国連なんかにアメリカより正当性があるとでも言うのか?
今日はアフガニスタンとイラクに対してアメリカが攻撃を行なうきっかけとなった9・11の日である。アメリカのイラク攻撃に対しては国連安全保障理事会の承認を得ていないとして批判が広まっている。しかしこのことを問いかける必要がある。国連はアメリカよりも信頼に足るのだろうか?さらにいかなる主権国家であれ国連の配下に置かれるいわれはないことも付け加えたい。世界平和のために意思決定が下せるのは独立国、特に自由と民主主義を標榜する国々である。
であるならば、どうして国連が世界の平和と安定の要と見なされるのだろうか?国連の意思決定システムは不透明で説明責任を満たすには程遠い。ならず者国家も統治に失敗した国々も国連の意思決定に関わっている。エリート意識丸出しの官僚機構の権力を抑制する機関もない。国連官僚の非効率と腐敗は知られ過ぎている。もっと重要なことに、国連と地球市民社会の緊密な関係は世界の統治システム(ガバナンス)の民主化に一役かっているように思われているが、この闇の関係によって世界各地で一般市民が疎外されている。サダム・フセインその他の悪の枢軸のように重大な脅威を打倒する必要がある時には国連の決議など頼る必要は全くない。
上記のような欠点にもかかわらず、国連が多国間外交の中軸を担うものと期待する声は強い。ロバート・ケーガン氏はヨーロッパ人がアメリカと国連の関係をどのように見ているかを以下のように述べている。
ヨーロッパから見ればアメリカは相対的に善良な覇権国家ではあろうが、アメリカの行動が弱小国にも配慮の行き届いた世界秩序の形成を遅らせている限り、アメリカは明らかに危険な存在である。あるヨーロッパの専門家が述べているように、ヨーロッパの外交政策の一大目的がアメリカの「多国間主義化」となっているのは、このことが要因の一つである。ヨーロッパ人がアメリカに国連安全保障理事会の承認の下に行動するように求めているのはこうした事情からである。(「ネオコンの論理」原書p.40、出典:ステーブン・エバーツ”Unilateral America, Light Weight Europe”, working paper, Centre for European Reform, February 2001)
現実には国連の承認なしに行なわれる介入は世界平和の達成に必要である。コソボでは国連安保理の承認なしでNATOが1999年3月24日に空爆を始めた。2000年にはイギリスがシエラレオネへの単独介入を行なった。作戦の成功もあって、トニー・ブレア前首相は在任最後の外遊で「英雄として歓迎された」のである(”Blair Gets Hero’s Welcome in Sierra Leone”, Christian Science Monitor, June 1, 2007)。アメリカがサダム・フセインへの攻撃を行なったことに対して国際世論が極端に批判的なことは全く不思議なことである。大変興味深いことに、反戦市民社会の中にはイラクのバース党体制打倒の直後にミャンマーとリベリアにアメリカの介入を呼びかける者もあった。何と節操のないことか!
実際には国連と地球市民社会が必ずしも普遍的な人道主義のために行動するわけではない。国連と多国籍NGOが排他的な意思決定社会を形成していることはよく知られている。また、この閉鎖的な意思決定社会が現地の市民社会を締め出すこともしばしばある。国連と多国籍NGOの枢軸には世界の一般市民に対する説明責任が欠けている。
国連と多国籍NGOの間の暗黒の関係は、恐るべき腐敗の温床となっている。ヘリテージ財団のジョセフ・ロンコンテ研究員とナイル・ガーディナー研究員は国連とNGOの関係を以下のように述べている。
実際には国連に気に入られるNGOの殆どは国際規範を利用して自国の民主主義とは正反対のことをやってのけている。国連が考える市民社会とは、ただひたすらに中央集権経済、大きな政府の福祉国家、大規模な公共事業を支持する活動家の寄せ集めである。 (“Human Rights Failure”, National Review Online; September 28, 2005)
また、両研究員はスーダンと西アフリカで国連とNGO関係者が犯した未成年への性犯罪行為を厳しく批判している。
さらにサダム・フセイン時代のイラクへの制裁破りなどは国連官僚機構の腐敗を象徴するものである(“Oil for Food Scandal Draws Scrutiny to UN”, Fox News, September 20, 2004)。
ロシアと中国の拒否権によって安全保障理事会の意思決定機能は停滞し、国連の無能力をさらに深刻なものにしている。
主要自由民主主義国でも特にアメリカ、イギリス、NATOの方が差し迫った脅威に対して国連よりずっと迅速で効果的に対応できる。日本とオーストラリアが加盟するようになればNATOはグローバル化する。そうなると国連決議の重要性などとるに足らなくなる。
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まったく同感です。
国連は地球連邦政府ではありません。どの国も自国民から選挙で選ばれた議員をおくってません。これでどういう正当性がありましょうか?
国連は単なる事務連絡調整機構です。日本国内に例えるなら全国知事会みたいなもの。
連絡調整ですから承認を得られればそれにこしたことはない。
その程度のものです。
けっして国家主権。いやそれより直接的な国益より優先するものではありません。
今、日本ではテロ特措法をめぐって民主党が反対しています。
曰く。国連の承認を得てないと。
では聞きます。
戦後、日本を護ってたのは国連ですか?アメリカですか?
何の役にも立たないどころか正当性も疑わしいものに対して国連の承認がないからといって最重要同盟国との同盟関係を危うくする。
まったく愚かです。
投稿: アラメイン伯 | 2007年9月14日 22:59
小沢一郎がテロ特措法に反対していることはAEIのマイケル・オースチンがニューヨーク・サン9月13日号で厳しく批判しています。かつてアメリカのどこぞの博物館で「天皇より大きな署名」をしてまでアメリカとの親密ぶりをアピールした男が今やこれです。
ともかくなりふり構わず権力を奪取したいのでしょうね、あのブルドッグおやじは。
投稿: 舎 亜歴 | 2007年9月15日 11:57