« パキスタンの混乱とアメリカの政策 | トップページ | アメリカとヨーロッパの東欧への関与の隔たり »

2008年2月 7日

ブッシュ大統領、最後の一般教書演説:次期大統領に引き継ぐバトン

最近のアメリカ政治に関するメディアの報道は選挙に目を奪われており、現政権のことなど忘れ去ってしまったかのようである。しかし誰がこの選挙を制しようとも、次期大統領はジョージ・W・ブッシュ大統領がやり遂げられなかった仕事を引き継ぐことになる。去る128日に行なわれた一般教書演説は、ブッシュ大統領から後継者に引き継がれるバトンである。演説は経済と中東情勢が中心となる。今年の一般教書演説がこれほど注目されないことは、今年が選挙の年だとはいえ奇妙なことである。

一般教書演説を前に、英国エコノミスト誌はブッシュ大統領が任期終了までに何らかの業績を挙げられるか疑問を呈している(“George Bush’s Last Year”; January 28。昨年はイラクでの兵員増派が成功を収めたが、今年はブッシュ氏にとってそのようにうまくはゆかないとエコノミスト誌は言う。最後の年にはパキスタン、イラク、アフガニスタン、パレスチナといった外交問題が重要になるという。また、ジョージ・W・ブッシュ氏にはルーマニアでのNATO首脳会議、ペルーでのAPEC首脳会議も控えている。しかし、先の記事でストローブ・タルボット氏のコメントを引用したように、大統領はやりかけた仕事を後継者に引き渡すことになる。

一般教書演説では経済と対テロ戦争が焦点になるという。大統領の演説を前に、ワシントン・ポストのマイケル・アブラモビッツ記者は今年の政治気運を分析した(Economy, War to Dominate State of Union”; January 28。アブラモビッツ氏はサブプライム・ローン問題のために国民の関心はイラクから経済に移っており、大統領には移民や社会保障といった内政での改革に乗り出す余裕は充分にないと言う。ホワイトハウスのダナ・ペリーノ報道官は「今年は議会がそのように大きな問題に取り組めるとは考えられない」と言った。イラクでの戦術的な成果を認めながらも、民主党は対テロ戦争全般での戦略的状況はそれほど改善していないと主張する。

演説の内容を簡単に振り返りたい。経済に関してサブプライム・ローンはさほど大きな問題とはならず、大統領は以下のように述べただけである。

今夜はファニーメイフレディーマック改革法案の通過、連邦住宅局の近代化、そして州の住宅供給機関が住宅保有者が抵当を支払えるようにする免税債を発行することの許可を願い出たい。

他方でジョージ・W・ブッシュ氏は演説の後半を対テロ戦争に費やした。関連した問題の中でも、大統領はイラクについて圧倒的に多く語った。大統領はアメリカ軍がイラクの平和と安定にどれほど不可欠かを強調するために多くの時間を割いた。ジョージ・W・ブッシュ氏はイラク戦争の意義を以下のように語っている。

イラクでの任務は困難で我が国に難題を突きつけてきた。しかしアメリカの死活的な国益とは任務の成功である。自由なイラクならアル・カイダの安住の地とはならない。自由なイラクによって中東全土の諸国民に自由な国造りが可能だと知らしめることができる。自由なイラクはアメリカの友邦で、テロとの戦いのパートナーであり、世界でも危険な地域の一つで安定の源となる。 

これに対してイラクでの任務が失敗に帰せば過激派が勢いを増し、イランが増長し、テロリストが我が国や同盟国と友好国を攻撃する基地を得ることになる。敵の意図は明らかである。彼らが強い力を振るっていた時には、イラクでのアル・カイダの最高司令官はワシントンを攻撃するまで攻撃の手を緩めることはないと語った。アメリカの同朋諸君、我々も彼らへの攻撃の手を緩めることはない。我々はこの敵が敗北するまで攻撃の手を緩めはしない。 

私はこれには同意する。

しかしきわめて不思議なことに、大統領は対テロ戦争と核不拡散で別の最前線となっているパキスタンについてはそれほど言及しなかった。イラクの治安が改善している一方で、パキスタンとアフガニスタンの国境地域はこれまで以上に危険になっていることを考えれば、これは奇妙なことである。現政権はパキスタンで大きな行動に出られないという意味なのだろうか。ともかく、大統領がパキスタンを第二のイランとしないために何らかの方策を示してくれることを望んでいる。

一般教書演説の直後に英国エコノミスト誌はアメリカの政治気運を分析している “Lexington: George Bush’s Last Grandstand”; January 31。大統領は経済刺激策とイラク増派の継続を主張しているが、前者は超党派の法案が実行に移されており、後者の結果は次期大統領次第である。ブッシュ氏の外交と内政の仕事は完全に片付くことはないと思われるので、任期最終年に業績を挙げるとは考えにくい。共和党も民主党もブッシュ政権後をにらんでいる。

この記事によると、民主党候補のバラク・オバマ氏とヒラリー・ロッダム・クリントン氏は政策では意見が一致しているが方法では一致していない。クリントン氏はワシントンの既存の政治チャンネルを利用して政策の目的を達成しようと考えているが、オバマ氏はこれに反対している。共和党はレーガン政治に回帰するか、気候変動にどう対応するか、保守の理念をどのように活かすかといった根本的な哲学の論争をしている。ジョージ・W・ブッシュ氏を野党の攻撃から守る必要のない共和党では、そのような哲学論争に踏み切れる。

ワシントン・ポストでも同様な主張がなされている(“Final Year’s Realities Push Big Ideas into Background”; January 29。しかし、同紙のピーター・ベーカー記者は、自分自身も副大統領も選挙に出馬しないという状況にあるブッシュ氏は自分の政策課題に集中できると指摘する。社会保障、移民法、税制の改革に着手できない現状では、ブッシュ氏が集中できる政策課題といえば対テロ戦争だけである。

両党ともブッシュ政権後の内政と世界秩序を模索しているので、現政権の重要性が低下したのは事実である。しかし、対テロ戦争は継続中である。イラク情勢は好転したが、多国籍軍はこの国に安定をもたらすという任務を完了したわけではない。パキスタンとアフガニスタンは危機的状況にある。また、大統領は4月にルーマニアのブカレストで開催されるNATO首脳会議に出席し、アメリカと同盟国のグローバルな戦略提携を編成し直す。次期大統領はブッシュ大統領よりバトンを引き継ぐ。ブッシュ政権の残したことが次期大統領の政策を決定づける。そうしたことからも、最後の一般教書演説にはもっと注目しても良い。

|

« パキスタンの混乱とアメリカの政策 | トップページ | アメリカとヨーロッパの東欧への関与の隔たり »

アメリカのリーダーシップ/世界秩序」カテゴリの記事

コメント

マケインならともかくヒラリーやオバマなら戦況に関係なくイラクから退いてしまうのではないかと不安です。
テロリストに負けるわけにはいきません。

投稿: アラメイン伯 | 2008年2月12日 23:12

scorpius
いくら何でも無責任な撤退はしないでしょうが、勝ちにこだわらない大統領は歓迎できません。

日本にとって気がかりは、朝鮮半島に関してオバマが北朝鮮訪問を口走っていること。フォーリン・アフェアーズの論文では韓国の役割重視を唱えていましたが、ノ・ムヒョン政権下でこの主張は恐るべきものでした。次期大統領のイ・ミョンバクなら、オバマの親韓もそれほどの懸念材料ではありません。

ヒラリーの中国重視の一言は論外!

投稿: 舎 亜歴 | 2008年2月14日 23:51

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/109615/40036874

この記事へのトラックバック一覧です: ブッシュ大統領、最後の一般教書演説:次期大統領に引き継ぐバトン:

« パキスタンの混乱とアメリカの政策 | トップページ | アメリカとヨーロッパの東欧への関与の隔たり »