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2007年10月14日

米露外交200周年記念と両国歴代大使の提言

ロシアとアメリカが正規の外交関係を結んでから今年で200年になる。現在のプーチン政権下でロシアと欧米の関係は必ずしも良くはない。国粋主義的なナショナリズムと帝政さながらの権威主義の高まりの中で3月のロシア大統領選挙は行なわれる。

現在のロシアの政治と外交に鑑みて、米露両国の歴代大使は国交200周年の記念記事をインターナショナル・ヘラルド・トリビューンに寄稿した(“Relations for a New Century”; September 24, 2007。そこでは五つの提言がなされている。

(1)    アメリカとロシアの間には世界の政治と経済をめぐって見解の相違と不一致があるのは当然だが、両国ともに共通の利益を特定して追求してゆかねばならない。

(2)    冷戦後の目まぐるしい情勢の変化から、アメリカとロシアは世界戦略を練り直す必要がある。暴力的な反米感情の高まりは世界にとって重大な脅威である。

(3)    米露関係が改善されるのは両国が共通の国益を追求し、共に解決に当たる時である。テロや大量破壊兵器の不拡散といった問題は解決されておらず、さらなる両国の協力の余地がある。

(4)    正規の外交チャンネルだけでなく、閣僚及び次官級での対話も制度化するべきである。

(5)    学界、社会運動界、宗教界も含めた広い範囲での両国の交流を活性化させる。この目的のためにはビザ発給のあり方を変える必要がある。また、ロシアのWTO加盟をさらに超えて経済関係の拡大をはかるべきである。

確かに、この二大国の協調関係の推進は重要である。しかし、この論文はいかにも「外交」辞令に満ちており、米露関係の理解にはもっと率直な意見の交換が必要である。

カーネギー国際平和財団は9月24日及び25日に「米露外交200周年記念:歴代大使座談会」を開催した。25日に開かれたパネル・ディスカッションではカーネギー国際平和財団のマーク・メディッシュ副所長とCNNでアメリカ担当のジル・ドゥガーティ編集局員が司会を務めた。討論内容を簡単に述べたい(PDFウィンド・ズ・メディア・プレーヤークイック・タイムPod Cast)。

この昼食会での討論はインターナショナル・ヘラルド・トリビューンに掲載された米露国交200周年記念の論文より率直であった。司会のジル・ドゥガーティ氏はミシガン大学でロシア研究の学士号を取得して90年代にはCNNのモスクワ特派員を務めるなど。ロシアに関する経験が豊富である。冷戦後のロシアの変化に関する討論の司会にはうってつけである。

まずドゥガーティ氏は両国の大統領選挙の時期に摩擦が生じやすくなっている米露関係について問題を投げかけた。現在はカーネギー国際平和財団のロシア・ユーラシア・プロジェクト部長を務めるアメリカのジェームス・コーリンズ元駐露大使は、選挙によって米露関係が損なわれてはならないと述べた。ロシア側ではウラディミール・ルーキン元駐米大使が両国の共通の国益と相違点を指摘した。米露両国ともテロ対策や大量破壊兵器不拡散といった問題では死活的な利害を共有している。他方で地域の問題ではコソボや中東のように両国の不一致が目立つものもあるとウラディミール・ルーキン氏は言う。ジル・ドゥガーティ氏が説明したように、アメリカがコソボの独立に前向きなのに対してロシアは強硬に反対している。ルーキン氏はコーリンズと同様にロシアの大統領候補たちが選挙目当てに強いロシアを訴えようとすることに懸念を示した。

「ヤルタからマルタ」期のソ連のユーリー・ドゥビニン元駐米大使は、今や米露両国とも民主主義国なのでコソボでの立場の違いを埋めるには「我々は何が求められているのかという両国民の声を知る必要があり、問題解決に当たっては一方の国民が他方の国民の意思を押し付けてはならない」と述べている。

こうした著しい相違にもかかわらず、アメリカのアーサー・ハートマン元駐ソ大使はアメリカ国民にロシアの変化を辛抱強く見守るようにと訴え、自国の目線のみで世界を見ないよう呼びかけている。

もう一つの重要な課題はエネルギーで、ロシアが西側に対して政治的あるいは経済的な要求をつきつける道具に使うことを考えているかどうかというものであった。この問題に関してウラディミール・ルーキン氏もジェームス・コーリンズ氏も石油とガスの価格を決定するのは市場メカニズムであって、ロシアと旧ソ連共和国の独特の関係が変わってゆくこと不可避であるとの見解で一致している。

この昼食会は友好的な雰囲気であったが、米露両国の歴代大使達はロシアでの選挙に伴うナショナリズム感情の高まりについて言及している。カーネギー国際平和財団モスクワ・センターのドミトリ・トレニン副所長は"Russia’s Strategic Choice"というレポートで、ロシアの究極的な国益はアメリカと中国に対して世界の大国として伍してゆくことだと述べている。トレニン氏はロシアがバルト諸国へのNATO拡大、そして中央アジアとジョージアへのアメリカの軍事的影響力の拡大に不満を抱えていると指摘している。旧ソ連諸国がますますロシアの手を離れるようになっている。トレニン氏はアメリカがABM(弾道弾迎撃ミサイル制限)条約から離脱したこともロシア側の不安を高めていると言う。

米露外交関係200周年記念イベントの雰囲気は友好的であったが、二大核保有国の関係は緊張が走る見通しである。来年3月に行なわれるロシアの大統領選挙はブッシュ政権後のアメリカ外交に大きな影響を及ぼすであろう。

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