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2008年3月30日

イラク戦争5周年の成功と失敗

米英両軍がサダム・フセイン政権のイラクを攻撃してから今年で5年になる。アメリカン・エンタープライズ研究所のフレデリック・ケーガン常任研究員とジャック・キーン退役陸軍大将の草案による増派計画が実行に移されるまで、アメリカ主導の多国籍軍は重大な困難に直面していた。しかし、その後は事態の好転がイラクで最も危険な地域であったスンニ・トライアングルで顕著であった。今年の大統領選挙でイラクは重要な争点の一つである。そのため、イラクでの成功と失敗を議論し、勝利のために必要な手段を模索することはきわめて重要である。

増派は本当に成功したのだろうか?イラク戦争開戦5周年を前に、国連はイラクの人権に関するレポートを発行し、バグダッド地域で著しく暴動の沈静化が進んでいると述べている。また国連はイラク政府が拷問等禁止条約への加盟を決定したことも歓迎している(“Iraq: UN report on rights violations says violent attacks in decline”; UN News Centre; March 15, 2008)。

このレポートの発行よりほどなくして、ディック・チェイニー副大統領共和党のジョン・マケイン大統領候補がイラクを訪問し、テロ討伐作戦の成果を称賛した。3月19日にはジョージ・W・ブッシュ大統領がイラクと対テロ戦争に関する演説を行ない、戦争は困難を抱えながらも成果を挙げていると主張し、任務の完了までイラクに駐留するという強い意思を訴えた。サダム打倒後の混乱についてブッシュ大統領は以下のように述べた。

我が政権はアメリカがテロに屈して撤退してはならないことがわかっていた。また我々が行動しなければイラクではびこる暴力は悪化し、特定の民族や宗派の抹殺につながりかねない。バグダッドは分裂と殺戮の場となり、イラクは民族宗派間の戦争の真っ只中に置かれることになろう。

そのため我々は戦略を見直し、イラク政策を変更した。我々は「増派」によって治安を強化するという大幅な政策転換を行なった。デービッド・ペトレイアス大将が新たな任務の指揮を執った。それはイラク軍と共同作戦によるイラク国民の保護、敵対勢力の追討、イラク全土でのテロリストの聖域の撃破。我々は以上のことを成し遂げた。

大統領はアメリカが撤退すればイラクはテロリストとイランによる暴虐のなすがままに陥ると強調した。

アメリカの指導者達に挑むかのように、大統領の演説からバスラ地域でシーア派民兵の暴動が強まっている(“More than 100 Dead in Two Days of Iraq Fighting”; CNN; March 26, 2008)。カーネギー国際平和財団のジェシカ・マシューズ所長は今年の3月初旬の安定はいつ崩れるかわからない民族宗派間の妥協のうえに成り立っていると指摘する。マシューズ氏は増派の効果に疑問を呈し、政治的解決の重要性を強調している。

しかし性急な撤退がイラクの安定化に役立たないことは明白である。最近の暴動によりイギリスは駐留兵力削減の決断を撤回した。イラク軍が南部でシーア派民兵を撃破できないとあって、ゴードン・ブラウン首相は昨年10月の兵員削減計画を破棄する必要に迫られている。国防省は現在の駐留している兵力に少数の追加派兵を行なう可能性も否定していない(“Basra Crisis Leaves British Withdrawal in Ruins”; The Times; March 28, 2008)。 下院軍事委員会に所属する労働党のデービッド・ハミルトン下院議員は、兵員削減計画の破棄には同意するものの、イラクとアフガニスタンの両方で戦闘を行なうのはイギリスにとってかなりの負担になると憂慮している(“Iraq violence puts pull-out of 1,500 UK troops in doubt”; The Scotsman; 29 March, 2008)。

アメリカン・エンタープライズ研究所のリチャード・パール常任フェローはイラク戦争の成功と失敗を評定している(“We Made Mistakes in Iraq, but I Still Believe the War Was Just”; Sunday Telegraph; 16 March, 2008)。パール氏は多国籍軍がわずか21日でサダム・フセインを打倒したこともあって戦争自体は正しい決断であったと述べている。しかしパール氏は占領政策に重大な過ちがあったと指摘する。その極めつけは多国籍軍がバグダッド陥落の際に暫定政府に主権を移譲しなかったことだとパール氏は信じている。そのためイラク国民はアメリカ軍を解放軍でなく占領軍と見なすようになり、抵抗勢力はアル・カイダも旧バース党勢力もそうした反感を利用した。

予期せぬ困難にもかかわらず、リチャード・パール氏はアメリカ軍の占領による好ましい結果に言及している。イラク国民はテロリストの妨害に屈することなくアラブ世界で史上初の自由選挙に投票した。さらに現地の長老達との協調関係によって増派は成功していると言う。

増派計画の草案にも関わったアメリカン・エンタープライズ研究所のフレデリック・ケーガン常任研究員は、アメリカ軍は現地指導者との緊密な協力によって正しい標的に強大な火力で攻撃を行なっていると指摘する(“The Army Grew into the Job”; New York Times; March 16, 2008)。

最後にデューク大学のピーター・D・フィーバー元アレクサンダー・F・ヘーマイアー記念政治学教授の論文にも言及したい(Why We Went Into Iraq: The question McCain must answer”; Weekly Standard; March 24, 2008)。フィーバー氏はマケイン氏がイラク戦争開戦時の大義名分を強く主張するように訴えている。これによってアメリカ国内の賛戦世論を勇気づけるであろう。フィーバー氏によるとブッシュ大統領は開戦の大義名分を訴えることができず、イラクの混乱への対策について言明した。国民にはこれが罪の許しを請うかのように見えた。フィーバー氏はマケイン氏がこうした過ちを犯さぬようにと主張している。

他方でピーター・フィーバー氏は反戦派を以下の理由から批判している。核兵器は発見されなかったが、反戦派もサダム・フセインの核が重大な脅威だと信じていた。彼らには情報の「誤り」を非難する資格はない。さらにフィーバー氏はイラクが査察官を受け入れず国連の制裁も空洞化していた2002年の時点ではバラク・オバマ氏がサダム・フセイン対策に何のアイディアも持っていなかったと指摘する。アメリカ軍の圧力によって安全保障理事会と査察体制が機能するようになったにもかかわらず、オバマ氏は力の外交に反対していたと言う。

ここで引用した論文と報道から、多国籍軍と国際社会はイラクの暴徒を打倒しなければならないとの結論に達した。イギリス軍の駐留規模縮小によってバスラは混乱に陥った。ピーター・フィーバー氏が指摘するように、反戦派の主張は根拠薄弱である。過去の間違いから教訓を得ることは重要だが、イラクでの戦闘は断固とした態度で行なうべきもので誤りの許しを請うようなことがあってはならない。

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2008年3月24日

ジョン・マケイン候補、大統領選出に世界へアピール

民主党の候補が未だに大統領の座をめぐって争っている一方で、ジョン・マケイン上院議員はアメリカの次期大統領としての準備が整っていることを印象付けた。イラク戦争5周年を前に、マケイン氏はディック・チェイニー副大統領と同じ日にイラクを訪問した。その直後にジョン・マケイン氏はイスラエルとパレスチナの指導者と会談し、すぐにロンドンに向かった。ロンドンではゴードン・ブラウン首相とデービッド・キャメロン野党党首と会談し、英米同盟の強化をはかった。マケイン氏の外交および内政での政策を議論し、大統領に選出された場合を見通してみたい。

マケイン氏は2003年3月のアメリカ主導によるイラク攻撃以来、今月16日に上院軍事委員会での真相究明の任務のために8度目のイラクを訪問している。マケイン上院議員はチェイニー副大統領とともにイラク戦争の成功を訴えた。さらにマケイン氏はイラクでのアメリカ軍の駐留継続が戦争の早期終結につながると明言した(“McCain Visits Iraq”; Reuters; March 17,2008)。

これは上院軍事委員会での任務であって大統領選挙のキャンペーンではないが、マケイン氏が民主党の候補達より次期大統領としての資格を備えていることが以下の文からもわかる(“John McCain”; ABC News; March 20, 2008)。

「クリントン候補とオバマ候補はアメリカ国内での争いを続けている中で、海外訪問の途にあるマケイン候補は実際に大統領であるように見える。マケイン陣営はそのように印象付けようという戦略である」とABCニュースの政治コンサルタントのマーク・ハルペリン氏は言う。

イラク訪問を終えたジョン・マケイン氏はアメリカの主要同盟国の首脳と会談を重ねた。会談を行なったのはヨルダンのアブドラ国王、イスラエルのエフード・オルメルト首相、イギリスのゴードン・ブラウン首相、そしてフランスのニコラ・サルコジ大統領である。現在、外交政策ではマケイン氏が民主党に先行している。

ロンドンでマケイン上院議員はブラウン首相とキャメロン保守党党首と会談し、イラクとアフガニスタンの戦争でのイギリスの貢献を称賛した。ゴードン・ブラウン氏との会談では中東の安全保障だけでなく気候変動も話し合われた。他方でマケイン氏はイラク駐留の英軍縮小の可否については言及を避け、イギリス国内の反戦世論を刺激しないようにした。きわめて重要なことに、マケイン氏はチベット抑圧に関するブラウン首相のダライ・ラマとの会談を支持した(Senator praises British troops in Iraq”; the Herald; March 21, 2008)。

他方で内政政策については注意深く見守る必要がある。ジョン・マケイン候補は保守派を自分の陣営に引きつけようとするのか、それとも民主党から共和党に乗り換える可能性のある穏健派に訴えかけるのか?これはマケイン政権の政策を見通すうえで重要である。

ウィークリー・スタンダード(ネオコン系の有力誌)のフレッド・バーンズ編集委員は、共和党保守派の支持を取り付けて選挙での勝利を確実にするためにもジョン・マケイン氏の副大統領候補の選択の余地は少ないと主張する。さらに副大統領候補は政界の重鎮として充分な実力が必要である。ジョセフ・リーバーマン上院議員は長年にわたるマケイン氏の友人であるが、あまりにリベラルである。共和党予備選を競ったライバル達は充分な票を集めきれなかった。そのため、バーンズ氏はミット・ロムニー元マサチューセッツ州知事こそ本命だと主張する(“The Veepstakes”; Weekly Standard; March 17, 2008)。その場合はマケイン氏の政策は共和党主流派の知的基盤からかけ離れることはないであろう。

NPR(全米公共ラジオ:National Public Radio)のマラ・ライアソン政治記者は正反対の議論をしている。ライアソン氏は超党派の政策を掲げるジョン・マケイン氏の指名は共和党の急速な変化を象徴していると言う。ライアソン氏はミネソタ州のティム・ポーレンティ知事の発言を引用し、マケイン氏だけがこれまでの「カントリー・クラブ・リパブリカン」(財界人など従来からの共和党支持層)とは全く異質な「サムズ・クラブ・リパブリカン」(ウォルマート傘下の安売り店、Sam's Clubを愛用するようなグラス・ルーツの共和党支持層)と呼ばれる浮動層の票を取り込むことができると述べている。共和党のエスタブリッシュメントと違い、サムズ・クラブの有権者は小さな政府の理念は捨てないまでも福祉への政府の支援に関心を払っている。

フレッド・バーンズ氏とマラ・ライアソン氏の対照的な見解は非常に印象深い。ジョン・マケイン氏は黒人候補のバラク・オバマ氏にも女性候補のヒラリー・ロッダム・クリントン氏にも劣らず革命的な候補なのである。マケイン氏の内政政策は外交政策と同様に注目に値する。

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2008年3月20日

無責任な反米主義への警鐘:ニール・ファーガソン教授出演のDVD映画

アメリカの大統領選挙とイラク戦争5周年に合わせたかのように、2007年9月に多いに注目すべきDVD映画が登場した。“The World without US”と題されたこの映画はミッチ・アンダーソン氏とジェイソン・トマリック氏の監督で製作された。この映画はリベラル派に蔓延する孤立主義に疑問を呈し、アメリカの海外からの撤退がもたらす破滅的な結末を描き出している。このDVD映画は民主党のバラク・オバマ候補とヒラリー・ロッダム・クリントン候補が掲げるイラク政策を風刺していると思われる。実際にヒラリー・クリントン氏と近い関係にある新アメリカ安全保障センターというシンクタンクはイラクからアメリカ軍を早期撤退させ、本国に帰した軍の最構築によってアメリカ軍をより優れた強いものにしようと呼びかけている。

ニール・ファーガソン氏はグローバル・アメリカン政論ではよくとりあげられるが、それは英米による「慈善的」な帝国主義を主張する論客として世界有数の存在だからである。イギリスの歴史学者であるファーガソン氏は英米両国で飛び抜けた名声を博している。現在はハーバード大学のローレンス・A・ティッシュ記念歴史学教授であるとともに、学士から博士の学位を取得した母校のオックスフォード大学でも上級フェローの座にある。2005年にはタイムから世界の賢人100人の一人に選出されている。

政治家、企業、NGO、個人活動家も自分達の理念の普及を目指して映画を作ることがある。時にそうした映画は自分達の理念を訴えることに熱心なあまり、客観性に欠けることがある。ニール・ファーガソン氏に関する限り、そうした情報の歪曲とは無縁である。このDVDでの議論の質は保証されている。

映画はドラマ、ドキュメンタリー、インタビューから構成されている。ドラマはロイ・ワーナー主演で、アメリカ軍の海外からの撤退を主張するターナーという大統領候補を演じている。これが破滅的な結果となることは容易に理解できるであろう。またトモ・カワグチ、マーク・オーフジ、マリ・ウエダといった三人の日本人俳優も映画の主要登場人物を演じている。

ドキュメンタリーの他に、ヨーロッパ、中東、アジア太平洋地域からの専門家へのインタビューも行なわれている。ニール・ファーガソン氏とアメリカのジェームズ・ライリー元中国、韓国、台湾駐在大使の他に、アメリカの介入が死活的に必要な国民を代表する専門家も登場している。元北朝鮮難民のカン・チェオルファン氏はそうした専門家の一人である。また台湾のシァオ・ビキム国会議員もアメリカが不用意に世界から手を引くことに懸念を抱いている。台湾海峡は米中衝突の可能性を秘めた重要な最前線の一つで、シャオ氏の議論は理に適っている。

ニール・ファーガソン教授は以下のように、世界の安全保障を理解するうえで重要なコメントを残している。トレーラー1でファーガソン氏は世界の市民に「世界は自然状態では平和で秩序だった場所ではない」と訴えている。その通り、世界はホッブス的であり、カント的ではない。トレーラー2の最後にファーガソン氏は無責任な反米論客に「あなた方の望みがどのような結末をもたらすか注意すべきだ」と諭している。

この印象深い映画はアメリカ、イギリス、日本という主要先進3ヶ国のコラボレーションの賜物である。世界の友人達、ニール・ファーガソン教授のメッセージに注意深く耳を傾けよう!

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2008年3月17日

世界の多極化?

イラクとアフガニスタンでの戦争の開始以来、アメリカの覇権に対する反感が世界各地の左翼とナショナリストの間で高まるばかりである。中にはロシアと中国のような大国が強硬路線をとり、インドやブラジルのような新興国が力を伸ばしてアメリカによる世界秩序を多極化して欲しいと渇望する者もいる。それは本当に国際社会にとって望ましいものなのだろうか?新興勢力がアメリカ、ヨーロッパ、日本にとって代われるのだろうか?前回の記事では、ファイナンシャル・タイムズに掲載されたロバート・ケーガン氏とギデオン・ラッチマン氏の討論をとりあげた。

ロシアも中国も普遍的な訴えを持つイデオロギーを有していない。両国とも強気の外交とは裏腹に孤立している。ロシアはNATOとEUの東方拡大を不安視している。中国は近隣諸国から脅威と疑念の視線で見られている。新しいヨーロッパの諸国民はロシアの影響から懸命に脱け出そうとしている。日本国民は自分達の国がアジア太平洋地域では欧米と共に重役の椅子に座る唯一の国であることに誇りを持っている。

アメリカあるいは西洋の優位に怒りを感じている者ならロシアと中国が欧米に対して対抗勢力となることを喜ぶであろうが、国際社会は両国に世界でのリーダーシップを期待してはいない。多極化主義とはアメリカの覇権による自由主義に対するネガティブな心理に基づいてはいても、新しい世界秩序を作り出そうという進取の気性に満ちたものではない。ここで気に留めておくべきは、イギリスからアメリカへの覇権の移譲が比較的円滑だったのは、両帝国が世界の運営に関して共通の普遍的哲学を持っていたためである。他方、ロシアと中国は英米のような自由主義の覇権国家よりも自国民と近隣地域の問題に関わる傾向が強い。

ロシアがエネルギー外交によって影響力を拡大していると見る向きもある。しかしながら、OPECの凋落からもわかるように、エネルギー資源は超大国となる切り札ではない。最終的には資源輸出国は先進国に依存するようになる。さらにロシアも中国もIMF-WTO体制という欧米の世界経済システムに入ろうとしている。このためには自由、人権、透明性のレベルを欧米に合わせて引き上げる必要がある。

しかし前回の記事ファイナンシャル・タイムズの“Illiberal Capitalism”を引用したように、途上国の指導者の中にはロシア・中国型の権威主義的な資本主義を自分達の経済政策のモデルと見る向きもある。ロシアはエネルギー価格の高騰に依存しているが、中国は引き続き高い成長にある見通しである。途上国には欧米よりも中国の援助を歓迎する向きもあるが、それは中国の援助では政治改革が要求されないからである。問題は両大国ともチベット、チェチェンといった少数民族地域での政治的な弱点を抱えていることである。

多少の浮き沈みはあろうとも、英エコノミスト誌がアメリカはハードパワーでもソフトパワーでも圧倒的な優位にあると記していることは、以前の「アメリカの覇権に関する英エコノミスト記事の論評で述べた。またロンドン・スクール・オブ・エコノミックスの故スーザン・ストレンジ名誉教授による構造的な力のモデルについても言及したい。国際政治経済では構造的な力と関係的な力の二つが働いている。構造的な力とは物事がどのように行なわれるかを決定する力だが、関係的な力とは単に本来ならされないことを他者にさせる力に過ぎない。アメリカだけが構造的な力の4分野、すなわち生産、金融、頭脳、安全保障の全てで優位になる(“States and Markets”; p. 24~29; Susan Strange)。この力は普遍的な自由の価値観に深く根ざしている。イスラム過激派でさえ欧米の自由主義を賞賛していることは以前のイスラム過激派に関する5つの問題点」という記事でも述べた。

ヨーロッパ連合が統一されれば、アメリカと競合あるいはそれに代わり得る大国となる。統一ヨーロッパなら規模の経済、頭脳、産業、科学技術、金融機関、普遍的なイデオロギーがそろっている。しかしヨーロッパ諸国は自国の主権を犠牲にしてまで統一をしようとまでは思っていない。また、ブリュッセルの官僚機構が全面的に信頼されているわけでもない。金融面ではユーロが基軸通貨の役割を担うかも知れないが、イギリスが加盟していないようではドルにとって代わることはない。科学、工業技術。経済といった基本的な利点がありながら、ヨーロッパがアメリカに匹敵する軍事力を備えようという気運はない。

世界は多極化するのだろうか?それは「多極化した」世界とはどのようなものかという定義にもよる。アメリカの覇権に挑戦する相手はそれに「抵抗」はできるであろうが、新たな世界秩序もシステムも作り上げられはしない。

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2008年3月10日

ロシアと中国が我々の自由な資本主義に対抗してくる!

去る3月2日のロシア大統領選挙では、ドミトリー・メデベーデフ第一副首相が選出された。一般にはメドベーデフ大統領はプーチン首相の傀儡で、プーチン政権の政策を引き継ぐものと見られている。石油会社の元社長であるメドベーデフ氏は国益を強引に押し付けるエネルギー外交を展開するのだろうか?もっと重要なことは、自己肯定的になったロシアと野心をみなぎらせる中国が我々の自由な資本主義に挑戦を突き付けてくることである。両国の権威主義的な資本主義が成功すれば、途上国で反西側の独裁者がそれに惹かれ、その結果として自由主義の世界秩序を脅かしかねない。そのため、私はロシアの次期政権の外交政策と中露提携が国際社会に突きつける挑戦について述べたい。

まず、“Russia Profile”よりメドベーデフ氏の経歴に言及したい。レニングラード大学(現在のサンクト・ペテルスブルグ大学)の法学部を卒業したメドベーデフ氏は、ガスプロムの社長を務めながらウラディミール・プーチン氏と緊密な関係を築いた。プーチン氏はメドベーデフ氏に強い影響力を及ぼすと思われているが、実際には温和に助言を与えるというのがこのジャーナルに記された新大統領のプロフィールである。

この選挙がどのような意味を持つかについては、カーネギー交際平和財団モスクワ・センターのドミトリー・トレニン副所長がウォール・ストリート・ジャーナルに寄稿している The Meaning of Medvedev”; March 4, 2008。トレニン氏はメドベーデフ氏には二つの大きな役割がある。法の支配の徹底、ロシア国民の厚生と住居と教育の改善が求められる一方で、経済についても国家による生産物流通の経済から市場経済への転換を進めねばならない」と指摘する。経済の成功をよそに、ロシアが権威主義的で透明性の低い事態はしばらく続くであろう。ロシア人であるトレニン氏はこのことを認めている。しかし、メドベーデフ政権下のロシアは憲法に基づく政治を行なう国に変わってゆくとも主張している。

ドミトリー・トレニン氏はロシアがグローバル経済を生き抜くためには自由と説明責任の所在が不可欠だと指摘する。そのため、財界から専門職、中産階級、進歩的な官僚に至るまで自由主義は広く支持されているとトレニン氏は言う。また現在のロシアの経済モデルは限界に達しているとも指摘している。トレニン氏はロシアでの政治的な自由への流れは後戻りできないと見ている。同時にトレニン氏は政治の自由化はメドベーデフ氏の大統領任期中には完結しないとも述べており、今後の4年間は将来さらに改革を進めるうえで重要な時期だということである。

しかし外交ではロシアは欧米と地政学的な対抗関係になるとトレニン氏は主張する。ウクライイナに対するエネルギー制裁に見られるように、ロシアは孤独な大国という地位に不安を感じている。ドミトリー・トレニン氏は「ロシアは徐々に西欧的な社会と経済に移行しつつあるが、政治的な立場はヨーロッパとは大きく異なるものとなろう。今後とも注目すべき国である。ドミトリー・メドベーデフ氏はきわめて重要な時期に大統領に就任する。」と結論づけている。

ロシアは中国と共に西側に対抗してくるのだろうか?両大国には共通点が多い。自由市場経済を追求しながら、両国の政治指導者達は現段階での早急な改革には及び腰である。さらに重要なことに、両国ともアメリカ一極の世界秩序とグローバルな政治と経済での欧米の優位に対してこれまで以上に対抗心を燃やしている。

最後にファイナンシャル・タイムズのギデオン・ラッチマン外交論説主任とカーネギー国際平和財団のロバート・ケーガン上級研究員の討論に言及したい(“Illiberal Capitalism”; Financial Times; January 22, 2008)。この記事では以下の問題を議論している。ロシアと中国では資本主義によって欧米型民主主義の発展にはつながらなかった。ロシアと中国の新しい経済モデルでは、経済発展、国家の権威、そしてナショナリズムを融合させている。中露枢軸はならず者国家に対する西側の圧力にも反対している。自由でない資本主義の台頭の意味とこのモデルが西側のモデルにとって代わるのかを理解することは重要である。

ケーガン氏とラッチマン氏は大西洋の双方から寄せられた質問に回答している。殆どは西側にとってロシア・中国モデルの意味するところについてである。途上国の独裁者達はロシアと中国の権威主義的な資本主義に魅了されるかも知れないが、ロバート・ケーガン氏は両大国が自国のモデルを輸出しようとは考えていないと答えている。両国とも普遍的なイデオロギーを擁してはいない。しかしケーガン氏は両国の影響力が国際機関で強まれば、独裁者達を勇気づけることになると指摘する。ラッチマン氏は中国がソフトパワーによってアメリカないし欧米の優位に対抗しようとしていることに言及している。中国はアメリカとヨーロッパによる民主主義の普及に異を唱えている。しかしラッチマン氏はアジア近隣諸国が中国の脅威を深刻と受け止めている現状で中国のソフトパワーには限界があるという。

他の質問も大なり小なり似たようなものである。しかし中国人の読者からロシアと中国に対する批判は西洋中心主義によるものではないかとの声が挙がった。ケーガン氏とラッチマン氏は今日の欧米は多文化主義を尊重していると答えている。しかし両氏とも非西欧諸国が欧米の啓蒙主義を普遍的価値観と認めていないことでは意見が一致している。これは当ブログ「新年への問いかけ:西洋文明とアメリカの覇権への反発」で述べたことでもある。ここで引用したファイナンシャル・タイムズの記事は推薦したい。

トレニン氏はロシアで、そして中国でも一部の進歩的知識人が両国を漸進的に自由化させようとしていると述べているが、両国とも数十年は権威主義体制が続くであろう。ナショナリズムの台頭で政治の自由化が遅れるであろう。ロシアと中国が我々の自由な政治と経済に挑戦を挑んでくることは、今世紀の最も重要な問題の一つである。

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