« 保守主義と環境保護は両立可能か? | トップページ | Love America Firstへの参加 »

2007年5月 7日

サルコジ新政権、米仏関係を改善か?:Sarkozy Peut Améliorer les Relations Franco-Américaines?

大方の予想通り、ニコラ・サルコジ氏が56日のフランス大統領選挙に勝利した。サルコジ氏とセゴレーヌ・ロワイヤル氏の討論は経済を初めとする内政問題に集中した。だがこれだけがフランス政治の重要課題ではない。現在、フランスは世界で存在感を失う一方である。イラク戦争ではフランスの反対などブッシュ政権の決断に露ほどの影響力もなく、ただ対米関係を悪化させただけであった。昔々、フランスは自らをヨーロッパの中軸だと自負したが、いまや国民投票でEU憲法の批准を拒否する有様である。つい最近ではフランスはミサイル防衛システムをめぐって、またしても古いヨーロッパと新しいヨーロッパの亀裂を経験している。イラクでもそうだったように、新しいヨーロッパは米英によるこの計画を支持し、フランスとドイツは反対している。

不幸にもメディアはこうした問題に充分な注意を払っていない。Certain Ideas of Europe というブログの“From the other side of the Atlantic”という記事で述べられているように、フランスがここまで内向きなのは奇妙なことである。フランスは核五大国の一つであり、イギリスと並ぶヨーロッパの軍事大国だからである。

メディアは親米のサルコジ氏によって対米関係が改善されると期待しがちである。ロワイヤル陣営のエリック・ベッソン上級経済政策アドバイザーはサルコジ氏を「フランス国籍を持つアメリカのネオコン」と呼んでいる “Foreign Policy Priority Will Be to Improve Relations with US”, the Independent, 7 May)。しかし対米関係は本当に改善するのだろうか?こうした問題を問いかけているのは、アンジェラ・メルケル独首相の下でも対米関係が劇的に改善したわけではないからである。注目すべきはヨーロッパで反米感情が強まっているのと同じく、アメリカでも反欧感情が強まっていることである。エコノミスト誌(Lexington: Against anti-Europeanism, April 26)によるとアメリカ国民はイスラム過激派との戦いでヨーロッパは頼りにならないと見ている。冷戦の終結によって米欧の団結は緩み、イラク戦争が残した亀裂はブッシュ政権以後も尾を引きそうである。エコノミスト誌は大西洋の両側で互いに反感を募らせることは無意味だと述べ、以下のように締めくくっている。

サルコジ氏の台頭はアメリカで世界規模の反米感情を緩和しようとする動きが高まってきた時期にタイミングが合っている。ジョージ・ブッシュ大統領でさえ2期目にはこうした反米感情に少しは配慮する姿勢を見せている。だがブッシュ政権後のアメリカでは特に民主党を中心に反米感情の緩和が最重要課題となるであろう。

さらに多くの記事や論文を参照して、サルコジ政権下のフランス外交がどのようになるか見通してみたい。サルコジ氏はフランスの軍備充実、中国やロシアの人権抑圧に対する強硬姿勢を主張している。しかしイラクに関しては立場が明確でない。サルコジ氏はアメリカ軍の早期撤退が混乱をもたらすと警告する一方で、余りに長期の滞在がさらなるテロ攻撃を招くとも述べている。米英両国に対する賞賛とは裏腹に、トルコのEU加盟への反対はアメリカ、イギリス両国の政策と対立することになる(“Sarkozy Outlines Foreign Policy”, International Herald Tribune, February 28)。ロンドンのヨーロッパ改革センターのチャールズ・グラント所長は、サルコジ氏はアメリカの自由市場経済の活力とイギリスの議会の力を賞賛しているが、ドイツとの関係にはそれほど積極的ではないと言う(“A French Force”, Prospects, March)。 独仏枢軸はフランスのヨーロッパ政策の中核をなしてきた。こうした変化は大西洋社会の力のバランスを変えるかも知れない。

全てが楽観的な訳ではない。ワシントン・ポストによると、サルコジ氏は以下のように発言している。

「アメリカの友人達に対するフランス国民の友情に偽りはないと訴えたい。しかし友情とは全面的な意見の一致ではないこともわかって欲しい」。特に「アメリカのような偉大な国には地球温暖化との戦いに反対するのではなく、むしろ指導的役割を果たして欲しい。これは人類全体の問題だからである」と言っている。サルコジ氏はこの問題を大統領就任後の最優先課題にしたいと語っている。(Sarkozy Wins, Vows to Restore Pride in France, May 7

トルコとイラクの他に、ミサイル防衛は軍事面での米欧協調の将来に死活的な問題である。かのロバート・ケーガン氏が“Of Paradise and Power”(邦題:ネオコンの論理)で述べているように、戦いを厭わぬアメリカのマルスはイランやロシアといった国々の核の脅威に真剣に向き合うのに対して、平和主義のヨーロッパのビーナス、特に古いヨーロッパは潜在的な敵との対立を好まない。フランスとアメリカの間にはまだまだ障害が存在している。

両国間の亀裂をよそに、経済関係は緊密である。Certain Ideas of EuropeによるとアメリカはフランスにとってEU域外では最大の輸出国である。フォーブス誌はアメリカの大企業はサルコジ政権によって規制緩和が進み、ビジネス・チャンスとなることを期待していると記している。(French Vote Important to U.S. Business, May 4

外交と安全保障ではニコラ・サルコジ大統領がアメリカとの根本的な立場の違いを埋められるかどうかはまだわからない。しかし新大統領が大西洋同盟の政治的枠組を変えるかも知れない。経済での両国関係は急速に進展するであろう。サルコジ大統領がles Étas-Unis(合衆国)とどのような関係を築くかによってヨーロッパと世界に重大な影響を及ぼす。 

|

« 保守主義と環境保護は両立可能か? | トップページ | Love America Firstへの参加 »

英米特別関係&大西洋同盟」カテゴリの記事

コメント

サルコジ氏は親米的といわれますがどうでしょう。
期待してます。
シラクのように何でもフランスが一番というのはやめにしてもらいたいです。

日本にとって問題なのがフランスと中国との関係。
シラク政権は中国への武器禁輸の緩和に積極的でしたが中国の人権問題に強行なニコラ・サルコジは中国への武器輸出には反対と聞きます。

しかし国内の軍事産業の圧力に屈して中国へ武器輸出を再開しないか、あくまで私個人の考えですが心配です。

中国との関係をサルコジがどうするか。
そのあたりがアメリカとの外交の鍵ではないでしょうか?

投稿: アラメイン伯 | 2007年5月10日 21:20

舎さん、ご無沙汰しています。

私はフランスについては、その外交政策や国際関係と言う視点からではなく、純粋に、グローバル化の世の中で、ああいう政策を取る国家が、どの様にして「雇用・国際競争力」を保とうとするのかしらん、国民は本当のところどう思うてんの?と言う視点から、非常に興味を持って眺めておりました。

そんな私にとり、中でもベンチマークになっているのが、あの国の婚姻(的)制度であります。

市場・競争原理主義で「小さな政府」志向らしいサルコジ氏は、あのへんてこな"PACS"等々をどう収めるのか。他所事ながら今からときめいています。むふ。

かなりゆるい記事ですが、TBさせていただきますね。

投稿: kaku | 2007年5月10日 21:28

中国への武器禁輸は強化すると思われます。その一方で中東やミサイル防衛でアメリカとの根本的な政策の差異がすぐに縮まるというのは、余りに楽観的です。

ド・ゴール以来の自主外交はもはや時代遅れです。

投稿: 舎 亜歴 | 2007年5月11日 22:45

戦後長きにわたってENA出身の官僚が取り仕切っていた国で、サルコジがどこまで自由競争経済をやる切れるか?ここにリンクしているフォーブスの記事では、アメリカの財界はサルコジに期待しながらも規制緩和そのものは不充分と感じているようです。そのうえに小党分立のフランスではcohabitation(どうした訳か、英語と同じスペル)という独特の現象が有り得るので、大統領のリーダーシップもブレーキを掛けられるなど、障壁は立ちはだかっています。

少子化問題?きわめて私が疎い問題です。「ショッカー打倒」のようにはゆかぬので。kakuさんのTB記事は、そうした問題を考えるうえで大いに参考にすべきものです。

投稿: 舎 亜歴 | 2007年5月11日 23:13

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/109615/14992302

この記事へのトラックバック一覧です: サルコジ新政権、米仏関係を改善か?:Sarkozy Peut Améliorer les Relations Franco-Américaines?:

» 同時代の人々⑦:ゴクミ [ニッポンを生きる! ]
現在30代以上ならばご存知ですね、そうあの国民的美少女です。元F1レーサー、ジャ [続きを読む]

受信: 2007年5月10日 21:46

« 保守主義と環境保護は両立可能か? | トップページ | Love America Firstへの参加 »