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2007年5月26日

カーター元大統領にブッシュ大統領とブレア首相の批判ができるのか?

カーター元大統領がイラク政策に関してジョージ・W・ブッシュ現大統領とトニー・ブレア英国首相を批判した。カーター氏はブレア首相のイラク戦争支持を非難し、イギリスの次期首相がイラクでブッシュ政権との共同歩調には積極的に乗らないようにすべきだと主張した (“Carter attacks Blair's Iraq role”, 19 May, BBC News)。このテレビ・インタビューからほどなくして、カーター氏はブッシュ大統領を史上最悪の大統領と非難した (“In Carter-Bush Duel, Dual Retreats”, May 22, Washington Post)。しかしカーター氏が両首脳をこれほどまで公然と非難できる立場だろうか?カーター氏は自らの政策が中東にもたらした結末について明らかに理解していない。

ジミー・カーター元大統領はイラン革命を阻止できなかったので、中東全体に深刻な悪影響を及ぼすことになった。革命はサウジアラビア、レバノン、パレスチナ、エジプト、湾岸諸国、そしてアルジェリアにまでに至るイスラム原理主義の台頭の引き金になってしまった。ペルシア湾の憲兵が健在なら、サダム・フセインもイラン、クウェート、クルディスタンを攻撃してアラブの盟主に君臨しようなどという大それた夢など追わなかったろう。また、ソ連がアフガニスタンへ侵攻することもなかったろう。さらに、オサマ・ビンラディンはアフガン戦争と湾岸戦争の落とし子であることを忘れてはならない。言わば、カーター政権がイランで失敗を犯したことがアル・カイダのテロリストによる911攻撃につながったのである。

イラン革命がもたらした悪影響はイスラエル・パレスチナ紛争よりはるかに深刻である。実際に、中東の問題の多くがこれとは関係がないということは当ブログの「中東の諸問題と日本人の誤解」(より詳しくは英語版の“Misunderstandings on America and the Middle East”)で述べた通りである。これについてはフォーリン・ポリシー20051月号にヨセフ・ヨッフェ氏が投稿した“A World without Israel”を推薦したい。

ニクソン=キッシンジャー・コンビであれば、チリでサルバドル・アジェンデ共産政権を倒したようにムラーの革命を阻止できたであろう。パーレビ国王は民主的ではなかったかも知れないが、啓蒙専制君主としてトルコと日本を模範としてきた。きわめて驚くべきことに、カーター氏はムハマド・レザ・パーレビ国王を暴君呼ばわりした。リチャード・ニクソン元大統領とヘンリー・キッシンジャー元国務長官の友人をそのように呼ぶこと自体が大失態である。

奇妙なことに、カーター氏はソ連軍のアフガニスタン侵攻とイランのアメリカ大使館襲撃に際してリベラルな平和主義者からネオコンに変身したという不都合な真実を忘れたかのように振る舞っている。カーター氏はこうした危機を機に国防予算を増額し、これは次のロナルド・レーガン大統領に引き継がれた。こうした重大な危機に及んで、カーター氏はようやく最高司令官として振る舞えるようになった。大統領とはこうしたものである。カーター氏はこのことに留意して欲しい。

イランの喪失はアメリカと西側同盟国にとって大きな代価となった。ロナルド・レーガン米大統領とマーガレット・サッチャー英首相はこの喪失から巻き返そうと尽力した。ブッシュ・ブレア両首脳はカーター政権下で崩壊した中東の秩序を再構築しようとしている。

残念なことにメディアの中にはカーター氏を平和主義の英雄扱いするものもある。一体カーター氏が世界平和のために何をしたのだろうか?1994年の北朝鮮との協定は、キム・ジョンイルの核保有阻止という重要な目的の達成には役立たなかった。カーター氏はノーベル平和賞の受賞によって金儲けをしたに過ぎなかった。このことから、人を賞与や肩書きだけで判断してはならないという重要な教訓が得られる。

興味深いことに、ジミー・カーターという人物は国民の支持を得てはいない。シアトル・タイムズにはカーター氏への批判の投書が数多く寄せられている ("Had 9/11 occurred under Carter we would be much worse off", May 25)

ジミー・カーター氏は他の誰にも増してイラクとアフガニスタンの暴動の責を負うべき立場にある。カーター氏がイラン革命の阻止に成功していたなら、サダムの脅威は封じ込められたであろうし、ソ連もアフガニスタンに侵攻しなかったであろう。イスラム過激派が今日のように猛威を振るうこともなかったであろう。カーター元大統領は中東と世界の混乱にかなり大きな程度の責任がある。カーター氏にはジョージ・W・ブッシュ大統領とトニー・ブレア首相を批判する資格など全くない。元大統領閣下、発言を謹んで頂けませんか。

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コメント

舎さん、

凡庸なカーターが大統領に当選したのは、ニクソンのウォーターゲート事件による共和党の政治への不信感からです。つまり、有権者であるアメリカ市民の判断であったわけです。同様に、今、カーターがブッシュを批判しているのは、世論調査でカーターよりもブッシュは下がる評価になったからです。だから、堂々とカーターはブッシュを批判しているのです。これも、アメリカ市民の判断です。つまり、あの当時、カーターを大統領にし、今、ブッシュを批判しているのは、アメリカ市民なのです。

ちなみに、くどいようですが、ブッシュを大統領にしたのはアメリカ市民の判断ではありません。共和党寄りの最高裁判所です。合衆国の有権者の判断は、アル・ゴアでした(やっぱ、この話はくどいな)。

投稿: 真魚 | 2007年5月31日 01:06

カーターはクリントン時代から何かと「平和活動」に乗り出していました。しかし北朝鮮との核合意のように結局のところ成果は挙がっていないのですが、不思議なことにメディアからは賞賛されています。大統領として不評だった汚名を元大統領として返上しようとしているのでしょうか?ちなみに、彼への米国民の支持が高くないことは文中にリンクされたシアトル・タイムズの記事を読めばわかります。

真魚さん、フロリダの一件にこだわっているようですが、そこまで言うほどの不正に断固として戦わなかったアル・ゴアとは腰抜けということになります。これでは贔屓の引き倒しです。

投稿: 舎 亜歴 | 2007年5月31日 18:21

舎さん

おひさしぶりです。

真魚さんが仰る通り、カーター元大統領が当選できたのは、ウォーターゲートによる、ワシントンへの不信ですね。それゆえ、ワシントン色の殆どない、知事からカーター氏が大統領に選ばれた大きな要因でしょうね。

ただ、カーター元大統領は、人気がないですよ。

カーター外交に関しては、外部のみならず、国内にも大きな失望をもたらしました。レーガン・デモクラッツと呼ばれる人たちは、このカーターの外交に失望して、民主党を離れていった人達ですね。

この人達が現在のジョージ・W・ブッシュ政権を支える役割を果たしてきました。

批判は、批判でいいと思うのですが、それが、アメリカの政治文化だと思うので、ただ、実現可能性の高い、オルタナティブを提示してもらいですね。

投稿: forrestal | 2007年6月 2日 18:58

舎さん、

大統領の評価は退任後、15年、20年経ってから行うべきですね。そして、元大統領となる人は、現職やその後の大統領については何も言わぬ方がよいのでは?

大統領は”時の人”。ニクソンは辞任に追い込まれたが、”偉大な大統領”の一人と数える人は沢山います。リーガン大統領は”馬鹿”扱いされたが、JFK以上に好かれた大統領としてその後評価された。

カーター大統領の評価は”人”としては良い人だが、”リーダー”や”歴史”の観点から見ると最悪の大統領と評価されてしまう。

ブッシュ大統領(父)、クリントン大統領そして2009年1月に任期が終わるブッシュ大統領の評価はまだ10年ー30年早いのでは?

リベラルの方々は歴史をすでに評価を決めているようですが…

MikeRossTky

投稿: マイク | 2007年6月 3日 23:25

forrestalさん、

お久しぶりです。確かに批判は批判で良いのですが、マイクさんのコメントにもあるように一般には元大統領は現職の批判をしないことになっています。だったら自分の在職中はどうだったのかと反論されるのがおちです。

ましてやジミー・カーターと言えば、「歴史に残る」無能な大統領でしたから。

投稿: 舎 亜歴 | 2007年6月 6日 12:41

マイクさん、

確かにカーターは無能な大統領だったが良い人だという評価です。その「良い人」が稀代の悪人キム・ジョンイルと渡り合うのは不可能です。

この記事ではカーターを酷評していますが、ジミーおじさんとピーナッツ農場の楽しい仲間達からソフトボールに誘われたら喜んで参加します。

でも「ハバナのショッカー」フィデル・カストロなんかとキャッチボールしないで下さいね。ジミーおじさん。

投稿: 舎 亜歴 | 2007年6月 6日 12:55

舎さん、

ワタシにとって、毛沢東とフィデル・カストロとチェ・ゲバラとホー・チ・ミンはヒーローですが。なにか。

投稿: 真魚 | 2007年6月 7日 02:00

真魚さん、それってゴアを尊敬することと矛盾していませんか?彼らはブッシュとチェイニーよりもゴアからかけ離れていますよ。

投稿: 舎 亜歴 | 2007年6月 7日 02:07

舎さん、

毛沢東、カストロ、ゲバラは皆、罪の無い人を思想の為に残虐に殺した人たちです。真魚さんがこの様な人たちをヒーローと思っている事は、彼の歴史観が良くわかるということです。

Crimes Against Humanity… これこそがリベラルの目標です。

MikeRossTky

投稿: マイク | 2007年6月 7日 23:30

毛沢東についてもう一言を忘れていました。文化大革命にせよ緑の革命にせよ、毛沢東と言えば人海戦術による経済政策で経済と環境を両方とも疲弊させてしまいました。環境運動家が最も攻撃すべき政治家が毛沢東です。

環境政治家(少なくとも看板のうえでは)アルバート・ゴアを尊敬する真魚さんなら、毛沢東なんか間違っても尊敬してはならない存在です。

投稿: 舎 亜歴 | 2007年6月 8日 00:23

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