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2007年12月14日

インド独立60周年をマウントバッテン卿とガンジーの時代より振り返る

Mountbatten2sized 今年の8月15日にはNHKの「日本のこれから」で憲法9条をめぐるテレビ討論に参加したが、この日は日本にとってもインドにとっても特別な日である。日本にとっては昭和天皇が連合軍に対して戦争終結の声明を発した日であり、インドにとっては独立記念日である。

1947年8月15日にイギリス領インドで最後の総督となったルイス・マウントバッテン卿は大英帝国より新生インドへ主権を委譲した。今年はインドの独立60周年に当たる。

イギリスからの独立以来、インドは非同盟外交政策をとってきた。経済政策は穏健な計画と国家統制を信条とするフェビアン主義に基づいてきた。初代のジャワハーラル・ネルー首相はケンブリッジ大学の学生時代よりこの思想に傾倒していた。そしてロンドン・スクール・オブ・エコノミックス出身の経済政策立案者達を起用した。

現在、インドは岐路に立っている。1990年代にインドの経済政策はフェビアン主義からネオリベラル主義に変わった。また9・11によってインドは非同盟諸国の盟主からアメリカの主要戦略パートナーへと路線変更するようになっている。

カーネギー国際平和財団のジョージ・パーコビッチ副所長は、政策の路線変更を視野に入れた書評をワシントン・ポストに投稿している。8月19日付けの“Big Democracy: Appreciating the miracle of India's triumph over chaos”という書評の中で、パーコビッチ氏はスタンフォードとイェールで教鞭を執った経験もあるコラムニストで歴史学者のラマチャンドラ・グハ氏による“India after Gandhi”という新書を紹介している。

パーコビッチ氏はグハ氏がインドの民主主義の発展についてよくまとめていると高く評価しており、実際にインドは民族宗派抗争、時代遅れなカースト制度、重大な貧困、地域分離主義、そして天然資源の供給不足といった困難にぶつかってきた。 

ジョージ・パーコビッチ氏はラマチャンドラ・グハ氏の著書から二つの教訓が得られると指摘する。それは民主的な国家建設と米印間の戦略提携についてである。

民主的な国家建設に関しては、憲法起草委員会は不可触民出身のB・R・アンベドカール氏が委員長であったという。イラクでのサダム追放後の混乱を考えれば、そうした階級闘争の克服は注目に値するものであるとパーコビッチ氏は言う。

またグハ氏は米印関係強化の動きとして、中国とヒマラヤの国境をめぐって争った1962年とイスラム過激派との戦いと中国への防壁としてインドを重視する現在との共通性を指摘している。グハ氏はケネディ政権下のケネス・ガルブレイス大使とロバート・ブラックウィル現大使が共にハーバード大学教授であったという点まで言及している。

この他にインドの論客としてシャシ・タルール元国連事務次長について言及したい。タルール氏がタイムズ・オブ・インディア8月12日号に寄稿した“60 Years of Independence and Democracy”という論文では、インドで民主主義が根付いたことにはジャワハーラル・ネルーの貢献が大きく、誰が首相となろうともそれが揺らぐことはないと主張されている。

独立記念日にはマンモハン・シン首相が特別の演説を行なった。シン氏は、教育、科学、健康保険、農業、そして農山村開発で政府が大幅な資金援助を行なう必要性を強調した。シン首相は栄養不良を「国民的な恥辱」と述べ、政府がその撲滅に向けて立ち上がると訴えた(“PM Addresses the Nation on 60th Independence Day”; Times of India; 15 August, 2007)。こうしたエンパワーメント(自立支援)はインドの民主主義をさらに強化するであろう。

今年は記念すべき年でありながら、グローバル・アメリカン政論ではインドを主題とした記事を充分に投稿できなかったことを残念に思う。インドがアメリカとその同盟国にとってますます重要なパートナーとなるであろう。またシャシ・タルール氏が指摘しているネルーの遺産がインドの民主主義に果たした役割は無視できない。これはインドとパキスタンで著しく対照的になっている。周知の通り、パキスタンは軍部独裁と経済停滞にあえいできた。パキスタンのペルベズ・ムシャラフ大統領は不正選挙で国際社会の厳しい非難を浴びている。インドはそのような問題とは無縁である。

マウントバッテン伯爵とマハトマ・ガンジーは現在のインドで民主主義が成功し、繁栄している状況を喜ぶであろう。アメリカとインドの関係強化で世界平和と繁栄にどのように貢献してゆくであろうか? 

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コメント

マウントバッテン卿は以前に読んだ「大英帝国インド総督列伝」という本でも高く評価されてたように思います。


インドは植民地時代イギリスというより国王に対してかなりの忠誠心があったようで二つの世界大戦だけでなく様々なイギリスの戦争にも参加しています。
いうまでもなく今でもイギリス連邦の一員です。

そういえば北清事変の際。籠城する各国の大使館への援軍の先陣はインドの騎兵隊でした。
再びインドがイギリス、アメリカ、日本と共に中国の脅威に対して重要な役割を担うことになるのかもしれませんね。

投稿: アラメイン伯 | 2007年12月18日 23:07

マウントバッテン卿は若き日のチャールズ皇太子が頼りにした王室の一員だったので、王冠への忠誠は当然のこと。

連合軍東南アジア方面軍最高司令官だったこともあり、ビルマやタイでイギリス兵に強制労働をさせたという旧日本軍への反感から反日だったとも言われています。もっとも、こうした「親日・反日」の単純な分類は程度の低いネトウヨ連中のやることだと、私は思っています。

インドと中国の関係についてはBBCのこの報道を参照して下さい。

むしろ、私は困難を経ながら民主化の進んだインドと軍部の影響力の強いパキスタンの対照が気になります。

投稿: 舎 亜歴 | 2007年12月20日 21:38

>民主化の進んだインドと軍部の影響力の強いパキスタンの>対照が気になります。
そうですねぇ。ただパキスタンの軍事政権も昔の南米の軍事政権のように凶悪というほとでもないような気もします。
ムシャラフも確かサンドハースト出身だったかと思います。
中流階級以上からは支持も高いやにききます。
こういうのも過去の大英帝国の影響でしょうか?

ちなみに私の同僚にはムシャラフによく似た顔の男がいます(笑)

投稿: アラメイン伯 | 2007年12月22日 22:12

こんばんは。

貴方はネルーを取り上げていますが、これまでアメリカがインドに冷淡だったのも実は彼にあるのをご存知でしょうか?
ネルーはイスラエル建国を批判したので、当然“反ユダヤ主義者”と見なされ、冷戦中もインドはソ連と友好的だったので、ますます警戒された。
もちろん、その後インドも変わり、イスラエル前首相シャロンも訪印しています。

インドもかなりしたたかな国であり、国益のためには中露と手を結ぶこともするし、日本を利用したりもする。カースト制に関しては、いくら調べても異教徒にはかなり難しい面があります。
しかし、これが紀元前から続いていたのを見れば、プラス面もかなりあったのは事実で、なくなる事はないでしょう。前近代的と糾弾するより、英国のように利用した方が関係がうまくいくと思います。

ネルーは手紙で自国の至らなさも認めながら、英国支配を「大目に見るつもりも忘れるつもりもない」と書いていました。イメージと裏腹にインド人は執念深く、むしろ中国人以上だと思いますが、今のところは外交の具にしていないだけ。
貴方のお好きな特撮モノと違い、国際社会は複雑極まりなく、善玉、悪玉に分けられるほど単純ではありません。

投稿: mugi | 2007年12月23日 20:07

アラメイン伯さん、

>>ムシャラフも確かサンドハースト出身だったかと思います。

カダフィもそうですからねぇ。余り出身校には期待をかけない方が。ただ、マドラサ以外の教育を受けていないような人物が過激民族主義に走りやすいのも事実です。

それにしても四万十市はすごいですね。フォークランド戦争や湾岸戦争の時に付近海域を通った船舶の信号手がバーをやっていたり、ムシャラフそっくりさんがいたり。

さらに土佐犬にニホンカワウソ(さすがにこちらはもういないでしょうか?ここしか生息していないと言われていますが)まで。

投稿: 舎 亜歴 | 2008年1月 1日 22:02

mugiさん、

インドが冷戦期にソ連と近い関係だったことはよくわかっていますし、対中露関係についても過去ログで述べている通りです。また、アラメイン伯さんへの返答でBBC12月20日の中印合同軍事演習をリンクしたのも、そうした趣旨からです。

インドについて全てを書き尽くそうとすれば、とてもブログの記事や新聞・雑誌のコラムでは足りません。私が注目しているのは9・11後に急接近している米印関係です。もちろん、アメリカでもリアリストやリベラル派にはインドへの急接近に警戒の声があるのは承知しています。特に核協定でのダブル・スタンダードによるNPT体制の崩壊をリベラル派が懸念しています。

本当にインドはアメリカとの関係強化によって「平和的台頭」をしてゆくのかを見守ってゆこうというのが、私の立場です。

>>貴方のお好きな特撮モノと違い、国際社会は複雑極まりなく、善玉、悪玉に分けられるほど単純ではありません。

それも一理ありますが、リアリストの権化であるキッシンジャーさえ普遍的な理念がアメリカのソフト・パワーに寄与していることを認めています。米英のような覇権国家とならなかった国々でも自国の理念や道徳を国際政治で活用しています。

また、昔から「単純な正義」はしばしば政治闘争(必ずしも武力行使を伴わない)でよく利用されています。

そう言えばオスマン・トルコの宮廷では「シャー・ナーメ」がよく上演され、スルタン達は隣国ペルシアのシャーをこの物語の悪の侵略者ツーラーンの王になぞらえたとか。

中でも英雄ロスタムの大活躍など、まさに当時の「特撮」です。狭苦しい宮廷で、槍や刀を振り回しての「乗馬アクション」はなかったでしょうが。

投稿: 舎 亜歴 | 2008年1月 2日 21:34

舎さん、返信をどうも。

オスマン帝国皇帝が臣下をも喜ばせる寸劇を好んだのは事実ですが、自分を英雄ロスタムになぞらえる空想に酔っていたかは疑問です。ただ、仮にもイスラム世界のカリフも兼任した皇帝が、宮廷で異教時代の劇をやったことは面白いと思います。それだけ寛容だったと言えます。これが教条主義者なら、“暗黒時代”の劇を行わない。
欧米知識人はとかく独裁体制とオスマン帝国を低評価しがちですが、中東での統治実績と能力では欧米列強よりトルコの方が断然上回っていたと思います。

ユダヤ教を迷信と一蹴したのは古代ローマの歴史家タキトゥスですが、その“迷信”ゆえ、2千年後ついに“約束の地”に国を再建できました。むしろ、自分が正しいと単純に信じきる方が精神衛生上良いのかもしれません。

それにしても、米国はオスマン朝末期のアルメニア人虐殺など持ち出し、非難決議をしたとは不可解です。これで得するのはアルメニアとイスラエルくらいなのに。イラクでの行動から目を逸らすため、他国の古傷を暴き立てたのやら。

投稿: mugi | 2008年1月 5日 15:54

>それにしても、米国はオスマン朝末期のアルメニア人虐殺>など持ち出し、非難決議をしたとは不可解です。これで得す>るのはアルメニアとイスラエルくらいなのに。イラクでの行動から目を逸らすため、他国の古傷を暴き立てたのやら

私もあの非難決議はどうかと思いますが、イラクでの行動から目をそらすためではないてじょう。
政権は決議に反対でした。これをすすめたのは野党民主党です。

投稿: アラメイン伯 | 2008年1月 6日 22:21

mugiさん、

イスラム教徒も異教時代のものを全て嫌ったとは思えません。アレクサンダー大王はイスラム教世界でもキリスト教世界でも英雄です。数年前にTVでイランの吟遊詩人がアレクサンダーを称える伝統の歌を歌っている場面を観たことがあります。そもそも中東全土でアレクサンダーから派生したイスカンダルという男子名が行き渡っています。

オスマン・トルコはイェニ・チェリのように少数民族支配で巧みな政策を採ったのは事実ですが、時代が移ればどんなに優れた政策も実情に合わなくなります。

トルコ系の宮廷では古代帝国の伝統を持つペルシア文学が珍重されてきたので、イスラム色の有無は大事ではなかったのでは?中央アジアやインドのトルコ系王朝でもペルシア語が使われていたようですし。丁度、17~18世紀のヨーロッパで王侯貴族がフランス語を用いたように。

最後に歴史認識問題でアメリカ下院で民主党のナンシー・ペロシが何かしているようですが、日本の場合もそうであるように問題を大きくしないことが重要だと思います。

少なくとも、歴代のアメリカ大統領がトルコのEU加盟を積極的に支持しています。

投稿: 舎 亜歴 | 2008年1月14日 13:44

アラメイン伯さん、

確かに下院民主党がマイノリティの影響を強く受けたのかも知れませんが、アメリカとトルコの関係ではイラクのクルド人自治区のテロ対策の方がよほど重要です。

いずれにせよ、NATOとEU(将来、加盟したとして)でのトルコの役割の方が大事です。

投稿: 舎 亜歴 | 2008年1月14日 13:54

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