ジョン・マケイン候補、大統領選出に世界へアピール
民主党の候補が未だに大統領の座をめぐって争っている一方で、ジョン・マケイン上院議員はアメリカの次期大統領としての準備が整っていることを印象付けた。イラク戦争5周年を前に、マケイン氏はディック・チェイニー副大統領と同じ日にイラクを訪問した。その直後にジョン・マケイン氏はイスラエルとパレスチナの指導者と会談し、すぐにロンドンに向かった。ロンドンではゴードン・ブラウン首相とデービッド・キャメロン野党党首と会談し、英米同盟の強化をはかった。マケイン氏の外交および内政での政策を議論し、大統領に選出された場合を見通してみたい。
マケイン氏は2003年3月のアメリカ主導によるイラク攻撃以来、今月16日に上院軍事委員会での真相究明の任務のために8度目のイラクを訪問している。マケイン上院議員はチェイニー副大統領とともにイラク戦争の成功を訴えた。さらにマケイン氏はイラクでのアメリカ軍の駐留継続が戦争の早期終結につながると明言した(“McCain Visits Iraq”; Reuters; March 17,2008)。
これは上院軍事委員会での任務であって大統領選挙のキャンペーンではないが、マケイン氏が民主党の候補達より次期大統領としての資格を備えていることが以下の文からもわかる(“John McCain”; ABC News; March 20, 2008)。
「クリントン候補とオバマ候補はアメリカ国内での争いを続けている中で、海外訪問の途にあるマケイン候補は実際に大統領であるように見える。マケイン陣営はそのように印象付けようという戦略である」とABCニュースの政治コンサルタントのマーク・ハルペリン氏は言う。
イラク訪問を終えたジョン・マケイン氏はアメリカの主要同盟国の首脳と会談を重ねた。会談を行なったのはヨルダンのアブドラ国王、イスラエルのエフード・オルメルト首相、イギリスのゴードン・ブラウン首相、そしてフランスのニコラ・サルコジ大統領である。現在、外交政策ではマケイン氏が民主党に先行している。
ロンドンでマケイン上院議員はブラウン首相とキャメロン保守党党首と会談し、イラクとアフガニスタンの戦争でのイギリスの貢献を称賛した。ゴードン・ブラウン氏との会談では中東の安全保障だけでなく気候変動も話し合われた。他方でマケイン氏はイラク駐留の英軍縮小の可否については言及を避け、イギリス国内の反戦世論を刺激しないようにした。きわめて重要なことに、マケイン氏はチベット抑圧に関するブラウン首相のダライ・ラマとの会談を支持した(“Senator praises British troops in Iraq”; the Herald; March 21, 2008)。
他方で内政政策については注意深く見守る必要がある。ジョン・マケイン候補は保守派を自分の陣営に引きつけようとするのか、それとも民主党から共和党に乗り換える可能性のある穏健派に訴えかけるのか?これはマケイン政権の政策を見通すうえで重要である。
ウィークリー・スタンダード(ネオコン系の有力誌)のフレッド・バーンズ編集委員は、共和党保守派の支持を取り付けて選挙での勝利を確実にするためにもジョン・マケイン氏の副大統領候補の選択の余地は少ないと主張する。さらに副大統領候補は政界の重鎮として充分な実力が必要である。ジョセフ・リーバーマン上院議員は長年にわたるマケイン氏の友人であるが、あまりにリベラルである。共和党予備選を競ったライバル達は充分な票を集めきれなかった。そのため、バーンズ氏はミット・ロムニー元マサチューセッツ州知事こそ本命だと主張する(“The Veepstakes”; Weekly Standard; March 17, 2008)。その場合はマケイン氏の政策は共和党主流派の知的基盤からかけ離れることはないであろう。
NPR(全米公共ラジオ:National Public Radio)のマラ・ライアソン政治記者は正反対の議論をしている。ライアソン氏は超党派の政策を掲げるジョン・マケイン氏の指名は共和党の急速な変化を象徴していると言う。ライアソン氏はミネソタ州のティム・ポーレンティ知事の発言を引用し、マケイン氏だけがこれまでの「カントリー・クラブ・リパブリカン」(財界人など従来からの共和党支持層)とは全く異質な「サムズ・クラブ・リパブリカン」(ウォルマート傘下の安売り店、Sam's Clubを愛用するようなグラス・ルーツの共和党支持層)と呼ばれる浮動層の票を取り込むことができると述べている。共和党のエスタブリッシュメントと違い、サムズ・クラブの有権者は小さな政府の理念は捨てないまでも福祉への政府の支援に関心を払っている。
フレッド・バーンズ氏とマラ・ライアソン氏の対照的な見解は非常に印象深い。ジョン・マケイン氏は黒人候補のバラク・オバマ氏にも女性候補のヒラリー・ロッダム・クリントン氏にも劣らず革命的な候補なのである。マケイン氏の内政政策は外交政策と同様に注目に値する。
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コメント
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たのもしい限りの大統領候補ですね。
ブラウン首相のダライ・ラマトの会見を支持してくれたのは嬉しいですね。
中国に対してブッシュ政権は甘いので、これは見直して断固たる態度で臨んでほしいです。
中国に対してはナンシー・ペロシ下院議長が頼もしいです。
ヒラリーとオバマはチベット蜂起に関してはどんな見解なんでしょうか?日本では聞けません。
投稿: アラメイン伯 | 2008年3月26日 21:58
ナンシー・ペロシがそこまで強く出られるのは、実際に政権を担当していないからでもあります。日本で非常に強い反対論を巻き起こした韓国人慰安婦決議にしても、政権の座にいないからこそまとめられたわけです。実際にあの決議に拘束力はありませんし。
ブッシュ政権は中国との経済関係強化を歓迎する財界人やリバータリアンも支持基盤なので、そうしたバランスを考慮しながら中国に圧力をかけると思います。
マケインはリーバーマンとともにロシアのサミット参加資格に疑問を呈したほど。中国への対応も違ってくるでしょう。
そう言えば、昨夏に訪れた池袋北口の西側出口では、法輪功の抑圧反対運動の活動ビラ配布と署名が行なわれています。
投稿: 舎 亜歴 | 2008年3月27日 12:32