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2007年6月17日

中国の経済成長と農村社会に関する注目の研究報告

今回はカーネギー国際平和財団から出された中国経済と農村社会をテーマにしたレポートを取り上げたい。このレポートは“China’s Economic Fluctuations and Their Implications for Its Rural Economy”という題名で、アルバート・カイデル上級研究員が中国の国家経済開発改革委員会の所管にある国際協力センターの劉建興(Liu Jianxing博士の協力を得て書き上げている。これはこのレポートの大きな利点で、アメリカ人や日本人あるいはヨーロッパ人の視点からだけでは中国という巨大で歴史も古く複雑な国を理解することは難しい。

このレポートによると中国の経済成長は内需中心で、貿易黒字の急増に目を奪われてはならないという。またカイデル氏は中国の経済政策が農村社会を組織的に疎外してきたとも述べている。論文の内容を検証したい。

このレポートでは毛沢東時代以降の中国の経済政策の歴史を振り返っている。毛沢東が1976年に他界すると、華国鋒国家主席は新たな経済政策の立案に着手した。中国政府は1978年に市場改革、開放経済、農産物価格改革に乗り出した。カイデル氏のレポートは政策提言よりも1978年の改革以降の中国の経済循環の背後にある原因の分析を中心に行なっている。

アルバート・カイデル上級研究員は改革以降の中国経済が急成長と低成長のサイクルを繰り返していると指摘している。他の東アジア新興経済諸国と違い、中国の経済成長は内需中心である。1990年代にアメリカ経済がIT景気に沸いていた時期には中国経済は低成長にあえいでいた。他方で中国が高い成長を謳歌した2002年にはアメリカと輸出依存のアジア諸国の経済成長は鈍かった。貿易と外資流入は海外の技術と経営を中国に導入する契機にはなるが、経済成長の原動力となるわけではない。

このレポートは4章から成っている。1章では経済循環の基本的な傾向を述べている。図表によって、急成長と低成長の基本的な動向と変動を比較できる。2章では経済循環の原因を説明する方法論について述べている。こうした方法論によって、カイデル氏は3章でマクロ経済の動向を分析している。

統計と歴史からの証拠に基づき、著者は過去30年間の中国の経済成長は外資導入、貿易、その他の対外的要因では説明できないと述べている。アルバート・カイデル氏は経済の循環を以下のように時代区分している。

1978年~1982年:毛体制後の歳出・価格改革と組織変革 

過大な投資計画、中越国境紛争、農産物価格の引き上げといった政策の相互作用によって、経済が過熱状態に陥ってしまった。そこで政府が財政支出の削減や公共投資の抑制によって経済の過熱を抑えると成長は落ち着いた。華北の旱魃と不作は経済全体には大きな影響を及ぼさなかった。

1983 1987年:土地改革と工場経営の刷新

この時期は経済成長の過熱、通貨供給拡大、インフレが起こり、金融引き締めその他の行政手段によって経済の過熱が抑えられた。後に一層顕著になるように、市場の力とマクロ経済の不安定化が政府と共産党の影響力を凌ぐようになっている。

1987年~1990年:インフレ、銀行恐慌、深刻な不況 

市場の力が予想外に強まり、経済の循環が極端に大きくなっていった。1988年のインフレはこれまでのものより深刻で、同年後期には1989年から1990年を目標に2年にわたる投資抑制によるインフレ対策がとられた。こうした引き締め政策は都市部では不人気であったので、1989年には政府の強い指導によって政策が実行にうつされた。1989年後期には生産高の成長は弱まり、1990年には生産高の成長もインフレも収まった。1990年後期には2年間のインフレ抑制目標が達成できたので、政府は再び経済成長に乗り出すことになった。この時期は短い間に激しい経済変動が起こった。

1991年~2000年:都市の価格改革、レイオフ、成長の鈍化

この時期は経済循環そのものと消費者需要も含めた内需の役割の解明には最も興味深い時期である。1990年代初期には外国からの直接投資の急増、不完全ながらも価格改革の終結、インフレの過熱(1993年~1994年)、都市部に遅れて農村部での経済成長があり、1990年代後期には企業の改革とレイオフが実行された。農村部が経済循環に入り込んできたことは画期的であるが、これについては残りの章で述べる。

2001年~2005年:SARS、投資拡大、輸出急増

2001年から2005年の高経済成長は今も続いている。50ページの表313に示されているように、内需と外需が中国のGDPに占める割合を見ると中国の経済成長が輸出によるものではないことがわかる。カイデル氏は国内資本の形成が今日の経済急成長をもたらしたと示唆している。2001年の急成長には国内需要も国内資本の投資も影響を及ぼしていないと分析している。著者は在庫管理によって急成長がもたらされたと推定している。2003年のSARS流行で経済に影響は出たが、中国政府は投資の促進で事態を乗り切っている。

4章では農村部の経済が食料、原材料、低賃金労働の供給源以上の役割を果たしていると主張している。著者は以下の点から議論を進めている。

1.      農村部の経済には独自の力学が働くか?

2.      1978年以後の中国の経済成長の循環がもたらした影響は、他のどこよりも農村部に深刻なものだったか?

3.      中央政府と都市部の政策と経済変動が、農村部にどれほど直接の経済変動をもたらしたか?

4.      農村部の経済が全国の経済に影響を及ぼしていたのか?

こうした問題を検証したカイデル氏は、1990年代に入って全国の経済動向に影響を及ぼすようになるまでの農村部は中央政府の政策に受け身でしかなかったと結論づけている。農村部の役割を正当に評価できないようだと、1990年代と同じようにマクロ経済の激しい変動に直面するという。カイデル氏は中国の指導者がこの教訓を忘れぬようにと述べている。

アルバート・カイデル氏はアメリカ財務省と世界銀行北京事務所での経験を積んだ経済の専門家である。このレポートは経済政策に関して上級レベルの知識を持つ者にはお薦めである。冷静な分析とよく整理された図表によって中国経済を詳細に把握できる。

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