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2007年7月25日

中東の民主化とはネオコンの陰謀なのだろうか?

  • イラク論争が激しくなるに及んで、反戦派の中には中東の民主化とはネオコンと石油業界の陰謀だとのたまう者もいる。明らかにこれは間違いである。イラク戦争に賛成であれ反対であれ、アメリカの政策形成者達は中東の民主化促進に取り組んできた。ネオコンばかりでなく、中道派もリベラル派もその他のイデオロギーの信奉者達もこの問題に精力を注いできた。さらにヨーロッパ人もアメリカとの協調あるいは独自の立場から中東の民主化に取り組んでいる。

中東の民主化という案がアメリカの好戦性を象徴するものでもない。中東の民主化と言うと対テロ戦争とイラク戦争が連想されがちである。確かにテロリストと独裁者の打倒はこの政策で重要な課題ではある。しかし政策形成者達は政治的な自由、社会経済的な平等、性の平等、教育、開発、市民社会、自立支援(エンパワーメント)といった非軍事的な側面も議論している。しばしば、メディアも専門家も故意か否かはともかく、この点を見落としている。

よって中東の民主化にネオコンによる一国中心主義の陰謀だとレッテルを貼り付けることは全くの誤りである。この問題に関して大西洋の両側で行なわれている政策研究を簡単に振り返りたい。

中道派の専門家はブッシュ政権によるイラクのレジーム・チェンジに全面的に同意しているわけではない。カーネギー国際平和財団の「民主化と法の支配」プロジェクトのトマス・カロザース部長は長年にわたって中東の民主化に関する研究を続けているが、イラクのレジーム・チェンジには批判的である。カロザース氏はイラク戦争の開戦直前の200210月に “Democratic Mirage in the Middle East” という論文を書いている。その中で、サダム・フセインさえ打倒しれば急速に民主化できるという見方を批判している。しかしながら、冷戦後のアメリカが中東の民主化に積極的に関与することは歓迎している。カロザース氏は冷戦期のアメリカが中東の民主化に充分に関与しなかったことを残念に思っている。トマス・カロザース氏は急速なドミノ効果に期待するよりも地道で長期的な関与をしてゆくべきだと主張している。

メディアと我ら西側のグラスルーツは非アラブ諸国ではイランとアフガニスタン、アラブ諸国ではイラク、レバノン、パレスチナに目が向いている。カーネギー国際平和財団が発行するThe Arab Reform Bulletinではアラブ世界全土にわたっての民主化に関して政策提言を行なっている。今年の7月に発行された最新号では、カイロ人権研究所のモアタズ・エル・フェジエリ研究プログラム部長がアラブ諸国での政府による言論と表現の自由に対する抑圧を分析している。同誌のディナ・ビシャラ編集助手はアメリカが特定の政党への支援を行なわないように主張している。

反ブッシュ政権のリベラル派シンクタンクのアメリカ進歩的政策センター(Center for American Progress)も中東の民主化に関する論文を出版している。同センターのマラ・ラドマン上級研究員は“Vote Reaffirms Need for America to Invest in Democracy” Forward, February 6, 2006という論文で、パレスチナで誰が政権を取ろうともアメリカは民主化への支援を行なうべきだと結論づけている。20051220日に行なわれたイベントでは、サダム・フセイン打倒後では初の選挙を経たイラクの民主化の進展のあり方が討論された。

ヨーロッパ人もアメリカ人に劣らず中東の民主化に熱心である。20051227日にはヨーロッパとアラブ世界を代表するシンクタンクによってThe Arab Reform Initiativeが発足した。このシンクタンク連合では、アラブ、ヨーロッパ、そしてアメリカから参加者を招いて民主化の研究を行なっている。大陸諸国のシンクタンクもこの共同事業に参加していることは注目に値する。イラク戦争前に亀裂はあったが、ヨーロッパ人もアメリカ人と共通の政策課題を追求している。

イランでは欧米の政府やNGOからの支援に大幅に依存することなく市民社会が育っている。当局がブロガーを逮捕したにもかかわらず、ブログでの議論は盛んである。進歩的なジャーナリストとブロガーはペルシアン・ジャーナルという英語のネット社会を築き上げている。市民社会が強固な現状から、レザ・パーレビ元皇太子は戦争よりもウクライナ型のオレンジ革命によるレジーム・チェンジを主張している。外交問題評議会のオンライン・ジャーナルCFR.org のライオネル・ビーナー記者はアメリカ政府がイランと欧米の市民社会と実業界の対話を促進すべきとする一方で、直接の関与は控えるよう主張している。アメリカ政府が支援する運動となれば、イラン人からネガティブな印象を抱かれかねないためだとビーナー氏は言う。

ネオコンと石油業界を叩くことは無意味である。むしろ中東の民主化という政策の起源を理解すべきである。911テロ攻撃以前にもアメリカの政策形成者の間で中東の民主化に関する議論は行われていた。当ブログで以前に掲載された「アメリカのイラク開戦をめぐる賛否を振り返る」でも述べたように、クリントン政権期からイラク侵攻は重要な政策課題であった。これは党利党略を超えた問題である。民主主義の拡大はアメリカ外交の重要政策課題である。これはイラク問題に関する議会での議論がどのように展開しようとも変わらない。また冷戦終結によって安全保障の概念が変わった。対象国を攻撃するか否かにかかわらず、市民社会を重視した政策の重要性は高まっている。アメリカはイラクでは力の行使に踏み切ったがウクライナでは違った。中東の民主化は世界平和の重要な第一歩である。

中東の改革はネオコンばかりでなくリベラルにもヨーロッパ人にも、そして中東の市民にも非常に重要な政策課題なのである。

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コメント

舎さん、

イギリスは、フサイン=マクマホン協定でアラブの独立と主権を認めながら、サイクスピコ協定で中近東を植民地にし、さらにバルフォア宣言によって、今日のパレスチナ問題を生み出したことについて、どうお考えでしょうか。

投稿: 真魚 | 2007年8月 4日 10:52

あれ、今回の記事とは直接の関係はない質問では?それを承知で返答すると、上記の悪名高き二枚舌外交はイギリス伝統の対立する勢力の力のバランスを操ることで主導権を握ろうという手法だと言えます。ただし、中西輝政が「大英帝国衰亡記」でこれはイギリスが両者の暴走を抑えるに充分な国力があって成り立つもので、力が低下したらきわめて難しい政策だと批判しています。

バルフォアという人物は目先の利害は追っても、長期的な信念と視野を欠いていたと批判されています。

ただ、ユダヤ人がイスラエルを建国したこと自体は肯定されるべきではないのでしょうか?中東に西欧的な制度と文明を持つ国は他にないうえに、ユダヤ人を祖国なき民のままにしておくべきとは誰も思わないのでは?

投稿: 舎 亜歴 | 2007年8月 5日 23:32

舎さん、

いえいえ、私が言いたいことは、中近東にとって、元ショッカーがイギリス(とフランス)であったということです。現ショッカーはアメリカです。中近東の改革は中近東の人々がやるべきことであって、欧米が介入すべきではありません。

投稿: 真魚 | 2007年8月 8日 23:32

真魚さん、イギリスとフランスが元ショッカーというのは余りに一方的です。それなら第一次大戦までアラブ諸国を支配していたオスマン・トルコや第二次大戦中に中東に進出してきたナチス・ドイツが正義ですか?

それにアメリカが中東でのショッカー?まず中東の市民がどれだけ自分達の民主化での欧米の役割に期待しているか、この事実を見逃さないで下さい。まず文中にあるペルシアン・ジャーナルですが、イラン人のネット社会なのにどうして英語で書かれているのでしょうか?このこと自体、いかにイラン人市民が欧米の支援を期待しているかの表れです。

そう言えば、以前に真魚さんが中韓国民の本音を知りたいが現地語がわからないのでどうしようもないとこぼしていました。中韓のネチズン(特に反日ネチズン)は欧米に何も期待していないから、わざわざ英語で書く必要などないのです。

その他、文中にあるリンクではカーネギー国際平和財団のArab Reform Bulletinやヨーロッパとアラブの協調を進めるArab Reform Initiativeを読んでいただければわかるように、アラブ諸国民の自主的な改革を尊重しています。

次いでにこのブログの過去ログ、イスラム過激派に関する5つの問題点イスラムと民主主義を参照して下さい。いかに中東の諸国民が欧米の自由と民主主義に期待しているかがわかります。

これだからショッカーの特定を誤るんだな、真魚さんは。

投稿: 舎 亜歴 | 2007年8月10日 23:24

舎さん、

>>中東の諸国民が欧米の自由と民主主義に期待している

と考えたのがネオコンのみなさんですが、今の中東の現状を見るとそれがいかに間違いであるかがよくわかります。

ちなみに、その昔、アメリカは南ベトナムを支援し、ラオス・カンボジアにまで侵攻していったのはドミノ理論に従ったわけですが、サイゴン陥落後、その後、東南アジアに共産化した国はありません。いかにキッシンジャーは間違っていたかよくわかりますね。

投稿: 真魚 | 2007年8月17日 01:42

真魚さん、中東の民主化運動家の多くが欧米に拠点を置いたり、欧米のNGOと提携したりするのでしょうか?文中でCFRのライオネル・ビーナーが言っているような、政府によらぬ市民同士の対話も否定する気ですか?ヨーロッパとアラブのシンクタンクが共同で民主化の研究を行なうのもやめろというのですか?

そもそもネオコンだけが中東の民主化に熱心なら、どうしてクリントン政権が亡命イラク人によるINCを支援したのでしょうか?真魚さんが敬愛してやまないアルバート・ゴアは、まさにこの計画に参加していました。

ともかく、本文中の事実とリンク先をしっかり参照してくださいね。

投稿: 舎 亜歴 | 2007年8月18日 12:16

舎さん

アメリカやイギリスが強制的に中近東の社会を変えるのをやめよと申しているのです。
シンクタンクが研究をしたいというのならば、いくらでも研究すれば良いではないですか。
市民同士で対話したいのならば、いくらでも対話すればいいのではないですか。

ベトナム戦争の誤りを繰り返すのですか。

投稿: 真魚 | 2007年8月19日 23:02

中東の民主化イニシアチブは強制的なものではありません。その大半がエンパワーメントなど地道なことが主なものになっています。イラクとアフガニスタンは例外的なケースです。

エジプト、サウジアラビア、湾岸アラブ諸国はアメリカの同盟国でもあるので、軍事介入による民主化は有り得ません。同盟国のパキスタンに対してテロ討伐のために介入するとまで言ったオバマが失笑をかったのはよく知られるところ。

イラクは周辺諸国とクルド人に深刻な脅威を与え続けていましたし、アフガニスタンでもタリバンがテロリストをかくまい続けていました。こうした相手には強制手段に出る他なくなるわけです。

ベトナム戦争ではアメリカが支援したのは腐敗政権でした。中東の民主化について言えば、冷戦下では共産主義打倒にとらわれる余り、この件はおろそかにされてきました。アメリカがこの問題に取り組むことを、文中リンクされたトマス・カロザースは歓迎しています。

余りベトナムにとらえられていると,それ以外がおろそかになります。カーターのような人物が合衆国大統領になってはどうしようもありません。

投稿: 舎 亜歴 | 2007年8月20日 00:28

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