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2007年12月24日

NIEのイラン報告をめぐる米欧関係

NIEが最近発行した“Iran: Nuclear Intentions and Capabilities”というレポートはイランへの強硬姿勢をとり続けるべきかをめぐって議論を呼んでいる。このレポートによると、イランは核爆弾の開発を断念したというが、ウラン濃縮の方は継続しているという。第一に、このレポートは信用できるのか?第二にこれによってイランが国際社会と中東地域にとって脅威でなくなったと言えるのか?

そして最後に、このレポートが大西洋同盟に及ぼした影響について検証したい。イラク戦争反対派は多国籍軍がイラクを攻撃した時にイラクには核兵器がなかったではないかと言ってアメリカの情報機関を非難している。危険な左翼勢力の中にはこのことを利用して、ヨーロッパとアメリカの関係を引き裂こうとする動きさえある。 

この報告内容が事実だとしても、サダムのイラクがそうであったようにイランが我々にとって重大な脅威であると私は信じている。アメリカとヨーロッパに離間を図ろうとする行為は悪の所業そのものである。イラク戦争の勃発以来、テロリストがヨーロッパでの反戦気運を利用していることを忘れてはならない。

まずNIEレポートを手短に論評したい。NIEはイランが2003年秋に核開発を中止したことに強い確信を持っている。レポートではイランが核計画を再開する意志がない否かについては確信がないものの、2007年半ば時点ではイランがそのような計画を模索していないと若干の確信を持つに至っている。ウラン濃縮について、イランは今年に入って遠心分離技術の導入で大きな進歩をとげた。しかし、イランは核兵器の製造のための技術的障害を解決したわけではない。このレポート内容が事実なら、自体は楽観的である。しかしイランが核保有の野望を捨てたか否かは定かではない。

現在はアメリカン・エンタープライズ研究所で上級フェローとなっているジョン・ボルトン元国連大使はNIEのレポートに疑問を呈している(“The Flaws in Iran Report”; Washington Post; December 6)。ボルトン氏は基本的な前提条件を批判している。イランが2003年に核開発を断念したと言うが、「民間用」と「軍事用」の区別が恣意的であるという。また、イランが国際的な圧力に簡単に屈しないことにも言及している。 

このレポートが正しいか間違っているかにかかわらず、イランが我々に重大な脅威であることに変わりはない。ジョン・ボルトン氏が指摘するように、英エコノミスト誌もこのレポートの内容が2005年のものと矛盾すると記している(What’s Not to Celebrate?; December 6, 2007)。また、イランが供給先不明の高濃縮ウランをどうして入手できたのかとIAEAが疑念を抱いていることにも言及している。北朝鮮から入手したのではと私は疑ってしまう。イスラエルのエフード・バラク国防相は、アメリカがイラン攻撃に消極的であってもイスラエルとしてはこのテロ体制に警戒を怠らないと述べているがそれは「いかに最大の友好国といっても地球の裏側からの情報だからである」という。

にもかかわらず、NIEレポートによってアメリカのイラン攻撃に大きな制約がかかったことは否めない。ネオコンの間でもこれは認められている。カーネギー国際平和財団のロバート・ケーガン上級研究員は、レポートの正否にかかわらずアメリカがイランと交渉を始める必要性を説いている(“Time to Talk to Iran”; Washington Post; December 4)。このレポートが発行されてからというもの、ヨーロッパの同盟国にもイランへの武力行使への参加を訴えることは不可能になったという。しかしケーガン氏はイラクでの兵員増派の成功によって中東での影響力が維持されることから、アメリカの立場は悪くないと述べている。むしろブッシュ政権はイランが核兵器開発能力を持つより先にこの機を逃さず交渉に乗り出すべきだとケーガン氏は主張しており、それはアメリカの次期大統領には政権初期にイランとの対話に乗り出す余裕がないからである。さらにケーガン氏は以下のように述べている。

交渉内容は核問題にとどまらず、イランによるテロ支援、アル・カイダ指導者への庇護、へズボラとハマスへの支援、イラク国内の過激派への武器供与も話し合われるべきである。

今年11月のNIEレポートをめぐって、ニューヨーク・タイムズはイランをめぐるアメリカとヨーロッパの亀裂の可能性を報道している(“Europeans See Muskier Case for Sanctions”, December 4)。この記事によると、匿名のヨーロッパ外交官がイランへの制裁強化が問題外となったと述べている。

ヨーロッパの指導者達はイランの核開発に関するNIEレポートによって、どのような行動に出るだろうか?英仏独の外務省で行なわれた記者会見に言及したい。

イギリスのデービッド・ミリバンド外相はファイナンシャル・タイムズ12月6日号に“Why We Must not Take Pressure off Iran”という論文を投稿している。ミリバンド氏はイランが国際社会と対決姿勢をとるのはなぜかを問いかけている。ミリバンド外相はイランによるイラクとアフガニスタンでのテロ支援を非難している。また、EU3とアメリカがイランとの対決を望んでいないと強調している。

BBCラジオとのインタビューで、ミリバンド外相はイギリス政府がなぜイランのウラン濃縮を危険視しているかを説明している

この地域の歴史を振り返ると、イランは国際社会を誤った方向に導き、そうした行動に対する不信感も根強い。イランがエネルギー安全保障を追求することは構わない。問題なのは、イランが政治的不安定の元凶となることである。

フランス外務省の報道官もイランが「国際的な義務の遵守を尊重しないので我が国の立場は変わらない」との理由から、イランの核開発に警戒を怠らないことを表明している Daily Press Briefing, December 4)。

他方でドイツのフランク=ウォルター・シュタインマイヤー外相はこの報告書を歓迎し、イランとの対話を始める良い機会だとしている

イランに対するヨーロッパの態度は、警戒を怠らないイギリスから対話に積極的なドイツまで違いが見られる。しかし、イランとの戦闘は難しくなった。問題なのはNIEレポートの真偽ではない。政治的な駆け引きをどうするかが問題なのである。アメリカとヨーロッパはイランとの対話に向けて何らかの行動をとり、相手の反応を見ることができる。また、イランとの対話ではテロリストや北朝鮮とどのような危険な関係が露呈するかも注視する必要がある。イランの脅威については別の機会にさらに議論してゆきたい。

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コメント

舎さん

おひさしぶりです。

NIEレポートもまあ、都合よくいいタイミングででてくるなあという感じですが、間違いがあれば指摘してほしいのですが、確か、民間用(発電所)と軍事用(兵器)をわけていたはずです。仰る通りで、イランの場合は、意志表示(核保有)でも脅威認識になるわけですね。又、持っているか、持っていないか、わからないよいう状況も脅威なんです。要は、周辺国、国際社会が脅威と認識するかが問題なのであって、これは、スティーブン・ウォルトの「脅威の均衡論」の応用パターンですが、当面、この脅威の均衡を保ちつつ、和平へ向けての交渉を粘り強くやるしかないでしょう。選択肢は、そう多くありませんから。

投稿: forrestal | 2007年12月28日 10:20

forrestalさん、

このレポートで確かに武力行使に踏み切りにくくなりましたが、NPR1月1日の報道にもあるように高濃縮ウランの存在が問題となっています。

核だけでなくテロや中東地域の安全保障もイランに対して突っ込む必要があります。北朝鮮に対しては、拉致問題ばかりか今後の北東アジア情勢を話そうという姿勢がどうも弱いので。

投稿: 舎 亜歴 | 2008年1月 2日 22:08

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