イラクとその後をめぐるアメリカの中東政策
アメリカのイラク介入は中東の新秩序に向けた第一歩に過ぎず、これが最終目的ではない。よって現在のイラクをどのように管理し、イラク後の中東政策を考えてゆくことは重要なのである。そのために以下のイベントに言及したい。
(1) 「イラク駐留継続はアメリカの国益にかなうか?」 (ビデオ、PDF)
日時:2007年9月18日
主催:バージニア大学ミラー公共問題センター
司会
ジェラルド・バリレス:ミラー公共問題センター所長
マーガレット・ウォーナー:PBS放送局”The News Hour with Jim Lehrer” 上級特派員
討論参加者
賛成派
フレデリック・W・ケーガン:アメリカン・エンタープライズ研究所上級研究員
ルエル・マルク・ゲレクト:アメリカン・エンタープライズ研究所上級フェロー
反対派
ジェシカ・タクマン・マシューズ:カーネギー国際平和財団所長
チャス・フリーマン:元アメリカ駐サウジアラビア大使
まず、バージニア大学で開催された現在のイラクに関する討論をとりあげたい。この討論で重要な論点となったのは、イラクに対するアル・カイダとイランの脅威である。賛成派は米軍の駐留継続がアル・カイダの打倒とイランの脅威への対処に重要だと主張する一方で、反対派は駐留継続によってイラクでアル・カイダの活動が活発化するとともにイランの影響力が浸透してくると言う。
フレデリック・ケーガン氏はイラクのアル・カイダは同組織の世界的ネットワークと緊密につながっていると指摘している。ケーガン氏は「我々がイラクでの民族宗派対立をそのままにして撤退するだけなら、スンニ派に対してシーア派の攻撃からの守護者としてふるまい、自分達がスンニ派に対して行なっている暴力から目をそらせようとするアル・カイダ指導者の目論見通りになってしまう。我々がアル・カイダに勝利を収め始めた時期にこうしたことが起こっている」と述べている。
もう一人の賛成派ルエル・ゲレクト氏はアメリカがこの戦争に敗北してしまえばアル・カイダとイランはイラクのスンニ派とシーア派を過激化させるだろうと言う。こうなると台湾海峡のように他の場所での米軍の関与にも支障をきたしてしまうと述べている。
他方でジェシカ・マシューズ氏はイラクでの民族宗派間の紛争に軍事的な解決策がないことは、アルジェリアでのフランス、チェチェンでのロシア、パレスチナでのイスラエルの例から明らかだと主張する。政治的な解決策があるのみだとマシューズ氏は言う。
また、チャス・フリーマン氏はアメリカの介入とイラク国家の崩壊によってイランとアル・カイダの侵入の余地が生まれてしまったと主張する。フリーマン氏は世論調査の結果を引用してイラク国民の大多数がアメリカの駐留によって自国の主権が侵害されているように感じていると述べている。フリーマン氏はアメリカがイラクから撤退してしまえば、イラク国民はアル・カイダとイランの脅威に対処することに焦点を当てるようになると主張している。これはアメリカにとって大きな収穫になるとフリーマン氏は言う。
フリーマン元大使の発言はイラクでのアメリカの作戦任務に対してやや悲観的な一方で、アメリカの撤退がもたらす結末に関しては余りに敗北的平和主義のように思える。私はフレデリック・ケーガン氏の見解に同意したい。フレデリック・ケーガン氏はジャック・キーン陸軍大将とともにイラクへの増派を説いた“Choosing Victory: A Plan for Success in Iraq” というレポートを書いたことでよく知られている。このレポートはブッシュ政権のイラク問題に対する戦略の基本的な方針となった。
フレデリック・ケーガン氏は親米的な民主主義の普及の意味を明確に語っている。重要な点はイラク国民がジョージ・W・ブッシュ大統領を好むかどうかではなく、イラク国民が対テロ戦争でアメリカの同盟者であるかどうかである。ケーガン氏が単純な早期撤退によって中東でのアメリカの威信が低下するだけだと述べていることは理に適っている。思い出して欲しいのは、ハーバード大学のニール・ファーガソン教授がテロリストはイラク戦争以前にサウジアラビアとクウェートで活動しており、彼らはサダム打倒後のイラクに移っていったと述べていることである。
イランとの対話に関してフレデリック・ケーガン氏は全く反対してはいない。だがケーガン氏が指摘するように、アメリカのイラク撤退のためだけに対話を行なうなら意味がない。ケーガン氏はイランとアル・カイダのつながりについて言及している。さらに私は現在のイランのシーア派体制が自らの神権政治を中東に広めようとしていることにも注意すべきと考えている。そのような体制にチェンバレン的なアプローチでは致命的な危険を負いかねない。
(2) 「イラクでの作戦任務終了後のアメリカの中東戦略」(ビデオ、PDF)
日時:2007年9月17日
主催:デモクラシー誌
カーネギー国際平和財団
司会
ケネス・ベアー:Democracy: A Journal of Ideas共同編集長
討論参加者
ジェシカ・タクマン・マシューズ:カーネギー国際平和財団所長
ウィリアム・マーシャル:進歩的政策研究所所長
レイ・タケイ:外交問題評議会上級フェロー
次にイラク後のアメリカの中東戦略に関するイベントについて述べたい。イラクは最終目的ではない。アメリカと同盟国にとって重大な脅威を突きつけるテロと危険な体制を撃破するための中東の改革の手始めに過ぎない。デモクラシー誌とカーネギー国際平和財団は9月17日にイラク後の政策討論会を開催した。デモクラシー誌(Democracy: A Journal of Ideas)は進歩派の政策ジャーナルで、保守派の「コメンタリー」、「ナショナル・インタレスト」、「パブリック・インタレスト」に対抗して刊行されている。このイベントはイラク撤退後のアメリカの政策を主に進歩的(すなわちリベラル。最近ではこちらの語を使うことが多い。)な視点から議論している。重要な論点は核不拡散、民主化、イランの三点であった。
核不拡散に関してジェシカ・マシューズ氏は、権威主義体制の国には強硬だがインドのような民主国家の核保有には寛大にという現行の二重基準政策を批判している。またイランと北朝鮮の非核化にはロシアとの緊密な協力が必要だと説いている。イラクとその後のアメリカの中東政策でイランが重要になることには異論はない。しかしウラジミール・プーチン大統領はイランを欧米に対する戦略カードに利用しようとしているのではないかという疑念は晴れない。
民主化に関してはウィリアム・マーシャル氏がグローバル経済の下で取り残されている中東の人達の問題に取り組む必要があると指摘する。実は保守派のルエル・マルク。ゲレクト氏も“Selling out Moderate Islam”という論文で同様な点に言及している。この問題は冷戦後の時代にますます重要性を帯びてくる。
最後にレイ・タケイ氏がイランについて述べている。タケイ氏はイランもアメリカもイラクの安定と統一という共通の国益を有しているという。よって両国はイラクの将来について対話を行なうべきだと主張している。確かに対話そのものは否定されるべきではない。問題はイランがイラクでの影響力強化のためにシーア派過激グループを支援していることで、これがアメリカ主導の中東改革と真っ向から対立することである。
三人ともブッシュ政権の中東政策に批判的であるが、進歩派でも中東の民主化という共通の課題を追求していることは見落としてはならない。エジプトやサウジアラビアのような西側の同盟国での温和な改革は、イラクとアフガニスタンでの戦況の進展に劣らず重要である。
現在、イラクは重要な局面にある。ここでの成功は中東の将来への有意義な第一歩となる。また、アメリカとヨーロッパの政策形成者達はイラク後の拡大中東戦略を考え始める時期である。イデオロギー的な立場がどうあろうと、二つのイベントはアメリカの外交政策と中東問題に鋭敏な問題意識を持つ者にとって見過ごせない。
| 固定リンク
「中東&インド」カテゴリの記事
- アフガニスタン向け兵員増派の最終決断(2009.12.08)
- イラン問題に外交問題評議会の権威が論評(2009.11.15)
- アフガニスタンで試されるオバマ氏:最高司令官としての能力と同盟国との関係(2009.09.28)
- 核開発の野望に固執するイラン(2009.09.26)
- マクリスタル大将のアフガニスタン戦略提言の受諾に慎重なオバマ大統領(2009.09.22)


コメント