ロシアと中国が我々の自由な資本主義に対抗してくる!
去る3月2日のロシア大統領選挙では、ドミトリー・メデベーデフ第一副首相が選出された。一般にはメドベーデフ大統領はプーチン首相の傀儡で、プーチン政権の政策を引き継ぐものと見られている。石油会社の元社長であるメドベーデフ氏は国益を強引に押し付けるエネルギー外交を展開するのだろうか?もっと重要なことは、自己肯定的になったロシアと野心をみなぎらせる中国が我々の自由な資本主義に挑戦を突き付けてくることである。両国の権威主義的な資本主義が成功すれば、途上国で反西側の独裁者がそれに惹かれ、その結果として自由主義の世界秩序を脅かしかねない。そのため、私はロシアの次期政権の外交政策と中露提携が国際社会に突きつける挑戦について述べたい。
まず、“Russia Profile”よりメドベーデフ氏の経歴に言及したい。レニングラード大学(現在のサンクト・ペテルスブルグ大学)の法学部を卒業したメドベーデフ氏は、ガスプロムの社長を務めながらウラディミール・プーチン氏と緊密な関係を築いた。プーチン氏はメドベーデフ氏に強い影響力を及ぼすと思われているが、実際には温和に助言を与えるというのがこのジャーナルに記された新大統領のプロフィールである。
この選挙がどのような意味を持つかについては、カーネギー交際平和財団モスクワ・センターのドミトリー・トレニン副所長がウォール・ストリート・ジャーナルに寄稿している (The Meaning of Medvedev”; March 4, 2008)。トレニン氏は「メドベーデフ氏には二つの大きな役割がある。法の支配の徹底、ロシア国民の厚生と住居と教育の改善が求められる一方で、経済についても国家による生産物流通の経済から市場経済への転換を進めねばならない」と指摘する。経済の成功をよそに、ロシアが権威主義的で透明性の低い事態はしばらく続くであろう。ロシア人であるトレニン氏はこのことを認めている。しかし、メドベーデフ政権下のロシアは憲法に基づく政治を行なう国に変わってゆくとも主張している。
ドミトリー・トレニン氏はロシアがグローバル経済を生き抜くためには自由と説明責任の所在が不可欠だと指摘する。そのため、財界から専門職、中産階級、進歩的な官僚に至るまで自由主義は広く支持されているとトレニン氏は言う。また現在のロシアの経済モデルは限界に達しているとも指摘している。トレニン氏はロシアでの政治的な自由への流れは後戻りできないと見ている。同時にトレニン氏は政治の自由化はメドベーデフ氏の大統領任期中には完結しないとも述べており、今後の4年間は将来さらに改革を進めるうえで重要な時期だということである。
しかし外交ではロシアは欧米と地政学的な対抗関係になるとトレニン氏は主張する。ウクライイナに対するエネルギー制裁に見られるように、ロシアは孤独な大国という地位に不安を感じている。ドミトリー・トレニン氏は「ロシアは徐々に西欧的な社会と経済に移行しつつあるが、政治的な立場はヨーロッパとは大きく異なるものとなろう。今後とも注目すべき国である。ドミトリー・メドベーデフ氏はきわめて重要な時期に大統領に就任する。」と結論づけている。
ロシアは中国と共に西側に対抗してくるのだろうか?両大国には共通点が多い。自由市場経済を追求しながら、両国の政治指導者達は現段階での早急な改革には及び腰である。さらに重要なことに、両国ともアメリカ一極の世界秩序とグローバルな政治と経済での欧米の優位に対してこれまで以上に対抗心を燃やしている。
最後にファイナンシャル・タイムズのギデオン・ラッチマン外交論説主任とカーネギー国際平和財団のロバート・ケーガン上級研究員の討論に言及したい(“Illiberal Capitalism”; Financial Times; January 22, 2008)。この記事では以下の問題を議論している。ロシアと中国では資本主義によって欧米型民主主義の発展にはつながらなかった。ロシアと中国の新しい経済モデルでは、経済発展、国家の権威、そしてナショナリズムを融合させている。中露枢軸はならず者国家に対する西側の圧力にも反対している。自由でない資本主義の台頭の意味とこのモデルが西側のモデルにとって代わるのかを理解することは重要である。
ケーガン氏とラッチマン氏は大西洋の双方から寄せられた質問に回答している。殆どは西側にとってロシア・中国モデルの意味するところについてである。途上国の独裁者達はロシアと中国の権威主義的な資本主義に魅了されるかも知れないが、ロバート・ケーガン氏は両大国が自国のモデルを輸出しようとは考えていないと答えている。両国とも普遍的なイデオロギーを擁してはいない。しかしケーガン氏は両国の影響力が国際機関で強まれば、独裁者達を勇気づけることになると指摘する。ラッチマン氏は中国がソフトパワーによってアメリカないし欧米の優位に対抗しようとしていることに言及している。中国はアメリカとヨーロッパによる民主主義の普及に異を唱えている。しかしラッチマン氏はアジア近隣諸国が中国の脅威を深刻と受け止めている現状で中国のソフトパワーには限界があるという。
他の質問も大なり小なり似たようなものである。しかし中国人の読者からロシアと中国に対する批判は西洋中心主義によるものではないかとの声が挙がった。ケーガン氏とラッチマン氏は今日の欧米は多文化主義を尊重していると答えている。しかし両氏とも非西欧諸国が欧米の啓蒙主義を普遍的価値観と認めていないことでは意見が一致している。これは当ブログ「新年への問いかけ:西洋文明とアメリカの覇権への反発」で述べたことでもある。ここで引用したファイナンシャル・タイムズの記事は推薦したい。
トレニン氏はロシアで、そして中国でも一部の進歩的知識人が両国を漸進的に自由化させようとしていると述べているが、両国とも数十年は権威主義体制が続くであろう。ナショナリズムの台頭で政治の自由化が遅れるであろう。ロシアと中国が我々の自由な政治と経済に挑戦を挑んでくることは、今世紀の最も重要な問題の一つである。
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報道によるとチベットのラサで暴動が発生してるようですね。無抵抗の僧侶を射殺することが中国の伝統なのでしょうか?
あのようなことをして、自由主義経済を奉ずる国々と付き合っていけると思っているのでしょうか?
欧米の価値観を押し付けるのは良くないという人がよくいらっしゃいますが自由と人権というのは全人類に普遍的な価値を持つと思います。原理的には。
矛盾や誤謬はあってもこの価値観を共有できないのであれば中国が経済の面でも責任ある大国になることはないでしょう。
投稿: アラメイン伯 | 2008年3月15日 22:48
かつてリー・クアンユーやマハティール・ビン・モハマドらが「アジアの価値観」を高らかに謳い上げたことがありましたが、それに対して韓国の人権活動家がフォーリン・アフェアーズで異を唱えていました。
文中のラッチマンは中国が儒教研究機関を充実させてソフトパワーの強化をはかっていることに言及しています。
また同じ自由といっても先進諸国とロシアや中国とでは意識が大きく違ってくると思います。文中のトレニンが言うようにロシア人にも自ら自由を求める動きはありますが、やはりその中味は西側とずれがあるでしょう。ロシア社会にも欧米社会にも通じているトレニンならそのことを承知と思います
投稿: 舎 亜歴 | 2008年3月16日 20:17