中東の民主化とはネオコンの陰謀なのだろうか?
- イラク論争が激しくなるに及んで、反戦派の中には中東の民主化とはネオコンと石油業界の陰謀だとのたまう者もいる。明らかにこれは間違いである。イラク戦争に賛成であれ反対であれ、アメリカの政策形成者達は中東の民主化促進に取り組んできた。ネオコンばかりでなく、中道派もリベラル派もその他のイデオロギーの信奉者達もこの問題に精力を注いできた。さらにヨーロッパ人もアメリカとの協調あるいは独自の立場から中東の民主化に取り組んでいる。
中東の民主化という案がアメリカの好戦性を象徴するものでもない。中東の民主化と言うと対テロ戦争とイラク戦争が連想されがちである。確かにテロリストと独裁者の打倒はこの政策で重要な課題ではある。しかし政策形成者達は政治的な自由、社会経済的な平等、性の平等、教育、開発、市民社会、自立支援(エンパワーメント)といった非軍事的な側面も議論している。しばしば、メディアも専門家も故意か否かはともかく、この点を見落としている。
よって中東の民主化にネオコンによる一国中心主義の陰謀だとレッテルを貼り付けることは全くの誤りである。この問題に関して大西洋の両側で行なわれている政策研究を簡単に振り返りたい。
中道派の専門家はブッシュ政権によるイラクのレジーム・チェンジに全面的に同意しているわけではない。カーネギー国際平和財団の「民主化と法の支配」プロジェクトのトマス・カロザース部長は長年にわたって中東の民主化に関する研究を続けているが、イラクのレジーム・チェンジには批判的である。カロザース氏はイラク戦争の開戦直前の2002年10月に “Democratic Mirage in the Middle East” という論文を書いている。その中で、サダム・フセインさえ打倒しれば急速に民主化できるという見方を批判している。しかしながら、冷戦後のアメリカが中東の民主化に積極的に関与することは歓迎している。カロザース氏は冷戦期のアメリカが中東の民主化に充分に関与しなかったことを残念に思っている。トマス・カロザース氏は急速なドミノ効果に期待するよりも地道で長期的な関与をしてゆくべきだと主張している。
メディアと我ら西側のグラスルーツは非アラブ諸国ではイランとアフガニスタン、アラブ諸国ではイラク、レバノン、パレスチナに目が向いている。カーネギー国際平和財団が発行するThe Arab Reform Bulletinではアラブ世界全土にわたっての民主化に関して政策提言を行なっている。今年の7月に発行された最新号では、カイロ人権研究所のモアタズ・エル・フェジエリ研究プログラム部長がアラブ諸国での政府による言論と表現の自由に対する抑圧を分析している。同誌のディナ・ビシャラ編集助手はアメリカが特定の政党への支援を行なわないように主張している。
反ブッシュ政権のリベラル派シンクタンクのアメリカ進歩的政策センター(Center for American Progress)も中東の民主化に関する論文を出版している。同センターのマラ・ラドマン上級研究員は“Vote Reaffirms Need for America to Invest in Democracy” (Forward, February 6, 2006)という論文で、パレスチナで誰が政権を取ろうともアメリカは民主化への支援を行なうべきだと結論づけている。2005年12月20日に行なわれたイベントでは、サダム・フセイン打倒後では初の選挙を経たイラクの民主化の進展のあり方が討論された。
ヨーロッパ人もアメリカ人に劣らず中東の民主化に熱心である。2005年12月27日にはヨーロッパとアラブ世界を代表するシンクタンクによってThe Arab Reform Initiativeが発足した。このシンクタンク連合では、アラブ、ヨーロッパ、そしてアメリカから参加者を招いて民主化の研究を行なっている。大陸諸国のシンクタンクもこの共同事業に参加していることは注目に値する。イラク戦争前に亀裂はあったが、ヨーロッパ人もアメリカ人と共通の政策課題を追求している。
イランでは欧米の政府やNGOからの支援に大幅に依存することなく市民社会が育っている。当局がブロガーを逮捕したにもかかわらず、ブログでの議論は盛んである。進歩的なジャーナリストとブロガーはペルシアン・ジャーナルという英語のネット社会を築き上げている。市民社会が強固な現状から、レザ・パーレビ元皇太子は戦争よりもウクライナ型のオレンジ革命によるレジーム・チェンジを主張している。外交問題評議会のオンライン・ジャーナルCFR.org のライオネル・ビーナー記者はアメリカ政府がイランと欧米の市民社会と実業界の対話を促進すべきとする一方で、直接の関与は控えるよう主張している。アメリカ政府が支援する運動となれば、イラン人からネガティブな印象を抱かれかねないためだとビーナー氏は言う。
ネオコンと石油業界を叩くことは無意味である。むしろ中東の民主化という政策の起源を理解すべきである。9・11テロ攻撃以前にもアメリカの政策形成者の間で中東の民主化に関する議論は行われていた。当ブログで以前に掲載された「アメリカのイラク開戦をめぐる賛否を振り返る」でも述べたように、クリントン政権期からイラク侵攻は重要な政策課題であった。これは党利党略を超えた問題である。民主主義の拡大はアメリカ外交の重要政策課題である。これはイラク問題に関する議会での議論がどのように展開しようとも変わらない。また冷戦終結によって安全保障の概念が変わった。対象国を攻撃するか否かにかかわらず、市民社会を重視した政策の重要性は高まっている。アメリカはイラクでは力の行使に踏み切ったがウクライナでは違った。中東の民主化は世界平和の重要な第一歩である。
中東の改革はネオコンばかりでなくリベラルにもヨーロッパ人にも、そして中東の市民にも非常に重要な政策課題なのである。


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