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2007年11月15日

アメリカが主導する世界の民主化促進の現状と今後の展望

合衆国の大統領が誰であろうと、民主主義の普及がアメリカ外交の重要政策課題であることに変わりはない。民主化の促進によってアメリカのソフトパワーは強化されるのである。トマス・カロザース氏が“US Democracy Promotion During and After Bush”というレポートを出版したのに伴い、912日にカーネギー国際平和財団でパネル・ディスカッションが開催された 

司会はフリーダム・ハウスのジェニファー・ウィンザー理事が務めた。レポートの著者であるカーネギー国際平和財団のトマス・カロザース副所長がプレゼンテーションを行なった。 

パネル・ディスカッションには二人のコメンテーターが参加した。一方はブッシュ政権の民主化政策に批判的ながら、もう一方は現政権の方針を支持している。

批判派はジョンズ・ホプキンス大学ポール・ニッツ高等国際研究学院のフランシス・フクヤマ教授である。かの「歴史の終わり」の著者として余りにも有名である。フクヤマ氏はイラク戦争を支援したネオコンのシンクタンク「新世紀アメリカのプロジェクト」の発起署名人である。その後、ブッシュ政権のイラク政策に批判的になったことはよく知られている。

他方でブッシュ支持派では元下院議員で現在は全米民主主義基金という民主化促進NPOの会長を務めるビン・ウェーバー氏が討論した。ウェーバー氏は2004年大統領選挙でブッシュ・チェイニー陣営の選挙参謀の一人であった。共和党職の強いウェーバー氏だが、マデレーン・オルブライト元国務長官と共同で「アラブ世界の改革に向けたアメリカの政策」の研究プロジェクトを主宰した経験もある。さらに現在はエネルギー長官の諮問委員も務めている。

このイベントのビデオに論評を加えながら、アメリカの現政権と次期政権が民主化をどのように促進してゆくかという展望を模索してみたい(WindowsPod castQuick TimePDF)

最初にトマス・カロザース氏がブッシュ政権の民主化促進政策についての分析についてプレゼンテーションを行なった。ブッシュ政権の外交政策で民主化拡大が占める地位については、中軸を占めると言う者もあれば、現政権は民主化促進を重視していないと言う者もある。カロザース氏は真実はその中間にあり、事態はもっと複雑であると言う。アメリカ外交政策は安全保障と経済での国益追求と真の民主化支援が混ざり合ったものだという。

イラクの民主化に関して、トマス・カロザース氏はブッシュ政権が民主化に熱心なように見えるが、この目的の達成に向けた明確なビジョンが打ち出されていないと指摘している。むしろ現政権はイラク以外の中東地域で現政権は成果を挙げているとカロザース氏は述べている。アメリカによるアラブ市民の自立支援(エンパワーメント)は徐々に進んでいるが、中東地域でも権威主義体制にあるサウジアラビア、湾岸諸国、パキスタンと緊密な関係を築かざるを得ないというリアリスト政策の必要性から民主化は思うように進んでいない。これは急速な民主化によって反欧米のイスラム主義体制が台頭しかねないからである。 

その他の地域でのブッシュ政権の政策は1980年代から1990年代までの歴代政権と同じパターンであるとカロザース氏は言う。アメリカはベラルーシ、ミャンマー、ジンバブエといった独裁体制と対立している。また、アメリカはウクライナ、リベリア、ネパール、ペルーといった国々の民主化を支援している。

他方でカロザース氏は、ロシアと中国のように戦略的にライバル関係にある国に対しては主として経済と安全保障の観点からリアリスト政策をとっていると述べている。またアメリカは対テロ戦争を進めるためにも中東、アジア、アフリカその他で非民主国家と協力してゆかざるを得ないが、ここでは民主主義の大儀とは逆になっている。

ブッシュ政権の民主化拡大政策がこれまでの政権とどのように違うかについて、カロザース氏は三つの点を挙げている。それは対テロ戦争との兼ね合い、中東への積極介入、そして軍事力の積極活用である。カロザース氏はアメリカの民主化拡大政策は中東では遅々として進まぬものの、ウクライナ、キルギスタン、グルジアといった他の地域では進展していると指摘する。カロザース氏はブッシュ政権の政策がイラクと対テロ作戦に重点を置き過ぎてアメリカの民主化促進政策の正当性を損なっていると主張している。また、ロシアと中国の「権威主義的資本主義」の成功により、これを「代替モデル」とする国も現れるようになると警告している。

対テロ戦争とイラクに関して私は全面的に同意してはいないが、トマス・カロザース氏はアメリカの民主化政策についてよくまとめた議論をしている。また、中東での進展が進まないのは、AEIのルエル・マルク・ゲレクト氏が述べたような政治的に複雑な事情からすれば理解できる。ただ核兵器や日本人拉致被害者の問題でどのような進展があろうとも北朝鮮の独裁体制が我々の自由世界に与えている脅威が甚大なものであることを考えれば、カロザース氏がこの国に言及していないことは憂慮すべきことである。最終的にあのような国家は消滅させる方が望ましい。アメリカの対北朝鮮政策はロシアと中国に対するものと同様にリアリストなのだろうか?

現政権の世界民主化政策にはこれまでとは違うところもあるが、殆どの部分は歴代政権のものと一貫している。だからこそ、私は反ブッシュ活動家の多くが掲げる主張が疑わしいと重ねて言っておきたい。

トマス・カロザース氏のプレゼンテーションの後でビン・ウェーバー氏とフランシス・フクヤマ氏が論評を加えた。

まずビン・ウェーバー氏がブッシュ政権支持の立場から議論した。カロザース氏は空虚で非現実的だと批判しているが、ウェーバー氏はブッシュ大統領の力強い呼びかけが民主化への刺激になっていると述べている。ウェーバー氏は民主化が重要なのはブッシュ政権にとどまらず次期大統領にとっても重要な政策課題であるというカロザース氏の見解に基本的に同意している。

ウェーバー氏はブッシュ政権下で中東パートナーシップ・イニシアチブのような進展が見られることを指摘している。また、ウェーバー氏はブッシュ政権の政策に間接的な影響を受けて、世界各地で民主化運動を立ち上げたNGOが次々に誕生していると主張している。

ウェーバー氏のコメントは妥当である。民主化がこれほど重要な政策課題となったことはかつてなかった。これは対テロ戦争も一因ではある。今や我々は転機にあり、合衆国の大統領が誰であっても現大統領が行なっているような政策をとったであろう。

フランシス・フクヤマ氏は別の観点から議論した。フクヤマ氏はイラク問題でアメリカの民主化促進政策が歪められたと主張する。フクヤマ氏はサダム・フセイン放逐に当たって民主化は大量破壊兵器と対テロ戦争に続く三番目の理由であったと指摘する。また、ブッシュ政権が民主化を安全保障政策の道具にすることで、諸外国にはアメリカが民主主義の理念と事故気宇の戦略的利益を混同する偽善者に映りかねない。フクヤマ氏はウェーバー氏に対し、民主化拡大に向けたブッシュ政権の高尚なレトリックによって自由を求める諸国民は勇気づけられるだろうが、アメリカに反感を抱く多くの者を刺激することもあると主張している。

確かに民主化促進が戦略目的と過剰に関連づけられるべきではない。この点について私はフランシス・フクヤマ氏に同意するが、アメリカ外交で自由主義の理念と安全保障上の国益は表裏一体であることを思い出す必要があると思われる。

このイベントはブッシュ政権の民主化政策についてバランスのとれた観点から議論されている。反米過激派が民主化促進政策をネオコンの陰謀だと言うことは、明らかに誤りである。このイベントでの議論を理解することは、次期政権の民主化政策の行方を探るうえでも重要である。 

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