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2008年3月17日

世界の多極化?

イラクとアフガニスタンでの戦争の開始以来、アメリカの覇権に対する反感が世界各地の左翼とナショナリストの間で高まるばかりである。中にはロシアと中国のような大国が強硬路線をとり、インドやブラジルのような新興国が力を伸ばしてアメリカによる世界秩序を多極化して欲しいと渇望する者もいる。それは本当に国際社会にとって望ましいものなのだろうか?新興勢力がアメリカ、ヨーロッパ、日本にとって代われるのだろうか?前回の記事では、ファイナンシャル・タイムズに掲載されたロバート・ケーガン氏とギデオン・ラッチマン氏の討論をとりあげた。

ロシアも中国も普遍的な訴えを持つイデオロギーを有していない。両国とも強気の外交とは裏腹に孤立している。ロシアはNATOとEUの東方拡大を不安視している。中国は近隣諸国から脅威と疑念の視線で見られている。新しいヨーロッパの諸国民はロシアの影響から懸命に脱け出そうとしている。日本国民は自分達の国がアジア太平洋地域では欧米と共に重役の椅子に座る唯一の国であることに誇りを持っている。

アメリカあるいは西洋の優位に怒りを感じている者ならロシアと中国が欧米に対して対抗勢力となることを喜ぶであろうが、国際社会は両国に世界でのリーダーシップを期待してはいない。多極化主義とはアメリカの覇権による自由主義に対するネガティブな心理に基づいてはいても、新しい世界秩序を作り出そうという進取の気性に満ちたものではない。ここで気に留めておくべきは、イギリスからアメリカへの覇権の移譲が比較的円滑だったのは、両帝国が世界の運営に関して共通の普遍的哲学を持っていたためである。他方、ロシアと中国は英米のような自由主義の覇権国家よりも自国民と近隣地域の問題に関わる傾向が強い。

ロシアがエネルギー外交によって影響力を拡大していると見る向きもある。しかしながら、OPECの凋落からもわかるように、エネルギー資源は超大国となる切り札ではない。最終的には資源輸出国は先進国に依存するようになる。さらにロシアも中国もIMF-WTO体制という欧米の世界経済システムに入ろうとしている。このためには自由、人権、透明性のレベルを欧米に合わせて引き上げる必要がある。

しかし前回の記事ファイナンシャル・タイムズの“Illiberal Capitalism”を引用したように、途上国の指導者の中にはロシア・中国型の権威主義的な資本主義を自分達の経済政策のモデルと見る向きもある。ロシアはエネルギー価格の高騰に依存しているが、中国は引き続き高い成長にある見通しである。途上国には欧米よりも中国の援助を歓迎する向きもあるが、それは中国の援助では政治改革が要求されないからである。問題は両大国ともチベット、チェチェンといった少数民族地域での政治的な弱点を抱えていることである。

多少の浮き沈みはあろうとも、英エコノミスト誌がアメリカはハードパワーでもソフトパワーでも圧倒的な優位にあると記していることは、以前の「アメリカの覇権に関する英エコノミスト記事の論評で述べた。またロンドン・スクール・オブ・エコノミックスの故スーザン・ストレンジ名誉教授による構造的な力のモデルについても言及したい。国際政治経済では構造的な力と関係的な力の二つが働いている。構造的な力とは物事がどのように行なわれるかを決定する力だが、関係的な力とは単に本来ならされないことを他者にさせる力に過ぎない。アメリカだけが構造的な力の4分野、すなわち生産、金融、頭脳、安全保障の全てで優位になる(“States and Markets”; p. 24~29; Susan Strange)。この力は普遍的な自由の価値観に深く根ざしている。イスラム過激派でさえ欧米の自由主義を賞賛していることは以前のイスラム過激派に関する5つの問題点」という記事でも述べた。

ヨーロッパ連合が統一されれば、アメリカと競合あるいはそれに代わり得る大国となる。統一ヨーロッパなら規模の経済、頭脳、産業、科学技術、金融機関、普遍的なイデオロギーがそろっている。しかしヨーロッパ諸国は自国の主権を犠牲にしてまで統一をしようとまでは思っていない。また、ブリュッセルの官僚機構が全面的に信頼されているわけでもない。金融面ではユーロが基軸通貨の役割を担うかも知れないが、イギリスが加盟していないようではドルにとって代わることはない。科学、工業技術。経済といった基本的な利点がありながら、ヨーロッパがアメリカに匹敵する軍事力を備えようという気運はない。

世界は多極化するのだろうか?それは「多極化した」世界とはどのようなものかという定義にもよる。アメリカの覇権に挑戦する相手はそれに「抵抗」はできるであろうが、新たな世界秩序もシステムも作り上げられはしない。

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コメント

まったく同感です。
ロシアがいかに原油高による利益を誇っても韓国ほどのGDPでしょう。一人あたりにすると日本や西欧アメリカと比べることもできないくらいでしょう。
アメリカが気に入らないからといって何もアメリカはイラクをアメリカの国内問題とは言わない。中国がチベットを国内問題と言い張るように。
欧米の自由主義や価値観には確かに矛盾は少なくないし政策の間違いもあります。しかし政策が気に入らないと言える自由があります。これこそ英米が築き左と右の全体主義から守ってきた価値観です。
欧米が民主主義を押し付けるのは良くないと言う人がいますがチベットの悲劇はではどういう後楯によって救うべきなのでしょうか?
フランスが実態を伴わずアメリカ文化をけなしても世界中で上映される映画の大部分はアメリカ映画です。


僕もそれぞれの国の伝統や文化は大切だと思う。
しかし僻みや嫉妬はその大切な文化を貶めることになると思います。

本当に多極化などしたら世界の災難です。そのような無責任な人達は次の記事で取り上げたニール・ファーガソンのDVD映画でも参考にすべきなのですが、頑迷な左翼連中などはこのように正統派の国際政治や歴史を一顧だにしません。私はそうしたNGO関係者の言動で不快な思いをしてきました。

フランスの映画保護政策は確かに再考すべきですが、フランスの俳優もハリウッドで活躍しています。そうしてフランスの良さもアピールできればそれで良いと思います。

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