« ジョン・マケイン候補、大統領選出に世界へアピール | トップページ | 「日米永久同盟」著者の長尾秀美氏が新著出版 »

2008年3月30日

イラク戦争5周年の成功と失敗

米英両軍がサダム・フセイン政権のイラクを攻撃してから今年で5年になる。アメリカン・エンタープライズ研究所のフレデリック・ケーガン常任研究員とジャック・キーン退役陸軍大将の草案による増派計画が実行に移されるまで、アメリカ主導の多国籍軍は重大な困難に直面していた。しかし、その後は事態の好転がイラクで最も危険な地域であったスンニ・トライアングルで顕著であった。今年の大統領選挙でイラクは重要な争点の一つである。そのため、イラクでの成功と失敗を議論し、勝利のために必要な手段を模索することはきわめて重要である。

増派は本当に成功したのだろうか?イラク戦争開戦5周年を前に、国連はイラクの人権に関するレポートを発行し、バグダッド地域で著しく暴動の沈静化が進んでいると述べている。また国連はイラク政府が拷問等禁止条約への加盟を決定したことも歓迎している(“Iraq: UN report on rights violations says violent attacks in decline”; UN News Centre; March 15, 2008)。

このレポートの発行よりほどなくして、ディック・チェイニー副大統領共和党のジョン・マケイン大統領候補がイラクを訪問し、テロ討伐作戦の成果を称賛した。3月19日にはジョージ・W・ブッシュ大統領がイラクと対テロ戦争に関する演説を行ない、戦争は困難を抱えながらも成果を挙げていると主張し、任務の完了までイラクに駐留するという強い意思を訴えた。サダム打倒後の混乱についてブッシュ大統領は以下のように述べた。

我が政権はアメリカがテロに屈して撤退してはならないことがわかっていた。また我々が行動しなければイラクではびこる暴力は悪化し、特定の民族や宗派の抹殺につながりかねない。バグダッドは分裂と殺戮の場となり、イラクは民族宗派間の戦争の真っ只中に置かれることになろう。

そのため我々は戦略を見直し、イラク政策を変更した。我々は「増派」によって治安を強化するという大幅な政策転換を行なった。デービッド・ペトレイアス大将が新たな任務の指揮を執った。それはイラク軍と共同作戦によるイラク国民の保護、敵対勢力の追討、イラク全土でのテロリストの聖域の撃破。我々は以上のことを成し遂げた。

大統領はアメリカが撤退すればイラクはテロリストとイランによる暴虐のなすがままに陥ると強調した。

アメリカの指導者達に挑むかのように、大統領の演説からバスラ地域でシーア派民兵の暴動が強まっている(“More than 100 Dead in Two Days of Iraq Fighting”; CNN; March 26, 2008)。カーネギー国際平和財団のジェシカ・マシューズ所長は今年の3月初旬の安定はいつ崩れるかわからない民族宗派間の妥協のうえに成り立っていると指摘する。マシューズ氏は増派の効果に疑問を呈し、政治的解決の重要性を強調している。

しかし性急な撤退がイラクの安定化に役立たないことは明白である。最近の暴動によりイギリスは駐留兵力削減の決断を撤回した。イラク軍が南部でシーア派民兵を撃破できないとあって、ゴードン・ブラウン首相は昨年10月の兵員削減計画を破棄する必要に迫られている。国防省は現在の駐留している兵力に少数の追加派兵を行なう可能性も否定していない(“Basra Crisis Leaves British Withdrawal in Ruins”; The Times; March 28, 2008)。 下院軍事委員会に所属する労働党のデービッド・ハミルトン下院議員は、兵員削減計画の破棄には同意するものの、イラクとアフガニスタンの両方で戦闘を行なうのはイギリスにとってかなりの負担になると憂慮している(“Iraq violence puts pull-out of 1,500 UK troops in doubt”; The Scotsman; 29 March, 2008)。

アメリカン・エンタープライズ研究所のリチャード・パール常任フェローはイラク戦争の成功と失敗を評定している(“We Made Mistakes in Iraq, but I Still Believe the War Was Just”; Sunday Telegraph; 16 March, 2008)。パール氏は多国籍軍がわずか21日でサダム・フセインを打倒したこともあって戦争自体は正しい決断であったと述べている。しかしパール氏は占領政策に重大な過ちがあったと指摘する。その極めつけは多国籍軍がバグダッド陥落の際に暫定政府に主権を移譲しなかったことだとパール氏は信じている。そのためイラク国民はアメリカ軍を解放軍でなく占領軍と見なすようになり、抵抗勢力はアル・カイダも旧バース党勢力もそうした反感を利用した。

予期せぬ困難にもかかわらず、リチャード・パール氏はアメリカ軍の占領による好ましい結果に言及している。イラク国民はテロリストの妨害に屈することなくアラブ世界で史上初の自由選挙に投票した。さらに現地の長老達との協調関係によって増派は成功していると言う。

増派計画の草案にも関わったアメリカン・エンタープライズ研究所のフレデリック・ケーガン常任研究員は、アメリカ軍は現地指導者との緊密な協力によって正しい標的に強大な火力で攻撃を行なっていると指摘する(“The Army Grew into the Job”; New York Times; March 16, 2008)。

最後にデューク大学のピーター・D・フィーバー元アレクサンダー・F・ヘーマイアー記念政治学教授の論文にも言及したい(Why We Went Into Iraq: The question McCain must answer”; Weekly Standard; March 24, 2008)。フィーバー氏はマケイン氏がイラク戦争開戦時の大義名分を強く主張するように訴えている。これによってアメリカ国内の賛戦世論を勇気づけるであろう。フィーバー氏によるとブッシュ大統領は開戦の大義名分を訴えることができず、イラクの混乱への対策について言明した。国民にはこれが罪の許しを請うかのように見えた。フィーバー氏はマケイン氏がこうした過ちを犯さぬようにと主張している。

他方でピーター・フィーバー氏は反戦派を以下の理由から批判している。核兵器は発見されなかったが、反戦派もサダム・フセインの核が重大な脅威だと信じていた。彼らには情報の「誤り」を非難する資格はない。さらにフィーバー氏はイラクが査察官を受け入れず国連の制裁も空洞化していた2002年の時点ではバラク・オバマ氏がサダム・フセイン対策に何のアイディアも持っていなかったと指摘する。アメリカ軍の圧力によって安全保障理事会と査察体制が機能するようになったにもかかわらず、オバマ氏は力の外交に反対していたと言う。

ここで引用した論文と報道から、多国籍軍と国際社会はイラクの暴徒を打倒しなければならないとの結論に達した。イギリス軍の駐留規模縮小によってバスラは混乱に陥った。ピーター・フィーバー氏が指摘するように、反戦派の主張は根拠薄弱である。過去の間違いから教訓を得ることは重要だが、イラクでの戦闘は断固とした態度で行なうべきもので誤りの許しを請うようなことがあってはならない。

|

« ジョン・マケイン候補、大統領選出に世界へアピール | トップページ | 「日米永久同盟」著者の長尾秀美氏が新著出版 »

中東&インド」カテゴリの記事

コメント

僕もイラク戦争は正しい判断だったと思います。
がしかし占領政策は誤謬が多すぎた。
にもかかわらず増派によって治安も回復し選挙を行われたのは喜ばしいことです。
日本では何故かほとんど報道されませんが・・・

確かにまだまだ困難はあるでしょう。
しかしここで撤退したらテロリストの跋扈する国になってしまいます。
年末におこった自爆テロは知的障害を持つ女性を使ったテロ。イスラムに戦士の伝統はないのでしょうか?
米英が自由のために戦うことによってイラクに人の権利の基礎がつくられることを希望します。

投稿: アラメイン伯 | 2008年4月 5日 22:12

日本に限らず、イラクとアフガニスタンの戦争では事がうまくゆくと不思議にもメディアは静かになります。「権力への批判」を責務としているなら、それはそれで正しい報道方針なのかも知れません。ただ、良いこともしっかり情報を流さないようでは信頼が損なわれます。

アラメイン伯さんがチベット問題で指摘した人権・平和団体の二重構造はこうしたところにも表れています。彼らがメディアに影響を及ぼしています。

投稿: Shah亜歴 | 2008年4月 9日 12:13

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/109615/40696415

この記事へのトラックバック一覧です: イラク戦争5周年の成功と失敗:

« ジョン・マケイン候補、大統領選出に世界へアピール | トップページ | 「日米永久同盟」著者の長尾秀美氏が新著出版 »