米国民主党は建設的なイラク政策を示せ
今回はアメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)のマイケル・バロン常任研究員がクリエイターズ・シンディケート8月6日号に寄稿した“Perceptions on Iraq War Are Starting to Shift”という論文に言及したい。バロン氏は民主党の政治家達の反戦派を敗北主義者と批判し、彼らがイラクの難局を自分達の選挙戦略に利用することを厳しく問い詰めている。その寄稿文を検証したい。
ブルッキングス研究所のマイケル・オハンロン、ケネス・ポラック両上級研究員がニューヨーク・タイムズ7月30日号に“Stability in Iraq: A War We Just Might Win” という論文を投稿した際に、民主党の反戦派議員は当惑した。オハンロン氏とポラック氏は以前に「ブッシュ政権のイラク政策の失態」を批判したが、今回は戦況の進展を認めている。
民主党はブッシュ政権がイラクの現実にうまく適応できていないことを批判し続けてきた。バロン氏はアル・カイダの自爆テロとの戦いが民族宗派紛争になっていったと述べている。ブッシュ大統領と政権首脳はAEIのフレデリック・ケーガン常任研究員の提言を受け入れて兵力増強を行なった。その後、事態はアメリカ軍にとって良い方向に向かった。
マイケル・バロン氏は今回の中間選挙で初当選したカンザス州選出の新人のナンシー・ボイダ下院議員を民主党の敗北主義者の一例として挙げている。ボイダ下院議員はイラクの混乱を利用してブッシュ政権を非難し続けてきた。しかしボイダ議員はジャック・キーン退役陸軍大将が議会の公聴会でイラクの戦況好転を述べると狼狽した。
世論とは戦況によって移ろいやすいので、バロン氏は民主党が早期撤退を求める強固な支持基盤と勝利を求める国民の多数派との間でどちらをとるかのジレンマに陥っていると指摘している。
敗北主義者についてのもう一つの論文としてウィークリー・スタンダード(ネオコン系の有名な専門誌)7月12日号に掲載された"’Orderly Humiliation’ and ‘The New Strategy in Iraq’"という論文に言及したい。フレデリック・ケーガン氏とキンバリー・ケーガン軍事研究所所長と共同でこの論文を執筆したAEIのトマス・ドネリー常任研究員は、民主党のヒラリー・ロッダム・クリントン上院議員と共和党のリチャード・ルーガー上院議員そして新アメリカ安全保障センター(Center for a New American Security:CNAS)というワシントンの新設シンクタンクによる枢軸関係について述べている。CNASが公式に発足したのは7月27日で、ヒラリー・クリントン議員の他に共和党のチャック・ヘーゲル上院議員というブッシュ政権のイラク政策に批判的な賓客が祝辞を述べている。
ドネリー氏によると、CNASが2008年の選挙でクリントン陣営の政策立案を担うと見られている。CNASはイラクからの早期撤退とイラクに影響力を持つ隣国、特にイランとシリアとの本格的な対話を提言している。トマス・ドネリー氏はそうした議論を批判し、アメリカの撤退によってイラクの各民族宗派への影響力が強まることはなく、イランとシリアの脅威を増大させるだけだと主張している。
AEIの二つの論文はイラク問題と2008年大統領選挙に向けた政治的動向との相互関連を理解するうえで推薦したい。事態は予測できない。政治家とシンクタンクの提携関係ももっと注目すべきである。そうした枢軸関係が主戦であれ反戦であれ、現実にどのように適応してゆくかは注目の価値があるが、それは戦争に関わる事態が移ろいやすいからである。
« ヨーロッパ人と日本人がアメリカの覇権に懐疑的な深層心理は? | トップページ | 明日のNHK番組出演 »
「アメリカのリーダーシップ/世界秩序」カテゴリの記事
- バイデン大統領キーウ訪問後のアメリカのウクライナ政策(2023.04.17)
- 日本とアングロサクソンの揺るがぬ同盟と、独自の戦略(2022.11.08)
- 国防費をGDP比率で決定してよいのか?(2021.12.13)
- アフガニスタン撤退と西側の自己敗北主義(2021.10.26)
- 何がバイデン外交のレッドラインとなるのか?(2021.05.11)
「中東&インド」カテゴリの記事
- 日本とアングロサクソンの揺るがぬ同盟と、独自の戦略(2022.11.08)
- イギリスはインドを西側に引き込めるか?(2022.07.07)
- アフガニスタン撤退と西側の自己敗北主義(2021.10.26)
- アメリカ大統領選挙と中東問題(2020.03.21)
- インド太平洋戦略の曖昧性(2020.01.31)
コメント