パキスタンの混乱とアメリカの政策
ニュー・リパブリック誌の編集員で外交問題評議会のフェローでもあるピーター・バイナート氏は元旦に出演したNPRラジオ番組で、パキスタンはブッシュ政権が民主化に本気で取り組むかどうかの試金石になると述べた。バーナート氏はアメリカが親米派の独裁者を支持し続けるかどうかでジレンマに直面していると言う。バイナート氏は対応を誤ればパキスタンが第二のイランとなってしまうと警告する。
パキスタンは対テロ戦争と核不拡散の最前線である。この国が崩壊してしまえば、アメリカの戦略に大きな痛手となる。ベネジール・ブット氏の暗殺の前に、ダニエル・マーキー氏とフサイン・ハッカニ氏がアメリカのパキスタン政策についてフォーリン・ポリシー誌11月号の”The FP Debate: Should the US Abandon Pervez Musharraf?” という特集で議論を行なっている。マーキー氏はムシャラフ政権を支援し続けるように主張しているが、ハッカニ氏は手を切るようにと訴えている。
ダニエル・マーキー氏は外交問題評議会の上級フェローで元国務省政策スタッフであり、ムシャラフ大統領が1999年に政権の座に就いてからグラスルーツの支持を受けた政党の形成に至らなかったものの、今の時点で退陣したからと言ってジェファーソン的な民主主義に向かう保障はどこにもないと言う。退陣によって軍事、テロ対策、諜報でのアメリカとパキスタンの協力関係が損なわれかねず、アメリカの安全保障にも良からぬ影響を及ぼす。さらにブット氏に率いられた改革派もムシャラフ政権との協調なしには政権は担えなかったと言う。
他方、ボストン大学教授でパキスタンのナワズ・シャリフ首相とベネジール・ブット首相の政策顧問も務めたフサイン・ハッカニ氏は、権威主義の政治ばかりかテロ対策の誤りもあって、ムシャラフ氏がパキスタンをタリバン化していると主張する。パキスタン国内のアル・カイダとは戦う一方で、ペルベズ・ムシャラフ氏はアフガニスタンのタリバンとの戦いには消極的である。その結果、パキスタンとアフガニスタンの国境地域でテロリストがのさばっているとハッカニ氏は指摘する。
ペルベズ・ムシャラフ氏は現在のパキスタンの将軍の一人に過ぎないことに留意する必要がある。カーネギー国際平和財団のロバート・ケーガン上級研究員は、アメリカがムシャラフ氏を見捨ててもパキスタンの崩壊につながるわけではないと述べている。パーレビ王政下のイランではこうはゆかなかった。イランではシャーの失脚はアメリカの同盟国の喪失を意味したが、パキスタンでムシャラフ氏が失脚したからといって必ずしも同盟国の喪失となるわけではない(“Musharraf and the Con Game”; Washington Post; November 22, 2007)。
上記の三人はそうした論評をしているが、ムシャラフ氏にとって代わる指導者はいるのだろうか?ベネジール・ブット氏は殺害され、ナワズ・シャリフ氏は強い支持があるように見えない。ムシャラフ氏を支持するかしないかはさておき、重要な問題はパキスタンが今後も対テロ戦争の同盟国であり続けることである。
この問題を議論するためには、パキスタンが対テロ戦争をどのように戦おうとしているのか理解することが重要である。カーネギー国際平和財団のアシュリー・テリス上級研究員はアメリカがパキスタンに対して辛抱強く接する必要があると指摘する(“Pakistan ―― Conflicted Ally in the War on Terror”; Carnegie Policy Brief; December 2007)。 テリス氏によると、パキスタンはアル・カイダには厳しく、タリバンには柔軟にというダブル・スタンダードをとっているのは、パキスタンの指導者達がタリバン崩壊によってパシュトゥン人の感情を刺激し、それによって連邦直轄少数部族保護区での部族と軍の強調に支障をきたすと懸念している。また三軍統合情報部の工作員も古くからのタリバンとの関係断絶には消極的である。パキスタンの複雑な政治情勢の他に、テリス氏はアフガニスタンのカルザイ政権が腐敗撲滅と経済再建に成果を挙げていないことも問題をさらに複雑にしていると指摘する。
こうした問題から、アシュリー・テリス氏はペルベズ・ムシャラフ氏を政権から放逐してもパキスタンの対テロ作戦での士気と成果が急に向上することを保証するわけではないと主張する。むしろアメリカは対テロ作戦でパキスタンが充分な成果を挙げていないことへの不満を率直に言い、一方でパキスタンとアフガニスタンに組織改革、技術、資金面での支援を行なうよう提言している。また、テリス氏はNATOの軍事活動をアフガニスタン南部と東部にも拡大するよう助言している。
アシュリー・テリス氏の提言は理に適っているように思われる。イスラム過激派は南西アジアで重大な問題なので、私はインドの関与も必要ではないかと思っている。マンモハン・シン首相は9・11を機にジャム・カシミールでのイスラム過激派の脅威への対処のためもあって、アメリカとの戦略協調を深めている。
核兵器も重要な問題である。12月28日にNPRラジオ番組の「デイ・トゥ・デイ」に出演したカーネギー平和財団のジョージ・パーコビッチ副所長は、核兵器はパキスタン軍が厳重に管理していると述べている。アメリカと同盟国は、この国の政治的混乱の方にもっと注意を払うべきだと言う。
ベネジール・ブット氏の暗殺はどのような影響を与えるだろうか?CNNの「ルー・ドッブス・トゥナイト」の12月27日放送で。ランド研究所のクリスティン・フェアー上級政治アナリストは、ブット氏が選挙に勝てる可能性は低かったと言う。フェアー氏はムシャラフ氏にはある程度公正で自由な選挙によって自らの正当性を示せれば良いと述べている。番組に出演したクリスティン・フェアー氏とアシュリー・テリス氏は選挙の早期開催が必要だとの認識で一致しているのは、ムシャラフ氏がこの危機を利用して独裁体制を強化することはアメリカにとって好ましくないからである。両氏はアメリカが支援すべきはパキスタンの民主的制度であって、ムシャラフ大統領個人ではないと結論づけている。
さらに詳しい情報を得るには下院の中東・南アジア小委員会の証言ビデオを参照されたい(Windows 1、2;Quick Time 1、2;Podcast 1、2)。テリス氏とフェアー氏の他にヘリテージ財団のリサ・カーティス研究フェローがアメリカ・パキスタン関係に関する公聴会に出席した。
最後にハーバード大学ケネディ行政学院のハッサン・アッバース研究フェローが発行しているブログが多いに参考になるので言及したい。Watandost と題されたこのブログは、パキスタンと近隣諸国の情勢について記している。アッバース氏はパキスタン政府の元官僚でもある。1月16日付けの“An Indian Perspective on What Went Wrong with Pakistan”という記事で、アッバース氏はネルーの伝統を受け継ぐインドの民主主義と冷戦の論理によって根付いたパキスタンの権威主義を比較している。確かにアメリカは赤化の脅威ばかり注意を払い、パキスタンの独裁者達も自分達の地位の強化に利用してきた。
問題はペルベズ・ムシャラフ大統領自身にあるのではない。パキスタンの政治構造と独立以来の歴史が問題なのである。アメリカ、イギリス、ヨーロッパの同盟諸国はパキスタンにさらなる改革を要求できる。しかし、アシュリー・テリス氏が下院公聴会で述べているように、単に公正で自由な改革ではなくパキスタン国民に受け入れられる改革でなければならない。


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