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2008年1月22日

アメリカ次期大統領が直面する外交政策での課題

現在、アメリカ大統領選挙は日に日に激しさを増している。ともすれば個々の候補者の浮き沈みに注目が集まりがちである。しかし重要なことは最も有能な最高司令官が選出され、合衆国の本土を守ってアメリカの覇権による世界秩序を強固なものにしてゆくことである。候補者の性別や「血と肌の色」など最重要項目ではない。

合衆国の次期大統領は対テロ戦争、核不拡散、中国やロシアのような新興経済への対処といった、かつてない課題に直面することになる。ジョージ・W・ブッシュ大統領がやり残したイラク、イラン、アフガニスタン、パキスタン、パレスチナといった中東の諸問題は、次期政権に引き継がれることになる。

外交政策での転機を視野に入れながら、クリントン政権期の国務副長官でもあるブルッキングス研究所のストローブ・タルボット所長は、ファイナンシャル・タイムズ・マガジン1月4日号に“Trouble Ahead for the Next U.S. President”という論文を寄稿した。

タルボット氏はビル・クリントン前大統領とはローズ奨学生としてオックスフォード大学で学んだルーム・メートであった。そのため、この論文はクリントン色の強い議論となっている。しかしそうしたバイアスを除いてみると、この論文はアメリカと諸外国の指導者と市民に重要な政策提言を行なっている。

この論文について手短に述べたい。ストローブ・タルボット氏はアメリカと国連の亀裂は修復されるべきだと言う。アメリカと同盟国の関係も同様だと主張する。タルボット氏はブッシュ政権のイラクでの「単独行動主義」と国際機関への軽視に批判的である。

タルボット氏は次期大統領が共和党であれ民主党であれ、捕虜虐待に関するジュネーブ条約と国連条約の徹底遵守を宣言するよう促している。また国際刑事裁判所条約に再署名してブッシュ政権との違いを明確にするよう訴えるべきだとしている。

この論文でタルボット氏は一貫してネオコンが主張するホッブス的な力の論理による外交政策を排し、カント的な法に基づいた外交政策を主張している。次期大統領が早急な行動を起こすべき分野としては、核不拡散と気候変動を挙げている。他方でブッシュ政権以後も重要課題となる民主化促進と対テロ戦争については述べられていない。このことに私は失望している。

しかし私はアメリカが多国間外交によってグローバル問題に対処し、現存する危険分子を打破すべきだというタルボット氏の主張には同意する。タルボット氏はブッシュ外交に批判的であるが、私はNATOのグローバル化が現政権で始まったことに注意する必要があると考えている。NATOは日本とオーストラリアとも戦略提携を模索している。アフガニスタンでの成功は将来への第一歩である。日本がNATO支援のためにインド洋に戻ってくることは多いに歓迎すべきである。

核不拡散に関して、ストローブ・タルボット氏はNPTの遵守を主張する。実際にタルボット氏はジョージ・W・ブッシュ大統領とマンモハン・シン首相の間で結ばれた米印核協定を声高に批判している。また、次期大統領には包括的核実験禁止条約と弾道弾迎撃ミサイル禁止条約を尊重するよう要求している。私はアメリカがインドのような新しいパートナーを必要とするという事情もあるので、徹頭徹尾の法によるアプローチに必ずしも賛成しない。日本とオーストラリアのようなアジア太平洋圏の同盟国もこの国との戦略的な結びつきを模索している。私はアメリカの政策上の選択肢はもっと柔軟であるべきだと信じる。しかし私は核不拡散がこれまで以上に重要な問題であるというタルボット氏の見解には同意する。

もう一つの問題は気候変動である。これは重要な問題で国際社会はアメリカの指導力を必要としている。ストローブ・タルボット氏はアメリカが直ちに京都議定書に署名するよう主張している。私はもっと現実的な方法が必要だと思う。正しかろうが誤っていようが、京都議定書は上院で否決されている。アルバート・ゴア氏の映画でそのような雰囲気が変わるとは思えない。次期政権はアメリカの国益を損なわない代替案を示せるのだろうか?ブッシュ政権にはこれができなかったことは間違いない。

賛成か反対かはともかく、ストローブ・タルボット氏が次期大統領にとって重要な課題を指摘していることは間違いない。アメリカは転機を迎えており、世界も転機を迎えている。最も望ましい候補者は、最も有能な最高司令官としての資格があってNATOのような多国間の取り組みを推進できる人物である。

指導者の選出は党利党略を超えたものである。ヒラリー・ロッダム・クリントン上院議員が涙と同情戦術を用い、女性票に訴えかけたことには怒りを感じる。イギリスのマーガレット・サッチャー元首相ならそのようなことはしなかったろう。サッチャー氏は首相になったのは自分が女性だからでなく、政策が正しいからだと言った。本気で最高司令官になろうというなら、ヒラリー・クリントン氏はサッチャー・フィンチュリー卿を見習うべきである。

中東問題、核不拡散、その他グローバル問題でブッシュ政権がやり残した問題を引き継ぐのは誰だろうか?多国間の取り組みに向けて最も優秀な最高司令官が求められている。

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コメント

日本にとって気になるのは、貿易政策です。
ヒラリーさんが大統領になった場合、夫君のような保護主義は困ります。
司法省に特別チームを設けて日本企業を狙い撃ちするようなことをされては困ります。

投稿: アラメイン伯 | 2008年1月23日 22:37

今や日本が貿易問題で矢面に立つことは少ないので、この問題はそれほど心配しなくても。対日関係については、ヒラリーのシンクタンクCNASにアーミテージがいるので、常識外れな政策はないとは思いますが。それにしても最高司令官に向いた人物がきちんと大統領に選出されるかの方が重要です。

投稿: 舎 亜歴 | 2008年1月24日 22:50

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