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2007年6月10日

ブッシュ政権後のアメリカの外交政策

来年の大統領選挙を控え、フォーリン・アフェアーズ7・8月号では“America’s Next Foreign Policy”という特集を組んでいる。共和党のミット・ロムニー氏と民主党のバラク・オバマ氏がこの特集に投稿している。イラクをめぐる議論の対立にもかかわらず、共和党も民主党もアメリカが世界の平和と安全保障に特別な役割を担っていることを確信している。両候補の論文を検証してみたい。

共和党のミット・ロムニー氏はRising to a New Generation of Global Challenges”という論文の中で、アメリカはイラクをめぐる分裂を克服して国民が一致団結して強いアメリカと安全な世界を作るための勇気ある行動に出ねばならないと主張している。またロムニー氏はアメリカと同盟国の関係の再強化も訴えている。ロムニー氏は以下の点を論じている。

ワシントンでの外交政策をめぐる分裂について、ロムニー氏はあるグループを理想主義のネオコンだとか、あるいは他のグループを思慮深いリアリストだとかというレッテルを貼ることは無意味だと述べている。ネオコンは現実に則した政策形成の必要性を理解しており、リアリストもアメリカのソフトパワーが思想と理念に基づいていることを認めている。ロムニー氏はアメリカと同盟国は特定のイデオロギーに偏らず共通の認識に基づいて世界戦略を確立して新しい時代の課題を乗り越えるべきだと主張している。

今日の世界はテロ、核不拡散、権威主義的な指導者、AIDSに代表される伝染病、中国の台頭などといった新しい課題に直面している。ロムニー氏は第二次大戦と戦後の指導者がそうであったように、現在のアメリカの指導者もこうした課題に立ち向かうために国際情勢に積極関与すべきだと主張している。イスラム過激派の脅威について広い範囲にわたって言及し、イラクとアフガニスタンで過激派の討伐に失敗すればテロリストを勢いづけてしまうと警告している。イラク論争について、ロムニー氏は「最近の世論調査と政治力学によって、アメリカが自らの力に自信を持てず世界の中での役割を見失うあまりにかつての過ちを繰り返してはならない。過去数十年間ではベトナム戦争と1990年代の冷戦終結の二度にわたって、アメリカの国際問題への関与に対する準備不足は危険なレベルにまで低下した」と述べている。新たな課題に対してロムニー氏は以下の四つの問題点を挙げている。

第一にロムニー氏は国防予算の増額を訴え、少なくともGDPの4%は必要だと言う。また、チャールズ・クローサマー氏のアメリカは歴史の中で休暇を過ごしていたという発言を引用してクリントン政権期の大幅な軍備削減を批判している。アメリカは全世界でテロリストと危険な国家に対して広範にわたる作戦を行なう準備ができていなければならない。強力な軍事力の維持には経済の活性化も必要で、小さな政府、福祉の改善、研究開発への投資、自由貿易の促進といった政策が実行にうつされるべきである。また理念と道徳面でのリーダーシップが重要だとも述べている。

第二にロムニー氏はイラン、ロシア、ベネズエラといった産油国からのエネルギーの自立を訴えている。エネルギーの自立には効率的なエネルギー利用と代替エネルギーの研究開発が必要となる。ロムニー氏はこうした政策によって国防、外交、経済、そして環境にも好影響をもたらすと述べている。

第三にロムニー氏はアメリカ政府の文民機関は行政機関の縄張りの枠組みを超えて政策立案と実行の能力を向上させるべきである。レーガン政権期のゴールドウォーター・ニコラス法によってアメリカ軍は統合参謀によって効率的に行動できるようになった。文民部門もどうレベルの改革が必要である。

第四にロムニー氏は同盟国との関係を再活性化して21世紀の課題に対処すべきだと主張している。ロムニー氏はアメリカ国民が多国間主義を信用していない理由には理解を示している。例を挙げれば、国連人権委員会は民主主義国家のイスラエルを非難しながら、圧制国家のキューバ、イラン、ミャンマー、北朝鮮、スーダンに対しては沈黙を守っている。このように新しい課題に対処する能力がないからと言って、単独行動政策が正当化される訳ではない。むしろアメリカがそうした期間の改革を推し進めるべきだと主張している。またアメリカがイスラム過激派を打倒するにはイスラム世界の友人の協力が必要だと述べている。

結論としてロムニー氏はイラク情勢が依然として不安定であっても、アメリカが世界の平和と安全保障に積極的に関与すべきだと主張している。シモン・ペレス氏が述べたように、アメリカは特別な国でドイツと日本から領土を割譲しなかった。今世紀に突きつけられた課題への対処で指導的役割を担える国は他にない。

他方で民主党のバラク・オバマ氏は“Renewing American Leadership”という論文でアメリカは人類共通の理念のために共通の安全保障を追求し、イラク情勢の進展がどのようになろうとも世界に積極関与し、国際社会でのアメリカのリーダーシップを新しい時代に対応させてゆかねばならないと主張している。 ミット・ロムニー氏と同様に、オバマ氏も大戦時と戦後のアメリカの指導者を賞賛している。しかしオバマ氏は911後のブッシュ政権がテロリストによる従来とは異なる攻撃に対して従来からの国家間の紛争の解決策であった軍事的手段で対応したと批判している。その結果、現政権は対テロ戦争で資金と人的資源を浪費していると主張している。そこでオバマ氏は世界におけるアメリカのリーダーシップを刷新すべきだと主張している。このために、オバマ氏はアメリカが責任を持ってイラク戦争を終結させる必要があると述べている。アメリカがイラクの民族宗派間の紛争に軍事的解決を押し付けられない以上、現地勢力に対して漸次撤退をちらつかせて圧力をかけるべきだとオバマ氏は主張している。最終的にはイラクの問題はイラク人に委ねるべきだと述べている。

またアメリカは中東全体の安全保障の枠組みを作り上げねばならない。オバマ氏はイランとの対話を主張する一方で、イラン国内の市民社会を支援して核拡散を防ぐよう主張している。イスラエル・パレスチナ対話についてもアメリカが指導力を発揮すべきだと主張している。またオバマ氏はシリアを穏健化させるようにアメリカが圧力をかける必要があると主張している。世界におけるアメリカのリーダーシップを刷新するために、オバマ氏は以下の問題点を挙げている。

第一にアメリカは軍事力を再強化せねばならない。アメリカ軍は世界規模での多様な作戦を行なう準備ができていなければならない。同時にオバマ氏は軍事力の賢明な利用について語り、必要ならば力の行使も辞さないと言う。オバマ氏は自衛の範囲を超えた軍事行動もためらわないが、そうした行動は湾岸戦争でブッシュ・シニア大統領が行なったような多国籍で行なう必要性を強調している。

第二にアメリカは核不拡散という国際社会に差し迫った脅威への対処で指導力を発揮しなければならない。オバマ氏は核兵器によるテロ攻撃を懸念している。そうした災難を避けるためにロシアとの緊密な協力関係が必要だとオバマ氏は言うが、クレムリンには自由と民主化では妥協してはならないと述べている。さらにイランと北朝鮮に対する世界規模の連携も必要だと訴えている。

第三に世界規模のテロとの戦いでオバマ氏はアフガニスタンとパキスタンというアル・カイダの活動家が潜んでいる地域に注目しなおすよう強調している。そのためにはインドとパキスタンの対話と中央アジアからインド亜大陸にわたる安全保障の枠組みを支援するとまで述べている。オバマ氏は軍事的手段だけでなく、市民の自立支援といった包括的な対テロ戦略も主張している。

第四にオバマ氏は同盟関係の再編について言及し、もっと効果的なものにすべきだと主張している。同盟国との関係は冷戦に対応したものから平和へのパートナーシップに変わってゆかねばならない。またオバマ氏はブラジル、インド、南アフリカといった新興諸国との関係強化も訴えている。

第五にオバマ氏は安全で民主的な社会の建設という人類共通の目的の達成を訴えている。貧困にあえぐ社会と統治に失敗した国家は疫病、テロ、紛争の温床となるとオバマ氏は言う。よってオバマ氏はそうした社会での貧困の撲滅、福祉の促進、民主化の支援がアメリカの安全保障の利益にもつながると見なしている。

こうした手段によってアメリカは同盟国と国際社会から信頼を回復できると主張している。

アメリカの次期政権の外交政策について両者の主張と現状認識は概ね共通している。イラク政策をめぐってはいくつかの相違点も見られるが、両氏とも世界の中でアメリカが指導的な役割を積極的に果たすべきだという点では一致している。さらに重要なことに、共和党であれ民主党であれ、911以降にブッシュ政権が敷いた路線に基づいた政策をとるようになる。賛否はあるものの、ジョージ・W・ブッシュ大統領は今世紀のアメリカ外交の方向性を定めたと言ってもよい。アメリカはクリントン政権期の歴史からの休暇より戻ってきたのである。誰が大統領になろうとも、ブッシュ政権が残したものから逃れることはできない。アメリカは世界に関与してゆかねばならない。アメリカはベトナム戦争後の過ちを繰り返してはならない。イラク戦争後にはジミー・カーター氏のような人物は必要ない。

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