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2008年1月13日

中国経済は本当に強いのか?

中国経済は最近、急成長を遂げている。今世紀中にもアメリカの覇権を脅かす存在になるという者もいる。中国が国際政治と経済の場でこれまで以上に大きな力を振るおうとしているのは疑いの余地がない。グローバル・アメリカン政論では中国の軍事的野望に関してこれまでに以下の記事を投稿してきた。

中国の軍拡とアメリカの対策

111ショック:中華帝国の宇宙への野望をレーガン外交で挫け

さらに中国の指導者達は今年の北京オリンピックを踏み台にこれまで以上の大国への途を歩もうとしている。中国は1964年の東京オリンピックで日本が、そして1988年のソウル・オリンピックで韓国が歩んだ途を同じように進もうとしている。

グローバルでも地域レベルでもそのように熾烈な力のせめぎ合いの真っ只中で、世界銀行は昨年1218日に中国経済が過大評価されており、実際には40%も小さな経済力であったとの声明を出した。世銀は購買力平価(PPP:purchasing power parity )という個人の購買力に着目した指標を用いて146ヶ国の経済力を評価している。この調査によると、一人当たりのPPPで最も豊かな国はルクセンブルグ、アメリカ、アイスランド、イギリス、ノルウェーである。にもかかわらず、中国は世界銀行の統計ではアメリカに次ぐ世界第二位の経済力である。

世界銀行がメディアに情報を公開するより前に、カーネギー国際平和財団のアルバート・カイデル上級研究員は、ファイナンシャル・タイムズの昨年1114日号に“Limits of a Smaller and Poorer China”という論文を投稿した。以前の「中国の経済成長と農村社会に関する注目の研究報告」という記事で述べたように、アルバート・カイデル氏は中国の国家開発改革委員会の国際協力センターの劉建興氏と共にフィールド調査を行なった経験がある。また、中国人助手の助力で研究を仕上げている。そのため、欧米中心の視点ではなく中国人の見方もよく反映した分析を行なっている。

その論文の要約と論評をしてみたい。カイデル氏によると、アジア開発銀行と世界銀行がそれぞれ行なった調査から「中国で一日あたりの収入が世界銀行の定める最低生活水準以下の人口は3億人に達し、これは従来の3倍にもなる」ということである。これは驚くべき数字で、中国の全人口のおよそ1/4に当たる。

中国は国際的な価格調査に参加したことがなかったので、PPPを正確にドル表示することは難しい。中国、インド、ブラジルといった新興経済諸国が世界の低所得市民の人口で大きな割合を占めることから、世界銀行のロバート・ゼーリック総裁はこれらの国々への世銀による融資を継続すべきだと主張している。カイデル氏は、一部の論客が主張するように中国がアメリカの優位を今にも脅かすほど強大になることはないと言う。中国の軍事的脅威に注目するよりも、カイデル氏はアメリカと同盟諸国に中国の経済開発を支援して政治改革に向けて方向づけるように提言している。

アルバート・カイデル氏の経済分析は合理的で説得力がある。それなら中国共産党の指導者達がアメリカによる世界秩序に不満を漏らすのはなぜだろうか?中国は急速な軍拡を行なっている。宇宙への野心も明らかに抱いている。

中国が欧米に激しい対抗意識を抱いているのは安全保障だけではない。中国政府は記者会見の場で中国語の質問以外は受け付けない。言語に加えて、中国当局は啓蒙、人権、自由といった普遍的な理念を否定し続けている

明らかに中国はアメリカ、もっと広くは欧米に対抗してゆこうと必死である。なぜだろうか?中国は北朝鮮のように貧弱な経済を犠牲にしてまで欧米に挑戦しようとでもいうのだろうか?実に不可解である。アメリカとヨーロッパと日本はこれまで以上に中国を観測する必要がある。

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中国・朝鮮半島&アジア太平洋」カテゴリの記事

コメント

中国の経済の実態については謎の部分が大きいですね。
不思議なのが、経済が好調のはずなのに中国人投資家が外国の株に投資していること。中国人自身が自国の経済を信じてないからではないでしょうか?

東京オリンピックのときもそうでしたが、オリンピックが終われば必ず不況がきます。中国の好況をささえてきたのは北京オリンピックをにらんだ不動産投機というところも大きいです。これが終われば景気が急速に冷え込む可能性もあると思います。


素人は中国の株なんかに手を出さず北欧かニュージーランドの国債が良いと考えています。

私は株の話には疎いのですが、何と言ってもあれだけ多くの中国人が低賃金や不法の労働に従事するために海外で出稼ぎをしているのです。どうも世界のメディアには「中華ドラゴンズ」のファンが多いのでしょうか?何か中国の対等を期待するような報道も目につきます。

この記事で引用したカイデルの経済分析には同意しますが、どうも彼は中国の危険な野心への警戒が薄いのではと思えます。詳しくはリンク先の論文を参照して下さい。

舎さん、

中国の経済にはすごいポテンシャルが残っていると思います。現時点を”バブル”と見ることが可能ですが、国内市場がまだまだ活発になる、購買能力の10%にもいたっていないと考えられると思います。また毎月100万人が貧困社会から抜け出していることを、そしてこの100万人が作る消費を今後の中国が作る。拍車がかかっている経済かと思います。

問題は政府が人権・自由を守り、希望のある社会を作る事が出来るかどうかです。

インドでは文化的抑えられた環境から沢山の人が成功を収めています。中国では政治的・経済的に押さえられた人達を抱えていますので、爆発する可能性を抱えていると考えます。爆発しない限り、中国の成長は続くでしょう。

個人的には投資した中国ファンドが3年で200%以上の成果を挙げていますのでハッピーです。

MikeRossTky

同じコメントが3つ来ていたようなので、一つだけ表示します。

確かに中国経済には大きなポテンシャルはあるでしょう。同時に、その実力が課題評価されているとともに、とてつもない危うさもあります。近代化が行き渡った先進国との大きな違いです。NHKでは「激流中国」というシリーズで、その潜在性と危うさの光と闇を報道しています。

ただ、今の体制の中国がアメリカの覇権に挑戦してゆくことを期待するような報道や言論は多いに問題です。マイクさんもコメントしているように、まだ中国は人権と自由を守る希望ある社会になっていないからです。

ところでマイクさんが中国の株でいくら儲けても結構ですが、まさか「我らを狙う黒い影」となるような国策企業のものではないでしょうね?こうした企業は安全保障上の問題となるだけでなく、自由な市場原理をも脅かします。

舎さん、

中国の経済が活発になり、”資産”が一般の人にとって重要になれば、平和への布石が作られると考えるのもよいのでは?

私の投資は”ファンド”を通じてしていますので、個別にどの株が所持されているかは全く知りません。

当初は、オリンピックまでは大丈夫と思っていましたが、オリンピック後も中国株は延びると思います。

MikeRossTky

どうやらマイクさんの対中政策はリバータリアンのようです。ここで引用したアルバート・カイデルも中国の低開発地域の開発を支援して経済の結びつきによって改革を促すべきとの意見です。問題は、経済協力と軍事的脅威への対処のバランスをどうするか?

ちょうどゴードン・ブラウンが訪中しますが、経済と人権・安全保障のバランスをどうするか英中関係も微妙なところ。

この件で、マイクさんのブログにあった自由と経済 - 格差という記事が興味深いです。経済的自由の1位は香港なのに中国は126位。これをどう解釈するか?

舎さん、

香港は元イギリス領。自由が一番栄える環境を持つタイプ。中国は共産国。自由が一番抑えられる観光を持つタイプ。

ランキングは当たり前では?

人間の本心の中に自由があります。その自由が味わえる環境を作るにはなにが必要なのだろう? そう考えると…

MikeRossTky

香港がなければ中国経済がこれほど成長していないのではないかと思います。

中国の人権と市場に関しては英中首脳会談を参照できます。

舎さん、

私は中国と中国人に対する思い入れが深過ぎるゆえ、かの国に関してあまりコメントしない様に心がけているのですが…

最近、杭州在住の友人(国営企業勤務)から聞いたところでは、中国都市部ではリストラ、インフレが激しく、「誰も彼もが不安な気持ちを抱えて生活している」のだとか。

念願の男児一人を授かり、モンテッソーリ系幼稚園に通わせ、マンションと日本車と購入し、セカンドハウスまで手に入れて、いよいよ今春からは独立事業。国は悲願のオリンピックを迎えようとしている「その時」です…東京オリンピックを目前に控えたかつての日本人の心情と比較してみたいところです。

何にせよ、中国元がまだ二重制だったあの国を知る私の最近の素直な印象は、中国共産党体制は、想像されていた以上に強固で良く機能し社会をハンドル出来ている、ということです。日本で言われる様な体制崩壊の危険性はかなり低く、むしろ、古代中国に見れらた様な、長い安定的繁栄の時代に入ったか?という感すらあります。

もし私の印象が正しければ、日本はまず、こんな時こそ情緒をさて置いて、その経済的可能性になりふり構わず率先して乗らなくてはいけません。乗るどころか、率先して支える必要すらあります。

その果実を手に入れなけば、我が国にとっての政治的勝利は生まれぬことを認識するのが第一で、それが将来の我が国の生命線。

日本のメディアは別の理由でしょうが、世界のメディアあるいは企業あるいは政治家に「中華ドラゴンズ」のファンが多いのは、その経済的可能性ゆえ当然で、問題なのはその為の布石が、我が国よりも既に多く打ってあるかもという事…うーんそれはまずい。

>中国が欧米に激しい対抗意識を抱いているのは安全保障だけではない。中国政府は記者会見の場で中国語の質問以外は受け付けない。言語に加えて、中国当局は啓蒙、人権、自由といった普遍的な理念を否定し続けている

これは、中国共産党が現時点での中国社会をハンドルする為、という捉え方は不自然ですか?

kakuさんとマイクさんのコメントで思ったことは、二人とも国家間の力の対抗の論理も市場経済によって乗り切れると考えているのではということです。私から見ると、ものすごくリバータリアンです。

別に私はChina freeの生活や運動をしているわけでもなければ、個人的にも良い中国人に出会ったことはあります。ですから、杭州の知人に対するkakuさんの気持ちも分からないではありません。

しかし国家同士の関係となると、話は別です。アメリカの覇権に挑戦するのか、日本を含めた東アジア諸国を冊封体制化するのか、台湾海峡は、朝鮮半島は、といった中華帝国の野心には警戒は拭えません。

また我々の自由な体制を悪用して、国策企業が先進国の戦略産業を敵対的に買収するのではということも要警戒です。

どの人の見方にも、国家の論理、市場の論理、市民の論理、などなど様々な要因が重なっています。

舎さん、

>二人とも国家間の力の対抗の論理も市場経済によって乗り切れると考えているのではということです。

敬愛するマイクさんが私なんぞと同じとは限りませんが、法律の世界に生きる人に「経済の力」の話をするとき、すぐに「なんでもかんでも民営化すりゃあいいと思っている」「小さな政府/市場原理妄信主義者!」と言われてしまい、いつも戸惑います。

そうではなくて、政治を考える時でさえ、市場経済で優位性を持つということは、現代の最大最強の切り札の一つを意味しますよね、ということです。

私とて経済が国境を無くす時代、などと能天気なことは考えません。経済がグローバルになればなるほど、政治的にナショナリズムが台頭する方が自然です。

従って、その為に「要警戒」するのも当然で、そこは舎さんの仰る通りで防御体制は粛々と作っておくべきだと思いますし、日本は色々な制約ゆえそれが足りないとも思います。

でも、「有効な切り札」って一つではないですね。そもそも、現時点で我が国が持ち得る中国に対する最大のそれは経済。ならば、その為の切り札を作っておく、その手段の布石は打っておかねば。

そして、現時点で大切なのは、それ(中国経済)が“本当に”強かろうが弱かろうが、「ポテンシャルが大きい」という事実。ならばこれを猛然と助け、我武者羅に乗らなくては。

加えて、我が国に多大なる経済的リターンが生じるのですから、この「切り札」に関しては受動的であってはいけない、躊躇うべきでは無い、と思います。

むしろ「何が経済的な切り札か」と言う論争のほうが重要で萌えるテーマでしょうね。

>法律の世界に生きる人に「経済の力」の話をするとき、すぐに「なんでもかんでも民営化すりゃあいいと思っている」「小さな政府/市場原理妄信主義者!」と言われてしまい、いつも戸惑います。

法律家はそんなもんです。また、日本の場合は官僚が規制で既得権益を持っていたので。保守の意味が大きく違ってしまう由縁です。

安全保障と経済をどう整合させるか?しかし最近の毒餃子騒動からすると、「人間の安全保障」でも中国は要注意のようです。

Kaku-san,

<<敬愛するマイクさん

いや~~~ん。Kakuさんに敬愛されてるなんて~~~~♪

MikeRossTky

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