるのですが。
投稿: 舎 亜歴 | 2007年4月 7日 00:11