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2007年9月22日

1・11ショック:中華帝国の宇宙への野望をレーガン外交で挫け

今年の111日に中国が衛星攻撃兵器の実験に成功したことはアメリカと東アジアの同盟国にとって911にも劣らぬ深刻な脅威を突きつけることになった。カーネギー国際平和財団のアシュリー・J・テリス上級研究員は宇宙でのアメリカの優位を脅かそうという中国の野心を挫くためにアメリカは宇宙での攻撃兵器と防御兵器を両方とも開発すべきだと主張している。今年6月に発刊された“Punching the US Military’s ‘Soft Ribs’: China’s Anti-satellite Weapon Test in Strategic Perspective”というテリス氏の論文について述べたい。

111の日に中国は四川省西昌(Xichang)宇宙基地から自国の老朽化した気象衛星に向けて中距離ミサイルを発射した。ミサイル実験の成功によってアメリカの政策形成者に衝撃が走ったが、それは中国がアメリカ軍の通信システムを寸断する能力を持つことを意味するからである。アシュリー・テリス氏はアメリカが直ちに中国と宇宙での軍備管理について合意形成を目指すべきだというハト派の考えを一蹴している。

まずテリス氏は中国が衛星撃墜計画に取りかかるようになった戦略的な論理を説明している。湾岸戦争でアメリカ軍のデザート・ストーム作戦が目覚しい成功を収めたことで、中国の戦略家達は圧倒的な優位にあるアメリカの通常兵力を打ち破るために宇宙にある米軍施設を攻撃することを模索し始めた。アメリカの衛星はC3(指揮、管理、情報伝達)で中心的な役割を担い、諜報、監視、偵察にも必要不可欠である。テリス氏は「中国はアメリカの軍事力に対抗するには相対的に防御の弱い目、耳、そして声の役割を果たす施設の攻撃に成功することが肝要であることをよく理解している」と言う。テリス上級研究員は覇権国家に挑戦する立場にある中国は宇宙での軍備管理レジームなどを認めて競争相手となる国々の優位を強めようとは思わないと主張する。いわば、現段階で中国が宇宙での軍備管理交渉に乗ってくることは考えにくい。

また、アシュリー・テリス氏は中国の米軍衛星撃墜計画の分類も行なっている。こうした計画は宇宙空間の物体に対する監視と特定のシステムから攻撃兵器にまでわたっている。中国は軌道の高度によって特定のASAT(対衛星)兵器の使用も検討している。弾道ミサイル、巡航ミサイル、レーザー・ビームといった兵器が高度の低い軌道の衛星に使用される見込みである。中高度から高高度の衛星には電波攻撃を検討している。中国は宇宙からの情報をアメリカの戦略家達に伝達する地球上の米軍施設への攻撃さえも考慮している。

結論としてアシュリー・テリス氏は中国の宇宙軍拡計画について三つの示唆すべき点に言及し、政策提言を行なっている。まずテリス氏は中国が宇宙軍拡に莫大な資金を注ぎ込んでいるのは戦略的必要性からであると指摘している。中国がアメリカとの軍備管理協定を結ぼうと思うようになるには以下の要件を最低一つでも満たさねばならない。

(1)    アメリカが宇宙での優位を誇ろうとも、中国がアメリカを破る能力を身につける。

(2)    中国がどれほど衛星撃墜計画に資金を注ぎ込もうとも、アメリカの圧倒的な技術力によってそうした努力が報われなくなる。

(3)    中国の宇宙軍拡によってアメリカが宇宙での攻撃能力の強化に乗り出し、中国の研究開発による成果をアメリカの脅威が上回ることになってしまう。

第二にテリス氏は中国のASAT兵器実験の成功によって宇宙でのアメリカの優位が揺らいでいると警告している。テリス氏はアメリカが軌道上の物体の特定と評価を下す能力を向上し、衛星への攻撃を行なう相手と能力を予測するように提言している。

最後にテリス氏は台湾海峡をめぐる危機の際に「宇宙でのパール・ハーバー」が起こる可能性があると警告している。アメリカが中国の奇襲攻撃から衛星を守る能力を持たないうちにそうした攻撃が起こるようなら中国に対する先制攻撃や本土攻撃も検討する必要が出てくるかも知れない。アシュリー・テリス上級研究員は失敗に終わることが明らかな軍備管理交渉を行なうよりも、アメリカが宇宙での攻撃能力と防御能力を高めるよう主張している。

テリス氏の議論は理に適っていると私は思う。かつてロナルド・レーガン大統領はSDI計画を立ち上げてソ連の核軍拡を断念させ、アメリカとの軍備削減交渉に向かわせた。中華巨竜の危険な野望を挫くために、ジーグフリードたるアメリカはこのように対処しなければならない。

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コメント

舎さん

こんばんは。テリス氏の論文、読ませて頂きました。見解、主張は、大変、明快、理にかなっていると思います。私は、軍事技術の細かいことはわかりませんが、恐らく、宇宙空間において、米中の軍拡競争は、起こるのでしょう。

ただ、テリス氏の3つの政策提言なのですが、軍事のみならず、宇宙空間の例えば、火星探査などの研究開発は、現状、アメリカが言うまでもなく飛びぬけてますね。特に、MITやプリンストン、その他、名門大学がNASAも含めての研究が大きく貢献しています。私も、詳しく数字などを調べたわけではありませんが、そのような研究開発に、中国からの留学生が最も多いのではないでしょうか。(これも調べていないので推測です)
これは、宇宙関連だけではないのですが、アメリカの大学でPH.D(M.Aも含む)を取得する 中国人と日本人の割合が、およそ、2000:1ぐらいでしょうか。もちろん、中国と日本の人口は大きく違いますが。
むしろ、開かれたアメリカ社会や、海外から多くの人が集まるのは、アメリカのソフト・パワーですが、逆に、こと中国に関しては、アメリカで、先端科学・技術を学んだチャイナ・エスタブリッシュメントが、中国の今回のエントリならば、宇宙空間における軍事研究・開発の核となってしまっている矛盾はないでしょうか。

それゆえ、テリス氏の3つの政策提言は、その基盤として、アメリカ自身が寄与していると極端に言えば、言えます。もちろん、軍事機密は、守られてますが。あくまで、この提言に至る前段階においての、中国の研究・開発の進歩の主要因としてです。

宇宙開発ではないですが、アメリカで学んだチャイナ・エスタブリッシュメントがむしろ、中国の権威主義体制の堅持や、中国の対内・対外政策に国内安定、勢力拡大ですね。これに大きく貢献してると、中国研究者、アンドリュー・J・ネイサンも指摘しています。

又、アメリカン・エリートが持つ、そのようなアメリカで学んだ、中国人が、いずれ民主化へと導くだろうという甘い前提認識を、ジェームズ・マンも批判しています。

ただ、アメリカにとって、ヘンリー・ナウや、ジェセフ・ナイが唱えた、魅力、吸引力というソフト・パワーは、また、重要です。

それゆえ、中国に関しては、難しいところがありますね。クリントン政権時にでた、integration strategyは、再検討されなければいけませんね。現在は、ステーク・ホルダー論のようですが。

宇宙開発のような理工系の学生で中国の体制変革で指導的役割を果たす者は少ないでしょうね。そもそも、アメリカの一流大学で最先端の科学技術を学ぶために留学する学生ともなると殆どが中国政府のお墨付き、すなわち体制派ばかりです。

それにしても

>>これは、宇宙関連だけではないのですが、アメリカの大学でPH.D(M.Aも含む)を取得する 中国人と日本人の割合が、およそ、2000:1ぐらいでしょうか。もちろん、中国と日本の人口は大きく違いますが。

これは驚きです。ただ中国では日本やヨーロッパと違って自国の大学では最先端の科学技術など充分に学べないという事情も影響していると思われます。

まだ中国で学術研究を行なおうにも充分な環境がそろっていないのではないでしょうか?これは中国社会科学院の英語版ホームページですが、アメリカのシンクタンクよりずっと貧弱です。中国政府が心血を注いで世界に情報発信をしてゆこうというシンクタンクがこのあり様です。

これでは優秀な中国人学生がアメリカの大学に押しかけるのも無理はありません。ただ理工系の中国人学生は本国に帰るよりアメリカで就職する者も多いのではないでしょうか?そうして優秀な学生がアメリカのために働くのは悪いことではありませんが、これでは母国の民主化にはつながりません。

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