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2007年9月30日

CNAS:ヒラリー・ロッダム・クリントン候補の外交政策を支える知の力

2008年の選挙ではヒラリー・ロッダム・クリントン氏が民主党の大統領指名の最有力候補である。以前の「米国民主党は建設的なイラク政策を示せ」という記事でAEIのトマス・ドネリー常任研究員が新アメリカ安全保障センター(CNAS: Center for a New American Security)という新しいシンクタンクが2008年選挙のヒラリー・クリントン陣営の政策ブレーンとなると述べていたことに言及した。ドネリー氏はCNASについて「新世紀アメリカのプロジェクト(PNAC: Project for a New American Century)の 名前の猿真似で、クリントン政権期の人材の寄せ集めである」と批判している。CNASのホームページを見てみよう。

このシンクタンクはカート・キャンベル現CEOとミシェル・フラーノイ現所長が共同で設立した。両者ともオックスフォード大学出身である(キャンベル氏はカリフォルニア大学サンディエゴ校で学士号を取得後にソ連のエレバン大学で終了証、そしてオックスフォード大学で博士号を取得している。フラーノイ氏はハーバード大学で学士号を取得してオックスフォード大学で修士号を取得している。)。こうしたバックグラウンドは、ビル・クリントン大統領自身をはじめロバート・ライシュ労働長官、ストローブ・タルボット国務副長官といったローズ奨学生がひしめいていたクリントン政権との関係を深めたかも知れない。

CNASの設立趣旨は共同設立者のメッセージ紹介ビデオで述べられている。9・11後の新たな安全保障上の問題に対処するために、両人はこのシンクタンクの設立趣旨を以下のように語っている。

CNASの使命は現在のアメリカが外交政策と安全保障で直面している重要な課題を特定し、こうした問題に対処すべくガバナンス(統治システム)の選択をどうするか考えるうえで役割を果たすことである。CNASはワシントンの政策シンクタンクと政治討論で蔓延している現在の選挙目当ての議論を脱却し、この国が直面している真の長期的な課題を考えてゆければと願っている。

CNASは2009年にどんな政権が誕生しようともアイデアを提供してゆくつもりだと述べている。しかしCNASはブッシュ政権とは異なる外交政策のアプローチを模索していることがわかる。人脈に関しては共和党の「リベラル派」とでも言うべき現政権とは必ずしも安全保障のビジョンが一致していない政治家との関係を築いている。また、政策そのものでもCNASは新しい問題に取り組んでいる。

共和党の有力政治家ではチャック・ヘーゲル上院議員とリチャード・ルーガー上院議員がCNASとの関係が深い。特にヘーゲル上院議員はジョージ・W・ブッシュ大統領のイラク政策に批判的なことで知られている。ブッシュ政権の一員であったリチャード・アーミテージ前国務副長官が、クリントン政権の閣僚であったマデレーン・アルブライト元国務長官とウィリアム・ペリー元国防長官らとともに運営委員会に名を連ねていることは注目すべきである。きわめて重要なことに、アーミテージ氏はイラク戦争主戦派の先鋒であるウィリアム・クリストル氏とロバート・ケーガン氏が共同設立したPNACの発起署名人の一人である。このことからCNASはバラク・オバマ上院議員、ジョン・エドワーズ元上院議員、そしてニュー・メキシコ州のビル・リチャードソン知事といいた他の民主党候補よりも中道派のヒラリー・ロッダム・クリントン上院議員にこそ相応しい。

CNASは今年627日にワシントンのウィラード・インターコンティネンタル・ホテルで正式に発足し、ヒラリー・ロッダム・クリントン氏とチャック・ヘーゲル氏が来賓として演説を行なった。このことからCNASとヒラリー・クリントン氏の緊密な関係と超党派の性格がうかがえる。

数多くの研究テーマの中でも、CNASでの重要課題はイラク問題と米軍再編成である。アジア・イニシアティブ09も重要なプロジェクトで、イラクへの過剰な関与を超えてアメリカとアジアの協調の推進を模索している。きわめて重要なことに、CNASはブッシュ政権が充分な考慮を払ってこなかった気候変動や国際難民問題といいた問題にも取り組んでいる。

中でもイラクは最重要課題である。8月30日出版の“Measuring Progress in Iraq”というジョージタウン大学のコーリン・カール助教授によるイラクに関する最新のレポートでは、増派は2008年の春までに終わらせるよう勧告している。またアメリカ軍からイラク治安部隊への権限委譲の成功が、増派によるある程度の成果を長期的に有意義で持続的なものにするうえで重要だと述べている。

しかし新アメリカ安全保障センターは小規模なシンクタンクなので、アメリカの外交政策の重要課題でも充分に議論できていないものもある。アジアとの積極的な関わりを謳っていながら、北朝鮮に関するレポートはまだ出ていない。ヨーロッパ、日本、オーストラリアといった西側先進国との同盟関係も地球規模の対テロ戦争にはこれまで劣らず重要である。民主化の促進は歴代政権のアメリカ外交の重要課題で、ブッシュ政権はアメリカと世界の安全保障の中でも最重要課題の一つに挙げている。しかしCNASにはこの問題に関するプロジェクトがない。

2008年の選挙でどちらの党が勝とうとも、CNASは現政権が充分に模索してこなかった課題に取り組むであろう。だがCNASはブッシュ政権が精力を注いでいる問題に充分に取り組む必要がある。現段階では、この新設シンクタンクがヒラリー・ロッダム・クリントン上院議員の知の力としてどれほどのことができるか注目すべきである。

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コメント

以前に読んだ小説「SHOWDOWN 対決」という小説で、あきらかにヒラリーをモデルにした大統領が登場します。
本のなかでは無能な大統領として描かれてますが、本当のところはどんなものでしょうね?
この小説のようだとアメリカにとっても世界にとっても不幸な事態になります。

投稿: アラメイン伯 | 2007年10月 4日 22:36

小説は小説です。マーティン・シーン主演のTVドラマ「ホワイトハウス」に出てくるジェド・バートレット大統領はビル・クリントンをモデルにしているように見受けられますが、本人よりもずっと高潔な人格者です。

それよりもCNASにアーミテージがいるのは日本にとって心強いです。仮にヒラリー・クリントン政権が誕生しても、これまでの関係を少なくとも維持できるための保険になります。CNAS自身が共和党政権が誕生しても積極的に関わると明言しているので、いずれにせよ知日派が何らかの影響力を持つことになります。

イギリスはこうした保険のかけ方がうまいのですが。

投稿: 舎 亜歴 | 2007年10月 7日 14:48

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